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BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
34/336

続・天才ではないけれど

☆☆☆☆☆☆☆



自身最速の剣ではあったが、わずかに及ばなかった。

なぜなら、剣麗華が剣を振り下ろす前に『口』は縦に両断されていたからだ。


剣麗華は、剣を振り下ろしていない。

そもそも、この角度では、あんな風には両断出来ない。

『口』を斬ったのは、剣麗華ではなかった。


「悠斗……君?」


劣化複写イレギュラーコピーしたカラドボルグで天を衝くような体勢のまま、他の誰よりも前で澄空悠斗は立っていた。

両断された『口』の断片は、澄空悠斗の両脇を通り過ぎ。

消えた。


「今のは……」


完璧だった。


初動は決して早くはなかった。

むしろ、(※麗華は別格としても)この場にいる他の誰よりも遅かった。

しかし、振り向いて『口』を認識し。

一瞬でカラドボルグを実体化させ。

一切の淀みのない動きで『口』を両断させた一連の戦闘は。

剣麗華と比べても、なんの遜色もない動きだった。


「いや……」

互角などでは決してない。

仲間を庇う様に立つ澄空悠斗の姿を見て、思う。



なぜなら、自分の後ろには誰もいない。



自分は間違った行動はしていない。

まず優先すべきは、自身の安全。

そして、的確な状況判断。


なのに。


「なんだか……」


遠い。


「悠斗君が……」



とても、遠くに感じる。



☆☆☆☆☆☆☆



「あ、危なかった……」

今度こそ、まじ死ぬかと思った!


生きていることに感謝しながら、劣化版断層剣カラドボルグの実体化を解く。

でも。まじで危なかった。

振り向いたときには、もう眼の前に『口』があったもんな。

実体化はともかく、攻撃が良く間に合ったもんだ。

人間、死ぬ気になりゃ、なんとかなることもあるらしい。


「澄空!」

「凄いデスー!」

「ぐぼっ!」

後ろからエリカに抱きつかれ、正面から峰に肩を掴まれ、俺は一瞬、気が遠くなった。


「澄空、澄空! 君は! やっぱり! さっきのが本当の君の実力なんだな! 見ろ! やっぱり! 俺より君の方が強い!」

「が、がふがふ」

峰の力は、相当に強い。油断してると、肩を砕かれそうだ。

「凄いデス! 凄いデス! 悠斗さん、凄いデース!」

「ぎ、あああ……」

そして、エリカの胸は相変わらずの危険物だった。油断していると、あっちの方まで連れて行かれそうだ。


「緋色先生……」

「ん? なに、三村君?」

「ヒーローとそうじゃない者の違いは、どこにあるんでしょうか?」

「……素直に、本郷さんに抱きつかれた澄空君が羨ましいって言ったら?」

「羨ましいっす! めっちゃ羨ましいっす! なんで、なんで、あいつばっかり、あんなおいしんすかー!」

「どうどう」

そして、三村と緋色先生は、コントをしていた。


って、そんなことより、麗華さんは?


「あ、いた」

5メートルほど離れた場所で、カラドボルグを片手に、こちら(※というより、『口』がいた方向かな?)に身構えていた。


「一瞬であんなところまで……。さすが、麗華さん」

でも、なんで、あんな顔してるんだ?


少し気になった俺が、麗華さんに声をかけようとしたところで。



パチパチパチ。


どこからともなく、唐突に拍手の音が聞こえてきた。


ひどく不吉な。



パチパチパチパチ。


「…………」


峰がさきほど狙撃していたのと同じ場所。

マンションが完成すれば、四階あたりになったと思われる場所で、その少年は拍手をしていた。


少年といっても、小学生くらいに見える。

どんな悪い漫画に影響を受けたのかといった感じの、紫色に染められた髪。

少女といっても通りそうな、線の細い顔。

不気味なほどに均整の取れた四肢。


そして。

体中から発散している違和感。


「お見事」

茫然と見上げる俺たちの前で、『ソレ』はまさに少年の声を出した。

外見に見合った声なのに、ソレが人間の言葉を吐くことに、不快感を覚える。


「いや、ほんとに喰らうつもりはなかったんだよ? ちょっと刺激して、反応が見たかっただけなんだけど、まさか真っ二つにされるとは驚いた」

少年は、上から目線で、そう言ってくる。

いや、上から目線とも違うな。

こいつは、もっと変な所に立っている。


「あなたは誰!」

緋色先生が、鋭い声を出す。

その右眼は、深緑の光をたたえている。

「あれ? ソータの報告によると、君はアイズオブエメラルドっていう、凄い感知系BMP能力者ってなってたけど、僕がなんなのか見当つかない?」

「つくから、聞いているんです!」

いつになく余裕のない声で、緋色先生が叫ぶ。


と、ソレは少し驚いた顔をした後。

「なるほど! うまいこと言うね。さすが人間」

楽しそうな顔で、また乾いた拍手を返してきた。

「馬鹿にしているの……!」

緋色先生がうめく。

けど、たぶん違う。

あれは、馬鹿になんかしてない。

そんなところまで、分かりあえない。


「ちょっと待ってね。そっちにいくから」

と。

少年は、四階相当の高さから無造作に飛び降りた。

「ちょ、待て!」

人間じゃないのはほぼ確信していたが、それでも制止しようとするお人よしな俺。


もちろん少年は、予想通り、どこにも異常をみせずに地面に立っていた。

「では、自己紹介しようか」

「ぜひ、お願いするわ」

緋色先生が挑むような口調で言う。

俺も含めて、他のみんなは、まだ事態が呑み込めていない。


でも、たぶん、奴の次の一言で呑み込まされる。


やつは、もったいぶって胸をそらし。

そして、言った。


「僕は四聖獣ガルア・テトラ。君らのいうところの、Aランク幻影獣だよ」


◇◆


幻影獣は、4つのランクに分けられる。


Dランクは、無害な幻影獣。

Cランクは、一般的な幻影獣。

Bランクは、いわゆるボスクラス。

そして、Aランクは。

どちらかというと、都市伝説の類に近い。


「どしたの? せっかく自己紹介したのに。あ、ひょっとして、びっくりして声も出ない? ま、それは無理もないけど、あんまりボーとしていると、喰われるよ?」

ガルアがそう言うと同時に。

その背後に、巨大な『口』が出現する。


息を飲む俺たちの前で、ガルアは楽しそうに解説する。

「これが僕のBMP能力。捕食行動マンイーター。いわゆる生物の類じゃないから喰われても消化はされない。でも、どこかに飛ばされる。君たちの言葉を借りれば、時空系能力ってところかな?」

「じ、時空系……?」

そんなBMP能力、聞いたこともない。

人に使える能力じゃない。

「あ、飛ばされるって言っても、9割方は僕らでも帰ってこれないような場所に飛ばされるからね。油断して食べられちゃだめだよ」

ご忠告どうも。


「で、その四聖獣様が、いったい何の用だ?」

頼もしいセリフを吐くのは、峰。

こいつは、なんというか普通に格好いいな。

「ん? ああ、実はあんまり考えてなかったんだけど、しいて言えば、こいつの紹介かな?」

と、ガルアは『口』の唇を撫でる。

なんか、不気味だ。

「どういう意味だ?」

今度は、三村が口を開く。

あれ、三村もちょっと格好いいぞ?


「そうだねー。ハンデ……というか、調整というか……。君ら人間も、相手のことが事前に分かった方が闘いやすいだろ。その類のことだよ」

「良く分かりまセンが……。なんのために、そんなことヲ?」


「だって、僕は、澄空悠斗に殺されるために、ここに来たからね」


「……」

沈黙の中。

俺は、麗華さんを見た。


(麗華さん、通訳プリーズ。俺には、あいつが何を言っているのか分からないよー)

的な視線だ。


そうすると、麗華さんも、こっちを見た。

(ごめん。私にも、分からない)

的な視線だ。


「あれ? やっぱり、うまく伝わらない? うーん。異存在間コミュニケーションは難しいね」

ガルアが残念そうに言う。ああ、確かに難しいな。

「少し、言い方を変えようか」

と、ガルアは軽く手を叩いた。

「僕は澄空悠斗と闘うために、ここに来た。ミッション的には僕が殺されれば成功なんだけど、僕は澄空悠斗を全力で殺さないといけない。……こんな感じなんだけど、分かる?」

わからん。

「だよねー!」

と、ガルアは底抜けに明るい顔で言った。


少し背筋が冷えた気がした。


「じゃ、もっとはっきりさせよう」

ガルアが指を一本立てる。

「今から二週間後、僕は幻影獣の軍勢を率いて、この首都を攻める」

「!!」

全員が息を呑む。

「目標はもちろん、澄空悠斗の抹殺。でも、ついでに首都を落とせるくらいの軍勢で攻めるから、きちんと防御してね」

「ま、待ちなさい!」

緋色先生が、大きな声を出す。

「ん? ああ、二週間後じゃ曖昧だね。ええと、7月24日13時。場所は、澄空悠斗の居る所。ただし、首都から出したら、先に首都を攻撃するからね」

「な……」

絶句する。


「望むところ」

絶対零度声色の麗華さん。

怖頼もしい。

「ちょ、待って、麗華さん!」

緋色先生が慌てて止める。

「ガルア・テトラ! そんなついでみたいに首都を滅ぼされたんじゃたまらないわ。あなたたちにとって、澄空君はいったいなんなの? あなたが本当にAランク幻影獣だというなら、訳を話してくれれば……!」

「そういう訳にもいかないんだよ」

緋色先生の絶叫に、少し困ったような顔で答えるガルア。


なんだろ?

今の顔だけは、普通に見えた。


「そんな簡単にいくなら、僕だって、わざわざ殺されに来たりはしない」

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