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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
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伝えたいこと

何度目かの鍔迫り合いの後。

距離を取った麗華の左手首に九尾が巻き付いていた。


「っ……! これは……」

九尾は伸縮自在・変形自在なだけではなく、技に応じてその性質を変える。

今、麗華の手首に巻き付いている九尾からは、全く攻撃力を感じなかった。

この状況で想定される技は一つ。


「終式・極天光……」

思わず呟く麗華に、天竜院透子が頷く。

「いくら貴方でも、この技だけはかわせない」

「…………」

極天光は、九尾でロックオンした相手の傍に瞬間移動するだけなく、瞬間移動の終了と斬撃が【同時】であることに秘訣がある。

防御はともかく、基本的に回避や迎撃はできない。

それが分かっていたから、九尾のロックオンには気を配っていたのだが……。


「まさか、接近戦の最中にやられるなんて……」

天竜院透子にとって、剣術と九尾を両方同時に操るのは難しいのは知っている。

激しく剣を交えながらも、本当に本当に注意深く麗華の隙を伺っていたのだろう。

「やっぱり強い……よね」

たとえ本人が認めたところで、どうしても弱いなどと思えない。

ただ、もちろん、このまま負けるわけにもいかない。


(……悠斗君だったら、【時空系のBMP能力で瞬間移動中に干渉する】くらいやりそうだけど……)

麗華は知る由もないが、実はやっていたりする。


「…………」

息を鎮め。

どことなく透子に似た、居合のような構えを取る。


「迎撃する気なのか……?」

「…………」

まだ澄空悠斗にも見せていないが、ダインスレイブにはカウンターモードを設定できる。

瞬間移動の終端でもある左手首の九尾から、技の発動を感知し、瞬間移動の終了と同時に行われる斬撃のカウンターを取る。

澄空悠斗にすらできないだろうが、麗華には可能だと思えた。


「そうだな……。おそらくできるんだろう」

強者ならではの感覚で、透子も納得する。

剣麗華は常人を遥かに超えた感覚と反射神経を持つ超人である。

おそらく極天光のカウンターすら取れる。

誰よりも【強力な存在】。

だからこそ。


「良かった……。どうやら、ようやく私も貴方の役に立てそうだ」


万感の思いを込めたような独白の後。

麗華の左手首に巻き付いた九尾の反応を感じる。

瞬間移動すら超える速度で麗華の身体は感応し。

超高速の斬撃が。


空を斬った。


「え…………」

あまりの事態に麗華は唖然とする。

透子は一歩も動いていない。

斜め下から斬り上げたダインスレイブが完全に空振りをしていた。


(確かに、九尾に反応があったのに……!?)

事態を呑み込めない麗華の左手首が九尾に強く引っ張られる。


「え?」

抵抗できないまま透子に引き寄せられながら、ようやく麗華は悟る。


「84式:巻姫」

「まさか……極天光じゃない? とーこ姉がフェイント!?」

完全に予想外だった麗華だが、なんとか踏ん張る。


「フェイントくらい使うさ……」

天竜院透子は剣を構える。


「駆け引きもする。ブラフだって言う。裏だってかく……」

「う……」

「情に訴えたって構わない。命乞いだってしてもいい」

「あっ……」

あっさりと麗華の足が滑る。

激しい勢いで、天竜院透子の間合いに吸い寄せられていく。


「それが闘うということだ! それでも負けないのが強さだ! そうでないから私は弱いんだ! 貴方も……まだまだ強くないんだ!」

それだけはどうしても伝えたかったと。

麗華にも分かった。


(分かったよ、とーこ姉……)

為すすべなく引っ張られながらダインスレイブを消す。


(でも、強くないことと強くなろうとすることは両立するって……)

引っ張られながらフラガラックを召喚する。

そうすることで、完全に失敗したカウンターモードの術後硬直を無理やりに解除する。


(悠斗君なら言うと思う!)

84式:巻姫の引っ張る力に逆らうことなく、回転することで攻撃のスピードに転嫁する。


「麗華様……!」

天竜院透子が踏み込む。

麗華の方が一歩遅いのは分かった。

しかし、諦める理由にはならない。

【とーこ姉】が伝えようとしてくれたことに、今こそ、かつて彼女が一度だけ見せてくれた技で応える。


「天竜院流・8式:旋竜!」


◇◆


「薔薇が……燃えた?」

『裏新月祭観戦用VIPルーム』の一角。

賢崎藍華と向かい合って軽食をつまんでいた真行寺真理が、裏新月祭の様子を写すモニターを見ながら呟いた。


五竜の渾身の一撃を跳ね返したレーヴァテインの炎は、対戦相手の身体を焼くことはなかった。

澄空悠斗が、直前で攻撃をそらしたのだ。

それ自体は、とても彼らしいと思うのだが。


「でも……。当たってないのに、薔薇が燃えたよね……?」

真理の質問に、同じく唖然としている藍華もすぐには答えられない。

答えがあったのは、VIPルームのサービスとして行われていたアナウンスからだった。


『ろ、ろ……ローズブレイカー発動ーー!!』


「ローズブレイカー……? 確か【高威力のBMP能力を至近距離で使って、直接攻撃せずに薔薇デバイスを燃やすこと】だったっけ……?」

呟いた真理も思い出す。

でも確か……。


『でんせつ……伝説できちゃいました! 新月学園に数あるミッションの中でも、最難関クエストの一つ! かつて、あの【暴帝】城守蓮のみが成し遂げたという超高難度タスクを、われらが【魔帝】澄空悠斗が成し遂げちゃいましたーー!』


「ミッションなのか、クエストなのか、タスクなのか、わかんないんだけど……」

いまいち難易度が良く分かっていない真理にとっては、むしろ(なんで、あの実況の人、あんなにテンション高いんだろう?)ということの方が気になる。あと、実況は、生徒会副会長にして、学内アルバイトに精を出している櫃元彩夏さんです。


「…………っ」

だが、賢崎藍華はかなり難しい顔で唸っていた。

「賢崎さん?」

気になって、真理は聞く。


『しかも、女性への攻撃をあえて外す気配り付き! 格好いいです! さすが、戦闘中は二乗イケメンとか言われるだけあります! あ、普段はいまいちとか言っているわけではないので誤解なきよう!』

そして、実況は確かにうるさい。


「ローズブレイカーは、基本的に達成不可なんです……」

「へ?」

突然の説明に、真理が変な声を出す。


「その年の在籍者のうち、最高のBMP能力値に+1した実効BMP値の攻撃でなければ達成できない……。そういう設定です」

「え……」

「設定だけして達成できないことに価値がある……。BMP能力の研鑽に終わりはないとか、そういう感じの教訓のための伝統です……」

「え、でも……」

「【裏新月祭の途中にBMP能力値が上がる】とか、そういうことが起きる可能性はゼロじゃないんです。ただ、今回それが起きていないことは私が保証します……」

藍華の悩みは深い。


「原因の一つは容易に察しが着きます。おそらく、年度当初から設定値の更新をしていないんです。よって、澄空さんが転校してくる前の最高値……ソードウエポンのBMP172+1が設定値のままになっている……」

「え……。それっていいの?」

「いいわけがありません。賢崎一族とはいえ新月学園には簡単に口出しできませんが、今回はさすがに抗議させていただきます」

「っ……」

どう見ても女子高生とは思えない迫力に、真理は言葉を詰まらせる。


いやしかし。


「で、でも……。たとえ設定値が173だとしても、BMP172を劣化複写したレーヴァテインで達成できるの……?」

「さすがに鋭いですね……。まさにそこが問題なんです……。【劣化複写】のはずが、完全複写どころか、オリジナルの威力を超えている……。異常事態です」

パワーアップ自体は喜ばしいことだが、ここまでいくとそうも言っていられないようだ。


「ひょっとして、ゆうとっち。またなんかやっちゃった……?」

「ほぼ間違いなく。それも、かなり、世界の根幹にかかわりかねないことを……」

スケールが大き過ぎる。


「ディスティニーのブレイカーも結構なんですが、幼馴染の権限で、少しは自重するように伝えてもらえませんか……?」

「いやぁ……。そういうのは、現パートナーとか今の恋人の役目じゃないかなぁ……」


とりあえず、真行寺真理は、理不尽な責任を回避することとした。

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