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BMP187  作者: ST
第六章
326/336

恩寵と覚醒とBMP187

「ど、どうなってるんですか……」

青龍・青神幸也が肩で息をしながら呟く。

【最初に引きずり込まれた闘技場の出入り口の先の廊下の向こうにある別の闘技場の別の出入り口の先の別の闘技場】でようやく会うことができたので、感無量だ。


ちなみに、ここに着くまでに千度放つ青槍(グローランサー)を、合計で【7回】防御させられた。


千度放つ青槍(グローランサー)は、1発目で【敵の防御力を把握】し、2発目で【それを必ず打ち破る】BMP能力……。ただし、防御系のBMP能力というのは、その個人にとって【防御力】そのものです。少しずつ強力なBMP能力に切り替えていって、千度放つ青槍(グローランサー)の把握学習を無効化するのは、鑑定的にも正しい手順です……」

……やっぱり、そうなのか……。


「しかし、貴方は汎用装甲エンチャントくらいしか防御系のBMP能力を持っていなかったはず……。7回も防御させられて、どうしてそんな平然とした顔をしていられるんですか……」

「そっちこそ、1日に2・3発が限度だと予想してたんだが……」

「西の白虎の怪しげな術式を借りただけですよ、大したことじゃない」

……というには顔色が悪い。

ひょっとして、これ以上やると、後遺症じゃすまないんじゃないか……?


「……っ」

青神が人差し指を向けてくる。

「さすがにもう勝負はついていると思うけどな……」

「何を言っているんですか? 重要なのは鑑定の成否であって、勝ち負けじゃない。貴方が勝ったところで、僕が死んだところで、何の意味もないんですよ?」

……そうか。形式的に負けを認めたところで、盟約領域の譲渡はできないのか……。

とりあえず、倒すしかないか……。


「この距離なら、喰らっても一発。……そう思っていますね?」

「…………」

「楽勝な勝負じゃ、僕の心は動きませんよ。驚かせてくれないと」

「…………」

賢崎さんみたいなことを……。


驚かせることができるかどうかは分からないが……。

身体の力を抜いて……。


超加速システムアクセル!」

千度放つ青槍(グローランサー)3点射撃(スリーバースト)!」

……3発!?



☆☆☆☆☆☆☆



「86式:女郎蜘蛛」

一瞬のスキをついて、遥が透子を六本の九尾で拘束する。

(ちょっとやばかったかも……)

ほんの数日で、ちょっと引くくらいに剣技が上達していたが、九尾との切り替えの隙は相変わらずだった。


「89式:金剛力」

「あ……あぁぁ!」

強く締め付けられて、透子の口から悲鳴が漏れる。


「主を得るだけでこんなに変わるなんてね……。まぁ、私もそうだったから驚きはしないけど」

「……つ、強さを得るために、あの、青龍と契約したのですか……?」

「そういう訳じゃないけどね……。結果的には九尾が使えるようになってラッキーだったかな」

実際にはラッキーどころの話ではない。

いくら百年の一人と言われる才能があっても、九尾が使えなければ、天竜院一族の中では、アイデンティティがないに等しかった。


「おとぎ話だと思っていたけどね。まさか、自分にこんなロマンティックなことが起こるとは思わなかったわ」

世界が変わった。

大げさではなくそう思っている。

「まだまだ未熟だけど一生懸命背伸びをしようとしている我が情けない主から学んで……。ちょっと恥ずかしいけど、恩寵スキル【覚醒】って呼んでる」

傍から見ている分には、いつでも余裕たっぷりの完璧な姉に見えたかもしれないが、やはり本人的には色々と思うところがあった。

「ちょっとだけ痛い思いをさせるけど、今日のところは退場しててね。うちの主と貴方の主を一対一で闘わせるのはちょっと無理があるから」

「……殺さないのですか?」

唐突な一言に、遥の動きが一瞬止まる。


「い、いやぁ、さすがにそれはないわ……。私は別に天竜院を恨んでいる訳じゃないし……。適当に鑑定のサポートができればそれでいいのであって、大事な妹をこんなところでわざわざ……」

「そうですか…………。屈辱です」

「え?」

「89式:金剛力・はじく

目の前の透子の力が爆発したような錯覚の後、遥の身体は壁に叩きつけられていた。


「え、な、何何?」

(力押しで負けた?)

遥のBMPは167。

160の透子に出力で負けるはずがないのだが……。


「な、なんなの? 【金剛力・はじく】? はじくって、裏式?」

裏式は、開祖のみが使えたという幻の技で。

(少なくともBMP値で170は必要だったはずだけど……?)

「困るのですよ、姉上。ただでさえ、あの方は、失態を犯した後の自害すら認めてくださらないのですから……」

一方の透子は、遥の疑問など聞こえていないかのように話し始める。


「私の……そうですね、『友』の分析です。恩寵スキルは、【元から自分の中にある能力】を主から複写する仕様とのことです」

「…………」

「正解みたいですね」

穏やかに、しかし肉食獣のような獰猛さをもって天竜は微笑みかける。


「強く、賢く、優しく、器が大きく……。そして麗しい。我が主と【共通の強さ】などと言われても、ただ九尾が9本出せるだけのこの身にはどうしようもなかったのですよ」

「…………」

主への評価がだいぶヤバイことになっているのは分かったが、とりあえず姉は黙って聞くことにした。


「愚かでした……。【劣化複写イレギュラーコピー】。あれほど秀でた主が、なぜ自身の代名詞ともいえるBMP能力にこのような名前を付けたのか……。それすら全く分かっていませんでした」

「…………え?」

遥は目を疑う。

透子の長い髪の先が、少しずつ虹色に染まっている。


「謙遜しているわけではないそうなのです。もちろん開き直っている訳でもない。『俺が名付けたわけじゃないですけど……。自分より優れている人から学ぶ。たとえ最初から完全に真似ることはできなくても。そんな感じじゃないでしょうか?』だそうです」

「…………」

(それは……)


「姉上に劣っているのが悔しくて悔しくて……。我が主のお役に立てないのが情けなくて情けなくて……。そんな感情そのものがポンコツである証左だと思っていましたが……」

「えーと……」

「自身が劣っていることを認めてもいいのなら……、寵愛を賜る余地はあると思ったのです」

透子の髪が虹色に染まっていくとともに、プレッシャーが際限なく膨れ上がっていく。

俄かには信じがたいが……。


「恩寵スキル【BMP187】と呼ぶべきでしょうか」

(スキルとか特性じゃなくて……BMP値そのものを複写しちゃった!?)

遥は心の中で絶叫を上げる。


その時、ようやく透子が虹色に輝く自分の髪に気が付く。

「美しい……。我が主の色です♪」

(せ……戦闘中に【♪】とか使う!?)

もはや妹は姉を脅威として認識していない。

大人と子供……いや、それ以上の戦力差が生まれてしまっている。

だが、もちろんこのまま引くわけにはいかない。


「69式:竜咆哮!」

遥は、クロスボウの矢のような勢いで数本の光の尾を放つ。

「71式:天鎧・つつむ

新月祭で飯田謙治の銃撃を止めた自動防御が、さらに強靭な圧力で竜咆哮をはじき返す。


「66式:神薙・ほろぼす

九尾の1本が遠距離から薙ぎ払いを行う。

「75式:外套!」

天鎧のように全方位に張る自動防御ではなく、狭い範囲に九尾を集中して防御する技だが、暴力的な神薙の威力に押され、遥はもう一度壁に叩きつけられた。


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