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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
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出し物決定の闇

『新月祭』に参加するにあたって、我がクラスにはしなければならないことがあった。

出し物決めである。


「ふ……」

控えめに言って、俺はとても楽しみだった。

こういう行事とか普通に大好きなのである。

新月学園に来るまではバイトが忙しくて心の底から楽しめず、新月学園に来てからは心を折りに来るかのような体育祭に苦しめられてきたが、『新月祭』は別だ。『裏新月祭』に参加申請しなければいいんだからな♪


「さて、それでは出し物を決めてしまいましょうか」

放課後のホームルームで、緋色先生が告げる。


「…………ふむ」

いきなり案を出すべきか。皆の動向を見極めるべきか。

というかそもそも何の案を出そう?

喫茶店? お化け屋敷? 少し地味だが、展示? 模擬裁判なんてのもやったことがあった気がするな……。

いや、学園二大美少女もいることだし、やはりここはオーソドックスに喫茶……


「『澄空悠斗を知る展示』がいいと思います」


「…………」

喫茶……。

…………。

……は?

今、何て言った?


奇天烈な案を発した発言者の方を見る。

発言者は増田祐一。

麗華さんと賢崎さんに次ぐ、クラス内学力第3位。

このクラスは基本的に(俺除いて)成績上位者が集まっているので、学年第3位と言っても過言ではない。

BMP能力は発現していないようだが、学力に加えて人柄も面倒見も良く、なかなかの好青年……というイメージだったのだが。

あまりの摩訶不思議な発案に、クラス全体から白い眼で……。


「いいね、それ!」

「私が言おうと思ってたのに!」

「澄空君は我が国の誇りであると同時に我がクラスの誇りだからな!」

「優れたBMP能力者の情報発信は、幻影獣に関わる者の責務でもあります。素晴らしい案ですね」

……白い眼で見られたりもしていなかった。あと最後のセリフは賢崎さんである。


「ふむ……意外に好評ね」

緋色先生が言う。

いや、ほんとに意外なんですが!

先生と初めて意見があった気がします。

「他に意見はないかしら?」

ない訳がないじゃないですか!

俺の展示なんて、誰が見たいと思うものですか。


「…………」

「他……と言われてもなぁ」

「……あれ以上の案はちょっと……」

「……いきなり本命出すとか、増田もわびさびを解さないよなぁ……」

「……でも、さすがと言わざるを得ないわね……」

対案がなかった!?

え、マジで! 本当にみんな、俺のことなんか知りたいの?

「……え、えと……」

麗華さんの方に向かって視線を送る。

麗華さんが俺の視線に気づく。


「…………(『ま、まずいよね、この流れ』という感じの視線を送る)」

「…………(『大丈夫。著作権関係や機密保持関係の問題にはナックルウエポンが対処すると思うから。もちろん私も手伝う』という感じの視線が返ってくる)」

「…………」

暫定恋人になったおかげか、前よりも、視線で意思疎通ができるようになった気がする。

しかし、全く役に立っていない。


峰……はあてにならないし、ここは三村に頼るしかない。

「…………」

三村が俺の視線に気づく。


「…………(『これはないよな、さすがに』的な視線を送る)」

「…………(『あろうがなかろうが、この空気で反対意見を言うのは無理だ』的な視線が返ってくる)」

「…………」

三村とのアイコンタクトの精度はますます冴えわたるが、やはり全く役には立たない。

残念系とはいえイケメンなだけあって、無駄にバランス感覚が良くていらっしゃる。

かくなる上は……!


「せ……先生! 俺も意見が……」

「あら悠斗君が『こども先生』と呼ばないなんて、よっぽど素晴らしい案があるのかしら」

いや、そんなに『こども先生』を連呼してはいないと思うんですが。

自業自得とはいえ、この流れでプレッシャーをかけられるのはきつい。

いくら対象人物とは言えこの流れで反対するのは難しいし、発案者である増田君の顔をつぶしてしまう危険もある。

が……さすがに俺の展示はないと思う、やっぱり。


「き……喫茶店はどうですか!?」

「普通ね」

分かってるんだよ、そんなことは!

色々と楽しみながら案を考えてたのに、思考をぶった切られたんだよ!?


「こ、このクラスには学園トップの見目麗しい女生徒もいることですし、オーソドックスに勝負しても勝算は高いと思うんです」

何と勝負するのかは全く分からないけど。

「何と勝負するのかは全く分からないけど、女生徒の価値を外見だけで判断するのはどうなのかしら? そんなことだから、こども先生、とか言ってしまうのではないですか?」

「け、けして外見だけで判断しているわけでは……」

あかん。自業自得とはいえ、普通に逆襲されている。

「だいたい学園トップの見目麗しい女生徒、が誰なのかを言わないと、案として不完全ではないですか?」

「誰なのかって、そんなの決まって……」

……決まってはいるが、名前を呼ぶのは恥ずかしい気がする。


「……え、えと、ほら。男性陣もなかなかのイケメンがそろってますし……」

「三村君と峰君のことはどうでもいいから」

……分かってるんじゃないか。

「ほらほら。ついでに、どっちの方がより見目麗しいか言ってくれると、先生もっとわくわくしちゃう」

……違う。これ逆襲じゃなく、Sの方だ。


「い、いや、ですからね……(と賢崎さんと麗華さんの方をちらっと見る)」

「…………(『別に私の方を言わなくてもいいんですよ。暫定恋人でもないですし』という視線が返ってくる)」

「…………(『私を呼ばなくても大丈夫。暫定恋人であるがゆえに、えこひいきできないのは分かってる』という視線が返ってくる)」

ともに死線を潜り抜けた3人のアイコンタクトは即興でもなかなかのものだが、問題解決の役には全く立たなかった。

「やっぱり、いいです。喫茶店は引っ込めま……」


「分かったよ、澄空君!」

敗北宣言をしようとしたところで、いきなり増田君が口を挟む。


「つまり見目麗しい美男美女に癒されながら、悠斗君の偉業をたたえる喫茶店。ということだね!」

違う。


「なるほど……そういう手があるのか」

「完璧に見えた第1案も、手を加えることでさらなる高みがあるのか」

「複写スキルマスターならではの視線ね……」

「勉強になるわぁ……」

違うのだが、もうどうにもなりそうになかった。


「では、我がクラスの出し物は『澄空悠斗の足跡を展示する喫茶店』ということで決まりね」

緋色先生の宣言と、一致団結したクラスの歓声を聞きながら。


もう俺の求める『普通』の文化祭は、どこをどう探してもないのだと知った。

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