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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
302/336

魔人の闘い ~五色の竜~

【戦況報告(紅6対白2)】


…………。

天竜院先輩がやばすぎる。


「三村と峰もやられたか……」

白組はたぶん、もう俺と麗華さんしか残ってない。


対して、紅組は6人。

天竜院先輩はともかくとして。


「まさか、五竜全員残ってないよな……」

「……まさかも何も、我々が透子様を置いて脱落するはずがないでしょう?」

「へ!?」

旧校舎の柱の陰から姿を現したのは、五竜のリーダー・火野了子先輩。

火属性であること以外、いまいちBMP能力が分かっていないが、今の俺なら1対1で後れを取ることは、そうそうないと思う、たぶん。


「正直な話をすると、君と麗華様を避ければ、生き残ることもそう難しいことではなかったよ。業腹だがな」

いかにもフラストレーションをためてらっしゃる顔で別の陰から現れたのは、金森貴子先輩。

ダメージディーラーっぽいこと以外、何も知らないが、話し方や雰囲気が天竜院先輩に似ている。

二対一だと、勝ち目は薄いか……?


「成績とかもうそんなものどっちでもいいからね。君を倒すためだけにベタオリで逃げまくってたのよ。ちなみに私、逃げるの大得意」

別の陰から現れたのは風間仁美先輩。

やはりBMP能力は不明で、しかもどこか油断がならない雰囲気がある。

何となく三村っぽいか……。しかも残念属性のない……。……いやそれ、結構な強敵では……?

なんにしても、三対一では勝ち目はないな。逃げるか。


「…………」

「…………」

『うう……怖いよぉ』という感じで別の陰から現れたのは、水鏡彩音先輩。

雪風君と違って、ただ単に無口なだけのようだが、劇の時に見た影を使う凄いBMP能力がある。

というか四対一。

薔薇デバイスルールの下では多対一の闘いは起こりにくいと聞いていたんですが、実行委員会の皆様、少し仕事をしてください。


「澄空悠斗の首さえ取れれば、全ての帳尻があって、お釣りも来ます。不本意だの恥ずかしいだのというのは、少々違うと思いますが」

最後に、別の柱の陰から現れたのは、土御門凛先輩。

めっちゃ美人というのと、防御能力が高いということ以外には何も分からないが。

……というか、五竜について、ほとんど何も知らないが。

五対一。

さすがに何らかの企みを感じざるを得ない。

不正かどうかは難しいところだが……。


まぁ、BMPハンターにとって不正かどうかはあまり意味がない。

基本、勝つか死かだ。本来は。


「…………」

等間隔で円を描くように包囲されている。

この状況を想定した訓練もしていると考えたほうがいいな。

出力差は歴然としていると思うが、一人でも撃ち漏らすと、こっちもやられる。

というか、それが目的か。

麗華さんなら『レーヴァテイン回転斬り』とかいう訳の分からない奥義で一掃できる可能性もあるが、俺にはそこまでの技術がない。


「…………」

というより、俺のBMP能力は全て研究されていると考えたほうがいいだろうな。

誰か一人が生き残って俺の胸の薔薇デバイスを奪えばいいというだけなら、この状況になった時点でほぼ勝負は決しているか……?

五竜が知らないBMP能力でもない限りは……。


「…………」

いや、あるし。

つい先ほど使えるようになったばかりのBMP能力が。

あまりにもタイミングが良すぎるが、恩恵を得る身としては、もちろん文句はない。


「…………」

アイズオブフォアサイトで勝ち筋を探る。

正面に水鏡先輩、右側に風間先輩、左側に金森先輩、背後に火野先輩。

正面が北だったかな……?

各々のイメージで考えると……四神相応だったか?

偶然やこだわりだけとも思えない。


「…………」

気になるのは土御門先輩。

この人だけ場所が一定しない。慎重に歩き回っている。

土……土ってなんだ?

中央の黄龍か……?

リーダーは火野先輩のはずだが……。


「…………」

何にしても隙間を抜けて囲いを突破しようとするのは論外。

一番対策されているに決まっている。

あえて誰かに突っ込んでアレをするしかないが、問題は誰に突っ込むか。

火野先輩と金森先輩はカウンターを喰らう可能性がある。

風間先輩と水鏡先輩は逃げられそうな……。

土御門先輩が一番まっとうに防御してくれそうではあるが……。


「…………」

土御門先輩が遊撃なのか核なのか……?

安全策を取るなら外した方がいいような気がするが。

安全策を取って勝てるような状況でもなさそうだ。

というか、そんな状況の方が少ないような気がするのであって、別に『あえて相手の土俵で闘い完璧に勝つ、といったような美学』をこれまでもこれからも一秒たりとも持ったことも持つような予定もないことをご承知おきください賢崎さん。


…………やるか。


「ひっ……」

俺に睨みつけられて水鏡先輩が怯えたような声を上げる。

BMP能力はともかく気弱そうなこの人を狙うというのはそれなりにありえる選択だ。

陽動としては悪くない。


劣化複写イレギュラーコピー超加速システムアクセル!」

水鏡先輩を睨みつけたまま突然反転。

土御門先輩を狙って突進する。

猪突猛進オーバードライブ!」

青い光で覆われた拳を叩きつける。

「っ!」

が、あっさりと受け止められる。


「澄空悠斗ともあろう者が……。私が一番与し易いとでも思いましたか!?」

いや、逆です。

与されたり吹っ飛ばされたりすると都合が悪いんです。


「え?」

受け止められた手を掴み返して、土御門先輩の背後に回る。

他の四人が迫っている以上、俺が距離を取るものと思っていたんだろう。

簡単に背後を取れた。

首筋に歯をたて、一気に吸い上げる。

「は……あ、ああああ…………!?」

雪風君であれば、決して被吸血者に負担を強いるような真似はしない。

しかし、劣化複写イレギュラーコピーの本質は学習。

オリジナルをリスペクトし、その想いを理解してなお、自分の都合の良いように『調整』して習得する。

具体的に言うと、負荷を被吸血者側に押し付けることによって、戦闘中に補給可能なくらいの高速吸血が可能になる。

……ドヤ顔する気にはとてもなれないが。




「痴れ者が……っ!」

振り返った土御門先輩が、怒気と共に俺の胸倉をつかみ上げる。

そしてそのまま地面に叩きつける。

そのまま馬乗りになったところに、駆け付けてきていた他の四人もよってたかって俺の動きを封じ込める。

そして。


「取った……」

高々と俺の薔薇デバイスを掲げて喜ぶ火野先輩。

「信じらんない……。本当に勝っちゃった……?」

半信半疑の風間先輩。

「意表は付かれたが、さすがの澄空悠斗も手の打ちようがなかったか」

二重三重に策を弄していたためか、どこか不満げな、それでもほっとした様子の金森先輩。


「…………」

土御門先輩だけが、浮かない顔をしている。

「浮かない顔ね、凛」

リーダーの火野先輩が声をかける。

「さっき、何のBMP能力を使われたのかが気になりまして……」

「見ただけで複写できるから、使ったことがないけど使えるBMP能力も相当数ありそうだもんねぇ……」

風間先輩がやってられないというふうに手を上げる。

「毒とかではないと思うんです。状況的に精神支配系かなとも思うんですが、リーダーたちがすぐそこまで迫っていたのに、あまりにも悠長だった気がして……」

「実戦ならどうしたって勝ち目はなかっただろうがな。今日は薔薇デバイスさえ取ってしまえば勝ちだ。たとえ、この後、どんな罠が発動して、私達がどんな目に合おうとも、もうなんの問題もないさ」

土御門先輩に投げ飛ばされた衝撃で気を失ったままの俺を見下ろしながら、清々しいまでに潔いセリフの金森先輩だが。


残念ながら、問題はあったりする。



「「え……!?」」

五色の竜の疑問符が完全にハモる。

気を失って倒れ伏す俺の身体と、せっかくの想いでむしり取った薔薇デバイスが煙のように消えてしまったのだから無理もない。


「何……が……!?」

振り返った火野先輩と、少し離れた位置にいる俺の目が合う。


劣化複写イレギュラーコピー幻想剣イリュージョンソード、炎剣レーヴァテイン」

おもむろに炎の剣を召喚する。

程よい位置に5人が固まってくれている。

申し訳なさを覚えるくらい、完全に全員がレーヴァテインの効果範囲内だった。


「幻……術!?」

俺に吸い付かれた首筋を手で押さえて、土御門先輩が叫ぶ。

「まさか……、式雪風の、百鬼夜行ファンタジア……!?」

「うっそぉ……」

風間先輩と(無口な)水鏡先輩も驚きを隠せない。


使用可能であることを知らない相手に、このBMP能力はさすがに反則くさいが、相手もなんかやってそうだから、だいぶん良心の呵責は薄い感じである。


まぁ、そんな訳で。


「勝負は付きました。降参してください」

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