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BMP187  作者: ST
第六章
325/336

鑑定 ~青龍~

剣麗華は最近、BMPハンター以外の活動に力を入れていた。

一緒に幻影獣と闘う以外に、澄空悠斗のためにできることがあるような気がしているからだ。


澄空悠斗は危うい。

はじまりの幻影獣の腕を完全に取り込み、肉体的な懸念がほぼ消えた今でも、なおのこと強く感じる。

もっと根本的なところで、取り返しがつかないほどひどく傷つけているかのような。

月夜に言われるまでもなく、澄空悠斗が強くなればなるほど、麗華の不安は増すばかりだった。


「いよいよ、ここしかなくなった……」

研究機関の訪問と学会発表を強行軍でこなした後、結局、【ここ】にしか解決策はないのだと思い、やってきた。

上条BMP研究所。

上条博士が世界的権威と呼ばれる前から存在していた研究所であり、覚醒時衝動を起こした剣麗華が隔離されていた施設である。


「私の記憶がない期間は、ほとんどここにいたから……」

施設の中で何ができたということもないはずなのだが、ここになにかあるという確信めいたものがあった。

麗華の出所後に封鎖されたその施設に、ためらいながら足を踏み入れる。


今まで徹底的に避け続けてきただけあって、一歩踏み入れた途端に、壮絶な悪寒が身体を駆け巡った。

「………………」

帰りたい。

全身の警告を力づくで無視して、歩を進めると……。


「……やめたほうがいいわよ」

警告は幼い少女の姿を取って、目の前に現れた。


「……私……?」



☆☆☆☆☆☆☆



コロッセオを彷彿とさせる空間の真ん中で、俺と天竜院先輩は立っていた。

「やっかいな能力ですね……」

確かに。

『視認できない距離』から盟約領域に引っ張り込まれた。

すくなくとも、『この』闘技場に青龍の姿はない。


「いったいどこに……! 我が主!」

「天竜院先輩! 触れないで!」

反射的に俺を庇おうとした天竜院先輩を制して、BMP能力【小盾スモールシールド】で、青龍の千度放つ青槍(グローランサー)を受け止める。


「我が主! あの出入り口からです!」

天竜院先輩の言う通り、闘技場の出入り口から攻撃は飛んできた。

ただ、俺の勘なのだが、出入り口の傍から撃った訳ではなく、その先の廊下からでもなく、その向こうにもう一つ別の闘技場があり、そこの別の出入り口の先にはまた別の闘技場があり、そのあたりから撃ってきているような気がする。

という俺の見立てを天竜院先輩に告げる。

「そ……そのようなことが……」

『内部での戦闘による経験値取得率が1.5倍になります』と青龍は言っていたが、それだけではなく、こういった構造だと操作系の遠距離攻撃能力者に極めて有利な空間になっているのが分かる。


「……まあ、【鑑定】なんだし、仕方がないか」

その辺のことは諦めて、天竜院先輩に目配せする。

「承知しております。この命に代えましても!!」

『命に代えたらだめなんですってば!』という言葉を届ける前に天竜院先輩は行ってしまった。

天竜院遥さんを抑えてもらうためだ。

俺は、防御用のBMP能力が尽きる前に青龍を仕留めなければならない。


◇◆


天竜院先輩に続いて最初の闘技場を飛び出し、廊下部分のようなところでいきなり予想外の敵に出会った。


「ティアマット……?」

JCアイドルを兼務する青龍の幻影獣が、ステージ衣装のような姿で立ちふさがっている。

完全に予想外だった。

【鑑定】である以上、同程度の戦力にしてくると思っていたのだが、今、たぶんこうなっている。

・澄空悠斗、天竜院透子

・青神幸也、天竜院遥+ティアマット。


若干ポンコツ特性があるとはいえ、まぎれもないAランク幻影獣をプラスで突っ込んでくるとは思わなかった。まさか、遥さんを連れてきていないということもないだろうし。


「まさか、こんなに早くリベンジの機会が訪れるとは思いませんでしたわ……」

「……! 劣化複写イレギュラーコピー籠手ガントレット!」

腰に手を当てて胸を張るティアマットの背後から飛来した光の矢を、腕に展開した力場で慌てて受け止める。


「…………」

やばい。

さすがに、こんなふうに千度放つ青槍(グローランサー)をさばきながら、制限時間付きでAランク幻影獣の相手をする自信はない。

かといって、強引に突破すると、挟み撃ちを喰う可能性がある。

透子先輩が遥さんを撃破するのを待つのは、さすがに消極的過ぎる気がするし……。


「迷っている暇はないのに……」

「では、私が力をお貸ししましょう」

「「!!」」

俺とティアマットが同時に驚く。

完全に気配を消していた変なマスクの女性が、いきなり横から姿を現したのだ。


「春香さ……マスクドエレメント……?」

「今、トイレから出てきました……?」

確かにトイレを模したところから出てきたが、盟約領域内のトイレで本当に用が足せるかどうかは分からない。

いや、そうではなく。


「ど、どうやって、ここに……?」

「盟約領域は【同等程度の戦力】でないと発動しないのですよ。それでも無理に発動しようとすると、【同等程度の戦力】になるように、周囲の【戦力】を適当に巻き込みます」

「貴方が入ると、全然【同等程度の戦力】じゃなくなるじゃないですかですわ!」

ティアマットに激しく同意する俺。しかも、おそろしいことにこっちの味方とは限らない。


「数が合っていれば、あとは適当なんですよ。四方神にしては不勉強ですね」

名状しがたいマスクを付けた女性が淡々と告げる。

まあ、「こんな空間、できれば展開したくない」という青龍の気持ちも分からないでもない。


「というわけで、ここはお任せを、悠斗様」

「え、えと……」

「御心配には及びません。あの次元獣は悠斗様に撃破される予定の中ボス。私は悠斗様の戦績の邪魔になるようなことはいたしません」

そんな心配はしていないのだが、こう言われた以上、「貴方に背後から撃たれるのが超怖い」とも言いにくいところである。


「じゃ、じゃあ、行きま……! 劣化複写イレギュラーコピー軽装鎧ライトアーマー!」

千度放つ青槍(グローランサー)を防ぎながら、超加速システムアクセルで、ティアマットの横をすり抜ける。

これでもう三発目。

『何度も撃つことはできない』という希望は、さすがに甘かったらしい。



☆☆☆☆☆☆☆



【澄空悠斗が最初に引きずり込まれた闘技場の次の闘技場から分岐した次の闘技場】で、天竜院姉妹は向かい合っていた。


「私のところに迷いなく一人で来るなんて……。天竜の契約をしたせいで、冷静な判断もできなくなったのかしら?」

「御心配なく、姉上。私は冷静です」

挨拶もそこそこに剣で打ち合い始める二人。


(……?)

天竜院遥はすぐに違和感を覚える。

(……やりにくい?)

何しろ前回は5分とかからずに決着が付いたのである。

さすがに、今回は慎重に向かって来てはいるのだろうが。


「…………」

微妙に遥の嫌なところを攻撃してくる。

微妙に遥の得意な攻撃から逃げていく。

微妙に遥との正面衝突を避けてくる。


微妙に一生懸命闘っている。


「…………」

天竜院透子は、【真の天竜】である。

【100年に一人の逸材】程度の天竜院遥とは、そもそも格が違う。

生まれついての強者である遥の妹は、他者と対等に戦うということができなかった。


相手を見くびっているわけではない。

しかし。

百獣の王は、兎を狩るのにも全力を尽くすだろうが、兎を恐れることはできないのではないか。


(もし……)

もし、竜が鼠の隙を伺いながら戦うような真似をするとするならば……。



それは卑怯と言ってすら差支えがない。

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