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BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
28/336

微妙な朝

あまりの出来事に。

俺の頭はフリーズした。


頭を下げたままの麗華さん。

なんとかギャグで、場の空気を変えようと頭をフル回転させるが、何も思い浮かばない俺。


沈黙を破ったのは、麗華さんだった。


「私は、自分が、悪い意味で普通でないことを知っている」

普段は、とらえどころのない瞳が。

「でも、私が今、悠斗君を不快にさせたことは分かる」

とても真摯な色を宿して俺を見つめている。

「同じことは、もう言わない」

整いすぎた顔立ちよりも。

「だから許してほしい」

今は、その瞳の色に見惚れている。


麗華さんは、確かに世間知らずなところもあるけど。

嘘は通じない。

そんな気がした。


だから。


「気にしてないよ」

「え?」

「自分でも驚くほど動揺したけど。麗華さんを不快に思ったりはしてない」

これは、本当だ。

「だから、麗華さんも気にしなくていいよ」

「悠斗君」

麗華さんが、ふっと力を抜く。

その緩んだ仕草に、どきりとした。


また、沈黙。

だが、今度の沈黙は不快ではなかった。


「悠斗君」

と、また、麗華さんが声を出す。

「ん?」

「お願いがある」

麗華さんの頼みなら、なんでも聞く。

マジで。


「私は、悠斗君に一切悪意を持っていない」

「え?」

「だから、もし、悠斗君を不快にさせたとしても、それは私の意図するところじゃない」

「は、はぁ」

「だから、そういう時は、指摘してほしい」

「し、指摘ですか……」

「怒ってくれても構わない。でも、愛想を尽かす前に、悪いところを教えてほしい」

「あ、ああ」

「そしたら、前にも言ったように、たいていのことは改善する用意がある」


麗華さんは表情が読みにくいけど。

この時、どれだけ真剣なのかは、いくら俺が馬鹿でも分かる。

だから。


「ああ、分かった」

と答えた。


でも、難しい話だ。

俺が、麗華さんに愛想を尽かすなんてことが起こりえるとは思えないからな。



◇◆◇◆◇◆◇



翌日。


突然だが、イメージに反して、麗華さんは別に無口ではない。

話しかければ無視されることはほとんどないし、麗華さんの方から話しかけてくることも珍しくない。

だが、今日は違った。


「麗華さん」

「なに」

「今日も暑くなりそうだね」

「最高気温は30度みたい。水分の補給には気を付けて」


という具合だ。

……別に普段と変わらないように見えるかもしれないが、微妙に違うのだ。

だいたい、麗華さんから話しかけてこない。

昨日の一件のせいかな、とも思うけど。

最後は、お互い納得したしな。


女の子は難しいな。

特に、麗華さんは。



◇◆◇◆◇◆◇



1限目が終わった後、麗華さんは、職員室に行った。

また、こども先生に診てもらうらしい。悪くなってなければいいけど。


それは、そうと。

俺にも、気がかりなことが一つあった。


「なぁ、澄空」

「分かってる」

珍しく心配そうな声の三村に返答する。

気がかりの元は、今日から新たにできたクラスメート。


峰 達哉。


といっても、転校生というわけではなく、もとからこのクラスにいたらしい。

入学してから、俺が編入してくれまでの間に、幻影獣との闘いで大怪我を負って入院していたらしい。

長身でがっしりした体格。

しかし、巨漢というイメージではなく、むしろ均整のとれた体つきをしている。

顔もいい。

三村のような今風のイケメンではないが、ストイックな男前といったところだろうか。

素直に格好いいと思う。


そういう男子高校生が。

どういう訳か、俺を睨んでいた。


睨むように、ではなく、睨んでいた。

まるで、軽い気持ちでちょっかいを出したが、逆に手ひどい反撃を受けて死ぬ思いをしたかのような睨み方だ。


「悠斗、正直に答えてくれ」

「なんだよ」

三村が真剣な顔で問うてくる。

こういう時は、だいたいずれたことを言うのが三村宗一という人間なので、あまり真剣に聞く気にはならないが。

「峰の姉妹か彼女に手を出したんじゃないだろうな?」

「……」

そういうことを言うから、弱ナンパ風味とか(俺に)言われるんだ。

「剣一人で十分だろうが。あいつ一人で、その辺の女の子の100人分くらいに匹敵するぞ」

「なにを馬鹿なことを……」

1000人分には、匹敵する。


それは、ともかく。

「言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいのにな……」

男相手に、気を使う必要もないだろうに。

と、思っていると。


「なら、言わせてもらおうか」


峰が近づいてきた。

え。今の聞こえたの?


「澄空 悠斗。単刀直入に言う」

峰が俺の机の前に立つ。

どうでもいいが、同級生にフルネームで呼ばれる機会はそうそうないだろうな。


「俺とストリートバトルをしてくれ!」

「…………え?」

今、何て言った?

「あの剣すら超えるBMP187の持ち主。しかも、覚醒すると同時にBランク幻影獣を倒した君と、是非とも闘ってみたい!」

「…………」

首相官邸で会った、あのごつい人といい、こいつといい……。

流行ってるのか、このノリ?


「君は、最近ストリートバトルを、……いや、BMPハンター訓練自体をあまり行っていないと聞く。強者にとって、一番の敵は、驕りだ。俺と闘おう。こういう言い方は好きではないが、これでもこの新月学園では、それなりの実力の持ち主だ。決して失望はさせない」

……その言い回しも、あの人と同じだな。

というか、BMPハンター訓練をしてないんじゃなくて、まだ素人すぎて、実践訓練に入れないだけなんだがな。

まして、ストリートバトルなんかは、論外なわけで。

その辺を、論理的かつ順序立てて説明しなければ。


「悪いけど遠慮するよ」

「! なぜだ。ひょっとして、今朝のことを怒っているのか!? ならば、謝る! もちろん不意打ちのつもりなんかはなかった。少し実力が見たかっただけだ。」

「……今朝?」

なんかあったっけ?

「それとも、俺の実力が不足か? それなら、失礼だが、俺を見くびっている。BMPハンターの強さは、BMP値だけでは測れない。たとえ及ばずとも、君にとって時間の無駄ではないはずだ」

「いや、逆・逆」

「逆?」

きょとんとする峰。


「まず間違いなく、お前の方が強いよ。それこそ、時間の無駄ってくらい」

「……ふざけないでくれ。BMP352の幻影獣を倒した君が、何を言う? 口実なら、もっとうまいのを選んだらどうだ? それとも、最強の澄空悠斗は、実は、一高校生のストリートバトルすら受けられない臆病者という評判がたってもいいのか?」

「全然、問題ない」

別に、最強じゃないし。


「な……」

驚く峰。

「というか、その方が真実に近いし」

「何を言っている。俺より弱い人間が、Bランク幻影獣を倒せるか!」

「俺一人で倒したわけじゃない。国家維持軍の人、新月学園のBMPハンター、それから、三村……はイマイチだったが、エリカ。それから……」

……麗華さん。の名前は、別に言わなくていいか。照れくさい。あの場にいた訳じゃないしな。

「俺は、最後に剣を振りおろしただけだ」

しかも、その剣も元は麗華さんのものだ。


と俺が言ったところで。


「澄空……」

「澄空君……」

「澄空さん……」

「悠斗さん……」


クラスメートが何やら、固まっている。

あれ、俺、またなんかやった?

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