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BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
41/336

金髪と猫目と

『7月24日15時37分・H-3』


H-3ブロックには、休憩室があった。

そして、金髪のハーフっぽい少女・本郷エリカは、その中にいた。

別にサボっている訳ではない。

ただ、中に入れてしまったとはいえ、見る人が見るとエリカのBMPが120に達していないのが分かるらしく、ここで大人しく待機しているように命令されたのだ。


「でも、あのリーダーさんらしきヒト、いざとなったら闘ってもらうかもしれナイとも言ってましたヨネ」

むん、とばかりに気合いを入れるエリカ。

正確には『君が闘わないといけないくらい状況が悪くなる可能性もあるから、できればその前に逃げろ』と言っていたのだが、まあ、このくらいの記憶の改竄は起こらないこともない。


「でも、このブロック、意外と大丈夫そうなんデスよね」

休憩室の中からでは外の様子は分からないが、時折スピーカーから聞こえてくる報告を聞く限りでは、なかなか優位に闘えているブロックらしい。

まあ、優勢なのはいいことだ。峰も『どうせ最後は乱戦になるから、万一澄空に何かあった時のためにも、序盤は体力を温存しておいてもいい』と言ってたし。

これだけメンバーが揃った闘いで、前回のようにあの少年の力になれるとは思えないが。


と。


「あー、疲れたわ」


乱暴にドアが開かれる。

現れたのは、猫のような眼が印象的な活発そうな女性。

なかなかに目立つ風貌だが、その印象が吹っ飛ぶくらいに強烈な力を感じる。

かなり高ランクのBMP能力者だ。

戦闘で高揚しているのか、周囲に与えるプレッシャーを隠そうとしていない。

といっても『ついうっかり』抑え忘れた麗華ほどではないが。


そういえば、なぜか澄空悠斗からは、この種のプレッシャーを感じたことがない。

覚醒した当初は力を抑える術を知らないうえに、187ものBMPなのだから抑えきれるはずもないのだが。

緋色先生に聞くと『控えめなのが悠斗君のいいところよね』と言っていた。


「そういう問題では、ないと思うのデス」

「ん?」

しまったと思うエリカ。

つい考えていることを口に出してしまったらしい。

どう見ても今まで散々闘ってきてちょっと休憩に立ち寄ったような眼の前の女性からすると、たるんでいると思われても仕方がない。


「自分……」

「は、はいデス……」

猫のような眼をすぼめて見つめてくる女性。

尋常ではない迫力だった。


「めっちゃ、可愛いな!」

「ハイ?」

今度は、エリカが疑問符を浮かべた。

「な、な。その金髪本物やろ? キラキラしとるもんなー。うちも一時染めようと思ったけど、なんかうまく染まりそうになかったからやめといて正解やったわ。でも、顔の線は柔らかい気がするし、言葉もうまいなー。ひょっとしてハーフさん?」

「は、はいデス。父がこの国の生まれデスが、母が違いマス」

「そうかー。あ、勘違いせえへんといてな。別に変な好奇心とか偏見とかやないんや。ただ、うち、可愛い子がめっちゃ好きやねん!」

「そ、そデスカ……」

それはそれでどうかと思うが、エリカは返事をした。

「光も、昔は、それはそれは美少女やったんやけどなー。今は、どっちかというと美人さんやからなー」

「そ、そデスカ……」

それのどこが問題なのかは分からないが、エリカは返事をした。

だいたい、いきなり光と言われても誰のことか分からない。光という名前で知っているのは、アローウエポンくらいだ。


「名前聞いてもええかな? あ、ウチは全然怪しいもんちゃうから。電速パルスの犬神彰言うんや」

「あ、ハイ。私は、本郷エリカと言いマス」

傍から見ていればかなり怪しいのだが、見た目ロイヤルな割に素直なエリカは簡単に返事をしてしまう。

いや、それよりも。

「って、電速パルスって、クリスタルランスの方デスか!?」

「わ、知ってるんや。嬉しいわー!」

知らないはずがない。

クリスタルランスは、麗華と同じくらい有名なのだ。

チームとしては紛れもなく最強。

個人でも、アローウエポンと引退したブレードウエポンは、今でもBMPハンターランクが麗華より上なのである。


「ア、じゃあ、ひょっとして光っテ……」

「そや。アローウエポン、茜島光。今でもウチ的には全然ストライクゾーンなんやけど、最近は悠斗君のことばっかりやからなー」

「悠斗さん?」

これは、間違いなく澄空悠斗のことを言っているのは分かった。

しかし、なぜ、一か月前に覚醒したばかりの澄空悠斗とクリスタルランスに接点があるのだ?


と。


『え、援助要請です! G-3ブロックが非常に危険な状態です。周辺のブロックはできるだけ応援に行ってください!』

さっきから良く聞く、常時慌てているような若い女性の声での放送が聞こえてくる。


「なんや、もう、中層にまで来とるんか?」

少し緊張感を取り戻した、犬神。

そして。

「G-3!?」

思わず叫ぶエリカ。

三村が配置されたブロックだ。

一応仮にも、三村はBMP120を超えているから、おそらく戦闘配置されているはずである。


「ん? G-3がどないしたん?」

「友達が……、同じ学校の生徒が配置されてるんデス」

答えながら、すぐにでも飛び出したい衝動に駆られるエリカ。

澄空を助けに来たつもりだが、良く考えれば、三村が一番危なっかしい。

彼に比べれば、たとえ能力を使いこなしていないにしても、悠斗の方が妙な安心感がある。


しかし、前回の第五次首都防衛戦とは状況が違う。

この状況で自分が飛び出していっても、はたして役に立つだろうか。


「友達かー。それは心配やな。なんなら、ウチと一緒に行こうか?」

「エ? いいんデスか!?」

思わぬ申し出に驚くエリカ。

「ウチは今は遊軍扱いやし、誰も文句は言わんやろ」

「で、デモ……。私は邪魔ジャ……」

「なに、言うとんねん! ウチは可愛い子に応援されると5割増しの実力が出るタイプなんや! というか、エリカはんが来てくれんと、うち、光の方に行ってまうで。全然、応援を必要とせんタイプやけど!」

「そ、ソデスカ……」

その応援の決定方法には多大な疑問が残るが。


エリカはとりあえず、安心した。

この人なら、きっと三村を助けてくれる。



……だから、すでに死んでるとかは、なしにして欲しい。


◇◆


『7月24日15時42分・A』


『きょ、局長ー! Dブロックに幻影獣が侵入し始めてますー!』

緊迫したオペレータの声が聞こえてくる。

さっきから、この声の人ばっかり通信してくるけど、他にはオペレータ居ないのか?


「これは……まずいですね」

円筒型の空間の壁面に掛った50ほどのモニターの一つを眺めながら、城守さんも同意していた。


あの『Dブロック』は俺も利用したことがある。自由訓練場だ。

巨大な体育館とでも言うべき構造で、BMPハンターが自由に訓練できる。

俺もこの2週間で何度か利用し、それなりのイベントもあったが、紙面の都合でここでは省略。

まあとにかく、そのDブロックが押されていた。


もともと外層で可能な限り殲滅するというプランなので、中層は若干BMPハンターの層が薄い。

それに加えて。


「凄い数」

と麗華さんが言うように、Dブロックは物凄い数の幻影獣が押し寄せて来ていた。広い分、収容キャパがあるのだ。

その分、BMPハンターも多いのだが、仮にあそこが抜かれた場合は、あの数が内層に飛び込んでくる。


「仕方ありませんね……。ここは……」

『きょ、きょくちょー!』

城守さんが何らかの作戦を思いついた時、さっきのオペレータさんが、さらに焦ったような通信をしてきた。

あまりに焦っているので、ひらがなになっている!


「少し落ち着いてください、志藤君」

落ち着いている城守さん。ふむ、志藤さんっていうのか。

『N-1ブロックに巨大幻影獣が出現しましたー! BMP349です!』

「さ……!」

349!?


「Bランク幻影獣!?」

「可能性はありましたが……、まさか本当にBランクを連れてくるとは……」

俺ほど驚いてはいないが、それでも衝撃を受けている様子の城守さん。

確かに、ガルア・テトラがAランクである以上、AランクがBランクを従えていてもおかしくはないのだが……。

モニターに目を向けると、確かに巨大な幻影獣の姿を映し出しているモニターがある。巨大な亀みたいなやつだ。


「配置的に、クリスタルランスの誰かを向かわせるのは難しいですね……。とはいえ、それ以外でBランクに対抗できるとなると……」

考え込む城守さん。

「志藤君」

『は、はい!』

「その巨大幻影獣……そうですね、【タートル】とでも名付けますか」

『は、はい』

まんまなネーミングだ。

「そのタートルには、あまり積極的に係らないように各ハンターに伝えてください。無駄に戦力を減らしたくない」

『で、でも、このままだと、タートルが内層に!』


「問題ありません」


断定するような城守さんの返事を聞いて。

嫌な予感がした。


「麗華さんに相手をしていただきます」


麗華さんの力を疑っている訳じゃない。

というか、最強だと思っている。


でも。


嫌な予感がした。

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