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BMP187  作者: ST
第六章
317/338

おしおき

「ひぁあああ!」


天竜院先輩が窓ガラスを壊した日の夜。

風呂上がりに、リビングの扉を開けたところで、天竜院先輩の悲鳴が聞こえた。


「ど、どうしたんですか、天竜院先輩!」

「わ、我が主……。お、お見苦しいところを……」

床にへたり込んだまま、目尻にうっすらと涙を溜めながら、呻くように回答してくる先輩。


「い、いったい、何が……!?」

「な、なんでもありま……ぎぃ! あああぁ……」

何か踏んだ!?

と思って見てみると、九尾を踏んでいた。


「…………」

まさか、これが原因……ではないよな?

これで、校舎の壁をぶっ壊したり、階段を斬ったり、3階に飛び上がってきたりしてたし……。


「ご……ご説明申し上げ……っます、我が……あるじ……!」

「ま、まず、深呼吸してからでいいですので。落ち着いて」

背中をとんとんして落ち着いてもらう。

「こ、このような醜態を晒した私に寛大な処置……。我が主の広いお心に……い、痛……感謝しております……」

無理すんなと言っているのに……。


しばらくとんとんしていると、ようやく落ち着いてきた。


「ご説明申し上げます、我が主」

「は、はい」

まだ痛そうだが、とりあえず、説明できるほどには回復したらしい。


「今日の学園での出来事です」

「一閃竜?」

「はい」

「でも、それは、おいおい慣れていくということで決着したのでは?」

「慣れていくのは当然必要なことです。しかし、我が主の名誉に傷をつけた罰は受けなければなりません」

「そ、そうなんですか……?」

やたら堂々としているなとは思っていたんだけど、あの時点ですでに、罰を受け入れる覚悟ができていたのか。


「しかしながら、この身はすでに我が主のもの。簡単に腹を掻っ捌いたり、指を詰めたりするわけにはまいりません」

絶対にしないでくださいね。


「それで考えたのです。体を傷つけずに罰だけを受ける方法はないかと」

「それが九尾なんですか?」

しかし、分からない。

なぜ階段を斬るような九尾が、俺に触れられただけで痛いんだ。


「九尾は、伸縮自在・硬軟自由。しかしそれだけでは精密なコントロールをすることはできないのです」

「……ひょっとして、九尾は、感度をコントロールできる?」

「そのとおりです、我が主。激しく攻撃するときは感度を落とし、センサーのような使い方をする時には感度を上げる。そういった調整が必要になります。技によっては、インパクトの瞬間だけ感度を落とすようなものもあります」

驚いた。

そこまで、繊細な能力だったのか。


「そのため、定期的に感度を最大まで上げて、能力の調整をしているのですが……」

「……まさか」

「そこで思ったのです。感度最大の状態で、我が主に握りつぶしていただければ、身体を傷つけることなく罰を受けられるのではないかと」

「なんて無茶なことを……」

忠誠心が重すぎて疲れる……。


「ま、まぁ、結果的に罰を執行できたわけですし、とりあえずこの話はこれまでということで……」

「いえ、まだです。我が主」

へ?

「さきほどは、まだ最大感度にしていなかったのです」

まじで?


「今、まさに最大感度に至りました……」

わずかに震える手で、自身の九尾の一本を指し示す天竜院先輩。


「さぁ! 我が主」

「い、いや……」

さぁ! と言われても。

「…………」

「…………う」

女の子座りをしたまま、思いつめたような目で見つめられて、どうにも断れなくなる。

とりあえず、少しだけ撫でてみることにした。


「ひっ!!」

「だ、大丈夫ですか?」

本当に撫でただけなんだけど!


「だ、大丈夫です、我が主。少しぞくぞくっとしただけで」

その感触も何か問題がありそうな気がしますが。

「さぁ、我が主」

「じゃ、じゃあ、少しだけ……」

そっと握る。


「っ! ~~~~。い、痛気持ちいいだけです、我が主……」

なんで、気持ちいいの!?


「こ、これでは、罰になりません……」

俺の罰になっているような気さえしますが。

麗華さんに見られたりしたら、特に。


「ひ、一思いに……、我が主!」

「で、では、少しだけ……」

少しだけ力を入れて握る。


「!!!!!!」

ビクンと身体を震わせたかと思うと、天竜院先輩は目を見開いて、天井を見上げた。


「て、天……」

呼びかけようとしたところで、糸の切れた人形のように俺に向かって倒れてくる。

気絶していた。


「なんでこんな無茶をするんだ、この人は……」

と、介抱しようとすると。


「悠斗君、どうしたの?」

さすがに騒ぎ過ぎたらしく、(※最悪のタイミングで)麗華さんがリビングに入ってきた。


さすがの麗華さんも、九尾を握りしめたまま、気絶した天竜院先輩を抱きとめている俺を見て、状況の把握ができなかったらしい。

2秒ほど固まってしまった。知り合って、おそらく初めてのことである。


「その……確かに天竜は主に絶対服従で、悠斗君は年頃の男の子だけど、特殊過ぎるプレイは悠斗君自身の性癖にとっても良くないと思う」

「ち、ちが……」

麗華さん以上に動揺している俺は、言い訳の言葉すら発せない。


「恋人が、この先も私ひとりという前提なら、私が合わせることにやぶさかではないけど……」

「あ、あの……その……」

合わせなくていい! と、言葉にできない。石化の呪文をかけられたようだ。


「でも、ほどほどにね」

とても優しい笑顔で言い残して、恋人はリビングから出て行ってしまった。


……俺も気絶したい。



◇◆◇◆◇◆◇



「け、賢崎さん……。近すぎないでしょうか……?」


いよいよ迎えた【賢獣ティアマット】ライブ潜入捜査当日(※というほどたいそうなイベントでもない気もする)。

俺は、賢崎さんに右腕をがっちりと組まれていた。

ガチ恋人でもなかなかしないほど、深く右腕が両胸に挟み込まれている。


「いえ、賢獣ティアマットに怪しまれないためには、完璧な恋人を演じる必要があります」

……ライブに行くんだから、怪しまれるもなにもないと思うんだけどなぁ……。

「という設定で来ているんですから」

設定かい!?


「あ、あのですね、賢崎さん。俺には一応、剣麗華さんという超素敵な恋人がいまして……」

「もちろん、澄空さんの恋路を邪魔するのは本意ではありません。しかし、ソードウエポンとの恋人関係が解消された場合や、愛人を必要とした場合に、真っ先に候補に挙がるくらいに好感度を上げておくことは必要だと考えます」

……後者は絶対にないと思うんだけどなぁ……。


「自分で言うのもなんなんだけど……。賢崎さんへの好感度は、もう十分に高いと思うんだけど……」

「それはつまり、ソードウエポンとの恋路の邪魔にならないのであれば、即私を抱きたいと思うほどであると?」

「それは、必ずしも好感度だけの問題ではないような気がするのですが……」

「その程度では、やはり好感度不足と考えます」

……賢崎さんがメチャクチャぐいぐい来る……。


特に好感度を上げるイベントをこなした記憶がないのだが、やはり、ザクヤの右腕と完全融合したせいだろうか?

自分では、1/16ほど人間を辞めたことに負い目のようなものがあるんだけど、賢崎さんから見れば、ただただ俺の市場価値が上がっているということなのかもしれない。

好みは色々である。

……とはいえ、このままではさすがに困る。


俺は、この潜入捜査にも付いてきてくれている、我が天竜に頼ることにした。


「…………」

俺にじっと見つめられて、最初は小首をかしげていた天竜院先輩だが、やがて納得したように頷いた。


そして、俺の左腕を組んで、自らの巨乳で挟み込んだ。


「て……天竜院先輩? な、何を?」

「? 【左腕が寂しい】という視線ではなかったのですか?」

あってたまるか。


「い、いや、この状況は、麗華さんとの関係で少しまずいのでどうにかならないのかぁという視線だったんですが……」

賢崎さんの前で言うのもどうかと思うが。

というか、なぜ俺のアイコンタクトは三村以外に通じないのだろうか。


「御心配なく、我が主。麗華様との恋路は、守護対象の一つ。全力で隠蔽する所存です」

「まだ隠蔽しなければいけないほどのことはしていないつもりではあるんですが……」

そういうことではなく。


「そもそも隠蔽しなければならないイベントの発生を防いで欲しいというか……。そういう方向性でお願いできればと思うんですが……」

「しかし、我が主。麗華様との間で何かあった時に、我が主の優秀な血統を残す方策は考えておく必要があります」

血統って……。


「賢崎さんであれば申し分ないかと。……というよりも、個人的には、麗華様より賢崎さんの方が良いのではないのかと思っております」

「な……なぜに!?」

「家柄はお二人とも申し分なく。それぞれ才色兼備でいらっしゃるのですが、麗華様はなんというか、人物的に少々面倒くさいので……」

な、なんということを……。


「天竜院先輩は、麗華さんの姉代わりみたいな存在でなかったんですか……?」

「今の私は、我が主の天竜以外の何物でもありません」

……忠誠心が重すぎる。

ほとんど俺が悪役である。


「さすがは、天竜院の最高傑作。澄空さんは素晴らしい天竜をお持ちですね」

見たことがないくらい嬉しそうな顔で賢崎さんが微笑んでくる。


盤石なんて思ったことはまるでないが、俺の恋路はなかなかに険しそうだった。

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