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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
293/336

天竜無双 ~銃剣士の牙~

乾いた金属音を立てて、飯田謙治の銃撃が天竜院透子の九尾に弾かれる。

予想はしていたが、実際に見てみると、やはり驚きだった。


「71式:天鎧か……」

BMP能力は知力・体力(※あとついでに容姿)に優れた者が多いが、それ自体は人間の限界を超えるものではない。

実際の銃と同じ速度の飯田謙治の銃撃を視認することなど、天竜院透子にも不可能なのである。

が、例えば『銃撃から身を守ると設定したBMP能力』であれば話は変わってくる。

能力者が視認できなくても、BMP能力が勝手に主を守る。


九尾による絶対防御で銃撃を弾きながら、抜刀した天竜院透子が近づいてくる。


「変われ、銃剣士シェイプシフト!」

二丁拳銃を合体させて剣に変え、飯田は透子に斬りかかる。

「帯刀している私に剣で挑むとは、見直したぞ」

「この剣は銃と同じくらいの時間振り続けている……! 澄空のなんちゃって剣と一緒にするな!」

笑いながら刀を振るう透子に、必死にくらいつく飯田。

剣術の全国大会にでも出れば余裕で上位に食い込む実力はあるが、天竜はそれよりさらに数段強い。


このままでは負ける。


銃剣士シェイプシフト!」

叫びながら、強く剣で斬りつける飯田。

透子がそれを刀で受け止めると同時に、剣が2丁拳銃に戻る。


「……ほぅ」

片方の拳銃は虚空に放り出されるが、もう片方の拳銃は飯田の手に残っている。

「喰らえ」

至近距離からの拳銃での銃撃。

が、その全てが九尾の【天鎧】に弾かれる。


「…………」

絶好の攻撃チャンスだが、透子は動かない。

その代わりに、また九尾が蠢き、側面からの射撃を弾く。


「な……?」

そう。

虚空に投げ出された方の拳銃に、予め銃撃するように設定しておいたのだ。

いくら【天鎧】の自動防御が完璧でも、まったく意図していない方向からの攻撃は防御できないと踏んだのだが……。


「あ……」

万策尽きた飯田の胸の薔薇デバイスを、容赦なく刀で切り捨てる透子。

……勝負はあった。


「負けたのか……」

あまりにもあっけなく五帝最強への扉が閉ざされてしまった飯田謙治。

いまさら前言を覆すつもりもなく、この後、五帝の座は新たな魔帝・澄空悠斗に譲るつもりではあるが……。


「BMP能力に完全な自律機動を設定するのは……。自分が想定しない攻撃を防御させるのは不可能だと思っていたんだが……」

そんなことが可能なら、学会の常識が変わるレベルなのだが。

「別に想定できないことはなかったぞ」

だが、透子はあっさり否定する。


銃剣士シェイプシフトが自動で銃撃できることを予想していたのか?」

「私にできるのだ。君にできないことはあるまい」

当然の如く言い放つ透子。


「そ……そういう話なのか……?」

「そもそも護衛稼業に想定外も何もない。常に全方位を警戒している。私の不意を突きたいのなら寝込みでも襲うことだ。……たいていすぐに起きるがな」

冗談を言っているつもりなのか、異次元のレベルの話をしながら、透子は柔らかく微笑んだ。

どう考えても、女子高生の思考ではない。


「天の竜か……。確かに人間が相手をするのは無理だな……」

「さすがにそれは持ち上げ過ぎだ」

そして、汗一つ書いていない天竜は告げる。


「銃剣士の牙、確かに堪能した。良ければ、また闘おう」


◇◆


【戦況報告(紅24対白23)】


「一気に数が減ったな……」

「……うん」

「剣と天竜院が狩りまくっているっぽいな。澄空はあまり激しく動いていないようだが……」

「うん」

並走して旧校舎を駆け抜ける男女の名は、火村直樹と雪藤薫子。

新月学園五帝の一人……というか一組、【炎帝氷姫】である。

呼称は強そうだが、要は二人まとめてでないと、今の五帝には値しないということである。


「ま……結局は、あの三人の勝負だろうからな。どう考えても白組が有利だろうけど、俺達も少しはいいところを見せとこうぜ」

【炎帝氷姫】とはいえ、薔薇デバイスのルール下にある以上、長い間行動を共にすることはできない。

火村直樹は、無口な相棒に軽く喝を入れて、離れようとするが……。


「……」

「……ん?」

雪藤薫子に袖を引かれて動きを止める。

薫子は、もともと雪のようにはかなげな雰囲気の美少女なのだが、良く見れば、今ははっきりと顔色が悪かった。


「具合が悪いのか?」

「そうじゃないんだけど……」

旧校舎の階段の踊り場で立ち止まって話し始める二人。


「私が、賢崎一族の実力行使部隊に居たことは覚えてる……?」

「もちろん。……というか、普通は忘れないぞ……?」

それだけエッジの効いた経歴を忘れる相棒は、まず相棒ではないと思われる。


「その時のリーダーが、今日の裏新月祭に出てる……」

「……式春香か……?」

彼女については真偽不明の噂を色々と聞くが、なにせ賢崎の秘蔵っ子である。

火村が詳しく知っているはずはなかった。


「強いのか?」

「強いのはもちろんなんだけど……。なんというか、ムラが凄かった……」

「ムラ……」

「日によって、やる気と……あと強さが全然違ってた」

「……そんなんで大丈夫なのか?」

「一番調子が悪い時でも、実力行使部隊の誰よりも強かったから……」

「…………」

生唾を呑み込む火村。

相棒として薫子の強さは良く知っている。

化け物ぞろいの今の世代でなければ、単独の五帝として……それもかなり強い方の五帝として認められていたはずだ。

そんな人間がゴロゴロしている実力行使部隊のリーダーを、ムラが凄いとかいう訳の分からない状態でこなすとは……。


「本気だったら、魔王でも倒しそうだな」

「……見たことがない」

緊張をほぐすための火村の冗談だったが、薫子は即座に否定した。


「調子のいい時は、人間とは思えない強さだったけど……。本気になったことだけは一度もなかったと断言できる」

「それはまた……凄いな……」

「そのリーダーが……、今日、見たことがない顔をしてた……」

はっきりと震え始める薫子。

ようやく火村にも、話が見えてきた。


「そんなに怖いなら、なんで棄権しなかったんだ……?」

「さっきリーダーの顔を見て気づいたから……。火村に伝えないといけないと思って……」

「雪藤……」

普段は塩対応の薫子だが、こういうデレがあるので、火村は大好きだったりする。

ここは頼りになるところを見せて、好感度を上げておかねばならない。


「大丈夫だ、雪藤。俺に式春香のことなんか分かるはずがないが、とんでもない人物にとんでもないやる気を出させそうな人物についてなら、新月学園生はみんな知っている」

「……澄空悠斗……」

「ああ」

澄空悠斗と式春香の関係性など全く知る由もない火村だが、ほぼ100パーセントの自信のある仮説だった。


「だからな……。かつてのリーダーについては澄空に任せておいて、俺たちはもう少し、BMP能力者ではあっても人間の枠を超えていないような相手と闘うようにすれば……」

「残念」

「「!?」」

突然、踊り場の上から聞こえてきた声に、火村と雪藤は、飛び上がるほど驚いた。


「悠斗様が本命なのは間違いないけど、他の人に用事がないわけでもないのよね」

噂をすれば影がさす。


「り……リーダー……」

顔面に蒼白になりながら怯えている雪藤薫子に対し。


「雪ちゃん、ハロハロー」

わざとらしいフランクな演技と、狂気すら感じる禍々しいプレッシャーと共に。



式春香が現れた。

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