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BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
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新たな課題

「そうか……。あくまで、弱いと言い張る訳だな」

固まっている(なんか感動しているようにも見えるけど、さすがに気のせいだろう)クラスメート達を尻目に、峰が続けてつっかかってくる。


「悪いけど」

「ならば、君が俺より強いということを証明すれば、君は俺と闘うという訳だな」

「……え?」

ええと。

そうなるのか?


「いいだろう。ならば俺は、俺が君より強いことを証明するために、君が俺より強いことを証明しよう!」

「…………」

あれ?

気のせいか。今のセリフ、なんか変じゃないか?


「では、今日はこの辺で。また改めて」

と、教室を出ていく峰。

というか、同じクラスなんだから。『また』も何もないと思うんだが。


……というか、もう休み時間終わるぞ?


「トイレか?」

「そんな訳あるか」

すかさず、三村のツッコミが入る。

そうだ。こいつに……。

聞いても駄目だな。


と、教室を見まわした俺と眼があったのは、委員長。


みつあみと眼鏡がチャーミングな、委員長属性を持つ委員長だ。

しかし、髪を下ろして眼鏡を取ると、新月学園新聞部記者『新條 文』となる。

こうなると、パーソナリティがマスコミになるので、話しかけるのは危険である。


でも、今は大丈夫だ。


「何? 澄空君」

「実は委員長に聞きたいことがあるんだ」

「何かしら?」

眼鏡を、クイと理知的な仕草で上げる委員長。

「さっきの峰との話の展開について、説明してくれ。俺には、理解できなかった」

「当事者に分からないのに、なんで私に分かるのよ?」

「その前に、おまえ。俺を見て『コイツに聞いても駄目だ』的な顔しなかったか」

いらんところで鋭い三村が、ツッコんで来る。


「ま、びっくりしたのは確かだけどな。峰とは中学の頃から一緒だったけど、あんなに取り乱してたのを見たのは初めてだ」

三村が妙なことを言う。

「取り乱してた?」

「ああ。分かんなかったか? あいつ、基本はクールっぽい熱血バカだから、あんなややこしい状態になったことはないと思うけどな」

三村は基本、弱ナンパ風味だが、時々俺には分からない言い回しをすることがある。

麗華さんが俺のことを、悠斗君は難しい、というのも、似たような感覚なんだろうか。


「私はなんとなく分かるわよ」

と、今度は委員長が口を挟む。

そういえば委員長。委員長モードの時でも、少し口調がフレンドリーになったな。

……いいことだ。


「みんな澄空君みたいに考えたことがないから、いきなり澄空ワールド喰らうとびっくりするのよ」

「どんなワールドだ……?」

返す俺。

と、クラスメートがみんな、うんうんと頷いていた。

え? みんなは分かるの?


「……ま、いいじゃないか。誰かが誰かより強いことを証明する手段なんて、実際にやりあう以外にないんだしさ」

三村が締めた。



◇◆◇◆◇◆◇



一方、その頃。


「うーん……」

アイズオブエメラルドこと、緋色香は難しい声を出していた。

右目の眼帯は外している。

剣麗華を診ている最中だった。


「どうかした?」

「麗華さん。ひょっとして、最近、BMP能力を使った?」

「いえ、使っていない。戦闘もなかったし」

「……そうね。だいたい、あなたくらいのBMP能力者なら、ちょっとくらい使っても影響はないはずだしね」

と、眼帯をかける緋色香。


「BMP過敏症が進行しているわ」

「? BMP能力を使っていないのに?」

「BMP能力自体がブラックボックスみたいなものだからね。BMP過敏症ともなると、どんな原因で進行するか、はっきりとは分かっていないの」

「私、死ぬの?」


まるで、事務処理した数字を読み上げるかのような口調の麗華。

事実、香のアイズオブエメラルドでも、感情の揺らぎは読み取れなかった。

悲しくもあるが、仕方がないことでもある。

187ものBMPを持ちながら、人並みの感情を維持している澄空悠斗の方が異質なのだ。

高BMP能力の代償。

香にとっても、他人事ではなかった。


「BMP能力を乱用しない限りは、さすがに死ぬことはないと思うけど。入院くらいは必要になるかも。復帰にも時間がかかるでしょうね」

「それは困る。そんなに長く、悠斗君を一人にしておけない」

「え?」

香は一瞬止まった。

今のセリフは?


「どうして、悠斗君を一人で放っておけないの?」

「どうして? 悠斗君の二重人格の件があるから、悠斗君を放っておくのは心配と、緋色先生も言っていた」

「そうだけど……。そうじゃなくて」

そう。そういう話ではない。

剣麗華に、澄空悠斗の覚醒時衝動を制御して欲しいと依頼したのも、彼にかけられた強力な精神プロテクトを監視してほしいと言ったのも、いわゆるBMPハンターの任務としてだ。

そして、BMPハンターは自分の命より任務を優先しないのが不文律。

この世界にとっては、幻影獣に対抗できるBMP能力者こそが、最も価値ある財産だからだ。

少なくとも、剣麗華は、その原則を忠実に守っていた。


(いや……)


単に香がそう思い込んでいただけで、いつの間にか、そうではなくなって来ていたのか?

だとすると。


「麗華さん。突然なんだけど、最近ストレスを感じてない?」

「ストレス?」

予想外の単語に驚く麗華。


『BMP過敏症は、不安定な精神状態の時に進行することもある』


それは知っていたが、剣麗華に限ってはと、選択肢から除外したのだ。

感情があるからこそのストレス。

麗華から帰ってきたのは、意外な言葉だった。


「ストレスかどうか分からないけど、困っていることはある」

「こ、困ってる!? 麗華さんが?」

衝撃の告白だった。


「え、ええと。それは、聞いてもいいのかしら?」


「別に問題ない」

剣麗華は、言い切った。



◇◆



「そんなことがあったの……」

昨夜の夕食時の一件を聞いた香は、呟いた。


事態としては概ね予想通りだった。

一般常識に欠けるところがある麗華が、相手を怒らせる発言をすることもあるだろうし。

澄空悠斗が、それを許すくらいの度量を持っているのは予想していた。

しかし、そのことを剣麗華が理解し、しかも真剣に謝ったとなると。


(悠斗君も、びっくりしたでしょうね……)

それは、もう、眼に浮かぶようだ。


「で、それがどうして、困ったこと、なの? もう話は決着したんでしょう」

「昨夜の件は確かに。でも」

「でも……」

「悠斗君を不快にさせずに会話をする方法が分からない」

「?」

????


「えーと、ちょっと待って。麗華さんが、昨日、うっかり両親のことを聞いてしまい、悠斗君に嫌な思いをさせてしまったことは分かったわ。でも、それがどうして、会話できないことになるの?」

「昨夜は意識せず悠斗君を不快にさせた。今後も同じことがないとは限らない」

「不安になるのも分かるけど、いくらなんでも、昨夜みたいなことは滅多に起こらないと思うわよ。たとえ起こったとしても、それを指摘してもらって、少しずつ直していくって約束をしたんでしょう?」

言いながら、香は心の中でガッツポーズをしていた。

その約束は、剣麗華が、一般人の感情を学ぼうとしている証ではないか!


「それは確かに。しかし、そこで私は考えた」

「何を?」

「では、悠斗君を快適にさせる話題とは何なのか?」

「は?」

香の顎が落ちる。


「単純な事務的な会話では意味がない。といって、下手に会話を盛り上げようと無意味な話題を振ると、昨夜みたいな事件が起こる可能性がある。とても難しい」

「そ、そうですか……」

と言いながら、香は心の中でお手上げポーズをしていた。


なんのことはない。

このモデル並みの完璧美少女は、要するに。

『悠斗君との会話をもっと盛り上げたい』

と言っているのだ。

思春期以前の悩みだ。

こども先生と(主に澄空悠斗に)言われながら、高校教師をしている自分とは良い意味で正反対な子だ。


それはともかく。


「たぶん、それよ。BMP過敏症が進行した原因は」

「……なるほど。これが、ストレス……」

感心したように言う麗華。


その様子を見ながら、香は思った。


(誰かしら、高BMP能力者が精神を病むなんて言ったのは)


それとも。


(剣さんも『特別』なのかしら)


なにはともあれ。



「次々と予測不可能なことばかり起こるから、感知系能力者の自信無くなってきたな。そろそろ引退しよっか」


冗談とはいえ、耳にすれば政府関係者が青くなるようなセリフを言うアイズオブエメラルドだった。

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