裏新月祭対策会議 ~天竜院透子~
『
○攻略対象No.6:天竜院透子
・クラス:ブレードウエポン
・BMP能力:極天光
・BMP:160
・タイプ:万能
賢:強いですね。
峰:今年の新月学園生はレベルが異常に高いとは言われているが、その中でも次元が違うな。
三:五帝最強であることはもちろん、個人的には、剣や賢崎さんを含めても、学園最強だと思ってる。
エ:なにカ、因縁ガあるンですカ?
三:俺にしては超珍しく、シリアス目の因縁がある。
澄:自分で、超珍しくとか言わなくても……。
剣:とりあえず、天竜にするためには闘って強さを認めさせることが最低条件だから頑張って。
』
ん?
今なんか違和感があったのだが……。
気のせいか?
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○攻略対象No.6:天竜院透子(再開)
賢:九尾は天竜院流の型と合わせて万能の能力ですが、やはり中間距離が強いです。ほぼ無敵と言っても良いかと。今回だけは、あえて相手の土俵で闘い完璧に勝つ、といったような美学は控えていただければと思います。
澄:そんな美学、一秒たりとも持った覚えはないですが。
峰:遠距離が一番いいんだろうが、裏新月祭のルール的に難しいからな。俺には不利だが、澄空なら接近戦もいけるし、可能性はあるだろう。
エ:デモ、天竜院先輩、帯剣してマセンか?
賢:九尾の使い手は、九尾が比較的苦手とする近接戦闘を補うために、剣術を修めるんですよ。彼女の場合、本人の力量はもちろん、使っているのが少々特別なディテクトアイテムでして、非常に厄介です。
峰:お、俺が、あんなに分かりやすいストロングポイントを見逃すとは……。遠距離での撃ち合いが難しいというところばかりに目が行ってしまった……。
三:そういうの脳筋って言うんだ、覚えておけ。
剣:何にしても一番大事なのはとーこ姉の気持ちだから。手順よりも心を掴むことが大事だよ。
』
…………。
「あの……、さっきから何を言っているんですか、ソードウエポン?」
「? 『澄空悠斗が天竜院透子を自分の天竜にするための方法』だけど?」
なんでやねん。
「自分の天竜って、まさか『天竜の契約』のことですか?」
「そう。いい機会だと思って」
賢崎さんが発する聞きなれない単語に、自信満々に答える麗華さん。
「今は、澄空さんが裏新月祭に勝ち残るための作戦会議をしていたはずですが……」
「弱小クラブ1個の存続と、悠斗君がとーこ姉を自分の天竜にするメリットとでは比べ物にならない。……意外と甘いね、ナックルウエポン」
「あ……甘いですと……」
賢崎さんと麗華さんが、俺のことで(※俺そっちのけで)プチ喧嘩を始めてしまった。
「……い、いいでしょう。ちょっと空気を読んだだけで、私が決して澄空さんにほだされて甘くなったわけではないことをお見せしましょう。以後、作戦会議の主題を『天竜院先輩を天竜とする方法』に変更します」
……マジですか?
『
○攻略対象No.6:天竜院透子(天竜とするために)
・天竜の抱える問題に回答を示す。
賢:天竜本人の意思とは別に、いくつか手順があるんですよね。
剣:そう。まずは、とーこ姉に悩みを打ち明けてもらって、主としての回答を示す必要がある。
三:あるかなぁ、あの人に……。
剣:悩みのない人なんていないと思うけど。ただ、それをとーこ姉に言わせるのは至難の業かもしれない。
本:どうスルんデスか?
賢:いつもみたいに口説くのが一番早いんじゃないでしょうか?
澄:いつも口説いてますか!?
賢:「俺は本命の超絶美少女がいるけど、それはそれとして、君の悩みにも寄り添いたい」的なことをいつもしてるじゃないですか?
澄:してましたっけ!?
賢:あれ、結構ムカつくんですよね……。本命がいるのはバレバレでも、正々堂々浮気相手にされた方がまだ男らしいと感じることもあるんです。主人公補正がなければ殴られてますよ。
峰:賢崎さん、何か怒ってないか? 俺には良く分からないんだが……。
三:そういうのも脳筋って言うんだ、覚えておけ。
』
…………。
ということで、俺が天竜院先輩と個人的に仲良くなる必要があるらしい。
ハードルが高すぎやしないだろうか?
『
○攻略対象No.6:天竜院透子(天竜とするために2)
・自分の目標を伝える。
賢:これは分かりやすいですね。天竜を下僕にしないといけないほどの大義と目的があることを表明するわけですね。
剣:悠斗君なら大丈夫だね。
本:結構難シイと思うンですケド……。
賢:大きなことを言わなくてもいいんですよ。「君の愚痴を聞きたい」とかいうささやかな目標で、どこぞの魔女を完全ノックアウトした猛者もいるみたいですし。
峰:け……賢崎さん、やっぱり怒ってないか……?
三:まぁ、これはレベルが高いから、分からなくても仕方ない。気にするな。
』
「…………」
目標と言われても……。
16分の1ほど人間を辞めたおかげで体調は改善しているし、BMPハンターは続けていくつもりだが。
そこに御大層な大義があるかと言われると……。
正直、約束の幻影獣を倒すなんてことは現状では現実味があるとは言えないし、『完全な麗華さん』に関しては、それを求めるかどうか自体が決心できてない。
こんな状況で目標を語ったところで、見透かされるのは目に見えていると思うのだが……。
『
○攻略対象No.6:天竜院透子(天竜とするために3)
・天竜が必要であることを伝える。
剣:天竜を必要とする理由とともに、「今、目の前にいる君じゃないと駄目」なことを伝える必要がある。
賢:いまさらですけど、ほとんどプロポーズですよね……。
本:恋人がイルのに、許さレル行為なんデショウか……?
伊:だから、現代ではほとんど行われてないんだろうね……。
三:ちなみに、天竜の契約の現場を見たものは必ず出世すると言われている。
峰:それは迷信じゃないか……?
』
「…………」
嫌な予感がする。
天竜院先輩を見事射止められるなどと欠片ほども思っていないが、麗華さんに求められてやってることなのに、やったとたんに麗華さんに怒られる未来が若干見える。
というか、天竜の契約とやらが(※俺だけ)いまいち良く分かっていないんだが、ここまでのリスクを冒してまでやるものなのか?
『
〇攻略対象No.6:天竜院透子(天竜とするために4)
・自分に従うことを求める。
賢:「俺に付いて来い」という訳ですね。
剣:なるべく強い言葉の方がいいらしいけど。
本:そレデ本人ノ印象を損ねタラ、元も子モありマセンね……。
伊:まさにプロポーズだね……。アニメみたいだ……
峰:というか、これ、本当に学園祭でやるのか……?
三:悠斗様、まじパネェぜ。
』
「…………」
やらないし。
というか、やること前提で話を進められても困る。
無理です。
「……まぁ、確率が高いとは思いませんが、失敗しても恥ずかしいくらいで、実害がある訳ではないし、お試しでやってみてもいいのではないでしょうか?」
俺の心情を察したらしい賢崎さんがフォローを入れてくれるが、俺のような庶民には『恥ずかしいという実害』があることもついでに理解して欲しい。
「大丈夫だよ、悠斗君。とーこ姉のことなら私が良く分かってる。悠斗君がとーこ姉を天竜にできるように全力でサポートする」
その期待がプレッシャーであることも、麗華さんはできたら理解してほしい。
「ちょっといいか?」
次は、三村が発言の許可を求めている。
これ以上追い詰められたら、敵前でもないのに敵前逃亡しそうだ……!!
『
〇攻略対象No.6:天竜院透子(やはり勝つために)
三:天竜院先輩を本気で天竜にするなら、まずは勝たないといけない。しかし、俺が見る限り、澄空が天竜院先輩に勝つためには、一つ、どうしても乗り越えなければならない壁がある。
』
いつになく真剣な表情で口を開く三村。
ただ、こいつの場合、表情と中身が基本的に一致していない。
「それは……へそだ!!」
ほらな。
「三村、熱でもあるのか?」
熱がなくても基本おかしいやつではあるが、熱のせいにしてやるのが優しさというものだろう。
「違う! いいから、まずはこれを見ろ!」
と三村が差し出してきたのは、天竜院先輩の全身が移ったスマートフォンの画像。
少し昔の姿に見えるが……。
戦闘中なのだろうか? 九尾を展開しているせいで、衣服が少しまくれあがっている。
「三村、盗撮は犯罪だぞ?」
「信じられないと思うし信じる必要もないが、この写真は本人了解済みだ」
……マジで?
いやでも確かに、カメラ目線のような……。
「さっき言ってた、シリアス目の因縁……?」
「今問題なのは、そこじゃないんだ、澄空」
そこじゃないらしい。
「天竜院先輩のお腹のあたりをよく見てみろ」
「……へそが見えているが」
九尾で制服がまくれあがって、へそが見えている。
あの九尾、物質は透過しないのか?
「そう! 天竜院先輩が九尾で戦闘する際には、へそが見える!」
「…………」
まさかとは思うが、こんなギャグを言うために、盗撮犯罪を疑われるリスクを冒してまで、きわどい写真を公開したのか?
「「…………」」
三村の(※方向性の良く分からない)強い覚悟に、賢崎さんを含め、皆一様に言葉を失っていた(※でも麗華さんは除く)。
「三村さん、私、三村さんのことは基本残念だと思っていますけど、そういうところは一周回って逆に評価してますよ」
とてもやさしい顔で言う賢崎さん。
「違うんだ、賢崎さん! これは男にしか分からない話なんだ!」
三村の心からの叫び。
「俺も分からないんだが……」
「脳筋はだまってろ!」
脳筋(※峰)には分からないらしい。
「僕もちょっとだけ分かるかなぁ」
「さすが伊集院先輩! 愛してます!」
(※伊集院)先輩のことは愛しているらしい。
「まぁ、私も分からないとは言わないですよ。優秀なBMPハンターを子づくりしていくために、私本人が未経験なだけで性の営みには理解がありますから。へそフェチはそんなに珍しいものではありません」
分かるんですが、賢崎さん!
「…………」
俺は……ちょっと分からないかなぁ。
「いいか! 澄空!」
三村に肩を掴まれた。
「あれだけ美人で巨乳な先輩に、強大な実力で命の危険を感じさせられている最中に、へそチラされるんだぞ! 男ならだいたい興奮するに決まってる!」
「そ……そうかなぁ……」
いくら美人で巨乳な先輩でも、命の危険を感じている最中に興奮したりはしないと思うんだが……。
しかも、乳や太ももならともかく、へそで……。
「今は、興奮したら、女性化するんだろ!」
「そ……それはそうなんだが……」
そんなことになると、恥ずかしいどころでは済まないが。
「悪いことは言わない。これで対策を練るんだ!」
そう言って、三村が満を持して取り出した雑誌には……。
【月刊へそ】
と書かれていた。