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BMP187  作者: ST
第六章
315/336

悩み多きハンター達

「きっつー……」


ここは、栄えあるBMP管理局にある修練場。

その一室を使い、あるグループ……澄空悠斗と竜を名乗る五人の女子高生の訓練が終わったところだった。


「飲みますか?」

「ありがと、凛ちゃん……。というか、まだ余裕あるの、凄いね……」

「【土】ですから。持久力はそこそこ自信があります」

スポーツドリンクを差し出す土御門凛と、受け取る風間仁美が会話を交わす。


他の3人も、床にうつ伏せになって限界をアピールしている風間ほどではないが、疲労の色は隠せなかった。


「正直、ここまで力の差があるとは思わなかったわね……」

「BMP能力云々以前に、戦闘スキルに雲泥の差があったな……」

リーダーの火野了子と金森貴子が感想を交わす。


「あれで、本格的に訓練初めて1年経ってないとか、おかしくない……?」

スポーツドリンクをがぶ飲みしながら、風間が愚痴をこぼす。

「実戦経験の差でしょうね」

涼しい顔で応えるのは、土御門。

訓練で、澄空悠斗に手も足も出なかったのは彼女も同じだが。


「実戦経験なら、私達の方がはるかに多くない?」

「質が違いすぎますよ。Bランク幻影獣ともほとんど闘ったことのない私達と比べてどうするんですか……」

「そうだった……。今更ながらだけど、私達のご主人様、英雄過ぎるでしょ……」

Bランク幻影獣スカッド→Aランク幻影獣ガルア・テトラ→Bランク幻影獣クラブ→Aランク幻影獣レオ→小野倉太→ミーシャ・ラインアウト。

人類が100年かかって闘ってきた幻影獣以上の大物達を、1年足らずで撃破してきたのである。

唯一無二のサポートスキルを持つとはいえ、一介の女子高生ハンターとは経験値の次元が違って当然である。


「……ところで、彩音ちゃんはどうかしたの?」

風間が、さっきから一人でぶつぶつ言っている水鏡彩音に声をかける。


「…………(ぼそぼそと)」

「澄空様の様子が普段と違ってた? ……ああ、まぁ、スイッチ入るというか、戦闘時はあんな感じなんだねぇ……」

思い出して、身体を震わせる風間。


「透子様が『有難いです、我が主。私の訓練では、どうしても甘やかしてしまうもので』って言ってた時には、何言ってんのこの人、って思ったけど……」

普段が無害系だから油断していたが、Aランク幻影獣を滅ぼす能力者が、穏やかなだけな訳がないのである。


「そうだな。とても凛々しかった」

「り……!?」

金森の衝撃発言に、風間が絶句する。


「? 凛々しくなかったか?」

「アレを凛々しいと表現するのは……。貴子ちゃんの将来がちょっと心配……。DV夫とかに引っかかったりしちゃだめだよ……」

「なぜ、そうなる……?」

風間の心配は金森には通じなかったようである。


「凛ちゃんも、そう思うよね?」

「いえ、特には。あれだけの偉業を成したハンターなのですから、あれぐらいは普通だと思います」

「いや、アレが駄目と言ってるんじゃなくて……。彩音ちゃんは分かってくれる?」

「…………(ぼそぼそと)」

「え、素敵だった? 素敵だから思い出し笑いしてた? え、さっきぶつぶつ言ってたの、澄空様のセリフを再現してたの? ちょっと普通に、ちょっと引くんだけど?」

土御門と水鏡の賛同も得られず、混乱を加速させる風間。


「え、みんな、実はMより?」

「Mではないと思うけど……。私は気合が入ったかな?」

「あの視線を御褒美だと思っている時点でMだよ、リーダー!? 私は……、なんというか、もう少し甘やかしてくれる系のご主人様が好みというか……」

「別に、男性の好みの話はしていないんだけど……」


本人達は気づいていないようだが、最強のBMPハンターと訓練した直後に雑談で盛り上がれるような彼女らもまた、常軌を逸した強者たちなのである。


◇◆◇◆◇◆◇



……弱すぎる。


それが、正直な俺の感想だった。


Aランク幻影獣や超越ハンターたちと闘ってきたせいで、俺の実力がちょっと良く分からない次元にまで高まっていたのが、ようやく感覚として理解できた。

五竜の先輩方も、高校生としてはもちろん、BMPハンター全体でもかなりいいところに行くとは思うのだが……。


「約束の幻影獣を追いかける以上、たぶん俺は、闘う相手を選べないからなぁ……」

BランクどころかAランク幻影獣と闘う可能性が高い。

今のまま連れて行くのは、先輩方の身の危険があり過ぎる……。


「とはいえ……」

あのサポートスキルは貴重過ぎる。

……というより、これからの闘いは、あのサポートスキルがなければ勝てないようなものが増えてくるような気が、物凄くしている。

使い捨てにするような真似はしたくない。……というか、できない。


「人にものを教えるほど偉そうな立場じゃないけど……」

訓練するしかないか。


「……悩んでるな」

「へ?」

唐突に話しかけられる。

新月学園の机に突っ伏して頭を抱えていた俺を見下ろしていたのは、三村だった。


「……三村、顔色悪くないか?」

「ああ、最近、悩み過ぎて夜も眠れない……」

まじか。


「だが、俺の矮小な悩みなど、今や世界の英雄になったお前に聴かせるわけにはいかないけどな……」

「…………」

いや、俺で良ければ、聞きますよ?


◇◆


「悪いな、こんなところに呼び出して」

「いや……」

屋上に連れて来られた。


十中八九くだらない悩みだとは思うのだが、俺が麗華さんを押し倒そうとしたフェンスに手をかけて悩む三村は、腹立たしいほどに美形だった。


「実は、俺は最近、エリカと良く一緒に登下校をしたりしててな」

「ほう」

「遊びに行ったりもしてる」

「ふむ」

美男美女とはいえ、中身の魅力にだいぶ差があるから、良く頑張っていると思う。

……俺と麗華さんほど格差は酷くないが。


「そこで、エリカと剣が恋仲になった時の悩みを相談されることが増えてきたんだ」

「現在進行形で恋仲の俺に言われても困るんだが……」

性的志向うんぬん以前に、俺が麗華さんを譲る気が全くありませんので。


「……自分には関係ない話だと思っているだろ?」

「ないとまでは言わないが……。俺にアドバイスができる話ではないと思うけど」

そう言う俺に、三村がずずいっと顔を近づけてくる。


「できる。というか、おまえにしかできない」

「な、なぜ?」

「夜の生活に関する話だからだ」

「……付き合う前からそこを悩まなくても……」

というか、そんな相談をされるあたり、この男の【質問されスキル】はどうなっているのだろうか?


「知らないとは言わせないぞ」

ずずいっとさらに三村が顔を近づけてくるが、俺が知っている訳が……。



「エリカが吸血される快感に目覚めてしまったらしい」



俺は盛大に吹いた。

三村の顔に唾がかかったのは間違いないが、こやつはそれどころではないようだった。


「思いを寄せている女の子が性行為まがいのことをされて、とりあえず俺は暴走して賢崎さんか峰に制圧される流れだが、その辺は脳内で終わらせてきた」

「……す、素晴らしいスキルをお持ちで……」

みんながそのスキルを覚えれば、このストレス社会も、もう少し生きやすくなるに違いない。


「今の俺は、万が一、エリカとそういった雰囲気になった時に備えて、彼女を悦ばせることしか考えていないんだ」

「ま、前向きで大変すばらしいとは思います」

すさまじく俺の旗色が悪い。


「しかし、【吸血】なんて異次元の快楽に俺のテクニックで抗えるかどうか……」

「上条博士に診てもらうというのは……?」

「それは最後の手段だ。……その時は、もちろんおまえがエリカに勧めるんだぞ」

「はい……」

たとえ大義名分があっても、安易に女の子の首に吸い付いてはいけない。

……というか、土御門先輩にもやってたな。大丈夫だったんだろうか?


「敵を知り、己を知れば、百戦してあやうからず」

大昔の兵法書の一節を持ち出され、俺は凄まじく嫌な予感がした。


「俺を吸え」

いやであります。


「これしかないんだ! 俺が吸血の快感に対抗するためには!?」

「その前に、上条博士のところに行こう! 最後の手段の順番の入れ替えを!」

100年前じゃあるまいし、LGBTへの偏見など持っている人はまずいないが、俺が単純に快感に浸る三村を見たくない。

あと、麗華さんへの言い訳がまったく思いつかない。もう手遅れの感もあるが……。


「駄目だ! 俺が吸血スキルについて学ぶ方が先だ! 自分で知りもせずに、いきなり医療機関なんか勧められるか!?」

「ぐっ!」

ひ、非の打ち所のない正論を……。


「それとも、人の想い人に吸血しておいて、俺にはできないというのか?」

「ぐ!」

痛すぎるところを突かれた……。


「…………」

まぁ、良く考えればチャンスではある。

百鬼夜行ファンタジアは超強力なスキルだが、おいそれと試すことができない。

理由はどうあれ、自分から吸って欲しいというのだから、BMPハンターとしては検証するのが責務ではあるまいか。


「……わかった」

頷いて、三村の後ろに回る。

「待て」

が、制止された。


「なぜ後ろから?」

「……前からは嫌じゃないか?」

「後ろからもエロくないか?」

「…………」

「横からは?」

「吸いにくい」

「下からは?」

「……事案だぞ……?」

「上」

「どんな構図を思い描いてるんだ、お前は……?」

揃って頭を抱えるバカ二人。



色々話し合ったが、結局、後ろから行くことにした。

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