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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
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迷宮の入り口

ホームルームで残念な決定がなされた後に、俺は『ゲーム研究会』なる部室を探していた。

今朝、ぶつかって怪我をさせそうになった伊集院先輩がそこの所属らしい。

どこから探したものかと世間話感覚で三村と話していたら、いきなり答えを教えてくれたのだ。残念系ではあってもイケメンだけあって、妙に情報収集力の高い男である。


その道中、なぜか天竜院先輩の五竜の皆さんと出会った。


「澄空君」

と、リーダー格っぽい火野先輩が話しかけてくる。

「は、はい。何でしょう?」

かなり深刻な様子なので、緊張しながら聞き返す。

「君は……裏新月祭に出場するつもりなの?」

「?」

唐突な質問にハテナが浮かぶが、その時、ふとした考えが浮かんだ。

裏新月祭の実行委員は風紀委員が務めるのではないだろうか。

そして、裏新月祭の進行に影響を及ぼしそうな俺の出場意思を確かめに来たとか。

俺にしては察しが良すぎるので間違っているかもしれないが、とりあえず、その前提で話をしてみよう。


「いえ、俺は出場申請をしないつもりです」

と言った瞬間、火野先輩をはじめ、五竜の皆様がぱっと花が開いたように笑顔になった。

え、俺が出場すると、そんなに面倒なの?


「そ、そうよね! 境界の勇者は、学生のお遊びになんか興味ないわよね!?」

ずいっと、青っぽい人……風間先輩が迫ってくる。

「い、いえ、そういう訳では……」

「確かに確かに? お手本となるべき戦闘力をもったBMP能力者は率先して参加するべきだって意見もあるけど? 澄空君だってお年頃だもの。普通に学園祭を楽しんだらいけないことはないわよね!?」

「は……、はい」

ずずいっと迫ってくる圧力に抗しきれず、頷く。

俺はソウルキャストなんてできないが、この人たぶん風属性で間違いないと思う。


「分かったわ。教えてくれてありがとう」

火野先輩がそう言い残し、無口そうな黒っぽい人含め、五竜全員が満面の笑みを浮かべて去っていった。なんだったんだ?


残された謎に首を捻りつつも、とりあえず俺はゲーム研究会にたどり着くことができた。


扉を開ける。

するとそこには、探し求めていた伊集院先輩と、別に探してはいなかった三村が居た。

なぜか二人とも、この世の終わりのようなオーラを出しながら机に突っ伏している。


「あ、ほら、澄空来ましたよ……」

「あ、ほんとだ。澄空君、いらっしゃい……」

人生に絶望したかのような表情で歓迎してくれる伊集院先輩。


「えーと……。今朝のお詫びと、本当に体に異常がないか確かめに来たんですけど……」

「うん。ほらこの通り。あの時も言ったけど、全然大丈夫だよ……」

細身の身体で力こぶを作りながら、儚い笑顔を見せる伊集院先輩。

後から痛み出したということもないようだ。

かなり激しくぶつかったのにたいしたものである。

……が、何か別件で、精神の方がやられているらしい。


「というか、三村はここで何をしてるんだ?」

「俺はここの部員なんだよ……。伊集院先輩と違って、テストプレイ専門だけど……」

……ということらしい。どうりで伊集院先輩の所属部活を知っていたはずだ。

しかし、謎の多い男である。


「……何があったんだ?」

と聞くことでやっかいなことに巻き込まれそうな予感はかなりあったのだが、この流れで聞かない訳にもいかない。

「……廃部が決定した」

超特急だった。

「今さっき、風紀委員の人達が宣告に来たんだ……」

ひょっとして、さっき五竜と会ったの、ここの帰りか?

それにしても。


「何をやらかしたんだ……?」

「何もやってない」

「つまり実績がないってことだよ……。部室欲しがってる人はたくさんいるからね……」

……それはどうしようもない。

しかし、俺がこの部室を訪れた初日に廃部が決まるとは……。

(良くないほうの)運命的なものを感じないでもない。


「まぁ、新月祭が終わるまでは使ってもいいみたいだから……。せっかくだし、澄空君にもゲームをしてもらいたいな。漫画もあるよ」

廃部を免れるべく行動を開始する、的な展開ではないらしい。

……まぁ、今から新月祭が終わるまでに実績を作る方法など欠片も思いつかないが。


◇◆


「悠斗君。今日の小テストは良くできたみたいだね」

と、夕食時に、向かいに座る麗華さんが話しかけてきた。

雪風君が作った食事だからして、美味しい上に栄養満点で、しばらくは栄養不足で麗華さんの顔に吹き出物がでる心配をすることはなさそうだ(※現在までのところ出そうな雰囲気はまるでないが)。

功労者である雪風君は、俺の右側に座り、もくもくと食事をしている。

ちなみに左側に座る春香さんももくもくと食事をしている。何か思うことがあるのか、今日はずっと素の無表情だった。


「手ごたえはばっちりだよ。遅刻しなかったかいがあった」

「……そういえば、今日、遅刻しそうだったね」

「そうなんだよ! 大変でさ……」

と、校門での闘いを語ろうとして思いとどまる。

……やばい気がする。

濡れ透けな天竜院先輩のブラを見たり、それに包まれた胸の感触を感じながら保健室に運んだりといったこと自体もまずいが、天竜院先輩の敗北を伝えるのはまずい気がしたのだ。麗華さんが誰かに言うことは100パーセントないだろうが、麗華さんにだって知られたくないような気がする。

……そういう訳で、伊集院先輩とのことを言うことにした。こっちも大事には違いない。


「今日、悠斗君の帰りが遅かったのは、そのゲーム研究会に居たせいなんだね。楽しかったの?」

「俺、あんまりゲームとかできる環境じゃなかったから、市販品との比較とかはできないけど、普通に面白かったよ」

俺がさせてもらったのはシューティングゲームだった。

意外に校内であのゲームをやっている人間は多いらしく、リザルトのランキングは盛況だった。あれが実績になれば良かったんだろうけど……。

ちなみにランキング1位は【ファイブドラゴン】という人だったが、別格の点数を叩き出していた。相当やりこんだに違いない。


「でも、実績がなくて廃部になるらしい……」

「部室は常に足りてないから……。実績がないなら仕方がないかもしれない」

そういうものなんだろうな……。


「…………」

「悠斗君? どうかした?」

「あ、ああ、いや……。漫画がね……」

「漫画……?」

この人は俺とは逆の理由で漫画なんか読まなかったんだろうなぁ、とか思いつつ話を進める。

「『絶対無敵! BMPブレイバーズ』っていうアニメの原作漫画が、部室にあってさ……」

「?」

「その……」

言うべきでもないと思ったり、言わないべきでもないと思ったり迷いながら、結局言うことにする。

「げ……麗華さんのお母さんと、アニメの方、良く見てた……」

「そう……なんだ……」

さすがの麗華さんも一瞬、言葉に詰まる。

そして

「……私たちの関係って、何なんだろうね……」

しみじみと言う。


確かに不思議だ。

初めて会った時は、(命の危険を感じながらも)雲の上の美少女にしか見えなかったのに。

いつの間にか知り合いになって、友達になって、戦友になって。

今はかけがえのないパートナーであると同時に、暫定恋人になってしまった。

しかし、ただの奇跡と言うには、あまりにも過去の因縁が深すぎる。

俺はまだ月夜から全てを聞いていないんだと思う。


「悠斗君……?」

「麗華さん……」

何かあるんだ、麗華さんとの間には。

背徳福音ヴァイスゴスペルを抜きにしても、このままこれ以上関係を進めてもいいんだろうか……。


「? あ、これ、性交まで行く流れですか? 止めたほうがいいです?」

「……行かない流れだから大丈夫です」

心ここにあらずといった感じの極めて事務的な春香さんに、とりあえず行かない流れであることを回答する俺。

演技してたらしてたでやっかいだが、素は素でやりにくい人である。


「あ、今のは行かない流れだったんだ」

麗華さんも分かってなかった!

「難しいね……。合図とかあると分かりやすいんだけど」

そんなアイズがあるなら俺も知りたい。


「行く流れではないということは、つまり悠斗様は、『絶対無敵! BMPブレイバーズ』を読み終わるまではゲーム研究会に廃部になって欲しくないということですか?」

「いや、そういう感じでもないんだけど……」

不思議だ。春香さん、演技をしていた時の方が話が通じてた気がする。

「…………(うむうむと)【大丈夫です、悠斗様。ネットで売ってるかもしれません。僕探しておきます】」

「いや、そういう感じでもないんだ、雪風君」

彼とはますます意思疎通が円滑になるどころか、心の声まで聞こえてきたような気さえするが、とりあえずそういう感じではない。


「……良く分からないけど、廃部を免れる方法ならなくもないよ」

「おじい様に頼んで学園に圧力をかけるとか?」

「? してもいいの?」

「……駄目です。しないでください」

駄目だ。麗華さんにはどこまで冗談が通じるのかいまいち分かっていない。

通じなかった時に困るような冗談を言うのはやめよう。


「つまり、まっとうな手段で、ゲーム研究会を救う方法があるのか?」

「まっとうかどうかは難しい問題だけど……」

と、少し考えるような仕草をしてから。


「なくもないよ」

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