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BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
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BMP管理局籠城戦

『7月24日10時29分・エントランス』


「本当に、入れるとは思いませんデシタ」

緊張した面持ちで話しているのは、本郷エリカ。

「別に驚くこともないんじゃないか。峰はもちろん、俺だって一応、BMPハンターだ」

と返すのは、三村宗一。

「だからと言って、BMPハンターではないエリカ君を通していい理由にはならないと思うがな」

渋い顔をしているのは、峰達哉。


そして、周りには、BMP管理局のエントランスを埋め尽くすほどのBMPハンターたち。

そう。ここは、伝説のAランク幻影獣率いる幻影獣軍と、BMPハンター達の決選当日の、BMP管理局だった。


6月の第5次首都防衛戦と同じく、ハンター達が次々と集まって来ている。

峰と、一応BMPハンターの三村が馳せ参じたのも、ごく自然なことだった。

しかし、いくら新月学園の生徒とはいえ、BMPハンターでないエリカが、これから戦場となるBMP管理局に入れたのはおかしいと言わざるを得ない。

普段勤務している職員も、戦闘員でない者は最低限の人員を残して避難しているのだ。


もちろん、エリカも最初から中に入るつもりではなかった。

戦場に向かう三村と峰の見送りと、うまく会えれば悠斗と麗華を激励しようと思ってやって来たのだ。


しかし、BMP管理局が見えるところまでやってきた時に、

『やっぱり、私も一緒に闘いたいデス!』

とエリカが言いだしてしまった。

最初は反対していた三村と峰だが、結局は押し切られるような形でエリカの入場に協力することになったのだ。


と言っても。

『えーと、この娘、俺たちの付き添いなんですー。一緒に中に入ってもいいですか? こいつがいないと、調子が出なくてー』

という小学生以前の言い訳をしただけだったのだが。


入れてしまったのだ。


「ひょっとして、俺、演技の才能あんのかな?」

「というより、いちいち厄介事に構っている暇がなかっただけのようにも見えたがな」

三村の軽口に、冷静に返す峰。

彼の言うとおり、受付は、まさに戦場のような有様だった。

普段から受付をやっていると思われる女性はともかく、明らかに増援で連れて来られたような男性陣は完全に眼がイッていた。

おそらくは、今日だけでなく、ここ数日本来の業務で徹夜続きだったオーバーワーク気味のホワイトカラーさん達なのだろう。

お疲れさまとしか言いようがない。


「それにしても、凄い数デスねー」

人気のある職業とはいえ、特殊な上に高度な適性が要求されるのがBMPハンターである。

そのBMPハンター達が、まるで初売りの福袋に群がるようにして次から次へとやって来ていた。

とはいえ、受付で配られているのは福袋の整理券ではない。

むしろ、その真逆のものだ。


「さてと。俺は……G-3!? なんで!?」

受付で渡された小さな紙を見て、三村が叫ぶ。

「俺も、E-4だ……」

「わ、私もH-3デス!」

続く、峰とエリカ。


なんのことか分からないと思うので、説明すると。

このBMP管理局は、大きく、内層・中層・外層に分けられている。

各層は、さらに細かく分けて。

内層:A~Cブロック。

中層:D~Iブロック。

外層:J~Oブロック。

となっている。ちなみに、1~5の数字は階を表す。5は屋上だ。

つまりは、G-3なら中層Gブロックの3階。E-4なら、中層Eブロックの4階となる。

それが、そのハンターが防衛を受け持つ区画という訳だ。


そして、彼らが何に驚いているかと言うと。


「俺らみたいな新人を中層に配置するなんて、何を考えてるんだ?」

「てっきり、外層で壁役をさせられるものだとばかり思ってたデス」

という、三村とエリカの発言が答えだ。

一般的な建物の例に漏れず、この建物も中に行くほど重要な施設となっている。

特に内層はBMPハンターでも基本的に立ち入りができず、Aブロックになると、非常時以外は誰も入れないシェルターのようになっている。

今回の最重要人物である悠斗も、Aブロックに保護されている。


つまりは、内層に近くなるほど、実力上位の者が守るのが普通の考え方なのだ。


「いや、逆にこの方が理に適っているのかもしれない」

一人、別の意見を言う峰。

「一番敵と闘わないといけないのは外層だ。そこに上位ハンターを集めておいて、主導権を握る。俺達は外層を潜り抜けてきた幻影獣を足止めするのが仕事だ」

「なるほど、時間稼ぎか」

納得した三村。

「じゃあ、ひょっとして内層はあんまり人がいないんでしょうカ?」

「可能性はあるな。幻影獣に戦術なんかない。わざわざ戦力を出し惜しみする余裕も必要もないだろう」

「ナラ、私たちも、悠斗さんの傍に行ける可能性がありマスね!」

勢い込んで言うエリカ。

しかし。


「あ、す、すみまセン……。勝手なことしたら、他のBMPハンターの皆さんに迷惑デスよね?」

恥じ入るように小さくなる、真面目なエリカ。


と。


「いいんじゃないか?」

三村が答えた。

そこには、普段の、どこか残念な二枚目半の雰囲気はなかった。


「少なくとも、俺は、澄空を助けに来ただけのつもりだけどな」

むしろ、不思議な安心感を感じさせる不思議な表情だった。

澄空悠斗言うところの『三村の兄貴モード』である。


そんな三村に、不覚にも見惚れてしまうエリカだった。


ちなみに、峰は実際に戦闘が始まった際の脳内シミュレーションで頭がいっぱいだった。




『7月24日12時55分・Jー5』


「凄い数やなー」


BMP管理局ブロックJ-5。

すなわち外層の屋上部分で、犬神彰は周囲の空気とまったく相容れない暢気な声を出した。

どういうところが相容れないかというと。Aランク幻影獣ガルア・テトラが指定した開戦時刻は7月24日13時であり、しかも、もう視認できる距離にまで幻影獣の大群が来ているからだ。


「第5次首都防衛戦の時より多い。5倍くらい」

犬神に輪をかけて場の空気に相容れないのは、茜島光。本人は眠そうだが、眼の覚めるような美人の射手だ。


と。

『屋上に展開中のBMPハンターに告げます』

全館放送で、オペレータの声が響く。

『敵幻影獣軍が接近中です。遠距離系BMP能力者は、敵が射程距離に入り次第、各員の判断で攻撃を開始してください。それ以外のハンターは護衛をお願いします』


「と言っても、もう射程距離に入ってるけど」

「マジかいな! 100キロはあるで!」

淡々と告げる茜島のセリフに犬神が驚く。

幻影獣達は、まだ豆粒くらいにしか見えないくらいの距離だ。

とはいえ、さすがに100キロはない。


「彰、ちょっと離れてて」

右の手のひらを幻影獣に向かって突き出す仕草をする茜島。

「よ、よっしゃ」

犬神が離れる。


天閃レイ


瞬間。

茜島の手のひらから、眩い光が現れる。

光は光線となり、一瞬で幻影獣軍に到達し。

10数匹を次々と貫通し。

敵の中央付近で、爆発した。


「うん。いい調子」

眠そうだが、上機嫌な声で言う茜島。

「い、いや、『いい調子♪』いうか……」

対照的に、犬神は眼を白黒させている。


「2、30匹は、消し飛んだんじゃないか……」

「信じられねえ……」

「あれが、クリスタルランスの射手『アローウエポン』か……」

もちろん他のBMPハンター達も、開いた口がふさがらない。


「今のなんなん? 光! あんなゴッツイん、初めて見たで!」

「今日は調子がいいから」

「いや、調子とかそういう次元には見えへんのやけど……」

「あと」

「ん?」


茜島は、眠そうな眼を犬神に向けて。

「悠斗君のために戦うのは、今日が初めてだから」

言った。

「……それで劇的に強くなれるような引き出しがあんのは、あんたくらいや……」

呆れたように呟く犬神。


「もう一撃」

言って、茜島が天閃レイを放つ。

そして、敵軍の中央付近で爆発。

ようやく他のBMPハンターの中にも攻撃を始められる者が現れ出したが、茜島の攻撃は、次元の違う破壊力だった。

敵からの攻撃も飛んできているが、こちらに届く前に阻まれる。

建物自体のシステムに加えて、守備的なBMP能力の持ち主も揃っているのだ。

初手は、完全に人間側が優勢だった。


「でも、数が多い……」

「まあ、蓮も最初から、ここでケリがつくとは思とらへんかったやろうけど」


二人の言うとおり、視認できる敵の数は増え続けていた。


「別に私は乱戦でも、接近戦でも困らないけど」

「周りが困るっちゅうねん」

一応ツッコんだ後で。


「管制室! 聞こえとるか」

『は、はい! 聞こえてます』

犬神の呼びかけに、さきほどの全館放送の声の主が答える。



ここで少し説明を。

このBMP管理局の放送システム、管制室から全館に放送できるのはもちろん、各ブロックから管制室や他のブロック間へ『放送』できる。

もちろん電話は使わない。

さきほど犬神がやったように、伝えたい場所を念じながら、その場で発言すれば、伝わるのだ。

通信系BMP能力を応用したシステムである。使用には若干の訓練とセンスがいるが。

説明終わり。



「ここで喰いとめるのは無理や! 適当なところで切り上げて他のブロックの応援に行った方がええから、指示してな」

『は、はい、了解しました!』

相手がクリスタルランスの『電速パルス』であることが分かっているのか、緊張した声で答えるオペレータ。


「悠斗君のところまでは、行かないよね?」

「さすがにうちも、そこまではないと思うけど」

言いながら、犬神も、そして茜島も、この戦いが簡単には終わりそうにない雰囲気を感じていた。

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