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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
286/336

捜索活動

・麗華さんが覚醒時衝動を起こしたのは、この俺……澄空悠斗と同時期。

・しかも、その時俺はたまたま首都に……麗華さんの近くにいた。

・天竜院先輩が知らないということは、それまで麗華さんが会ったことがない人物である可能性が高い。

・(重要→)俺も麗華さんも、その時の記憶がない。


つまり。

麗華さんが自ら覚醒時衝動を終了してしまうきっかけとなった男の子というのは……。


「俺じゃないかと思うんです」

「…………なるほど」

俺の推理に、城守さんはとりあえず頷いてくれた。


BMP管理局におしかけて、凄まじく忙しそうにしていた城守さんに無理を言って時間を取ってもらったので、的外れの推理でなくてよかった。


「その推理を天竜院さんに言う訳にはいかないんですか?」

「証拠と……あと記憶がないもので」

「状況証拠未満といったところですか……」

同情してくれる城守さん。

こじんまりとした会議室で差し向かいで話しているので、面談しているような感じでもある。


「なので、俺の過去の話をもう少し教えて欲しいかな……と。何かヒントがあるかもしれませんし……。あまり詳しいことは分かってないというのは聞いてるんですけど……」

というか、天竜院先輩のことがなくても知らなくてはいけないとは思っていた。

真理の時と同じ間違いを繰り返す訳にはいかないからな……。


「…………」

「……城守さん? あの、ほんとにちょっとしたことでもいいんですけど……?」

「……いえ」

なぜか、城守さんがとても気まずそうにしている?


「城守さん?」

「……すみません。『あまり』ではなく、『全く』分かっていないんです」

「…………?」

は?


「えーと……? あの首都橋の事件の時に、俺が乗っていたバスの便名が、未だに分かってないとか?」

「いえ、そういうレベルではなく……」

「まさか……、あの当時俺が通っていた小学校から首都に来たと思われる修学旅行等のスケジュールすら、まだ分かっていないとか?」

「いえ、そういうレベルでもなく……」

「ひょっとして……俺が通っていた小学校すら分かっていないとか……?」

「いえ、そういうレベルですらなく……」

いや、ちょっと待て!


「小学校が分からないことはないでしょう!? 実家が分かってるんですから!」

「…………通ってないんですよ」

「え?」

「あの実家近くの小学校に通っていた記録がありません」

え?


「ふ……不登校とか?」

「というか戸籍がありませんでした」

は?


「あの地区に……俺の戸籍がない?」

「……というより、この国にありませんでした」

は?


「え? 俺、無戸籍なんですか?」

「いえ、我々が作りましたから今はありますよ」

「……それ偽造と言わないですか?」

「職権修正と言ってください。我々は公的機関ですよ」

いや、公的機関なのは分かっているが。

そういう問題ではなく。


「俺、ひょっとして、人間じゃないんですか? あと、クローンとか……?」

まぁ、実際に1/16ほど幻影獣になってしまっているが。


「上条博士がしっかり調べましたからね……。間違いなく人間の両親から生まれたオリジナルの人間ですよ。ただ、その両親が誰かも分からない」

「でも、あの実家は……」

「あの家の登記簿にだけは悠斗君の名前があるんですよ……。でも、家を建てたはずの両親の名前が載っていない。家を建てた建設会社も不明です」

そんな馬鹿な……。


「ひょっとして、俺の過去って、国家レベルの何かに消されたのでは……?」

「我々が国家機関ですよ」

そうだった。


「国家機関が血眼になって調べても、あの家の登記簿以外、首都橋で発見されるまでの悠斗君の過去が一切見つからないのです。記録の改竄とかいうレベルではない。人間の仕業ではありません」

「……そ、それって」

「ええ」


そうだ。

俺達はそういう世界に生きている。


「ほぼ間違いなく……概念能力クラスのBMP能力です」



◇◆◇◆◇◆◇



天竜院家の別邸。

先日、天竜院透子と澄空悠斗が話をした和室の中で。

今度は、幻影獣が天竜と向かい合って座っていた。


「はじめまして……ではないか」

「新月学園で幻影獣が養護教諭などしていたのだからな……。おかげで風紀委員の面目は丸つぶれだ」

相手に合わせて正座をしているが、愛刀を片手に、今にも飛びかからんばかりの殺気を発しながら天竜院透子が答える。


「澄空君が仕留めそこなったというのは聞いていたが……、私に何の用だ?」

「その仕留めそこなった悠斗君へのお礼のつもりなんだけどね……。彼女さんの方には有無を言わさず瞬殺されそうになったから、余計にありがたみを感じるというか……」

「何を訳の分からないことを。澄空君への礼なら、澄空君のところへ行けばいいだろう?」

と言ったものの、少し考え直し。


「いや、やはり、ここで始末しておいた方がいいか……」

「和室に通してくれて、お茶まで出してくれた上で始末とか言われても……」

「貴様が水鏡を操っただけだろうが……」

言って、和室の隅で折り重なるように寝ている五竜の面々を見て嘆息する。


「元に戻してくれるんだろうな……」

「寝ているだけよ。特に何もしてないから」

「そうか……」

刀を手放す透子。


「貴様が消滅寸前まで追い詰められたとはとても信じられん……」

「本当よ。特に悠斗君にやられた方のダメージはどういう訳か全然治らないから、もう悪さができるほどの元気もないのよ」

「…………」

それだけでもなさそうだが、という言葉を透子は呑みこんだ。

相手は幻影獣だ。慣れ合う必要はない。


「用事は何だ?」

「勇者様に出された課題のヒントを伝えに」

「……? あの時、麗華様の心を変えた男の子のことを知っているとでもいうのか?」

「もちろん。……けど、それが誰かを伝えに来た訳じゃないわ」

「?」

透子が迷宮ラビリンスの言葉に引き寄せられる。


「貴方が『思い出す』ことが、まずは必要だから」

「何?」

「迷宮の突破方法には手順があるのよ。……まぁ、突破しないのならそれでもいいけど」

「迷宮はどうでもいいが……『思い出す』とはどういう意味だ? まさか、私が現場を目撃していたとでも言いたいのか?」

「そうよ」

「そ……」

あまりにも簡潔に返されて、言葉を詰まらせる透子。


「あの頃の貴方は、片時も離れずに麗華さんの傍にいた。『なのにどうして見たことがないのか』と思うから、出口から遠ざかる。もう一度よく考えてみて。確かに見ていたのに、意識が朦朧としていたようなことはなかった?」

「…………!」

何か思い当たることがあるかのように、透子が息をのむ。


「貴様の……仕業なのか?」

「全く無関係とは言わないけど、私ではないわよ。というか、それも覚えてない? 誰が貴方に邪魔をさせないようにしたか……」

「……一体、貴様は、何が目的なんだ……?」

「……さあ?」

迷宮の名を冠する幻影獣は、言う。


「正直、私にも分からなくなってきてる」

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