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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
275/335

不敗の門番

新月学園は少々特殊な学園だからして、少々特殊な伝統や規則がわんさかある。

実際に死なないというだけで戦争並みに激しい体育祭などはその典型だろう。

そういった特殊な規則の一つに、『遅刻』に関するものがある。


登校時刻が過ぎれば校門が閉まり、以後遅刻となる。

ここまでは割と普通なのだが、この後、なぜか5分間の猶予がある。

校門が閉まっているから飛び越えるしかないのだが、この5分間の間に校門を飛び越えて敷地内に進入すれば、なんと遅刻にならない。


これは学園の慈悲などでは無論ない。

なんと、この5分間は(ただでさえ忙しいのに)新月学園風紀委員のメンバーが校門を守っているのだ。

新月学園風紀委員は、例年ほぼ例外なく武闘派だが、今年は五竜と呼ばれる特に(異常に)強いメンバーが在籍している。

そんな風紀委員が複数人で守る校門を5分以内に飛び越えなければならないのだ。

『遅刻は嫌だからちょっと悪あがきで挑戦してみる』程度の覚悟で挑むのは、あまりにも危険な挑戦である。


「…………」


複数人で守るといっても、日によってメンバーも人数も違う。

当然、難易度の低い日も存在する。

難易度のローテを覚える暇があったら、遅刻しないようにすればいいだけなので、門番ローテの情報は全くと言っていいほど出回っていないらしいが、ただ一点、絶対に避けなければならない日がある。

門番が一人の日だ。


「…………」


月に一度あるかないからしいが、新月学園風紀委員長が門番を務める際には、必ず一人で校門を守るという決まりらしい。

風紀委員長は例年確実に例外なく『寄るな危険』クラスの強者らしいが、今年は特にヤバイ。

言わずと知れた、五帝最強の剣帝・天竜院透子先輩なのだ。


「…………」


中身が超残念とはいえ、こちとら境界の勇者である。

一般風委委員ぐらいが相手なら、強行突破をするつもりだった。

俺はどうしても今日の小テストを受けたいのである。


「…………」


あの曲がり角を曲がれば、校門が見える。


「…………」


……分かっている。

さっきから五感にビンビン予感が走る。

朝からの一連の流れ、そして初の遅刻。

お約束が発動しそうな気配しかない。


「…………っくそ!」

覚悟を決めて、曲がり角を(一度止まって)曲がる。

しかしてそこには。


「…………だよなぁ」


歴史上の大物武将が、現代の美女に転生したかのような女子高生。

天竜院透子先輩が、校門の前に陣取っていた。


この5分間チャレンジはもともと成功率が低いが、天竜院先輩を破った挑戦者は当然のごとく皆無だった。

麗華さんクラスじゃないと厳しいと思われる。


ちなみに、完全遅刻まであと2分。


天竜院先輩が『どうするんだ?』という目で見てくる。

遠目にも分かる巨乳は吸い込まれるほど魅力的だが、腰に下げた刀には絶対に近づきたくない。


「…………」

相手はしょせん『学園最強』。

かたやこちらは、今や『境界の勇者』。

ではあるのだが、正直、勝てる気は全くしない。


しかし……。


「っく!」

麗華さんが遅くまで勉強を教えてくれて、「明日は悠斗君史上最高得点が取れるはず」と言ってくれたのに。

せっかく麗華さんに良いところを見せるチャンスがあるのに、挑みもせずに諦められるか!


天竜院先輩が、『うむ、よいだろう』といった感じで刀に手をかける。ヤバイ帰りたい。


「っ! い、劣化複写イレギュラーコピー俊足ライトステップ!」

半ばやけくそで天竜院先輩に突撃する。


強いのは見れば分かるのだが、実は俺は、天竜院先輩のBMP能力を知らない。

帯刀しているくらいだから接近戦に強いような気はするのだが、身体能力強化系とは限らないし、もちろん遠距離攻撃がないなんて保証はどこにもない。


麗華さんに聞けばすぐに分かったろうし、あれだけの有名人だ。誰に聞いたって……、それこそネットで調べたってすぐに分かっただろうに、俺は一度も調べたことがなかった。

こんな展開は予想できるはずもないが、4月に転校してきて、もう11月になるのに、なぜ一度たりとも気まぐれに調べようと思わなかったんだ、俺は!?


劣化複写イレギュラーコピー超加速システムアクセル!」

後悔していてもらちがあかないので、とりあえず超加速ジャンプをする。

中距離移動用の俊足ライトステップから、超加速システムアクセルへの切り替え。

二段階の速度変化に少しでも戸惑ってもらうことを期待しながら、超加速システムアクセルで空を舞う。

天竜院先輩から見て右側の上空を超加速状態で通過する。

完全に眼は付いてきているのだが、先輩は動きを見せない。

近接特化型で上空の敵には対応できない……んだといいなぁと思いつつ、このまま校門を越えることをただひたすらに願う。


すると……。


極天光オーロラカーテン

「なっ!」

天竜院先輩の背後……正確には腰のあたりから、複数本の光の帯が伸びてくる。

そのうちの一本が俺の身体に触れる。


「……?」

物凄い衝撃を予想して身体を強張らせてみたが、何の痛みもなかった。

が……。

「!?」

光の尾でつながった天竜院先輩の眼を見た瞬間、総毛立つような悪寒が全身に走る。

ヤ……ヤバイ……。

何がなんだか分からないが、下手すれば死ぬ。


劣化複写イレギュラーコピー捕食行動マンイーター!!」


天竜院先輩のBMP能力の正体も、これから繰り出されるであろう技の威力も分からないまま、ただ身を守りたい一心で、先輩とつながった光の帯上の一点に、四聖獣ガルア・テトラから複写した大口を召喚した。


◇◆


「い、いたたたた……」

校舎内に墜落した俺は、声に出しながら痛みに耐える。

ルーキーズマッチの際に賢崎さんに特訓してもらったことが生きている。ほぼ無意識だったが、なんと受け身に成功した。


それはともかく。

「抜けた……か?」

校門の方を見ながら時計を確認する。

5分間の猶予ギリギリ。確かに遅刻を回避できている。

「というか……助かったか……?」

俺の背後で誇らしげに口を閉じている捕食行動マンイーターを見ながら、声を出す。

苦し紛れに召喚したこやつは約に立たなかったようだが、とりあえず天竜院先輩に斬りつけられずに済んだらしい。


「しかし、天竜院先輩どこ行った?」

立ち去る姿を目撃していないんだが……。


[心配いりまへんでアニキ。あのけしからん乳のJKは、ワテがやりましたさかい]


「は?」

捕食行動マンイーターから声をかけられ、そちらを見る。

こいつ、喋れたのか……?

いや、そんなことより。


「や、やりました……とは?」


[アニキを守るために、JKとアニキの間に割って入って、ガプリと]


「が……がぷり……と」

そうだった。

確かに、俺と天竜院先輩を繋ぐ光の帯上にこいつを召喚した。

もし仮に例えば、天竜院先輩が突進系の技を繰り出していたとすれば……。


[ニッ]


「ニッじゃねぇ! 吐け! 吐き出せーー!!」

大慌てで自ら生み出した捕食行動マンイーターに詰め寄る。

やばすぎる。

こいつの仕様はいまいち良く分かっていないが、人間が生きていけない場所に繋がる可能性は十分にある。ガルア・テトラが二度と現れていないことを見ると、異世界に繋がっている可能性すら否定できない。

そんなところに放り込んだとなると、殺人と同義である。

BMPハンターが天竜を殺してどうする!?


「ええい! 口を開けろ! 俺が直接取り出しに……って、あれ?」

大口の唇に手をかけてこじ開けようとしたところで、捕食行動マンイーターは自ら口を開いた。

その奥歯にひっかかるような形で、気絶した天竜院先輩が居た。


[ワテは学のない田舎もんですけど、アニキの命令もなしに堅気に手を出すような無粋なもんではおまへんで]


「……殊勝な心掛けでなによりだ」

こいつにとっての『田舎』や『堅気』の定義は気になるが、天竜院先輩が無事なら、それが何よりだ。

しかし……メチャクチャべとべとしている。


「これ……大丈夫なのか?」


[ワテの唾液ですが、消化酵素的なものは含まれてまへん。ローションか何かだと思ってくらはりませ]


「害がないのはいいんだけど……」

天竜院先輩の制服が、塗れたり透けたりで大惨事である。

救出した俺の制服も塗れたり透けたりしており、この状況を誰かに目撃されれば、俺の評判が恐ろしいことになるのは明白だった。


[事後風ですな]


「やめてくれ」


[この物騒なJKを事後風にするあたり、アニキは凄いでんな]


「俺のせいじゃない……」

と言い切れないあたり辛い。


[なにはともあれ、ワテはお暇します。また、あんじょう、呼んでおくれやすーー]


言い残して、捕食行動マンイーターは消えていった。

会話(?)をしていたせいかもしれないが、役目を果たしてから消えるまでがかなり長かった。

レオに使った時には焦って気が付かなかったが、このBMP能力、ひょっとして消えるまでが凄く長い仕様で、そのせいでレオに逃げられたんじゃないか?


「う……ん……」

「ひっ」

意識を失ったまま呻く天竜院先輩の声に、俺は軽く悲鳴を上げる。


「……運ばないといけないよな……?」

制服が唾液(というかローション?)まみれのせいで、見事な乳房を包むブラが、はっきりと透けて見えている。

この状態の女性を放っておくのは最低だと思うが、この状態の女性を運んでいるところを誰かに見られると最低だと思われるような気がする。

……暫定恋人の麗華さんは分かってくれるだろうか……?


「くちゅん……」

「う……」

外見に似合わない(わけでもないけど)可愛らしいくしゃみを聞いて、俺は腹をくくる。


保健室に連れて行こう。

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