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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
269/336

迷宮の弱点

白衣とその下の黒いドレスが引き裂かれ、露になった白い肌に横一文字の傷が走る。

幻影獣だからして大量出血はしないが、ダメージは浅くない。

というより、一歩間違えば横に両断されていた。


(あ……危なかった……)


ミーシャ・ラインアウトの命を繋いだのは、迷宮千変ラビリンスバリエーション薄化粧ヴェールドレス

『攻撃が効きにくい』と誤認させる術である。

大出力系BMP能力は使用者の自己肯定感が強く、大盾ラージシールドのような『完全に防ぐ』幻術では防ぎきれないと考えたのだが、どうやら正解だったらしい。


(それはともかく……)


「強い……」

しみじみとミーシャは実感する。


判断力・身のこなし・戦術眼……そして容赦のなさ。

どれも一級品だが、それ以上に、無限に複写できるBMP能力をあそこまで使いこなす技術は、どう考えても再覚醒して半年少々の少年のものではない。


(はじまりの幻影獣のシナリオの主人公だったとか、負けられないという想いだとか……)

そんなことよりもうその前に。

「普通に強い……」


絶対に負けない強さではなく、絶対に負けられなかったからこそ育まれた強さ。

愚直なまでの責任感と悲しいまでの誠実さが生んだ、完璧な強さ。


『澄空悠斗は倒せない』。

(ソータの言う通り……)

「けど……」


「…………」

澄空悠斗はカラドボルグを油断なく構えたまま、ミーシャの様子を伺っている。

油断など微塵もない。

『危険な幻影獣』であるミーシャ・ラインアウトを確実に排除するつもりなのだろう。


「……私は排除されたってかまわないけどねぇ……」

寄りかかった転落防止策に力を込めて、身体を起こす。


「友達を……ソータを殺しておいて! 一人だけ強いままだなんて……! そんなこと、あってたまるかぁー!」

ミーシャの手に一振りの剣……迷宮深化アビスエフェクト幻影剣イリュージョンソードが現れる。


「?」

澄空悠斗の顔に疑問符が浮かぶ。


この剣は支配力こそ強いが、剣術が使えない者にとっては意味がない。

剣麗華との闘いでそれがはっきりしたのだが……。


「っ!」

澄空悠斗を無視して、彼が屋上の中央部に突き立てている干渉剣フラガラックの元に向かって走る。

そして、自らの剣をフラガラックに叩き付けた。

一際強い輝きがフラガラックと幻影剣イリュージョンソードの間で煌めき。

両剣ともに、あっさりと砕け散った。


「しまっ……!」

迷宮ラビリンス! 澄空悠斗を捕らえろ!」

ミーシャが指さした途端、澄空悠斗の動きが止まる。

『通常の精神支配』であれば、干渉剣のような特別な防御手段で防がない限り、回避も防御もできないのだ。

つまりはこれで……。


「やっ……た……」

ミーシャが呟く。

だが、そこに達成感のようなものはまるでない。


「…………」

勝ってはいない。

手段を選ばず行動不能にしただけだ。


そもそも殺すだけでよければ、レオはもちろん、ガルアも小野も不覚を取ることはなかった。

澄空悠斗の潜在能力を引き出すため、シナリオに則り、正々堂々と闘って負けたのだ。


「私……何がしたかったのかしら?」

別に卑怯な手を使ったわけではなく、仮に卑怯な手を使ったところで非難されるいわれはない。

だが……。


「ソータがあんまりに可哀そうだと……思っただけなんだけどなぁ……」

虚ろな目で身動き一つせずに立ち続ける澄空悠斗を見て、どうしようもない虚しさに襲われる。

「というか……怒られるよね、これ。絶対。ソータに……」

四聖獣の任務は成功している。

これ以上澄空悠斗に求めるものはなく、彼が死んでも問題はない。

だが、やはり、他の3人に対して申し訳ない真似をしたように感じるのだ。

……とはいえ、存在崩壊ロストワンを今更解除することもできない。


「せめて、これ以上苦しまないように……。そのまま寝てなさい」

優しい声で告げる。

最終下校時間まであとわずか。

もう少しで自分も含めて、この校舎に居る者は皆消える。

……そのはずなのだが……。


「? ……どうして倒れないの?」

『寝ろ』と命令したはずなのだが……。


「なっ!」

澄空悠斗は倒れるどころか、電光を纏い始めていた。



☆☆☆☆☆☆☆

《《《《《《《



劣化複写イレギュラーコピー電速パルス!」

「がっ……!」

強烈な輝きを放つ電光がミーシャ・ラインアウトの肩を捕らえる。

が、少し浅い。


「なまってんなぁ……。あたり前だが」

「ひ……緋色、翔!?」

劣化複写イレギュラーコピー天閃レイ

至近距離からの光線攻撃が、ミーシャを何度も撃ち付ける。

目に見えて、ヤツのダメージが蓄積していく。

このまま……!!


迷宮ラビリンス! 緋色翔を捕らえろ!」

……駄目か。



》》》》》》》



「い……一体何が……?」

呆然とするミーシャだが、俺・澄空悠斗は何となく状況がつかめていた。


劣化複写イレギュラーコピー砲撃城砦ガンキャッスル!」

「ま……また!?」

無防備なまま空圧弾を受けるミーシャ。

おそらく効果を弱める類の幻術を使っているんだろう。Aランク幻影獣であることを差し引いてもタフすぎる。

が、確実にダメージは溜まっている。


「い……一体、何をしたの!?」

「何もしてない。迷宮ラビリンスは、俺みたいなのに効かないというだけじゃないのか?」

「俺みたいって、まさか!?」


迷宮ラビリンスは異なる精神が同居する人間には効かない。

もっと正確には、1個体につき1精神しか捕らえられない、といったところか。


「そ……そんなこと、この100年、一度も……」

まぁ、俺みたいな状況になった人間がコロコロいても困るが。


「人間は迷宮ラビリンスから逃げられないかもしれないが、迷宮ラビリンスも人間がいなければ成立しないらしいな」

「ら……迷宮ラビリンス! 澄空悠斗を捕らえろ!」



《《《《《《《



「無駄だってのに」

「く……」

身をひるがえして距離を取ろうとする幻影獣の前に回り込む。



劣化複写イレギュラーコピー怪力無双ドラゴンバスター!」

「かはっ!!」

身体強化系最強の拳が、ミーシャ・ラインアウトの腹に深々とめり込む。

「効いたな!」

分かった。

ヤツの正体不明のダメージカット幻術は、直接攻撃の方が通りがいい。

「殴り殺す」

迷宮ラビリンス! 緋色翔を捕らえろ!」



》》》》》》》



創造次元クリエイト永遠の淑女ベアトリーチェ・スタイル!」

直接攻撃系なら俺にはこれがある。

七色の燐光を乗せた拳が、翔が撃ったのと同じ位置に決まる。


「がっ……」

幻影獣がついに膝から崩れ落ちる。

このまま……!


「?」

この……まま?

「あ……あれ?」

身体が……動かない?


気が付くと、座り込んだミーシャ・ラインアウトの背後に一対の瞳が浮いていた。


そのうちに、もう一対瞳が増える。

動かないだけだった身体に痛みが走り始める。

もう一対。もう一対。

あとは加速度的に。


いつの間にか、ミーシャ・ラインアウトの背後の空間は、無数の瞳で埋め尽くされていた。


「な……な……な……」

「アイズオブサウザンド。アイズシリーズと同じ効果を持った『瞳』を大量に召喚する、私の切り札の一つよ」

「…………」

ま……まじか。

脚の感覚がなくなってきた。


「発動条件は、『15分以上の継続戦闘と80パーセント以上のダメージ』。断言するわ。未来永劫、貴方以外にこのスキルの発動条件を満たす人間は存在しない」

「あ…………」

足元から石化していく。

肺が痛む。

音が聞こえなくなっていく。

匂いが消えていく。

背中から大量の汗が噴き出す。

ありとあらゆる骨がきしみだす。

ありとあらゆる内臓が動きを弱めていく。

ありとあらゆる思考が奪われていく。

心臓が働きを止めていく。


し……死ぬ……。


本当に千対あるかどうかは分からないが、すさまじい数の『瞳』の効果に襲われている。

とても対処できるような数の状態異常じゃない。


まさにアイズシリーズの頂点……。


「……ん?」

アイズシリーズの……頂点?

なんか最近……いやでも昔、そんな単語を聞いたような気が……。

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