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BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
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ウエポンテイマー

『何かあったらすぐ呼んで』と言い残して、新月学園に麗華さんが行った後。

緋色先生が淹れてくれたコーヒーを、上条博士も入れて三人で飲んでいた。

驚いたことに、緋色先生はブラックだった。

ちなみに、俺は砂糖もミルクもたっぷりだ。文句ありますか。


「しかし、やはり気になるのぅ」

「まだ言いますか……。まあ。確かにアイズオブエメラルドといえども、絶対ではないですけど」

「あたりまえじゃ。この世に絶対なんかあるものか」

緋色先生のセリフに、なんだか格好いいセリフで返す上条博士。


「やっぱり、麗華さんは次の戦いには呼ばない方がいいですか?」

俺は聞く。

俺の命もかなり心配だが、麗華さんには無理をさせたくない。

麗華さんがいるのといないのでは、実質上も心理上も、安心度が7割ほど違うが。

「それは無理よ」

「うむ。執着心が薄いように見られがちだが、昔から決めたことは絶対に曲げん。麗華君をおとなしくさせるのは、そのAランク幻影獣を撃退するより難しいかものぅ」

マジですか?

「大丈夫なんでしょうか?」

「うーむ。BMP中毒症の応急措置をするための設備は、ここらへんではわしの研究所くらいにしかないからのう。いざという時に対応できるようにはしておくが」

なんせ、そこそこ距離があるからのう、と上条博士は返してきた。

「おまけに、搬送経路と手段を確保できるかどうか。城守さんが言うには、敵の規模は、この間の第五次首都防衛戦より大きい可能性が高いらしいから」

ブラックを飲みながら、さらに憂鬱になるセリフを吐く緋色先生。

しかし、俺は見た!

緋色先生は、ブラックを飲みながら、わずかに苦そうな顔をしたぞ!

やはり、緋色先生がこども先生な可能性が微存だ。


って、話をそらしている場合でもなく。


「なんか、方法はないんでしょうか?」

このままでは気になって仕方がない。

ただでさえ、自分の命の心配で忙しいというのに。


緋色先生は、そんな俺に視線を向けて、少し考えたような仕草をした後。

でも逆に考えるとこれはいい機会かも、とかなんとか呟いた後で。

こう言った。


「悠斗君。調律メンテナンスを覚えてみる?」


調律メンテナンスですか?」

なんか、格調高い響きだけど。

覚えられるようなものなのか?


と、俺が疑問に思っていると。

「まさか、香君。授業で教えとらんのか?」

上条博士が、心底驚いた、という顔で言った。

そして、その表情と、般若のような緋色先生の表情から、たぶん習ったけど俺が忘れているだけだということに自分で気づけたから怒らないでと言ったら、緋色先生、怒ります?

「ゆーと、くーん!?」

「はい。すみません! 忘れたか、聞いてないかだと思います。ほんとにすみません!」

ほら、怒られた。


「いい、悠斗君? もう一度だけ教えるから、ちゃんと覚えて? ここ、ほんとにほんとの基本的なことだからちゃんと覚えてね?」

「は、はい」

大丈夫っす。きちんとメモも取ります。

そして『悠斗君は毎日こうやって香君の授業を受けておるのかー。ええのー』と言いながら、一向に帰ろうとしない上条博士は無視の方向で。


「まずおさらい。BMP能力者はいくつかのクラスに分けられるけど、その中でも特に特別だとされるクラスは何?」

「もちろん『ウエポン』クラスです。クラス名に必ず『ウエポン』と付いています」

「では、その特徴は?」

「他のクラスに比べて、幻影獣に対する干渉攻撃力が、かなり高めの能力を使えます。BMP能力値が同じなら、だいたい1.5倍から2倍の差があると言われてます」

「ふむ。よくできました」

と、こどもにしか見えない先生に褒められて、少し嬉しくなっている俺。

そして『ええの。ええの! わしも高校生に戻りたくなってきたわい!』と叫んでいる上条博士。ぜひ、戻らないでください。


調律メンテナンスは、そのウエポンクラスのBMP能力者に作用する能力よ」

「へ?」

「相手がウエポンクラスでさえあれば、怪我の治療や体力の回復、精神のメンテナンスはもちろん。身体能力の強化やBMP能力の拡張も可能よ。たぶんBMP中毒症にも効果があるはずよ」

「ちょ、ちょっと待ってください」

そんなとんでも能力があったのは驚きだが。

そして、それを以前、聞き逃したか忘れたかした俺にも驚きだが。

「俺にそんな能力が使えるんですか?」

「もちろんよ」

緋色先生は、あっさりと頷いた。


「悠斗君、あなたの『クラス』名はなに?」

「え?」

えーと。

……なんだったっけ?

「あ、もちろん分かっていると思うけど『1-C』とか答えたら、ブツから」

にっこりほほ笑む緋色先生。……この人、怖いよ。

……えーと、確か、あれは初めて上条博士に会って『属性分析』をされた時。何て言ってたかな?

……そういえば、あの時は突然城守さんプラス黒服ズに引っ張っていかれて、本気でビビったな、確か。

いや、そいうじゃなくて、クラス名を……。

……そう言えば、あの時、城守さん『情報提供してくれた人がいた』から俺を見つけられたって言ってたな? 誰なんだろ?

「ゆーとくーん、まーだかしらー?」

「も、も少しお待ちを」

のど元まで出かかってるんですが!?

と、上条博士の微妙な視線を感じる。

その口が、緋色先生に見えないように動いている。

こ、これは! 口の形で、答えを教えてくれている?


「ウエポンハイターです」

「洗剤か!」

結局、ブたれた。


「ほんとに、悠斗君ほどBMP能力に無頓着なハンターは初めてよ。しかも、それが人類最高のBMP能力値を持ってるんだから」

ぶつぶつ言う、緋色先生。すまんこってす。

「悠斗君、君のクラスは『ウエポンテイマー』。ウエポンの属性持ちより、さらにレアなクラスじゃ」

上条博士が答えを教えてくれた。ああ、そうだ、そういう名前だった。

「ウエポンテイマーは、調律メンテナンスが使えるの。……というより、調律メンテナンスが使える人のことをウエポンテイマーと呼ぶの」

「え?」

ちょっと待ってくださいな。

それじゃ、俺は。

「そう。劣化複写イレギュラーコピーこそが、悠斗君にとって文字通りイレギュラーな能力なのね。悠斗君の本来の能力は、調律メンテナンスのはずなの」

「そ、そうだったんですか」

衝撃の事実だ。

「じゃあ、どうやったら、使えるんですか? それを使えば、麗華さんにもしものことがあっても大丈夫なんですよね」

「ふむ……。本来は、同じウエポンテイマーに教えを請うのが一番なんじゃが」

「なんせレアな能力だから。今、連絡が取れる人がいないのよね」

じゃ、駄目じゃないですか。


「それが、そうでもないらしいのよ」

「個人的にはあんまりお勧めしない講師なんだけど……ね」

??



◇◆◇◆◇◆◇



BMP管理局の外層。

誰でも入れて、誰でも座れる、待合所のような場所で、俺は一人で座っていた。


『じゃあ、講師を連れてくるから』と言って、緋色先生が去って行ってから。

もうずいぶん待っている。

ひょっとして何か用事ができたか、それとも忘れられたのかとも思ったが、それでもここを離れるわけにはいかなかった。


なんせ、ここには緋色先生に連れて来てもらったから、帰る道がまったく分からないのだ。

ここ、無駄に広いし、複雑な造りだからな。


「はー」

ぼーと眼の前に並んでいる自販機を眺める。

待合室にあるのは5台ほど。

並んでいるジュース缶の数は多いけど。

「全部、メジャーどころばっかりじゃないか。天下のBMP管理局ともあろうものが、こんな無難な自販機チョイスしてどうするんだよ」

退屈まぎれに訳のわからない愚痴をこぼしてみる。

さすがに『シニタクナイヨー。なんで俺が、Aランク幻影獣と闘わないといけないんだー』とか叫ぶ訳にもいかないからな。


と。

「それは、困りましたね。後で、施設の管理者に話しておきます」

「いや、話さなくていいから」

聞かれた!


驚いて振り返った俺の眼に飛び込んできたのは、麗華さんと同じくらい美人な、赤い瞳の女性。緋色瞳さんだ。

それから、緋色先生。

「悠斗君は、時々とんでもなく変なことを言うから、気にしないでいいわよ。私も何度も注意してるんだけど、未だに時々とんでもなく変なことを言うのよね」

緋色先生らしからぬ、くどい言い回し。

もちろん何を言いたいかくらいは分かる。

俺が時々『こども先生』って言うことっすよね?


「まぁ冗談はともかく、姉さん。ほんとに大丈夫なのよね」

「大丈夫、とは?」

「分かってるでしょう? 支配系能力による能力覚醒は、失敗すると後遺症が出る場合があるわ。特に姉さんのアイズオブクリムゾンは、精密だけど乱暴な能力だから」

「ちょ……」

ちょっと待ってください!

今、4つほど恐ろしく不吉な響きのする単語を聞いたような。

特に、最後の方とか!

「あなたが頼んできたのではないですか?」

「それは……。悠斗君が、『自分の身はどうなってもいいから、命に代えても麗華さんを助けたいんだ』と言うから」

「ちょっと!」

待ってくださいな!

そないなことを言った覚えがないんですが!

「え? 悠斗君は、麗華さんがどうなってもいいの?」

「いや、そういう訳ではないんですが……」

「BMP過敏症の症状に蝕まれながらも、Aランク幻影獣に襲われる悠斗君を助けるために、症状が悪化するのを覚悟の上で幻想剣を使った麗華さんなんかのためには、命をかけられないと?」

「そ……」

そういう言い方はなかろうに。

これじゃ、こども先生じゃなくて、大人先生じゃないか。

しかも、いつの間にか、深緑の右目が全開になっている。


「こら」

と、緋色瞳さんが緋色先生の頭をこづいた。

「いたー……」

「相手を説得する時に、アイズオブエメラルドを使うのは悪い癖だと言いませんでしたか?」

「分かってはいるんだけど。これをやると、びっくりするくらい生徒が言うことを聞いてくれるものだから、つい」

いや、それは、説得というより洗脳と言わないか。


「少し脱線しましたが。とにかく、心配することはありません。アイズオブクリムゾンは使いませんから」

「え?」

「どういうことなの、姉さん!? 麗華さんを助けようという悠斗君の熱い心意気に応えて、若干嫌がる悠斗君を、無理やり押さえつけるか騙すかして、この機会に能力覚醒させるつもりじゃなかったの!」

劇的に驚く、緋色先生。あんた、ほんとに教師か?

瞳さんの前だと、なんだかキャラが違いますよ。

「そんな覚醒に、一体どんな意味があると言うのですか?」

若干呆れたような口調で言う瞳さん。


「私は、ただ、悠斗君とお出かけしようと思っただけですよ」

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