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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
273/336

慣れてはいけないものに慣れてしまうこともある

「月夜様の話は、それほど新しいものではありません。賢崎一族が把握しているのはもちろん、学会でも可能性が議論されていますし、それこそインターネットでも都市伝説として語られているような話です」

「は、はぁ……」

「ただ、月夜様が黒神の当主だったというのなら、話は別です。可能性の一つにしか過ぎなかった仮説が一気に現実味を帯びてきます。神一族が簡単に情報を漏らすとは思えませんが、大きく状況が動き出す可能性があります。それこそ世界が変わる……救われるかもしれないんです」

「は、はい……」

「その鍵である【約束の者】こそ悠斗様です。お話を聞く限り、月夜様に指名されたようなものなんですからね」

「それはどうかと……」

「【はじまりの幻影獣】を取り込んだのも良い判断でした。BMP187に相応しい継戦能力に加えて、人智を超えた反則級の権能が与えられるはずです。麗華様とすら互角に戦えるかもしれませんよ」

「それ、麗華さんが人智を超えているという意味ですよね。まったくもって否定しませんけど」

「しかし、弊害も出ているようです。通常では発動条件を満たせない複写済能力を使えるようになったのはいいのですが、さっそく一部暴走しています」

「早いですね……」

「悠斗様もうすうす気づいてはいたでしょうが、自動発動系のスキルは全て発動不可か、それに近い状態になっていました。単純に危険ですからね。その制限が壊れてしまった以上、今や劣化複写イレギュラーコピーは諸刃の刃です」

「で、ですよね……」

「幸い、背徳福音ヴァイスゴスペルについては、私は誰よりも詳しいです。必ず役に立つアドバイスができると思います」

「な……なるほど、良く分かりました」


◇◆


と。

以上が、メイド服に身を包んだ式春香氏が、俺が居候する麗華さんのマンションの一室にやってきた理由のようである。

せっかく麗華さんと暫定恋人になれたというのに、こんな規格外事項のバーゲンセールのような女性と住みたいわけはないが、背徳福音ヴァイスゴスペルという超絶不安要素がある以上、やむを得ない。


「悠斗様、どうかしましたか?」

「い……いえなんでも」

近い距離で覗き込まれて狼狽する。

性格……というか設定が無茶苦茶なだけで、変な演技さえしなければ、この人、美人なのは間違いないんだよなぁ……。

というか、今日あんまり演技してないよな?


「? まぁ、いいですけど。背徳福音ヴァイスゴスペルは、『相手の性別に合わせて、子孫を残せるように遺伝子ごと性別変換する』BMP能力です。どういった形で複写しているか分からない以上、まずはとにかく、これ以上発動させないことですね」

「具体的には」

「元々の仕様と、前回の感じからして、おそらく性的に興奮しないことでしょうか」

「…………」

性的に興奮してはいけないミッションの監視員に、巨乳美女を寄越してどうする……?


「なにか反対意見がありますか?」

「い、いえ、そんなことは……」

心読まれたかしらん。


それにしても……。


「春香さん。今日は演技をしないんですね?」

「へ……?」

「へ?」

春香さんの発言としては、凄い珍しい発音を聞いた気がする。


「…………」

何やら考え始めてしまった春香さん。

しばらくすると。


「悠斗様、お飲み物をお持ちしています」

と、オレンジジュースを掲げる春香さん。

「さっき持ってきてくれて、俺がすでに口を付けているからもちろん分かってますが?」

あと、今更だが、ここは俺の部屋である。


「あーれー」

わざとらしすぎる仕草で春香さんがオレンジジュースの入ったコップを離す。

「ちょっ! 何を!」

今更だが、この部屋は麗華さん(※のおじい様)のものである。

我が国が誇る鉄腕首相とは、いつ社会的・物理的に抹殺されてもおかしくない関係(特にこの間の屋上は致命的だったかもしれん)にある以上、小さなことでもこれ以上追及される点を作りたくない!

部屋にジュースをこぼすとか、駄目です!


ということで、大慌てでコップをキャッチしようとしたのだが……。


「……チョロイですねぇ、悠斗様」

「いや、これ酷くないですか!?」

オレンジジュース入りのコップは一滴たりとも中身をこぼすことなく、なぜかまた春香さんの手の中に納まってしまった。

ただ、俺が春香さんを押し倒すような格好になっている。

より正確には、春香さんにガードポジションを取られている。

凄い体術だ……。

とか感心している場合ではもちろんなく。


「演技をご所望でしたからしただけですのに……よよよ」

「いや、質問しただけで所望はしていないので、もう放してください」

両足でがっちり胴を挟まれている。

力づくで抜け出すわけにもいかないし、力づくで勝てないリスクも大いにある(身体能力強化系が使えるらしいからなぁ)。


「まぁまぁ。興奮してはいけないミッションにエロおっぱいが来たと心配している悠斗様を安心させてあげたいだけですから」

やっぱり心読まれてた!

いや、しかし。


「こ……この状態で何をどう安心しろと?」

「【違和感】を覚えるでしょう?」

「え?」

違和感?


「BMP能力のせいなのか、感情がないせいなのか、もともとこういう生き物なのか……。私を見るとみんな気分が悪くなるんですよね? 一般人なら、手を握ったりするとだいたい吐きますよ」

「…………」

「ですから」

と、ガードポジションはそのままに、春香さんが自分の胸に俺の顔を押し付けた!


「は……春香さん!?」

「前もこんなことしましたけど、あの時は抑えてたんですよ。今は全開の違和感があるはずです。いくらBMP能力者でもつらいでしょう? こんな状態で興奮するなんて無理のはずです」

「い、いや……」

「ほらほら。吐いてもいいんですよ?」

この状況で吐かれることを恐れないとは何たる勇気……いや狂気……。

いやそれはともかく。


「……」

「…………?」

「…………」

「…………悠斗様? 吐かないんですか?」

あ、大丈夫です。吐きませぬ。


「……というか、ひょっとしてちょっと興奮してますか?」

「…………」

そりゃ、これだけ大きくて柔らかければ、普通は興奮する。

いや、違和感がないわけじゃないんだ。腹のあたりにむずむずするような感覚はある。

が、眼前の美巨乳に反応できなくなるほどでもなく、むしろイタ気持ちいいというか。

若干Mに目覚めそうというか。

じょ……女性化してしまう……。


「…………違和感はどこに行ったんですか?」

胸から顔を引き離して(でもガードポジションはそのままに)春香さんが俺の眼を見ながら聞いてくる。

貴方の違和感の所在を俺に聞かれても……。


「…………」

これもはじまりの幻影獣を取り込んだ影響か。

いやでも、よくよく思い返してみると、初めに会った頃と比べると、だんだん違和感がなくなってきているような……。


「慣れたのかも……」

「な……慣れた……?」

感情がないはずの春香さんが絶句する。


「私がこのセリフを人に言う日がくるとは思えませんでしたが……。規格外の人ですね」

「そ……そうなんでしょうか……?」

気づいたら慣れていただけなので、褒められていても貶されていても、あまり実感はないですが。

「吐かないということは……私を抱けてしまうわけですね?」

「いや抱きませんよ?」

「まさか、この世界に私を犯せる男性がいるとは思いませんでした」

「いや、犯しませんからね!?」

「仕方ないですね……。私から仕掛けたことですし……。処女なので多少めんどくさいかもしれませんが、それでも良ければ」

「良かないので、放してください!!」

暴れて、何とかガードポジションから抜け出す。


息を荒げながら力づくでムリヤリ抜け出したが、春香さんは涼しい顔をしていた。


「吐き気もないのにこの美巨乳を襲わないとは……。悠斗様。麗華様と恋人生活をやっていけるんですか?」

「大丈夫です。ご心配なく」

むしろ暫定恋人生活を破綻させないために自制しております。


「しかし、困りましたね」

「これ以上、困りごとが増えるんでしょうか」

「悠斗様が私で興奮する以上、私は監視役として不適切ということになります」

「あ」

なんということでしょう。


「悠斗様。嬉しそうですね?」

「いや、そんなことは」

とても嬉しいです。


「いやほら。雪風君もいるし、大丈夫ですよ」

「雪風なんか、悠斗様に迫られたら、背徳福音ヴァイスゴスペルを完全発動させたうえで、3P要員になるだけじゃないですか」

メチャクチャいうな、この人。

「弟が妹になるくらいは構いませんが、敵前逃亡は美しくありません」

弟が妹になると大問題だと思いますが。


「やむを得ません。悠斗様を無駄に興奮させないように、しばらく変態行為は封印することにします」

「…………」

そのあまりにも当然の妥協案を勝ち取るために、俺は今日、何kcalを消費したのだろうか……。

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