道化師の使用方法
赤神家所有の訓練施設に、赤神瑠璃、赤沢奏音、黒木音羽、前川修司、そして叢雲刹那の5人で移動した。
「道化師」
刹那が銃を具現化する。
なかなかの完成度の外観だが、もちろん鉛玉を発射するわけではない。
「これで撃った人のBMP能力を複写します」
「う、撃たれるの……」
奏音が不安そうに呟く。
「痛みはあるのかな」
優男風の黒木が尋ねる。
「本物の銃とは比べものにならないが、それなりの衝撃がある。暴徒鎮圧用のゴム弾くらいか……」
「めっちゃ、痛いじゃん!!」
奏音が叫ぶ。
「おいそれとお嬢様には使えんな……。まずは俺が試そう」
マフィアっぽい前川が進み出る。
「分かった」
刹那は迷いなく銃口を向け……撃った。
腹のあたりに無形の銃弾を受けた前川の巨体が震える。
「た、耐えれんほどではないが……」
瑠璃を見る。赤神の当主に使うのはためらわれる威力だ。
「次はBMP能力を見せて欲しい」
「分かった」
求められるまま、前川が身構える。
「火柱」
床に付いた手の付近から、直径1メートルほどの火柱が立ち上がる。
訓練所の天井は高いが、その天井付近まで火柱は伸びた。
「私の側近のBMP能力よ。父から映像くらい見せてもらってないの?」
「映像では何度も見ましたが、実際に見ないと複写はできないようです」
そう言って、具現化した銃を自分の眉間に近づける。
そして撃った。
「ちょ、ちょっとぉ!!」
奏音が悲鳴をあげる。
刹那の頭は強力なアッパーカットを受けたように跳ね上がったが、何とか耐えた。
「い、痛くないのか?」
「慣れている」
平然と告げて、前川と同じ構えを取る。
「道化師・火柱!!」
前川と同じ大きさ、威力の火柱が立ち上がる。
「完全複写なのか……」
黒木が驚く。
「澄空悠斗のように無限という訳にはいかないが、銃弾と同じ6発までストックできる。ただ、発動後は数時間で複写能力が消えるから、再度銃弾で複写する必要があるかな」
「じゃ、じゃあ、戦闘の度に、さっきみたいに自分の頭を撃つの……? 大変過ぎない……?」
「複写される側より痛みがあるのは当たり前だろう?」
「イケメンやぁ……」
奏音の好感度が少し上がった(30/100)。
「次は俺の着火だね」
そうして、黒木音羽のBMP能力も問題なく複写できた。
「いやしかし大したものだ。複写能力は相手側よりBMP値が高くないと成功しないはずだが」
「え!?」
前川の発言に奏音の顔が引きつる。
「どうした?」
「え、えっと……。奏音、見かけによらずBMP能力高いから、複写できないと困るかなぁなんて……」
「複写できないならできないで確認しておく必要があるよね?」
黒木が正論を言う。
「う……。奏音、将来的には赤ちゃん産みたいから、お腹撃たれるのはちょっと困るというか……」
「「………?」」
黒木と前川が、首をかしげる。
「刹那。腹以外の場所では複写できないのか?」
「鉛玉なら致命傷になりそうな場所の方が複写成功率が高いんだが……」
「奏音。頭か心臓はどうかな?」
「いいわけあるか!? 乙女の胸には希望が詰まってるの!! あと、顔は女の命!!」
黒木の提案に奏音が絶叫する。
「それはそうかもしれないけどな……。じゃあ、手の先から順に撃ち抜いていって、どこで複写できるか確かめるとかは……」
「女の子の身体で、実験すんなーー!!」
もっともである。
「ちなみに、刹那のBMP能力値は幾らなんだ。俺達より高いんだから、相当なものだと思うが……」
前川の発言に、なぜか首を横に振る刹那。
「すまないな……。103だ」
☆
★
夜、自宅(麗華さんのお爺さま所有物件だが)で、俺と麗華さんは緊急ミーティングを実施していた。
「悠斗君があんなにモテるなんて予想してなかった」
そして、行き詰まっていた。
「そ、そうかな……」
「モテるというか、好かれ過ぎているというか……。愛してる……? いや、三村が何か言ってた……。そうだ、【重い】」
「……」
俺としては麗華さんに三村語録を使って欲しくはないのだが、今回は用語のチョイスが適切と言わざるを得ない。
「透子姉は天竜だからと思ってたけどニュートラルに好いてる感じだったし、ナックルウエポンはどうでもいいとして、エリカも嫌では無さそうだったし……」
麗華さんのオプションとしてですが。
「KTIの人達はええと崇拝……【推し】みたいだったし、五竜の皆さんはとんでも無いことを言い出すし」
激しく同意します。
「真行寺さんは……凄いし」
麗華さんの語彙が尽きてしまった。
「どうしよう……。私には悠斗君の新しい恋人を見つけるのは不可能かもしれない」
しかし、なんと俺に名案がある。
麗華さんが半永久に恋人になってくれれば良いのである。
「素敵な男の子に好かれるなら、素敵な女の子なんだと、思ったんだけどなぁ……。私は全然だめみたい……」
「…………?」
急に妙なことを言い出した。
「……何、悠斗君? この理論に穴があるというの?」
「え?」
いきなり議論を求められた。
……理論と言われても……。
「……素敵じゃない男の子も、素敵な女の子が好きなんじゃないかな」
初恋でS級美少女に恋をした身の程知らずも居ることですし……。
「え?」
麗華さんが目を見開いた。
そして。
「……ひょっとして、私は、酷いだけじゃなくて……とってもバカなことをしたのかな……?」
◇◆
翌日。
BMP課程の授業で、それは起こった。
「というわけで、今日は【属性の重ね】についての授業をします」
という緋色先生の隣にいるのは、なぜか春香さん。
「ちなみに、【属性の重ね】は、学園……というか、世界でも春香さんにしかできないので、生徒ではありますが、春香さんに臨時講師をしてもらいます」
……マジか。
俺の周辺は、本当に一般的に適用される常識がぶっとんだ世代なんだな……。
しかし、【属性の重ね】ってなんだったっけ?
「ちなみに【属性の重ね】は、標準課程ではやりません。春香さんにしかできないので。できないことを前提に実施する特別授業なので、できなくても落ち込む必要はないです」
……そんな授業ある?
……いやまてよ。
「【属性の重ね】って、麗華さんもできないの?」
「超高速の2連撃ならできるけど、【属性の重ね】っていうのは、少し次元の違う技術だから……。できない。というより、できる人がいるのを、私も初めて知った」
マジですか。
「では、始めますね」
春香さんが一歩進み出る。
そこで、俺は気が付いた。
「マスクドエレメント……?」
マスクドエレメントと春香さんの気配が同じなのである。
顔をマスクで隠していても明らかに春香さんなマスクドエレメントの正体を春香さんと断定できないのはマスクドエレメントの気配が春香さんとは違っていたからなのだが今の春香さんはマスクドエレメントと同じ気配で……。
……ややこしいな。
「悠斗君。春香さんの気配が変わってないかな?」
変わってるし、マスクドエレメントと同じになってる……。いや、麗華さんはマスクドエレメントに会ったことはなかったか?
混乱しながら見守る俺の前で、春香さんの右手に炎が生まれる。
右手から超爆裂。いつ見ても美しい炎である。
「え?」
春香さんが右手を少し引く。
右手から離れた炎が空間に滞留している。
猛烈な違和感に襲われる俺の前で、春香さんの左手に炎が宿る。
「右手と左手から超爆裂」
右手から分離していた炎に、左手の炎がぶつけられ融合する。
そして、俺達の頭上に、まばゆい爆発が、いくつも連鎖していく。
「な……な……」
俺も、もちろん、他の生徒達もまともなセリフが出てこない。
春香さんを連れてきた緋色先生も同じだった。
「超高速の2連撃でも、異なる属性の同時起動でもない。全力で発生させた『一撃目』に、同じく全力で発生させた『二撃目』を合体させる。ちょっと前に、学会で正式に実現不可能であることが証明されたんだけど……」
麗華さんまで目を白黒させている。
面目丸つぶれの学会の先生方は気の毒だが、俺はもっと混乱していた。
いきなりマスクドエレメントなどというコスプレを始めて。
いきなり気配を変えて現れて。
いきなり属性の重ねとか言う超技術を披露して。
「……悠斗様。そんなに見つめられると照れてしまいます……」
そして、呼んでもないのに壇上から俺の目の前まで勝手にやってきて、いきなり頬を染めて照れ始める春香さんの行動がまったく理解できない。
「知っておいていただく必要があると思いましたので」
いきなり真顔に戻って声を潜める春香さん。
「次の……、いえ今の朱雀は、属性の重ねできると思います」




