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BMP187  作者: ST
第六章
313/338

天竜がいる生活

「では失礼しますね」

失礼されてしまった……。

……って。


「天竜院先輩! バスタオルはどうしました!?」

「? しておりませんが?」

してください!


「? 洗濯物が増えますので……?」

「…………」

そんなことくらい……と言おうとしたが、選択するのも天竜院先輩の役目になっていることを思い出す。


「し、しかし、裸というのは……」

「我が主。天竜とは主にとってペットのようなものです。ペットと裸でお風呂に入る時に、いちいち照れたりはしませんでしょう?」

こんなおわん型の胸をしたペットがいてたまるか!?


「…………」

お、落ち着け。

眼を閉じればいいだけだ(※たぶん)。


「…………」

だが、目を閉じる瞬間に焼き付いた光景が、瞼の裏から離れない。

天竜院先輩の胸が大きいのは、服の上からでも良く分かっていたが……。


「おわん型……」

思わず声が漏れた。

「? 幻影獣の種類ですか?」

貴方の胸の種類です。

……っていかん。素でセクハラ発言をしてしまった。


「…………」

天竜院先輩の髪が触れる。

蠱惑的で挑発的な香りが鼻を満たす。

そして、目を閉じているのに、なぜか感じる二つの膨らみの気配。

これはまじであかん。


「て……」

「ここ、確かに混じってますね……」

下腹部の近くでしゃべらないでください。

って……。


「混じってるって……。幻影獣が……?」

「はい」

「分かるんですか?」

「ほとんど溶け込んで分からなくなっていますが……。ここから幻影獣の腕を入れたんですよね? 少しだけ、幻影獣の残滓が残っています」

溶け込んだ、という言葉に、いまさらながらに恐怖を覚える。


「我が主。いかがいたしましたか?」

「い、いや……」

えーと……。


「その……気持ち悪くはないですか……?」

「??」

「あ、いや……」

心の底から『分からない』という雰囲気だったので、少し困る。


本当にいまさらではあるんだけど。

俺が主に相応しいかというよりも、もっともっと前の次元で。


「その……幻影獣が混じった人間が主で……大丈夫かなと……」

そういうと、天竜院先輩は少しだけ困った顔をしたのだと思う。


「その質問は、人に、『人間は退屈ではないですか?』と聞くようなものですが……」

「え?」

「あえて回答をお望みでしたら、お答えします」

俺は思わず目を開ける(※そして、慌てて閉じる)。


「最高の主にお仕えできて、私は幸せです。どうか、末永くお使いください。我が主」



◇◆◇◆◇◆◇



天竜院先輩に、心身ともに洗い流された翌日。


「朝です。お目覚めください、我が主」

我が天竜に優しく揺られて目が覚める。


俺は、休日は目覚ましをしていないので、平日よりは遅くなっていたのだとは思うのだが……。


「平日と同じ時間では……?」

「規則正しい生活は、健康と良き狩りの基本と考えます」

それはそうでしょうが。


「麗華さんもまだ起きてないだろうし……」

「麗華様は、もう起きてらっしゃいますよ」

へ?

「あの方には、必ず望む時間に起きられるという特技がありますので」

また、麗華さんの【地味だが凄まじく便利なパッシブスキルシリーズ】か……。


でも、麗華さん、確かに、『休日は自然に目が覚めるまで寝ようね』と言っていたと思うのだが……。


などと思いながら、ダイニングルームまで来ると、確かに麗華さんは起きていた。


テーブルの上では、色鮮やかな朝食達が食される時を待っており、その目の前には、優雅に珈琲を口に運ぶ超絶美少女。

見慣れた部屋が、まるで高級ホテルのスイートルームのように見えた(※実はもともと最高級マンションの最上階スイートだったりもするが)。


「麗華さん……?」

「やっぱり、とーこ姉、起こしちゃったんだね……」

起こしちゃったって……。


「麗華さん、休日は俺と同じくらいまで寝てたんじゃ……」

「悠斗君が起きる頃に部屋に帰って、それから出てきてた」

「な……なぜに……?」

「私が早く起きていると、悠斗君がゆっくり寝ていられないという推論を得たから」

「…………」

……ちょっとうるっと来た。

こんなに美少女なのに、なんでこんなにいい子なのだろうか。


……そして、こんな子が恋人なのに、美人先輩とお風呂に入る俺は、一体何なのだろうか?


「心配は無用だ、麗華様。朝寝ができなくても睡眠不足にならないように、快眠できるような環境を整えた上で、自然と早く寝床に付くように誘導した」

た……確かに、お風呂から出た後、メチャクチャ眠くなったけど……!?


「我が主の睡眠時間は、私が守る」

……こっちも凄くいい先輩だぁ……。

嬉しいんだけど……凄く嬉しいんだけど……。本当にこのままでいいか、かなり疑問があるな……。


「それはともかく、我が主。朝は和食派か洋食派か分からなかったので、とりあえず洋食にしてみたのですが、よろしかったでしょうか?」

「え、あ、はい。大丈夫です」

そんな派閥争いに加わるほど麗しい食生活をしてこなかったもので……。


そんなことを思いながら、着席し、ひときわ目を引くスクランブルエッグを口に運ぶ。


「……っ」

う、うまい。

けど、量が多いか……?

「味はもちろんですが、22式:葵花で読み取った主の体調を考慮し、栄養バランスも調整してあります。食べ過ぎるなどということはありませんので、ご安心ください」

「…………」

前言を半分撤回しよう。

和食と洋食の派閥争いには加わらないが、今から俺は天竜院派になろうと思う。


「こうやって、とーこ姉の料理を食べていると、昔に戻った気分になるね」

麗華さんが嬉しそうに言う。君が嬉しいと俺も普通に嬉しい。

「昔と同じではないぞ。今は、我が主が我が主だ」

風紀委員な美人先輩のくせに、舌足らずな文法は使わないで欲しい。

「分かってる。私はただの同居人なんだよね?」

「あとは、我が主の恋人だな。一応、護衛対象だ。……必要ないとは思うが」

「嬉しい」

ほんわかと微笑みながらパンを食べる麗華さんを見て、俺は物凄い罪悪感と違和感に襲われる。

どう考えても、麗華さんが天竜の主になっていた方が、絵的にも物語的にも妥当だと思うのに、どうして俺が主になってしまったのだろうか。

……いまからでも主コンバートはできないものか……。


「ん……」

そんなことを考えているとチャイムが鳴った。

「来たか。いいタイミングだ」

そう言って、天竜院先輩が、来客者を玄関まで迎えに行った。


帰ってきた時には、五人の竜を連れてきていた。


「ご機嫌麗しゅうございますか、澄空様?」

代表してあいさつしてきたのは、火野先輩である。

「リーダーの耳はいつでも綺麗にしているから、いつ突っ込んでも大丈夫ですよー」

いたずらっぽい表情なのは風間先輩。まだそのネタ引っ張りますか。

「こうして透子様の主の下で闘える日が来ることを大変うれしく思っています」

そして、ちょっと気になるセリフを言ってくるのは金森先輩。


「……俺のもとで闘うんですか?」

これ以上のハーレム要素は、例え三村に断罪されなくても、俺自身がちょっときつい。

「正確には、麗華様の下で闘うという契約書を締結しています」

俺の疑問に答える形でさらに疑問を増やしてくれたのは、五竜の裏エースっぽい土御門先輩。

いや、なぜ麗華さんと契約を?


「疑問には私がお答えします」

天竜院先輩が割り込んでくる。


「実はこの五人、天竜院の分家の中でもかなり孤立した存在でして」

「へ?」

「家を追い出され、行くところがなかったのを、私が面倒見ていたのです」

「そ、そんなハードな設定だったんですか?」

なんで、女子高生6人で共同生活していたのか、気にはなってたんだけど!?

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