新体制説明会
「私が我が主の天竜となったために、面倒を見ることができなくなってしまいまして……」
「お、俺のせいですよね……?」
「いえ、元々いつまでも私が面倒を見るわけにはいかなかったのです。ただ、私が自己破門をしたことで、本家から借りて共同生活を送っていた家を出ていかざるを得なくなりまして」
やっぱり、俺のせいですやん。
「そんなおり、麗華様が『私達の隣の部屋が空いているから、そこに住めばいい』とおっしゃってくれたのです」
「…………」
麗華さん、いつの間にそんな気遣いができるようになったの?
……いや、それより。
「え? 隣の部屋に住んでるんですか?」
「空いてたから。……というより、最上階は、私達しか使ってないから」
……まぁ、貴方のおじいさまのマンションですものね。
「さらには、経済的に自立できるように雇用契約まで結んでくださいました。麗華様には、本当にどれだけ感謝してもしたりません」
と、リーダーの火野先輩。
「麗華様の指示の下で幻影獣討伐の補助をするという契約ですが、実際には、私とセットで運用していただければ、より効果を発揮すると考えます」
天竜院先輩が口を挟む。
セット運用ですか……。
「……分かります。彼女らの実力に不満があるのですね、我が主」
「は?」
「確かに、彼女らは、BMP能力値も高いとは言い難く、実戦経験も足りていない。もちろん、我が主と比較すればですが」
「いえ……」
そんなこと、言うてませんですが。
「おまけに五人そろってちょっと抜けています」
「…………」
それは少し否定できん。
「我が主や、麗華様。そして、私の闘いの役になど立つのか? と、お疑いになるのももっともだと思います」
「いや……」
だから、そんなことは思ってません。
ただ、セット運用という言葉が、最近三村がはまっているというソシャゲっぽいと思っただけで。
「彼女らは、余人には真似のできない特殊なスキルがあるのです」
「そうなんですか?」
それは初耳だな。
「まず、火野了子です」
天竜院先輩に言われて、火野先輩が一歩前に進み出る。
「彼女は、パーティの火力をあげることができます」
「はい?」
いきなり意味が分からない。
「分かります……、我が主。【パーティ】と言われても、何人までならいいのか、制限距離はあるのか、口頭の約束でパーティが成立するのか、正確な定義が分からないということですよね?」
「いや、それもそうなんですが……、そんなことより、もうその前に」
「はい」
「火力を上げるんですか?」
「火力を上げます」
「その場にいるだけで?」
「もちろん火野自身が起動する必要はありますが」
「どういう理屈で?」
「それはなんとも……。BMP能力ですので」
そう言われてしまうと、俺も自分の能力の説明などできないが。
「概念能力という訳でもないですが、非常に特殊なBMP能力です。サポートスキルなどと呼ばれていますね」
「…………」
やはりソシャゲっぽい。
三村は『サポートスキルがあるから、サブで輝くキャラもいるんだ』とか言っていたような……。
「本人に攻撃させる必要はないので、あまり近づけさせる必要はないのですが、離れすぎるとサポートスキルの効果範囲から外れるので、ほどほどの距離での運用を」
「いや、そもそも。そんな超貴重なスキルがあったら、もっと引っ張りだこになっているのでは?」
「火力を上げると言っても体感で10パーセントほど。無意味とまではいいませんが、戦術に組み込むほどの価値があるかは難しいところです。本人の戦闘能力が微妙なのも使い勝手を悪くしています」
「……申し訳ありません……」
うつむいてしまう火野先輩。
高校生のレベルでは微妙どころがトップクラスなのだが、このサポートスキルが生かせるような高難度バトルでは、厳しいのかもしれない。
「他の4人にも言えることですが、火神礼賛は進化の余地が大きいスキルです。本人の成長はもちろん、被増幅者のBMP能力の強度、そして、我が主への信頼度でその効果が劇的に変わると考えます」
「信頼度ですか……」
ますますソシャゲっぽくないですか?
「御指導をよろしくお願いいたします。澄空様」
「は、はい」
貴方の方が先輩ですが……。
「次は、風間仁美の風神飛翔ですね」
天竜院先輩に言われて、風間先輩が一歩進み出る。
「敏捷性・移動力の向上。サポートスキルの発動条件は、火野と同じ。……ですが、はっきり言ってじゃじゃ馬です」
「じゃ、じゃじゃ馬っすか?」
「風間のサポートスキルは効果の揺れ幅が大きすぎて、戦術に組み込むのはほぼ不可能です。アクティブなスキルの方はまだ制御が聞くのですが……。BMP能力としての特質の問題らしく、本人の努力でどうにもならないようなのです」
本人の努力でどうにもならないのなら、もう封印すべきではないでしょうか。
「しかし、我が主のお力であれば、必ずや実用段階に仕上がるものと信じております」
根拠がまるでないのに、信じるだけするのはやめていただきたい。
「よろしくお願いしますね、澄空様♪」
にっこり微笑む風間先輩。
風属性ということは、三村と同じ。……で、女性の先輩。
……この人も結構なんだかんだでやばい気がする。
「次は、土御門凛。BMP能力名は土神創造です」
進み出てくる土御門先輩を見ながらようやく気付く。
五竜のBMP能力は、アクティブスキルとサポートスキルがセットになっている。
アクティブスキルが、五竜自身が闘うための能力。火野先輩の炎や水鏡先輩の影の中を移動する能力だ。
そして、サポートスキルが、今、天竜院先輩が説明している方のとんでも能力。
二つの能力を使えるということなのか、一つの能力の表と裏の関係なのかは分からないが。
「サポートスキルは場の活性化。非常に解釈の広い使い方ができる能力です。麗華様の幻想剣に似ているかと」
それ、ラスボスじゃないですか?
「幾久しく。常に付き従うことを誓います」
「は、はい……」
ほんとに幾久しくしてくれるんですよね?
実は隠れボスだったりはしませんよね?
「澄空様?」
「あ、いえ、よろしくお願いします」
……春香さんほど『実はSUGEEE』アピールはないが、(※1/16ほど人間じゃなくなった今となっては無視もできない)第六感にビンビンくるものがある。
仲良くしておこう。いざという時のためにも。
「次は、金神英戦。金森貴子です」
天竜院先輩の合図で金森先輩が進み出る。
「サポートスキルはブースト。とはいえ、火野のようにリスクなしで火力を補強するスキルではありません。効果は大きいですが、その分、反動による疲労も大きいので、狙って戦術に組み込むのは難しいかもしれません」
戦術に組み込めるスキルが、なくないですか?
俺の心の動きを察したのか、優秀なる我が天竜は咳ばらいを一つして続ける。
「火神礼賛と重ねがけができるので、使いどころはあると思います。本人の生存能力と攻撃力も高いので、単体で運用するのも手かと
「タンクや囮などを指示していただければ、この身が果てるまで闘わせていただきます」
自信満々に本人は言うが、そんな使い方をすると、俺の胃の方が先に果てそうだ。
「では、最後は水鏡彩音ですね」
「……よ、よろしくお願いします(小声)」
びくびくしながら水鏡先輩が出てくる。
「水神抱擁。認識阻害を引き起こします」
「認識阻害? 同士討ちさせるとか?」
「そこまでいくことは稀でしょうが、確実に隙は作れます。攻撃に加わりさえしなければ、本人の生存能力が非常に高いので、迷ったら、水鏡を連れていくことをお勧めします」
……人権キャラ(by三村)というやつですか?
「……というより、特に支障がない限りは水鏡は連れ歩いていただきたいと思います。影に潜れるというアクティブスキルの性質上、一番最初に我が主の身代わりになれるのは彼女ですから」
「……が、頑張ります(小声)」
「……ありがとうございます……」
頑張らないで欲しい。
俺の身代わりになるとか、寝覚めが悪すぎる。
「いかがでしょうか、我が主。彼女たちはお力になれますでしょうか?」
天竜院先輩が聞いてくる。
正直、あまり一緒に戦いたくはない。
BMPハンターなんだから多少は仕方ないとはいえ、Aランク幻影獣クラスとの戦闘を想定した場合、五竜の先輩方自身があまりにも危険になり過ぎる。
……ただ、今から俺がやろうとしていることを考えた時に、先輩がたのスキルはあまりにも魅力的だ。先輩方自身の気持ちを抜きにしても、ぜひとも一緒に闘って欲しいとは思う。
死なせるわけにはいかない。
少しでもうまく闘えるように、連携を磨くしかない。
「……よろしくお願いします。一緒に闘ってください」
俺がそう言うと、五人の先輩方はほっとしたように心からの笑みを見せてくれた。




