恩寵を求めて
結局、四方神・青龍との戦闘は、あのまま終わりを告げた。
相手方の言い分を信じるなら、あの戦闘は『確実に盟約領域を譲渡するための戦力調整を目的とした情報収集』だったそうだ。
それでいきなり襲い掛かられたこちらとしては納得しかねる部分もあるが、賢崎さんが納得していたようだから、まあ仕方ないんだろう。
……相手の大将は、最後まで意識が戻らなかったし。
そんなこんなで、部屋に帰ってきて、ご飯を食べて、お風呂に入った後、自室のベッドに座る俺の前に、上半身ブラジャーのみの天竜院先輩が座っている。
「お願いがあります」
「なんなりと我が主」
「服を着てください」
当然の要求を突きつける、主たる俺。
なお、(※とても悪いことに)麗華さんはまだ学会から帰ってきていない。
「それはできません。私の血でお借りしている服を汚すわけにはまいりませんから」
そう言って、脇に置いた刀に手を触れる。
血が流れるとスカートも塗れるんじゃないかと思わないでもないが、もちろんそんなことをさせるつもりはない。
「自害は禁止したと思うんですが」
「はい。なので、もし許されるなら……。お暇をいただきたく……」
最後は消え入るような声で言う天竜院先輩。
「辞めたいんですか? ……というか、辞められるんですか?」
「天竜の契約は、解除自体は可能です。……したという事例は聞いたことがありませんが……」
「俺としては辞めて欲しくないんですが……」
「しかし! 我が主! 我が姉とはいえ、青龍ごときの天竜に敗れた私が、このままおめおめと我が主のお傍にいるわけには!?」
「俺はあんまり、誰が誰より強いとか、そういうのは気にならないのですが……」
「お優しい我が主……。しかし、天竜は主のご厚意に甘えるばかりではいられないのです」
別に厚意ではないのだが……。
「でも、天竜院先輩。おそらく【本番】も、遥さんが出てくると思うんですよ」
「それは……そうかもしれませんが……」
そして、おそらく、麗華さんは盟約領域に『呼ばれない』。
理由は強すぎて、戦力調整ができないから。
青龍チームは、『全力を出し切って、ギリギリ負けて、盟約領域を譲渡する』のが目的なのである。
……気分が滅入る出来レースだよな……。
「つまり、我が主は、私に、姉の……天竜院遥の足止めをせよ、と?」
「そ、そんな感じです」
少しどもってしまった。
正直なところを言うと、次は天竜院先輩が勝つんじゃないかと思っている。
というか、遥さんを直接見ての感想だが、天竜院先輩の方が弱い要素は一切感じなかった。
今それを言うと、余計なプレッシャーをかけそうだから、言わないけど。
「我が主」
ずずいっと(※上半身ブラジャーの)天竜院先輩が近寄ってくる。
「その任務、姉の脚に噛みついてでも果たす所存ではありますが」
「は、はい」
「先日のように瞬殺され、これ以上、我が主の名に傷をつけるわけにはまいりません」
そう言う先輩は、ベッドに転がされた俺の上にのしかかってきていた。
「て、天竜院先輩?」
「我が主、私は気が付いたのです」
「(悪い予感しかしないのですが)、なんでしょうか……?」
「姉は天竜院家に伝わる秘奥【恩寵スキル】で、本来発現していない九尾を手に入れたと聞きました」
「ら、らしいですね……」
「私も【恩寵スキル】を身に付ければ、姉に対抗できるのではないかと思うのです」
そ、それは、俺もそう思いますが。
「姉自身も言っていたように、姉が天竜を極めたとは思えません。何か、秘訣があるはずなのです」
そ、そうかもしれません。
「ついては、一度抱いていただければと思うのです」
そこで、いきなり分からなくなりました!?
「な、なぜにですか!?」
「恩寵スキルなのですから……。恩寵と言えば、寵愛かと」
た、短絡的過ぎやしませんか?
「違うならそれでいいのです。とりあえずやれることは簡単なことから全てやっておかないと」
「一度抱くのが簡単なこととは思えないのですが!?」
「大丈夫です、我が主。麗華様との関係には決して影響を及ぼさないことをお約束します」
いや、そういうことでもなく!?
もちろんそれも気になるけど!?
「エッチなのはいけなくなかったですか!?」
「もちろん、経験のない私の未熟な技量で我が主を落胆させるのは本意ではないですが……。青龍ごときに敗北するよりはましかと」
い、嫌がってたのは、そういう理由だったんですか……。
アカン、完全に油断していた。
「いかがでしょう……? 我が主も、強い天竜の方がお好きですよね?」
強さよりもエロさに目がいっている、ダメ主ですみません!
この異様な美巨乳をこんな角度で見せられたら……。などと言っている場合ではない!
《おうさま、おこまりですか?》
めっちゃ困っています!
《はじまりのげんえいじゅうのけんのうよりちしきをえました。おんちょうすきるはふくしゃすきるのいっしゅとおもわれます。せいこうしてもあんろっくすることはないとすいそくされます》
それくらいは俺にも分かる!
分か……、まてよ……。
複写スキルの一種?
「複写スキル……」
「私の胸の形状ですか?」
「BMP能力の性状で……、ブラを外さないで!」
露になった胸部にブラジャーを着けなおす。が、ホックが留められない。
「…………」
ど、どうやって留めるんだ、これ?
というか、前からいったから天竜院先輩の胸が顔に当たる。やばい。
「申し訳ありません。三村君の言っていた通り、ブラジャーを自分で外したいタイプの男性なのですね」
タイプでないです。
「あ……留まった」
俺の願いが通じたのか、天竜院先輩のブラは奇跡的に元の状態に戻った。
が、半裸の美人先輩が馬乗りになっている時点で、安全圏からは程遠い。
「恩寵スキルは複写スキルの一種だと思います」
「複写……ですか?」
「劣化複写とはだいぶ毛色が違いますが。恩寵といっても、主は単に参考としているだけで、本質的には天竜で自己完結する能力なのではないかと」
「複写スキルの第一人者である我が主は、そう思われるのですね?」
「はい」
そんな人者になった覚えはないが、とりあえずノッておくことにする。
「承知しました」
と、天竜院先輩がベッドから降りてくれた。
「この複写スキル、主の命により、何がなんでもものにして見せます!」
(※ブラ丸見えで)ガッツポーズで誓う天竜院先輩。
その実力と熱意には、全く疑う余地はないのだが……。
「…………」
麗華さん。お願いだから、早く帰ってきてください。




