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BMP187  作者: ST
第六章
316/338

一閃の天竜

三村は早退した。

…………だからやめとけと言ったのに……。


「…………」

今は緋色先生の授業時間。

(※まあまあ危険ではあるが)緋色先生の授業を聞き流しながら、俺は物思いに耽っていた。


三村に結構な心のダメージを与えたのは間違いないが、俺の方はというと……。


「……」

正直、三村の血は普通に美味かった。

美女の生き血……なんていう言葉はあるが、イケメンの生き血でも全く問題がないことが判明した。

少しエリカの味に似ているだろうか。

蕩かした風が舌先から抜けていくような……、飽きが来そうにない味わいだった。


「……………………」

もちろんセカンドタンクも問題ない。今なら百鬼夜行ファンタジアが使えるはずだ。

「…………………………………………」

今回は血の持続時間の検証をしてみようか。

どのくらいまで百鬼夜行ファンタジアを使える状態を維持できるか。

2・3日持ってくれれば、凄く戦略の幅が広がる気がする。

「……………………………………………………………………………………」

あとは耐性の問題か。

何度も同じ血を吸うと、セカンドタンクが溜まりにくくなる問題。これがなければ、雪風君の苦労も少しは違っていたはずだ。

ただ……、もう一度吸うといってもどうしたものか?

エリカや三村は絶対無理だし。

天竜院先輩はたぶん吸わせてくれるだろうが、いざという時に取っておきたい。

若干、嫌な業務命令っぽくなるけど、土御門先輩……。


「ということで、この問題を解いてください、悠斗君」

「がいいとおも……はえっ!」

変な声が出た!

……油断した。この人が、授業に集中しない俺を見逃すはずがないというのに。


「……え、えーと」

ヤバイ。

分かる分からないの話ではなく、どこの問題を言っているのか、分からない。

……やむを得ん。


「すみません。ちょっとぼーっとしてて、どこの問題か分かりません」

取り繕っても仕方がない。こういう時は素直に謝った方がいい。

……たとえ、これをネタに意地悪されたとしても……。


「ここよ」

「!?」

Sらずに教えてくれた!?

そして、さらにヤバイ。

緋色先生が指し示す黒板の問題は、やはり予想通りに俺に解ける難易度ではなかった……。


「すみません、分かりません」

「……ではちゃんと聞いていて。悩みが深いのは分かるけど。分からないことを理解していないと、あとで麗華さんに聞くこともできないわよ」

「……はい、すみません」

おふざけ一切なしで、哲学っぽいことを言われて、俺は恐縮するしかなかった。

緋色先生がSっけを封印するくらい、今の俺には余裕がなく見えるんだろう。

正直、恥ずかしくて、穴があったら入りたいほどだった。


「……え?」

そんなことを思っていると、盛大に窓ガラスが割れる音がした。


反射的にそちらを向いた俺とクラスメイト(と緋色先生)の視線の先で、美しい髪と暴力的な胸を揺らしながら、窓ガラスを粉砕して教室に飛び込んでくる天竜院先輩の姿があった。


「え……」

飛び散ったガラスが天竜院先輩を彩り、まるで光の粒子を纏っているかのように見える。

……というか、ここ3階だったような……。


「命により推参いたしました、我が主」

……命してませんが。


「? 推参いたしましたが……?」

……それは分かるんだけど。


「……何かお困りではないですか?」

……うちの天竜が教室の窓ガラスを粉砕した以外には。特に……。


「「…………」」

おそらく天竜院先輩含め、誰一人として事態を把握できない時間が流れる。

緋色先生ですら、珍しくぽかんと口をあけて固まっていた。


「…………ふむ」

俺の身体に意識を集中させたまま、横目でクラスの様子を伺った天竜院先輩は、何かに納得したようにうなずいた。


「説明を申し上げます。我が主」

是非にお願いします。

「こちら、天竜院流36式:一閃竜となります」

天竜院先輩が指し示す俺の左手首に、うっすらと九尾の1本が巻き付いているのが見えてきた。


「あ……あれ?」

「不可視化した九尾で主の脈拍・体温等を読み取り、いざ主の身に危機が迫った時には、高速移動して駆け付ける天竜院の最も重要な技の一つです」

「そ、そうだったんですか……?」

い、一体、いつから……?


「……しかし、脈拍・体温等で判断するため、実際に主の身に何が起こっているか分からないという欠点があります」

「……致命的ではないですか?」

まさか、俺の緋色先生に回答できない焦りを読み取って推参したのか、この先輩?


「我が主への想いの深さ故、判定が甘めになっていることは否めません」

「いや、だいぶ甘いですよ!」

この判定で来られると、今月末までには、教室の窓が全てなくなっているような気がする!?


「御心配には及びません、我が主。何度か繰り返せば、脅威度の判定も精密化されていくはずです」

「……何度かは繰り返す必要があるのですね……」

やはり、窓ガラスがヤバイ。

「……希望して、学年を下げる制度があれば良かったのですが……」

「このクラスに在籍すれば、窓ガラスの心配はないでしょうけど」

さすがに無理である。


「しかし、ご安心ください、我が主」

(※なぜか)自信たっぷりに言い切って、天竜院先輩は、(※自分が破壊した)窓ガラスの方に歩いて行った。


「君は、難波幸人君だったか?」

「は、はい!」

我がクラスの窓際、先ほど天竜院先輩にぶち抜かれた窓の一番近くの席の男子生徒に声をかける。


「聞いてのとおり、我が主から、一閃竜を一刻も早くものにせよとの命を受けた」

命してません。

「しかも、窓ガラスの損失を可能な限り抑える必要がある」

それはそうですが。


「分かります。天竜院先輩が一閃竜を使うときに、僕が窓ガラスを開ければいいんですね!?」

物分かり良さ過ぎやしませんか、難波君!


「うむ。一閃竜発動時に、少し九尾を光らせようと思う。戦闘職ではない君に頼むのは心苦しいが、君も幻影獣から人々を守るため、共に新月学園で学ぶ仲間だ。きっと、良いタイミングで窓ガラスを開けて、その損壊を防いでくれると信じている」

「お任せください! 僕がきっと、窓ガラスと天竜院先輩の名誉を守って見せます!」

「違うぞ、難波君。我が主の名誉だ」

…………叱った方がいいんだろうか。

とても、判断に迷う。


ただ、一閃竜は有用だ。

俺の戦闘力も、麗華さんと出会った当初とは比べ物にならないくらい高まっているが、例えば、出会い頭に動きを封じてくるような幻影獣がいるかもしれない。

いきなり狙撃されることもあるかもしれない。

そんな時に天竜院先輩が高速移動で駆け付けてくれるのはとてもありがたい。


やはり問題は窓ガラスか……。

俺が弁償するのは当然として、すぐに直せるようなものではないし、難波君に寒風吹きすさぶなか、授業を受けさせるのも……。


「緋色先生。窓ガラスは私に直させて欲しい」

「麗華さん!?」

「15分以内に対応してくれる業者を知っている。このクラスの授業に可能な限り影響が出ないようにしたい」

……めっちゃ有難い。


持つべきものは、お嬢様な恋人である。

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