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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
271/336

迷宮の休憩所

「疲れた……」

思わず声が出る。

身体はくたくただった。

しかし。

「…………」

あれだけの戦闘の後なのに、まだ余力がある。

本当に……。『変わった』んだな。


それほどの後悔はない。

もともとBMP能力者は人間離れしているし、もっと人間離れ級の知り合いが大量にいるし。

……なにより、また麗華さんに会える。

と思った時だった。


「? 麗華さん?」

が、屋上の入り口に立っている?


世界の秘密なんてものを持ち帰って目を覚まして。

幼馴染と拳……というかBMP能力で語り合って。

最後の四聖獣を撃退して。

そんな目覚めてからの波乱万丈の一日の中でも、一時たりとも頭から離れなかった超級の美少女が、いつも通りの無表情な目でこちらを見ている。


一瞬、幻覚かと思ったが。

まるで瞬間移動のようなスピードで軽やかに距離を詰めてきた麗華さんに、すぐさま我に返る。

「れ……ぶっ!」

強烈な衝撃を感じて、さきほどまでミーシャが寄りかかっていたフェンスに叩きつけられる。


フェンスに寄りかかったまま、恐る恐る見上げた麗華さんがビンタのフォロースルーの形を取っている事実に、さらなる衝撃を受ける。

「れ……れいかはん……?」

なんか呂律が回らないぞ。


「いきなり叩いたのは不作法だと思うけど……。謝るわけにはいかないから」

「や……やっはり……」

『叩いた』でいいんですよね!?

これまで温存していた正体不明の新スキルとかでなく!

ただのビンタでいいんですよね!?


レーヴァテイン召喚中なら身体能力が底上げされる。

が、もちろんそんなものは召喚していない。

俺を片手で縦に2回転させたのは、素の腕力ということだ。

「…………」

ありえない。

麗華さんの細腕を見ながら思う。

が、よくよく思い返してみれば、初めてホテルで会った時、いきなりドアを吹き飛ばしていたような……。


分からない。どうなってんだ、この人……。


「……悠斗君、……そんなに痛かった?」

「い……いひゃいというは……」

顎がしびれてて……。

あと、口の中がゴロゴロする。


「ぺっ……」

とゴロゴロする何かを吐き出す。

屋上の床にコロコロと転がるソレは、血がこびりついた俺の奥歯だった。

「…………」

折れとるやないか。


「い……痛かった……よね?」

「いひゃ、そんは……」

とっさに左手でガードしなければ、頚椎イッてた気がしますが。


「ご……ごめ……謝らないけど」

「?」

麗華さんが床に転がった俺の歯に手を伸ばす。

そして、それを自分の口に入れた。


「へ?」

コロコロと口の中で転がすように舐めて。

口から取り出した時には、歯から血が取り除かれていた。


「口、開けて」

「ひゃ、ひゃい」

おとなしく開けた俺の口の中に、抜けた歯が戻される。

そして。


幻想剣イリュージョンソード・生命剣ユグドラシル」

樹木を象った剣が、負傷箇所に当てられる。

しばらくすると、痛みとしびれは嘘のように収まっていた。


「ま……まじで……?」

抜けたはずの歯を揺すってみるが、ビクともしない。

激レアの治療系BMP能力……!


「す……凄いよ、麗華さん」

「そんなことより」

ずずいっと、麗華さんが迫ってくる。


「幻影獣の女とキスしていた経緯が知りたい」


「へ?」

「…………」

「知りたい」

こ、これってまさか、さっきの見られた?

それを今、詰問されている?


「い、いや違うんだ、麗華さん!」

幻影耐性のあるウェポンクラスには嘘は通じない(なんて厄介なパッシブスキルだ)。

俺は正直にありのままを話した。


長い眠りの中で、月夜との出会いを思い返したこと。

その助言に従い、はじまりの幻影獣の身体を取り込んで復活したこと。

ミーシャ・ラインアウトに襲われた新月学園を救うために駆け付けたこと。

唆された幼馴染を、無傷で無力化したこと。

ミーシャ・ラインアウトと屋上で決戦したこと。

ほぼ勝利していたが、小野に対する罪悪感のせいで止めを刺せなかったこと。

……戦闘後キスされたこと。


「最後でいきなり意味が分からなくなったんだけど……」

「俺も分からないんだって!」

順を追って話したのに、最後だけいきなり異質の展開が出てくるんですよ。


「まぁ、それはいいか」

「いいの!?」

あっさりし過ぎてる!

なんなのこれ!?


「次の問題がある」

「は……はい」

「ここに来る途中で、意識が朦朧としていた魔弾グレイズに『ケンちゃん……ゆうとっちー』と抱きつかれそうになったんだけど」

「ぶっ」

「話の流れからして魔弾グレイズが幼馴染なんだよね?」

「は……はい」

「彼女ともキスしたの?」

「し……してないです!」

「キスもしたそうな雰囲気だったけど」

「ぜ……前者のケンちゃんが彼女の本命ですので!」

だと思うんだ、たぶん!

少なくとも、俺との間には恋愛感情的なものはなかったとおも……。


「ねぇ、悠斗君」

「は……はい!」


「コレ……何が面白いの?」


「ひっ!」

背筋を死神の鎌で撫でられた気がする。


「す……すすす、すいません! 決して麗華様を馬鹿にしている訳ではないんです! ヤレヤレ系を気取っているわけでもないんです! 本当に状況についていけていないだけで! 今後はこのようなことのないように細心の注意を払って……!」

「……なぜ『様』を付けるの?」

「……なぜでしょう?」

「悠斗君。今は、悠斗君の反省の有無を問題にはしていない」

「そ、そうなの……?」

じゃあ、何が問題なのですか!?

もう何がなんやら……。


「私の嫉妬に対する評価を聞いているの」

「?」

「聞いているの」

「シット?」

「嫉妬」

「なんで?」

「恋人だから」

「コイビト?」

「恋人」

「なんで?」

「副首都区に行く前に、『好きだよ、麗華さん』って言ってた」

……た、確かに言いましたが。


「それに対して、副首都区から帰ってきて悠斗君が長い眠りについた直後くらいに『今はまだ、恋も愛も分からないけど。恋人だってできるよ』と答えた」

「…………」

『直後』なら、俺が知っているわけがないと思うんですが……。


「だから、恋人の責務として『嫉妬』をしているんだけど」

「…………」

「実際に若干腹が立ったから、演技としても真に迫っていると思われるのだけど」

「…………」

わ、分かりにく過ぎる。

三村が『剣って、チョロイン気質だけど難易度は高いよな』と謎の考察をしていたが、それが正しいことが立証されてしまった。


「……やっぱり、おかしかった……かな?」

「…………」

でも俺は。

そんな高難度系チョロインな麗華さんのことが……。


「やっぱり……やめようか」

「え?」

「パートナーとして大事に思っているのは間違いない。けれど、『愛しい』の分からない私には恋人は無理だと思う」

「そんなことは……」

「悠斗君が眼を覚まさない間、必死で解決策を考えてたけど、一度も涙を流さなかった。エリカはあんなに泣いていたのに……。今だって、あんなに会いたいと思って全速力で駆け付けたのに、こんなやり取りしかできない。言いたいことの10分の1も伝えられない。自分が少し壊れていたのは分かっていたけど、ここまで恋人の適性がないことがはっきりしたなら。ただのパートナーとして。……悠斗君が望むなら肉体的な接触だけでも自由にしていい……んむっ!?」

「…………」

おしゃべりな唇を、唇で塞ぐ。

って、俺、何やってんの!?

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