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BMP187  作者: ST
第六章
324/336

賢崎の闇

「素敵な夜と貴方の瞳に……乾杯」

「せめて、対青龍戦の勝利と鑑定の成功とかではだめかな?」


賢崎さんが所有して住んでいるマンションの最上階にあるバーラウンジ。

完全貸し切り状態(※バーテンダーすらいない)のカウンターで、俺と賢崎さんは並んで座っていた。

ワイングラスを揺らしているが、中身はなんとぶどうジュースである。


「おうちデートで仕事の話をするなんて、退屈な男だと思われますよ」

「…………」

実際、平凡な男だしなぁ……。


「対青龍の作戦会議と聞いてきたんだけど……」

「そういう口実でおうちに入った以上は下心ありと思われても仕方ないんですよ」

「マジですか?」

じゃあ、これ、麗華さんに言い訳がいるやつ?

「もちろん、私は、できる愛人ですから。正妻に告げ口なんかしたりはしませんが」

「……ありがとうございます」

愛人にした覚えはないですが。


「まぁ、それはともかく……」

と、ようやく本題に入る(※今まで真剣でなかったわけではないのが恐ろしい)賢崎さん。

「1発目で【敵の防御力を把握】し、2発目で【それを必ず打ち破る】」


それが、千度放つ青槍(グローランサー)

賢崎さんも一度目にしたことがあり、それを元に作戦立案してくれる予定だったらしいが、「澄空さんも見たなら、なお好都合です」だそうだ。


「2発もらうと負け確定なのはもちろん、かなりの遠距離からの狙撃が可能で、さらに追尾機能付き。あと、おそらくですけど、盟約領域内では障害物をすりぬけて飛んできますね」

「チート過ぎません?」

「四方神のBMP能力は、はじまりの能力者が肝いりで【設定】したらしいですから」

はじまりの能力者様は、なぜそんなに鑑定に力を入れるのだろうか。


「ただ、肝心の使い手は明らかに経験が足りていません。接近戦に持ち込めば有利だと思います」

「でも、遥さんがいる」

「そこは天竜院さんに期待するしかありませんね。ただ、やはり何発か被弾する可能性はあります」

2発で終わりじゃなかったですか?


「実は……、ちょっとお耳を拝借」

賢崎さんが(二人しかいないのに)ぐぐっと耳に口を寄せてくる。


「……そんな方法が……?」

「澄空さんならではの……ちょっとずるい方法ですよね。ただ、私は、この方法、青龍……というか四方神的には脱法行為ではない気がするんです」

「これが正しい手順……? でも、そうすると……」

「そうなんですよ。約束の勇者は、複写系能力者であることが条件ということになりかねません」

ぐぐぐっと、賢崎さんが身を乗り出してくる。

今更だが(二人しかいないのに)こんなに密談っぽく話す必要はあるんだろうか。


「約束の勇者の候補者は、どちらかというと精神性で選ばれる。そうであるべきですし、私もそう思います。複写系能力が必須というなら、【約束の勇者が複写系能力になる】仕組みがあるはずなんですよね」

「…………」

なんだろう? 何か気になる。


「すみません、少し脱線しましたね」

だが、賢崎さんはそちらの話はそこで終わらせてしまう。


「BMP能力の選定は私がやりますが、何個くらい必要か決める必要があります」

「うん」

「2・3個でも十分な気がしますが、安全を考えるなら5個くらいでしょうか。手間もかかる話ですし、さすがにここまで必要はないと思いますが、私のEOFによる最大予測は10個ですね」

「…………」

ふーむ。


「……じゃあ」

と、俺も密談っぽく、賢崎さんにささやく。

賢崎さんは少し驚いた顔をする。


「それは……。いえ、本来なら、私が勇者を戒める立場な訳ですから……、無駄というのはおかしいですね。でも、まぁ、【澄空悠斗は倒せない】といったところでしょうか」

だったらいいんですけどね。


「あと……、ん、このお肉美味しいですね」

「……俺の舌でも高校生が食べちゃいけない値段のお肉なのは分かるよ」

「私はお嬢様だからいいんですよ」

お嬢様は【できる愛人】とか言わないと思うんですけど。


「【マスクドエレメント】でしたか?」

「そうなんだよ……」

俺は春香さんらしき謎の存在を賢崎さんに報告していた。


「一応、春香に当該時間のアリバイはあるんですけど……。風間さんも人間とは思ってなかったんでしょう?」

「確かにそこは俺も同意するんだけど……」

「まぁ、彼女の場合はアリバイの偽造くらいは簡単でしょうけど」

「だと思うんだよ……」

俺はまだあの人の全体像が全く見えていない。

あのくらいのことは平気でできそうな気もする。


「しかし、随分とキテレツなことをしますよね?」

そうなのである。

やろうと思ったらできる気はするのだが、その動機が分からない。


「賢崎さんは何か分かるかな?」

「いえ。私も春香のことは分かりません」

暗い顔をする賢崎さん。


「【賢崎の鬼子】……。文化祭で彼女はそう言ったらしいですね」

「ああ」

そう言ってた。


「それは間違いなんです」

「ん?」

「彼女は【賢崎の被害者】です」

賢崎さんのこんな顔はあの時以来である。

【この人の愚痴を聞ける人間になる】と決意したんだったな確か。


「式というのは、賢崎でも有数の名家ですが、彼女はそのさらに分家……末端と言ってもいい生まれです」

「…………」

そうなのか?


「しばらく前から、式は衰退の一途を辿っていまして……。色々と無茶をしていたんです。そこで、彼女の才能に目を付けた」

「才能……」

「特訓……ではありえません。虐待・拷問……という言葉ですら到底適切ではなく……。人体実験……あえて言うならその言葉が一番近いですが……。この言葉は少し範囲が広くて……。おそらく、今、澄空さんが考えていることの数千倍は酷いと思います」

「す……」

凄い数字が出てきたけど。


「脳をすりつぶして、回復時の挙動を調べる。とか言うと、異常さが少しは伝わりますか?」

「……死ぬと思うんだけど」

「そうですね。死ぬうちはここまではしていなくて、せいぜい、虐待か拷問程度だったんです」

「…………」

せいぜい……なのか。


永遠に痛みを(エターナルペイン)。これで彼女は死ななくなりました」

「……!?」

ふ、不死のBMP能力……!?


「幸運なことに彼女の心はあっという間に壊れました。ただ、不幸なことに式の人間は狂ってはいても真剣だったんです」

「…………」

「彼らの【人体実験】は常軌を逸してはいても効果的で……。春香のBMP能力は恐ろしい速度で強化されていきました。『出力に密接に関係する【心の動き】がない』というハンデを抱えた上で、それでも誰にも止められないほどに」

「春香さんは……復讐しようとしたりはしなかったのか?」

「式の中心人物は、全員殺されました」

そう……なのか。


「ただ……復讐と呼んでいいものかどうか……。彼女は言ってたんです『怒りとか憎しみとか悲しみとかを感じることを期待した』と……」

「…………」

「私には分からないんです。心を失った人間が何を考えるのか。本当に感情(こんなもの)を取り返したいと思うものなのか」

心がなければ生きている意味がない……。そう言えるのかもしれないが、じゃあ、実際、今生きているあの人はどうなるのか?


「賢崎は春香に大きな借りがあります。世界の敵になるのでもなければ積極的には動きたがらないでしょうが……。貴方の敵になるのなら、私が個人的に動きます」

「いや、でも……」

「澄空さん」

どこかで見たことがある表情で、賢崎さんが見つめてくる。



「自分を大切にしてください。いくら貴方にでも、あの子を救って欲しいなどとは言いませんから」

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