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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
279/336

裏新月祭の報酬

今現在、我がクラスは、新月祭の出し物【澄空展】の準備の真っ最中だった。

……控えめに言う気は欠片もないが、控えめに言っても最悪の名称だと思う。


「……」

まぁ、名称は最悪だが、我がクラス自体は学年最上位学力のクラス。準備に問題は全く感じない。

展示かつ飲食店をするのだから普通に考えて2倍の手間がかかるのだが、手続きから飾り付けに至るまで、何も問題は感じなかった。

「……」

それはそうと……。


「? どうしたんだい、澄空君?」

「いや、何と言うか……」

俺は増田と差し向かいで、俺のこれまでの闘い等についてインタビューを受けているのだが……。

「俺が話せるようなことは、BMP管理局のホームページにも載っていると思うんだけど……」

準備の役に立たないから、体よく隔離されているという可能性もゼロではない……。


「事実は載っているよ。でも、その時、澄空君がどう考え、どう感じたか。そんなことは載っていないからね。それを聞けるのは同じクラスである僕らの特権さ。いつか、このインタビュー自体が歴史記録として重宝されるかもしれないよ」

「は、はぁ……」

ないと思うがなぁ……。


「それは、そうと……」

「ん?」

「やっぱり凄いよね、澄空君の闘いは。本当に物語の主人公みたいだよ」

「別に前線で闘う人間だけが偉いわけじゃないだろ」

「職業や役割の話じゃないよ。生き方が羨ましいんだ」

「?」

生き方?

「だから、みんな、君のことが好きなんだよ」


◇◆


「だからみんな君のことが好きらしいですよ」

「私に言われても……」

新月祭の準備の指揮をしながら澄空悠斗の様子を伺っていた賢崎藍華は、いきなり背後から話しかけられて嘆息する。

「学校にまで何をしにきたんですか、春……春香?」

「はい、春香ですが」

春香ではあったが、新月学園の制服に身を包んでいた。


「転校生になりました。お嬢様の一つ上の学年になるんですね。雪風は、このクラスに入れるつもりみたいですよ」

「……本家の指示ですか?」

「裏新月祭に参加するようにとのことでした」

「澄空さんは出場しないみたいですよ?」

「それは私のせいではありませんし」

と言ってから、少し期待の籠った目で悠斗を見る。


「でも、出るんじゃないですかね? あの人、庶民であると同時に主人公ですから」



◇◆◇◆◇◆◇



「どうも……」

「ああ、いらっしゃい」

恐る恐る部室をおとずれた俺を、伊集院先輩はにこやかに迎えてくれた。


先輩の好意に甘えつつ、本棚から『絶対無敵! BMPブレイバーズ』を取り出し、席について読み始める。


「それ好きなの?」

「はい。昔アニメで見てて……」

「ああ、アニメから入った方の人かぁ」

若干嬉しそうに話しながら、伊集院先輩はキーボードを叩いている。


「少し驚きました。原作では、ランページちゃんが主人公じゃなかったんですね」

「驚くよね。一応、主人公の彼もアニメの方に出てはいたんだけどね」

「……そうなんですか」

覚えていない。


「やたらと一般人であることを主張する癖に、イケメンで性格も良くて強くて、いかにもな感じの主人公なんだけどね。『おまえのどこが平凡なんだよ!』的な」

「は、はぁ……」

『やたらと一般人であることを主張する癖に、イケメンで性格も良くて強い』のが、いかにもな感じの主人公のトレンドらしい。

……あまり漫画とか読んだことがないから、漫画界の作法が良く分からないな。


「そういえば、今、何しているんですか?」

「ん? 新作ゲームのプログラミングだよ」

そういう伊集院先輩の指の動きは速い。

ブラインドタッチと言う奴だろうか。手元どころか、こちらを見たために画面から目を離しても、指の動きが止まらない。

賢崎さんみたいだ。


「廃部になるのに、ゲームを作るんですか?」

「プログラミング自体は家でもできるからね。むしろ、こんな立派な部室を使わせてもらっているのが贅沢なんだよ。まぁ、先輩方に申し訳ないと思う気持ちはあるし、新作発表がしにくくなるのはちょっと残念だけどね」

「ランキングを見る限り、結構やってる人いましたよね」

「ありがたい話だよ」

と、伊集院先輩はキーボードを叩く手を止めた。


「ありがたいと言えば、君にも礼が言いたかったんだ」

「俺に?」

まだ……というか、今後の予定含めて、この先輩には迷惑をかけた覚えしかない。

「君のような『境界の勇者』も漫画とかゲームを嗜むと知ることができたからね」

「?」

それがどうしたというんだろう?


「エンタメっていうのはね、必要性が分かりにくいんだ」

「え?」

「あると嬉しいけど、必須じゃない。特にこんな、幻影獣のせいで世界が滅びようとしている終末じゃ、ね」

「…………」

「でも終末だからこそ、こういったもので心を癒される人も多いんじゃないかと思うんだ」

「……確かに」

「って、僕みたいなおたくが言っても、何言ってんだよって感じだよね」

「おたく?」

一瞬疑問符を浮かべる俺。


「蔑称だよ。100年前からの」

いきなり部室に入ってきた三村が、俺の疑問に答えた。


「伊集院先輩のような人に蔑称を使わなければならない理由が分からないが……」

と俺が言うと、二人とも顔を見合わせた。

「……なんというか、君はとても人に好かれるタイプの人間なんだねぇ……」

「『無自覚系ジゴロ』とか『なんだおまえどこの漫画の主人公だ』とかはよく言われてますよ」

言われとらん。


「それはそうと、澄空に話があるんだ」

「ん?」

「実は、この部を存続させる方法が一つだけある」

「……麗華さんに聞いた」


そう。

裏新月祭による裏技。

『裏新月祭で最後まで残ったものは学校側に一つ要望をすることができる』。


「裏新月祭は2チームによる団体戦だからな。勝負がついた段階で残っている人数が多いと、要望がうまく折り合わないことが多いけど……」

「…………」

「裏新月祭には、風紀委員長が出る決まりになっている」

「なるほど……」


天竜院先輩が出るのなら……。


「天竜院先輩と逆のチームになれば、味方はほぼ全滅させてくれると思う。剣や賢崎さんが出なければだけど……」

出ないような気はするなぁ。

けど……。


「天竜院先輩は誰が倒すんだ?」

「そこなんだよ、澄空」

ずずずいっと、三村が迫ってくる。


「俺の頼みを聞いてくれそうなお人よしの中で、あの人に勝てそうなのはおまえくらいしかいないんだ!」

「なぜ、今、わざわざディスった?」

……まぁ、三村の交渉術の下手さはともかく。

つい最近、校門のとこで倒したばかりではある。

が……。


「無理かもしれないぞ……」

「た……闘ったこともないのに、何を言ってるんだ!?」

闘って、かつ、勝ったからの感想なんだが……。


「一応仮かつあまり認めたくないけど、境界の勇者様なんだろう!?」

「だから、なぜわざわざディスる?」

本当に頼みごとをしている自覚があるのか、こやつは?


「頼むよ。部としてじゃないと、『くーにゃんズ・ファンタジー』の新刊を校内で売りさばくことが不可能になるんだ……」

「むしろ、不可能になったほうが良くないか、それ……」

「需要のもっとも高い、『澄空×峰』本だぞ!」

「……ひょっとして、わざと俺が協力したくなくなる方向に持って行ってるのか?」

あるいは、『残念系』の方向性がさらなる進化を遂げたのかもしれん。


「あの……三村君。僕のために澄空君にそこまで迷惑をかけるのは……」

「違います伊集院先輩。『くーにゃんズ・ファンタジー』のためです」

……どうしてそれで俺が協力する気になると思うんだ?


「…………」

まぁ、三村のことはともかく……。


……どうしたものかなぁ……。

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