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BMP187  作者: ST
第六章
310/338

鑑定の始まり

『天竜が澄空悠斗に下った?』

四方神(オンライン)会議の席上。

【南】の少女が、【西】の偉丈夫の報告に疑問を抱く。


『あの一族で未だに天竜の契約なんてしようとするのは、真竜の娘さんくらいだと思っていたけど?』

『その真竜だ。……天竜院透子が澄空悠斗の天竜になった』

苦虫を噛みつぶすような顔で【西】が言う。


『俺も問いたいのだがな。あの娘は誰にも従うことはないと、貴様のところの駄竜が言っていなかったか?』

『……とおっしゃっているが、そこんとこどうなの? 駄竜っち』

【西】に問われ、【東】の少年は、背後に控えている美しいメイドに声をかける。


『私が知っている人物の中では、妹が従うような人物はいないと申し上げたつもりでした』

『つまり?』

『澄空悠斗がそれ以上の人物だったということではないかと思います』

『だって、白っち。良かったじゃん、境界の勇者様が超大物で』

お手上げポーズをしながら、挑発するように【西】に回答を返す。


『分かっているのか、貴様……。いざというとき、澄空悠斗を暗殺するのが極めて難しくなったということだぞ』

『……それは聞き捨てならないな』

『……何?』

『澄空悠斗を殺すというなら、俺は先におまえを殺す』

【北】の当主代理が放った言葉に、会議が凍り付く。


『お、落ち着きなって黒っち。白っちはもしもの場合の話をしてんだろ』

『わかりづらかったか、青神。俺は澄空悠斗が最優先で、もしもの場合は、おまえら全員を殺す方を選ぶ、と言ったつもりだ』

『……まじ、黒っち。そういう系の人だったの……』

【東】の少年が絶句する。【北】の境界の勇者に対するスタンス……というより、黒神大地の素の感情を見たのが初めてだったのだ。


『まぁ、境界の勇者様を私達が手にかけるなんてことはできるはずもないし、無理な想定は口に出さないほうがいいわよ』

『そ、そだそだ。うちの駄竜が変なことを言ったせいで微妙な空気になっちまったぜ。……ほら謝れ駄竜』

『……申し訳ありません』

【南】の少女に続き、【東】の少年は美しいメイドの頭を押さえつけて謝らせる。

『……分かった。すまんな、失言だった』

完全に納得している感じではないが、【西】も頭を下げた。


『なんにせよ、主人公の復活は望ましい限りだ。俺としては、そろそろ鑑定を始めてもいいと思っている』

【西】の真意など歯牙にもかけない態度で、【北】の男は宣言した。

『……もう少し様子を見たほうが良くはないか?』

『不測の事態を心配していたのはお前だろう、白神。せっかくだから、一番手を務めたらどうだ?』

『な……』

【西】が狼狽する。

理由は不明だが、明らかに、鑑定を務めることを嫌がっている。


『まぁまぁ、黒っち。白っちも謝ってるんだし、これ以上責めなくても良くねいかい?』

『別に責めているつもりはないが。だったら、お前が行くか?』

『んー。まぁ、一番手は四天王で最弱、的なシチュだし、俺が行くのもやぶさかではねぇですがね……』

そう言って、【東】はわざとらしくため息を付いて、背後のメイドに視線を移す。

『はい、我が主。現在、青神グループの経営は正念場を迎えており、長時間経営を離れるのは危険だと思われます』

『そうは言っても、鑑定は神一族のみならず、人類の未来を決める重大業務だ。俺が身体を張るべき時ではないかね?』

すさまじくわざとらしい【東】の少年。

『我が主は、人類だけでなく、青神グループ全社員に責任を持つ立場でいらっしゃいます』

『それを言われると痛いぜ……』

『『ああ、せめて、ほんのわずかな融資があれば、この難局を乗り切れるものを……!』』

ハモる【東】の二人。


『……もういい。いくら欲しいんだ』

いきなり【西】が折れる。


『え、まじでいいの、白っち?』

『これが最後だ。貴様の能力になどまったく期待してはいないが、いいかげん、グループの経営くらいまともにしてみせろ』

『うー、そんなこと言っていつも助けてくれる白っちを愛してる。……ツンデレ?』

『……経営より鑑定はもっと大事だ。俺の不安を払拭して見せたなら、少し色を付けてやる。堕ちた竜とはいえ、仮にも天竜の姉に認められた男らしいところを少しは見せてみろ』

そう言い残して【西】はモニターから消えた。


『なんか白っち、めっちゃほっとしてなかった?』

『何かあるんでしょうね。鑑定は、それぞれの方位でやり方がまったく違うから……』

『犠牲を払うこともありえるかもな』

【北】が言う。


『黒っちは、俺らの犠牲なんて、興味ないんだよなぁ……』

『それは誤解だぞ、青神。澄空悠斗の優先順位が遥かに高いだけだ』

『わぁい(棒)』

【東】は四方神でも格下であり、【北】は他と比べても別格の存在だった。

四方神筆頭である当主はおろか、代理である目の前の男にすら逆らうことができない。


『まぁ、今の時点で犠牲が思いつかないなら、貴方は幸運な方位なのだと思いますよ』

『……ということは、赤っちも?』


『いえ。私たちは、もうたくさん払ってますから』


◇◆


「ふぃー」

通信が切れた後、東の青龍・青神幸也は、机に突っ伏して息を吐いた。

「緊張したぁー……」

その顔からは、軽薄で挑発的な色が完全に消えている。


「でも、力也さんから融資を引き出せたし、とりあえずは成功だよね」

後ろに控える美しいメイドを振り返る。


「何が成功なの?」

だが、さきほどまでの従順さとは打って変わって、呆れたような声が返ってきた。


「え、だ、駄目だった……?」

「『ほら謝れ駄竜』のところは、私の胸倉をつかみ上げなさいと言ったわよね?」

「そ、そうだけど……」

「あと、胸を揉みながら、『ったく、優秀な妹と似てんのはこの下品な胸だけかよ』と言う予定だったわよね?」

「そ、そんなこと、できないよ、やっぱり……」

幸也はうつむいてしまう。


「あのね、幸也」

青神のメイド、天竜院遥は、ため息を付きながら告げる。


「青龍は、四方神最弱なの」

「そ、それはそうだけど」

「四方神としての格だけじゃないわ。組織力、経営基盤、あと当主の経験・力量、すべてにおいて、明らかな最下位なのよ」

「そ、それも、間違いないけど」

「その当人が気弱キャラなんて、舐められて終わりよ。軽薄に煽りまくりながら、いざというときには何をするか分からない狂気を見せておくのよ」

「キャラ設定的に、凄く厳しいんだけど……」

「融資をぶん捕れたじゃない」

「遥さんが居たからじゃないかな……」

「駄竜に何を期待してるのよ」

そうは言うものの、現状、他の三家が青龍に一目置いている理由のほぼすべてが、この美しいメイドの存在なのである。


「まぁ、いいわ。融資で急場はしのげるし、ちゃっちゃと鑑定しちゃいましょう」

「ちゃっちゃって……。やり方も良く分からないのに……」

「成功して世界が救われても、失敗して世界が滅んでも。結局、死ぬまでご飯は食べなくちゃならないし、会社は運営しないといけないんだから。さっさとやるべきことをやればいいのよ」

「ご、ごめん。僕は、なかなかそこまで開き直れないというか……。澄空悠斗さんと闘うの超怖いというか。剣麗華さんとは会いたくもないというか。天竜院透子さんまで悠斗さんに付いてしまって、もうどうしたらいいかというか」

確かに気の毒な状況ではある。

青龍には、遥と次元獣以外に、まともなBMP能力者がいないのである。


「妹は私がどうにかするから大丈夫よ」

「悠斗さんは?」

「それは、自分でどうにかするしかないわね」

実際そうなのだが、落ち込まずにはいられない幸也。


「まぁ、頑張りましょ、我が主」

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