表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
42/336

光速のライバル

『7月24日15時45分・G-3』


三村達は苦戦していた。

元々、幻影獣達は複雑な戦術なんか考えていない。

行きやすいところを攻め、行きにくいところでも気が向けば攻める。

結果、バランスを取って布陣していても、ブロックによって有利なブロック・不利なブロックが出てくる。


そして、G-3は不利なブロックだった。


猪突猛進オーバードライブ!」

超加速システムアクセルから続く連携攻撃・猪突猛進オーバードライブ

直線に加速して突撃するという単純極まりない技のため、確かに以前麗華が言っていたようにかわすのは簡単なのだが、これだけ密集してれば関係ない。

4体ほどまとめて、壁に叩きつけた。


闘いの喧騒を引き裂くような悲鳴を上げて砕け散る幻影獣達。


三村の猪突猛進オーバードライブは、本人のBMPが121という低BMPにしては、なかなかの威力だった。

加速した突進力と、槍に見立てた拳に発生させた力場ですり潰すという単純な技なのだが。


「ナイス! ルーキー!」

誰が褒めてくれたのかは分からないほど混乱した戦場だが、誰かが褒めてくれた。

単純に嬉しい。


が。


「あいつは憎らしい!」

思わず叫ぶ。

睨みつけるのは、天井に開いた大穴。

G-4ブロックと呼ばれていた空間に、人を小馬鹿にしたような様子でプカプカ浮かびながら、こちらに向かって矢のような遠距離攻撃を仕掛けてくる幻影獣ども。


幻影獣の攻撃で天井が吹き飛ばされ、G-3とG-4ブロックが繋がってしまったのだ。

しかも、悪いことに、遠距離系のBMP能力者達が早々にノックアウトされ(※確認した訳ではないが、誰もやつらに反撃していないんだから、そうなんだろう)、撃たれるがままになっている。


「って、うわ!」

気を散らしたのが、まずかった。

何かに足をぶつけて、派手に体勢を崩した。というか、足が地面から離れた。


「やば!」


普段ならいざしらず、これだけの乱戦の中では、どこから攻撃が飛んでくるかわからない。

そして、悲しいことに、空中では超加速システムアクセルは使えない。


「くそー!」

衝撃に備えながら、自分の運を信じて、地面に足がつく瞬間を待つ。

と。

眼の前に、一つ目の巨人のような幻影獣が立っていた。


「あ」

死んだ。と思った。

一つ目の巨人は、三村の身長ほどもありそうな棍棒のような何か(※黒く光る金属のようにも見えるが、たぶんあれも幻影獣の体の一部だ)を振り下ろしてきている。

三村も見たことがあるからわかる。

パワータイプに見える幻影獣は、実際にもだいたいパワータイプで、直接攻撃をくらうと、だいたい原型が残らない。


棍棒が振り下ろされる。


…………。

…………。


「…………」

「ふむ。確かにイケメンやなー」

「へ?」

思わずつぶった眼を開くと。

そこには、死を告げる天使様ではなく猫のような眼をした女性がいた。

オペラのヒロインにそうするように、三村を抱き支えながら、好奇の目で覗き込んでくる。


「はれ?」

いきなりの衝撃的な展開に頭が付いていかず、思わず間抜けな声を出す三村。

見ると、さきほどの一つ目巨人は、10メートルくらい離れた場所で頭を掻いている。


「三村さん。大丈夫デスか!?」

最初にこちらを見ていれば、天国に来たことを疑わなかっただろう。

金髪ゴージャスなのに健気なハーフっぽい少女、本郷エリカが駆け寄って来ていた。

「あ、ああ。大丈夫」

エリカの顔を見て、少し落ち着いてきた。

どうやら、G-3ブロックの不利を聞いて心配したエリカが、この女性とともに自分を助けに来てくれたらしい。

悠斗を助けに来た自分が、同じく悠斗を助けに来たエリカに助けられているのは褒められた状態ではないが、それでも素直に助かったと思う。


にしても、この女性は一体?


「ちょっと待っといてな」

三村をポンと離すと、トントンと足踏みする猫っぽい眼の女性。

そして。


電速パルス


視界から消えた。

比喩ではない。本当に消えた。

しかも。

女性が通った(※んだと思う)あたりにいた幻影獣が、バタバタと倒れていく。

そして、倒れた幻影獣は、例外なく、漏電したかのようにパリパリと電気を発していた。


「ま、まじか……」

三村は茫然と呟く。

この能力に聞き覚えがあるのだ。

「凄いデスねー」

同心円状に、物凄い勢いで広がっていく電気死体の渦を見ながら、これがどれだけ凄い能力なのか、いまいちわかっていないエリカが褒める。


そう、これは、凄いどころではない。

これは、クリスタルランス・犬神彰のBMP能力。


高速移動系最強と呼ばれる女性の力だ。


三村とエリカを中心として吹き荒れる、電気を纏った暴風雨。

見る見るうちに、乱戦の一角に空白地帯ができてしまった(※危なくて、味方も近づけないのだ)。


「つ、つえぇ……」

思わず呟く三村。

同じ高速移動系と言うのが恥ずかしいくらいにレベルが違う。

互角なのは、最高速度くらいか。三村のは曲がれないが。

……それはともかく。


「やっぱり、あれはどうしようもないよな……」

諦めたように呟く三村。

見つめるのは、天井の大穴の向こうから小馬鹿にしたように激しい攻撃をしてくる翼を持った幻影獣だ。

いくら犬神が強くても、遠距離攻撃の手段がない以上、あの距離に居る敵は攻撃できない。

あいつらさえいなくなれば、もう少し落ち着いて戦えるのだが。


と。


「ウザいなー。あいつらー」

現れた時と同じくらい唐突に、犬神が傍に立っていた。

「うぇ! い、いつの間に……」

驚く三村。確か、1秒前に、10メートルくらい先で電気を纏った幻影獣が倒れるのが見えたのだが。

「どや、エリカはん。ウチもなかなかやるやろ?」

そんな三村をスルーして、エリカに向く犬神。

「はいデス! まるで、悠斗さんを見ているようデシた!」

「……(いや、全然違うだろ)」

と思う三村だが。

「いやー……。さすがに、あの子には負けるわ」

「?」

意外な反応をする犬神。

少し気になるが、三村にはそれ以上に気になることがあった。


この犬神という女性。

強さも実績もステータスも完全に雲の上の存在なのだが、なぜか、近い将来。


(俺のライバルになる気がするんだよなー)

という訳だった。


考え事をしていると、また宙を舞う幻影獣から攻撃が飛んできた。

エリカを抱えて避ける三村と犬神。もちろんエリカを抱えたのは犬神だ。

(おのれ)


「エリカはんを抱けたのは役得やけど、あいつらはうざいなー」

「表現に少し引っかかりを感じますけど、あいつらがうざいのは同感です! どうします? やっぱり他のブロックから応援を……」

すでにこのブロックのBMP能力者が何回も呼んではいるのだが。

「やめとき。他のブロックも、手一杯や」

「こっちの方がやばいと思うんですが……」

「ま、そやな。そろそろ片づけよか」

あっさりと返答する犬神。

何か切り札でもあるのだろうか。電速パルスが遠距離攻撃できるなんて話は聞いたことがないが。


「さて、エリカはん」

「は、ハイ!?」

「さっき聞かせてもろうたBMP能力『豪華絢爛ロイヤルエッジ』やけど」

「ハイ」

「……えー名前やわー。まさしく、ゴージャスなエリカはんにピッタリやわー」

「口説いてる場合じゃないと思うんですが」

思わずツッコむ三村。

セリフだけ聞いていると暢気だが、実際は幻影獣の攻撃を避けて移動しながら会話している。

エリカを抱えているのは、やっぱり犬神だ。

(おのれ)

「やばやば。エリカはんがあんまりキュートやから脱線してしもたわ。改めて、エリカはん!」

「は、ハイ!」

「『豪華絢爛ロイヤルエッジ』を使ってくれへんかな?」

「で、デモ、さっきも言ったヨウに、斬れないデスよ」

「斬れんでええねん。いや、むしろ、斬れん方がええねん。できるだけ斬れ味を抑えてほしいんや」

「?」

「?」

揃ってハテナマークを浮かべるエリカと三村。


それでも、素直なエリカは『豪華絢爛ロイヤルエッジ』を展開する。


「あー、あれは、斬れそうにないなー」

三村の感想。

素直なエリカはほんとに斬れそうにない刃を作っていた。

刃というより、潰れたラグビーボールだ。隠蔽率も低く、いつもより刃が丸見えだ。


「これで一体、何を?」

「あかんで、三村君。これ見てまだ分からんのは。これから先も、悠斗君と一緒に闘っていくつもりなんやろ?」

「す、澄空が何の関係が……」

言いつつも、若干動揺する三村。

それには答えず豪華絢爛ロイヤルエッジを見据える犬神。


エリカを、トンと、三村に渡す。


「じゃ、行こか。二人の共同作業や!」


表現に若干の問題はあるが、犬神は地を蹴った。

上へ向かって。


「ま……」

「マサか……」

呆然とする三村とエリカ。


犬神が通った証の電気が、豪華絢爛ロイヤルエッジに残っていく。


豪華絢爛ロイヤルエッジを足場にして……」

宙を舞う幻影獣のところまで駆け上がっていく。


豪華絢爛ロイヤルエッジは、宙を舞う幻影獣の高さにも何個か布陣されている。

が、大きさが不揃いなため足場にするには心もとない刃もあるし、距離が離れ過ぎている刃がある。


「い、いくらなんでも……」

対抗心ではない。

純粋に無理だと思う三村。


だが。


「よう見とき、三村君! これくらいできんと、悠斗君には歯牙にもかけてもらえんで!」


喧騒の中でも、不思議と届き三村の心を抉る声。


そして。


まるで光の芸術のように、行く筋もの電気の軌跡が空間に描かれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ