魔人の闘い ~全属性使い(オールマスター)~
「汎用装甲!」
俺が召喚した虹色の障壁が、春香さんの炎を防ぐ。
五帝の一人、盾帝・二雲楓から複写したこのBMP能力は、【攻撃された属性を帯びて、同化・吸収する】。
RPGの魔法属性などと同じで、少々出力差があってもたいていの攻撃は防ぐことができる。
春香さんのような属性がはっきりしている攻撃は特にやり易い。
……はずなのだが。
「…………っ」
防ぐことはできたものの、魂まで焼き焦がすかのような鮮やかな紅に染まった汎用装甲を見て、俺の背筋に戦慄が走る。
……一発でも防ぎ損ねたら終わる。
「……思っていたよりずっとやっかいなBMP能力ですね」
真顔に戻った春香さんが言う。
「元はこの学園の女子生徒から複写したと聞いてますけど……。そんなBMP能力が普通に発現するなんて、やっぱり終末標準が近いのかな?」
「?」
「まぁ、どうでもいいですけど」
言って、右手を掲げる。
「右手から超爆裂」
右手から炎が立ち上る。
そして、左手を掲げ……。
「え?」
「左手から大冷気」
「な!」
左手から、光り輝く粒子を纏った冷気が立ち上る。
「ほ……炎と冷気を同時に……!!」
未だ立ち上がれない火村先輩が声を上げる。
「そのBMP能力、二属性は同時に防げませんよね?」
か、考えたこともなかったが、たぶん!
というか、普通に二属性を同時に使う敵を想定してませんでした!
「こんな感じでしたか」
春香さんが両腕をクロスさせると、二色の力が交じり合うことなく、大蛇のように絡み合う。
「合わせて放ちます」
やばい。
「外式・神霊砕き」
アニキ、頼む!
《だから、急に言うんじゃねぇ!》
「汎用装甲!」
を、アイズオブゴールドの力を借りて【二つ】召喚する。
先に接地した炎の赤に染まった汎用装甲を冷気の青が貫通する。
だが、2枚目の汎用装甲が、その冷気を受け止めた。
「…………」
威力は半分になっているはずなんだが……。
春香さんの冷気に染まった汎用装甲を掲げているだけで、皮膚が凍傷になったかのようにピリピリする。
……三属性で来られたら、ヤバイぞ。
「確かにそれなら防げるでしょうけど、ぶっつけ本番で普通出来るかなぁ」
「え?」
「自分でできるかどうか分かってないんだから、私にできるかどうか分かるはずないんですよね……。いいなぁ、凄くいいなぁ」
春香さんが笑っている……?
「右足から暴風」
「こ……今度は何だよ!」
火村先輩の叫びは、俺の感想でもある。
衣服をなびかせながら、春香さんの右足付近からつむじ風が巻き上がる。
風はたちまち春香さんの身長の半分ほどもある球状の竜巻に成長した。
「その盾、攻撃は防げるでしょうけど、風で吹き飛ばされたりはしませんか?」
「……」
吹き飛ばされるかもしれない……。
「ここ3階でしたよね。悠斗様はともかく、指一本動かせない人が窓から投げ出されたりしたら、まずくないですか?」
春香さんの言う通り、おあつらえ向きに、俺の背後には大きな窓があり、横には指一本動かせない火村先輩が横たわっている。
「お、俺に構うな。今のうちにあいつを仕留めるんだ!」
いや、一応知り合いなんで仕留めてもまずいんですが。
「ダメージ無効化結界もあるし、案外大丈夫かもしれませんよ? 防御は諦めて反撃します?」
巨大な竜巻の球がふわっと浮き上がり、春香さんはボレーシュートの準備動作のような仕草をする。
蹴ってくるのか!?
「劣化複写! 右足から暴風!」
俺も竜巻の球を作り出す。
だが。
「うまくなくないですか、それ?」
春香さんの言う通り、劣化複写した竜巻の球は、春香さんの球の半分くらいの大きさしかない。
しかし、俺は構わず、シュート体勢を取る。
「? 分からない……」
疑問符を浮かべながらも軽やかに蹴り込んでくる春香さん。
負けじと俺も自らの球をボレーシュートする。
「……」
「……」
「……ま、マジか……」
火村先輩が呆然と呟く。
結論から言うと、俺も火村先輩も無事だった。
風弾の威力では、はっきりと負けていたが。
……横からぶつけて、軌道をそらせたのだ。
「BMPブレイバーズを読んでいて良かった……。強敵の攻撃は、横から力を加えてそらすのが作法らしいですよ……」
「し、正面から打ち合っているのに……!? 風弾がカーブを描いて、横からぶつかるなんて……」
「いや、俺もサッカーボールの要領でカーブがかけられるとは思いませんでした」
アウトサイドでボールの端をこするように蹴ってやったのだ。
実は俺は、体育の授業で、アウトサイドでカーブをかけると、まぁまぁ曲がっていたりする。
威力が全然ないので、ゴールできたことはなかったが……。
「ぷっ……」
ん?
「あ、あはは、あはは……」
え?
「サ……サッカーって! あの扱いの難しい風弾をサッカーボールって!?」
え、えと……!?
「凄い、凄いよ、悠斗様! 貴方の方がよっぽど怪物じゃないかぁ!」
春香さんの叫びと共に。
ずしんと、旧校舎が震えたような気がした。
「左足から烈震」
「ゆ……揺れてる……?」
俺は階段から春香さんを見上げている。
彼女が階段の上で廊下を踏みしめている左足を中心に、小刻みな振動が旧校舎全体に伝わっていく。
「地属性……!? 四属性って、あいつ、ほんとに何者だよ!!」
未だ身動き取れない火村先輩の悲鳴が響く。
四属性どころではない。俺も、俺がいないところで麗華さんも、これ以外の属性能力を見たことがある。
ただ、春香さんが何者かについて、つい最近思い出した記憶がある。
「改めての自己紹介が必要ですね」
旧校舎を崩壊させようとする左足の力はそのままに。
豪奢なドレスを纏っているかのような仕草で、春香さんが優雅に一礼する。
「私は全属性使い・式春香。式一族最後の当主にして、実力行使部隊のリーダー。そして、賢崎一族のごみ溜めから生まれた鬼子……」
自嘲にも憎しみにも聞こえる複雑な声音。
だが。
「でも今は……」
大きく両腕を広げ。
「賢崎一族が自信を持ってお勧めする……貴方の嫁候補です、悠斗様♪」