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BMP187  作者: ST
第六章
328/338

過去と出会うとき

「青龍の主がポンコツなのも、次元獣がちょっとありえないくらい弱いのも……。遥さんが超優秀なのは少しイレギュラーですが。基本的に青龍は雑魚な仕様です」

千度放つ青槍(グローランサー)は凄いBMP能力だと思うけど」

「肝心の僕と僕たちに活かす能力がありませんから。鑑定のためにしか使えないBMP能力です」

【鑑定】に正解があるとすれば、自分でもさっきの闘い(事前準備も含めて)は正解の予感があった。


「だけど執行者は違う。あれは次元獣の中でも上位の存在です」

「…………」

遥さんはともかくとして、雑魚だらけの青龍に、異常に強力な執行者ペナルティ


「青龍はなぜそんなに嫌われてるんだ?」

「嫌われているわけではなくて、こういう役目なんだと思うんです。澄空さんは鑑定鑑定言われるの嫌いなんでしょうけど、僕たちが好きとも限らないんですよ」

「……それは、悪かったよ」

ちょっと感じが悪かったかもしれないとは思っていた。


「では、僕たちが悪あがきをする間は見逃してくださいね」



☆☆☆☆☆☆☆



「よ、良かった……。生きてる……。ヒビくらいは絶対に入っていると思うけど……」

天竜院遥は呟いた。


49式:死神・いだくは、九尾で足を掴んで振り回して壁や天井に何度も叩きつけるという技である。

間違っても姉に使うような技ではないのだが、姉の方もやはり普通ではなかった。

身体全体を包む71式:天鎧と、防御を一面に集中する75式:外套を使い分け、どうにかこうにか耐えきったのだ。

そして、一瞬の隙をついて、脱出に成功していた。

「さすがは姉上。百年の一人の天才ですね……」

「……超嫌味……?」

問いかける遥だが、透子は嫌味を言っているわけではなさそうだった。


「私の主は基本的に無敵ではありますが、予想もつかない事態に巻き込まれる傾向もありますので、一刻も早く駆け付けたいのです」

「……じゃあ、そろそろ決着をつけようかしら?」

これだけBMP能力で圧倒していても、透子には微塵も油断はなさそうだった。

九尾も使えないのに【百年に一人の天才】と言われた姉を警戒している。あるいは、主を得た天竜として、主を守り通すまでは油断など論外。

どちらも、正解だが。


「73式:朧蜘蛛」

九尾を展開する。これが、天竜院遥の切り札。


朧蜘蛛は攻撃を受けた際に、九尾の先のどこかに転移する技である。

天竜院流奥義にしては珍しく、純粋かつ強力な回避技であり、極天光ですら回避するほどその性能は極めて高い。その分逃げるだけの技のはずなのだが、天才たる遥は、この技の直後にカウンターを決められるまでに技を進化させてしまった。

いくらBMP能力が逆転していても、このまま終式を使えば、前回の敗北と同じことになるのである。


「この技だけは終式でも破れない。このまま時間を稼がせてもらうわよ」

「……終式……。そうですね、終式です」

「?」

疑問符を浮かべる遥の腕に、透子の九尾のうちの一本が巻き付く。

……そして、遥が伸ばす六本の九尾の先に、透子の九尾がそれぞれ巻き付いていく。


「な……!?」

「【終】わられると困るのです。まだ私は何も主のお役に立てていないのですから」

「終式を……。初代を超えるつもり……?」

「超えるなどと……。我々は誰かと比較されるために闘っている訳ではありませんよね、姉上?」

終式は、使用者とターゲット1体の間をゼロにする技。

73式は、使用者と複数の回避先(九尾の先)の間をゼロにする技。

では、使用者とターゲット複数の間をゼロにする技があれば……。

「初代は初代。私は私。終式で足りないというのなら、別の方法を考えるだけのこと」

「私の妹が天竜の最高傑作になった件……か」

遥は一度目を閉じて、覚悟を決める。


「天竜院流奥義・73式:朧蜘蛛!」

「天竜院流奥義・新式:極天光・九頭竜!」

共に天竜院流100年の歴史を超えた姉妹が、極限の奥義で火花を散らせた。


◇◆


上条BMP研究所の最奥。

円筒型の透明の装置の中で、頭に黒い蝶をとまらせた小さな女の子のヴィジョンが浮かんでいる。

入り口からここまで麗華を案内してきたヴィジョンと同じ姿だ。


「こっちが貴方の本体?」

「まぁ、そうなるかな。これ自体が、貴方の一部に過ぎないけど」

「……確かに、私の小さい頃の姿に似てる……」

心を亡くした影響もあり、この姿の頃とは人相がすっかり変わってしまったから気づかれにくいかもしれないが、さすがに自分には分かる。

「それから……」

懐から黒い蝶の髪飾りを取り出す。

悠斗が幻影獣・小野倉太と闘うために副首都区に向かう前、彼から預かった大事な品。

目の前のヴィジョンの女の子の頭を飾るものとそっくりである。

手に持つ方の刻印ナンバーは【187】。

そして、ヴィジョンの方も同じナンバーだという確信がある。


実は確認はしていたのだ。

過去に自分が……剣麗華が、あの黒い髪飾り……ブラックフェアリーを紛失したことがあることを。

刻印ナンバーが187であったことを示す保証書まで見つかった。

世界でも有数の財閥の跡取り娘である。世界でも有数の装飾品を所有していてもおかしくはないが、それがあまりにも意外な形で、剣麗華と澄空悠斗の接点を証明してしまった。


「この姿の頃に悠斗君と会った。その後、私は覚醒時衝動を起こして上条BMP研究所に入り、悠斗君は記憶を失った」

そして、母親……剣月夜は、麗華が悠斗に『とても酷いこと』をした、と言っている。


「もう一度言うけど……辞めたほうがいいわよ」

分身の方の分身(……ややこしいので、ここまで案内してきた方)が、警告してくる。

「さすがの私でも、これから良くない事実が明かされるのは分かるよ」

だが、聞かない訳にはいかない。

「貴方が教えてくれるの?」

「まさか」

と言って、傍らにあるワークステーションを示す。


「そこにマニュアルが入っている。一人でも起動できるから。それで、私の本体は本体に……。ややこしいね。貴方に還る」

「…………」

「記憶はもちろん戻る。それもショックだろうけど、私の本体は貴方のBMP能力を切り離したものなのよ」

「え?」

思わず装置の中の方のヴィジョンに視線を戻す。


「BMP値でいうと【15】。それが貴方に還る」

剣麗華のBMP値は172。15が還ると……。

「私……が……、BMP187……?」

「今の貴方なら覚醒時衝動に吞まれることもないだろうし、吞まれたところでこの辺には壊されて困るものもないけどね……。この施設も含めて」

「…………」


「もう一度言うよ。辞めたほうがいい」


◇◆


天竜院遥の九尾は六本。73式:朧蜘蛛での転移先は六ケ所。

天竜院透子の九尾は九本。本体を捉えるために一本使っていても、残りは八本。

ぐうの音も出ない。完全無欠の結末だった。


「さすが、真龍……。いえ、約束の勇者の天竜か……」

横たわったまま、呟く遥。

言葉が発せるのは、透子が峰打ちをしたからに他ならない。

「ようやく一つ、我が主のお役に立てました……」

しかし、透子の方にも余裕はない。

本来のBMP値に27も上乗せしたのだ。反動がない訳がない。

だが。


「私が主の下に向かいます。異存はありませんね」

「手加減までされて異存も何もないけど……。ひとつだけお願いをさせてもらえれば……」


「待ってもらえるかしら?」


遥の言葉を遮り、ティアマットを引きずった来訪者の声が響く。


「マスクドエレメント……?」

透子が呟く。

澄空悠斗と風間仁美から聞いてはいたが。

(確かに、どう見ても式春香だが、それでも何か違うような……)


声帯から癒し(ヒーリング)

二人の天竜から5・6メートルの位置で、マスクドエレメントが能力を発動する。

喉奥から発する音の波動が、空間を伝わって、二人の身体に染みわたってくる。


「う……そ……」

「凄い……」

透子に砕かれた遥のあばら骨と、限界まで酷使した透子の精神力が、あっという間に癒されていく。

激レアの治療系能力。その中でも、特級の力。

それこそ、一国が必死に囲い込むほどの。


「いた……っ」

マスクドエレメントがひきずってきたティアマットを放り投げる。

こちらは、癒されたのか、もともと大してダメージを受けていないのかは謎だが、かなり元気だった。


「休憩が終わったのなら付いてきなさい。悠斗様が大変です」

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