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BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
32/336

天才ではないけれど

10分経過した。

どうして10分経過したのが分かるかというと。


「10分27秒ジャスト。さすがね、悠斗君」


こども先生が嫌味を言うからだ。

だいたい、10分27秒にジャストもくそもあるか。


「こ、こんなに扱いずらかったのか。カラドボルグ……」

思わず呟く。

能力を本格的に使用しての訓練は初めてなので多少苦戦するのは予想していたが、ここまでとは思わなかった。

劣化複写イレギュラーコピー自体は驚くほどよく馴染んでいるので、カラドボルグの実体化には困らないのだが、カラドボルグ自体が扱いずらい。

幻想剣というだけあって持っているだけでは重さを感じないのだが、振ろうとすると石のように重く感じる。

おまけに軌道がぶれまくる。

さらに、剣の軌道と、それによって生み出される空間の断層が、またずれる。


結果、遅い・当たらない・危なっかしいと三拍子そろった恐ろしい能力になってしまっていた。


「悠斗君。手を抜いたりはしていない?」

ぐさっ!

という擬音が聞こえた気がした。

麗華さん、そりゃないっすよ。

「ご、ごめん。また、失言した」

と、完璧美少女の申し訳なさそうな姿に、また落ち込む俺。


「なるほど。複写できるからといって使いこなせるとは限らないのか」

「向き不向きもあるでしょうシ……。麗華さんは軽々と振りまわしてイルので忘れそうになりマスが、幻想剣イリュージョンソードって最高難度の能力なんデシたね……」

「難度的には劣化複写イレギュラーコピーの方がさらに上だと思うけど、同じ幻想剣イリュージョンソードを使っている間は、麗華さんとは比べ物にならないということね。案外、使いどころの難しい能力かも……」

三村、エリカ、こども先生が好きなことを言っている……。


「で、デスが、まだ本格的な修業を始めたばかりデスし! 麗華さんだって、最初から幻想剣イリュージョンソードを使いこなせたわけじゃないはずデスし!」

「ん? 最初から、使えたけど」

「…………」

ハーフっぽいのに一番気配りができるエリカのフォローを、ものの見事に寸断する麗華さん。

「でも、困った。せめて、3分は切らないと、次の段階に進めない」


3分か……。


もう一度、カラドボルグを実体化する。


「悠斗君? どうしたの?」

実体化したカラドボルグを見て、麗華さんが不思議そうに聞いてくる。

「ん? どうしたって……。3分切ればいいんだろ? とりあえず、切るまでやるよ。エリカ、悪いけど、また豪華絢爛ロイヤルエッジを頼むよ」

「は、ハイデス!」

なぜか、とても嬉しそうに返事をするエリカ。

「せっかく来てもらったのに、麗華さんには悪いんだけど。ちょっと、待っててもらえるかな?」

「…………」

なぜか無言の麗華さん。心なしか、意表を突かれたような顔に見える。


「麗華さん?」

「あ、うん。分かった。見てる」


微妙な表情だな。


◇◆


「9分52秒デス……」

凄く申し訳なさそうな口調で言うエリカ。別に、君が悪いわけじゃないんだが。

え? ストップウォッチを持ってたのは緋色先生じゃないかって?

3回目くらいで飽きたのか、向こうで三村と漫才やってる。あの人も、つかめない人だ。


「あ、アノ……。少し豪華絢爛ロイヤルエッジの配置を簡単にしましょうカ?」

「いや、それじゃ訓練の意味がないよ」

そして、少しぐらい簡単にしたところでどうにかなりそうな問題ではなさそうっス。

「ナラ、別の訓練にするトカ? せっかく麗華さんと来てるんですカラ……」

「いや、たぶん別の訓練にしても同じだろ。麗華さんは本物の天才だよ」

正直、ちょっと甘く見てたかもしれない。


とはいえ、麗華さんの貴重な休日を、これ以上無駄遣いさせるわけにはいかない。

さすがに退屈してるだろ。


「先に帰ってもらうか……」

残念だけど。


と言おうとしたんだが。


見てる。

麗華さん、めっちゃこっち見てる。

適切な表現が見つからないが、あえて言うなら。


子供が未知のおもちゃを見つめるような眼で。


ほんとに読めない人だな。


☆☆☆☆☆☆☆



一方。

子供が未知のおもちゃを見ているような眼で澄空悠斗を見つめる剣麗華。


「麗華さん、退屈してない?」

「してない」

三村との漫才にも飽きた緋色香は、麗華の隣に腰を下ろした。


「どう? 澄空君は?」

「少しずつ良くなってる」

澄空悠斗から眼をそらさずに言う麗華。


「でも、私と同じくらい幻想剣を使いこなすにはまだ時間がかかる」

「というか、一生無理のような気もするけどな」

いつの間にか、三村も二人の後ろに立っていた。


三人の見つめる先で、澄空悠斗がエリカの応援を受けながら、剣をふるっていた。

その姿は、お世辞にも華麗であるとは言いにくい。


「少し悠斗君を勘違いしてた」

「幻滅した?」

「幻滅?」

緋色香の質問に、疑問符で返す麗華。どうやら、違うらしい。

「ち。奴の不可解なモテフィールドを解除するチャンスだと思ったのに。エリカもなんだか、マイナスどころかプラス補正気味っぽいし」

そして、謎用語を使いながら、とりあえず僻む三村。


と。


「え?」


その時。


『ソレ』以外ではあり得ない違和感を感じて、三人は同時に天を見上げた。

空に舞っているのは、翼を持つ異形の怪物たち。


「幻影獣!」


緋色香の言葉に反応して、悠斗とエリカも空を見上げる。

その悠斗めがけて。

一匹の幻影獣が降下してきた。


「悠斗君」

「だめ! 麗華さん!」

幻想剣を実体化させようとする麗華を香が止める。

「あ、そうか」

BMP過敏症のことを思い出す麗華。


「任せろ」

二人を置いて、弾丸のような速度で飛び出す三村。


三村のBMP能力、超加速システムアクセルだ。

今にも悠斗に襲いかかろうとしていた幻影獣に、三村の拳がめり込む。


猪突猛進オーバードライブ!」

拳を突き刺し、幻影獣を抱えたまま速度を上げる三村。

その拳がうっすらと青い光を帯び始める。

速度が増すごとに、青い光も強さを増し、少しずつ拳が幻影獣の体にめり込んでいく。


そして、建設途中のマンションの骨組みに幻影獣を叩きつけた。



☆☆☆☆☆☆☆



「げ? 三村が格好いい」

マンションの骨組みに叩きつけられて消滅する幻影獣を見ながら、俺は呟く。

まあ、あの外見でウエポン属性持ちで成績もいいのに、格好悪いというほうが難しい気もするのだが。


というか。そんな場合ではない。


「悠斗さん。下がってくだサイ!」

叫びとともに、エリカが豪華絢爛ロイヤルエッジを展開する。

が、全周囲を囲まれている状況で一体どこに下がれというんだ。


「く……ぅウ!」

エリカが呻く。

幻影獣が豪華絢爛ロイヤルエッジをすり抜けて向かってきているのだ。

斬れないとはいえ、巨大な幻影獣なら引っかけて動きを封じることもできるが、今眼の前にいるような人間大の幻影獣ではどうしようもない。

ゴツゴツと派手な音を立てて不可視の刃に衝突しながらも、まったくひるむことなく(※俺めがけて)向かってくる。


「この!」

劣化複写した断層剣カラドボルグを振り下ろす。

空間にできた断層が一匹の幻影獣を切断するが。

あと11匹くらい(数えている暇はない)の幻影獣がひるむことなく襲いかかってくる。


はっきり言って、間に合わない。


攻撃に備えて体を固くする。

が、防御系の能力を持たない俺は、幻影獣にひっかかれれば普通に死ぬ。

でも、次の反撃は無理。

そんな、なすすべなく立ち尽くす俺の前で。


幻影獣たちの動きが止まった。

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