天竜無双(応用編)
超加速・猪突猛進で転がした青神幸也を見下ろしている。
一発目は突進しながら盾で防ぎ、二発目・三発目を回避して、そのまま攻撃して倒す。
Uターンして戻ってきた二発目・三発目(※まさか180度Uターンして返ってくるとは思わなかったのでちょっとびびった)を鎧・防御壁で防御。
そして今に至る。
「ま、まさか、10回も防御されるなんて……」
腹を押さえながら呻く青神。
手加減した覚えはないんだが、意外に丈夫だな……。
「接近すれば勝てるのが分かっているのに、10種類もBMP能力を複写しようと思いましたね……。というか、あの短い期間で、よく10種類も複写できましたね……」
「…………」
「え……。ひょっとして、もっと複写してたりします?」
まあ……。
10回で勝てる戦闘で、10回分で挑むほど豪胆じゃない。
「まさか、15とか……」
「80だ」
青神が目を見開いた。
「……冗談、では、ないんですよね?」
「ああ」
「いったいどうやって……。録画映像では複写できないんですよね……?」
「賢崎さんに頼んだ」
本当はBMP管理局に頼むのが筋なのだろうが、「私に頼んだ方がBMP管理局よりはるかに効率的ですよ。ちょっとだけ手段を選びませんから」という黒い誘惑に屈してしまったわけである。
1日あたり10人ずつ防御系BMP能力者を(それも強度順に)呼びつけてくれたのである。
呼ぶだけならもっとたくさん呼べるらしいだが、安全に複写できる限度がそれくらいらしい。俺が知らない俺の限界を賢崎さんが知っているのも不気味な話だが。
もちろん俺の体調や複写元BMP能力との相性で複写できる数も変わるので、逐一健康チェックをされながら、適度な休息を指示され、息抜きにゲームや映画、美味しい食事にお菓子を食べさせてくれながら、雑談にも付き合ってくれた感じである。
という説明を青神にしてみた。
「面倒見が良すぎて若干引くんですが……」
まぁ、それは否定しない。
「正妻じゃないんですよね……? 良くそこまでさせられますね……?」
だってしてくれるんですもの。……などと言えるはずもない。
忙しい人なのに、この8日間、付きっ切りでお世話をしてくれたのだ。
【鑑定】の成否は賢崎一族にとっても重要なのだろうが、ここまでしてくれる賢崎さんにどうお礼をすればいいものか。
「まぁ、協力者がチートだったとしても、8割がた勝てる勝負でそこまで準備をする貴方のことは、素直に尊敬できます」
「ん?」
「【鑑定】成功ですかね?」
☆☆☆☆☆☆☆
「が……は……」
壁に叩きつけられた背中の痛みにうめき声が零れる。【71式:天鎧】ではないので、背中側は防御できなかったのだ。
……もっとも、使ったのが防御力を1面に集中する【75式:外套】でなければ、神薙・滅を防ぎきれず、終わっていただろうが。
(う、裏式がどうとかいうより、BMP187の出力が単純に凄すぎる……)
LV99の戦士が振り回せば、ひのきの棒でも序盤のモンスターは瞬殺できるように。
「でも……」
実際には、BMP能力には適応上限値というものがある。
本家の澄空悠斗がBMP187の全出力を発揮することができないように、並のBMP能力では超高出力に適応することができないのだ。
(そこは、天竜院家が100年にわたって引き継いできた【九尾】というBMP能力が凄かったという話なんだろうけど……)
・適応上限値がBMP187以上の【九尾】を完全な形で持って生まれてきた天竜は、BMP値が160しかなかった。
・その欠陥竜を見染めた約束の勇者は、自身では振るえない187ものBMP値を持ち、その主を得ることで【BMP187で九尾を振るう無敵の天竜】が誕生した。
(ちょっと、これは、ひどすぎるかも……)
いくら何でも物語的に完璧すぎる。
たとえ遥自身が望んでいたとはいえ、これではあまりに青龍のポンコツ主がみじめ過ぎはしないか。
「……いや」
たとえ澄空悠斗が完璧に主人公だとしても、【東】の鑑定は遥の主にしかできない。
そして、彼は決してそれをみじめなどとは思わない。
そんなところに惹かれたのだ。
「じ……13式:激戦衝!」
「13式:激戦衝・砕」
九尾を叩きつけ合う姉妹だが、威力の差は歴然だった。
遥は、受け身すら不完全なまま、もう一度壁に叩きつけられて、激しく咳き込む。
(……まだまだ……!)
「32式:白雲渡り」
腰から伸びる九尾を透子の背後の壁に貼り付け、その上を滑るように疾走する。
透子の直前で九尾を飛び降り。
「17式:砂塵蹴!」
頭を下に。足に九尾を纏わせ、旋回するような蹴りを放つ。
「!?」
しかし、その足が九尾に巻き付かれ、しかも透子の片手でキャッチされてしまう。
「88式:紅霞・屠」
「な……71式:天鎧!」
片足を掴んだまま、地面が抉れるほどの勢いで姉を叩きつける天竜。
だが、天鎧で致命傷を避けた、もう一匹の竜もまだ沈黙しない。
「44式:首狩り」
地面に叩きつけられたまま、1対の九尾が左右から透子の首を狙う。
「71式:天鎧・包」
だが、透子の九尾がそれを阻む。
(う、嘘…!? はや……!)
動揺する遥の足首に、透子の九尾が巻き付く。
「49式:死神・抱」
「え?」
一瞬、聞き間違いかと思った。
40番台は、天竜院流のなかでも、いわゆる『危険』な技を集めたシリーズである。
その中でもっとも残酷な49式。しかもその裏式。
「と……透子……ちゃん? ひょっとして、私のこと嫌いだった……?」
「まさか。お慕いしておりますよ、姉上」
◇◆
「つ、強すぎますですわぁ……」
予想通りというべきか、マスクドエレメントにフルボッコにされて、そのまま足を掴んで引きずられているティアマットが零す。
「まぁ、意識があるだけ良いと思うわよ」
悠斗に向ける表情とは別人のように(顔は見えないが)、興味を見せないマスクドエレメント。
「……あ、あの。どうして止めを刺されていないのでしょうかしら? というか、私、どこに引っ張っていかれているのですかですわ?」
「……止めを刺さないのは、物語的にまだいつか悠斗様が使うから。引っ張っているのは、おそらく今日これから使うから」
「意味が分からないですわ……」
とりあえず、あきらめる邪竜。
「しかし、びっくりしたですわ。幻影獣にしか見えないけど、貴方たぶん人間ですわよね。私の本体並みに強いと思いますですわ」
「本体……。やっぱりいるのね、そういうのが?」
「私については、たぶん……。ですわ」
「だったら急ぎましょう。悠斗様は、片っ端からフラグを回収して回る系統の主人公タイプですから」
☆☆☆☆☆☆☆
「鑑定……失敗ですかね……」
5分ほどで、俺と青龍の状況は180度……270度変わっていた。
もちろん、悪い方向に。
俺達の目の前には、中学生アイドル・邪竜ティアマットを妙齢の美女にしたような幻影獣が出現し、どす黒い風を纏い始めていた。
「鑑定が失敗した時には基本的に世界が滅びるだけなんですが、純粋に鑑定者の力量不足で鑑定が失敗した場合には、救済措置が取られます」
そりゃ、鑑定者が失敗するなんて、テストではありえないことではあるが。
「約束の勇者がふさわしい資質を示したのに、鑑定者の側にそれを認めるだけの能力や度胸がない場合、鑑定者の物理的な死をもって鑑定を成功したことにします」
そう言って、自分の邪竜を見る時とは全く違った目つきで、目の前の幻影獣を睨みつける青龍。
「あれが執行者です」




