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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
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ロストワン

新月学園の敷地境界の精神結界は、予想通り、俺はフリーパスだった。

敷地侵入後、とりあえず、なんとなくミーシャ・ラインアウトの気配が濃い(※ような気がする)旧校舎を先に調べることにしたのだが……。


「これは……」

旧校舎に入れない。

より正確に言うと、敷地境界にあったものと同じ精神結界が旧校舎周辺に張られているが、俺だけフリーパスだった敷地境界のものと違い、旧校舎の方の結界は俺も入れない。


「意味が分からん……」

俺に来てもらいたかったんじゃないのか……?

と、悩んでいると。


《手順を踏めということだろうな》

精神の壁が薄くなったせいでいつでも話せるようになったが俺のプライバシーを考慮してなるべく話しかけてこないことにしたらしいアニキ、が話しかけてきた。


「手順……?」

《あの幻影獣が旧校舎に居るのは間違いないだろう。ただ、別のルートで来て欲しいんじゃないか》

「…………」

確かに、迷宮ならば、攻略手順というものがあるときがある。

入り口から入れないというなら……。


「渡り廊下……?」

新校舎と旧校舎をつなぐ三階部分の渡り廊下。

あそこからなら……?


《たぶんな》


◇◆


新校舎に侵入した後。

迷宮深化アビスエフェクト存在崩壊ロストワンとやらが発動したのが、授業中だということは分かった。

ほとんどの生徒は机に突っ伏して寝ている。


発動と同時に領域内の人間の意識を奪い、あらかじめ設定した時刻が来れば全員消滅する。

そういったBMP能力のようだが……。


「いくら何でも強力過ぎないだろうか……」

別にハッタリとまでは思っていないのだが……。


《発動条件だろうな》

また緋色翔が話しかけてくる。

できる限り話しかけないとは決めたものの、解説役(※賢崎さんとか)がいないので、しょうがないと思っているんだろう。


「? 発動条件?」

《高次元のBMP能力者は、発動条件を厳しく設定することで強力なBMP能力を発動することができる。あまり実戦向きではないが……。もともとあの幻影獣は、戦闘向きじゃないんだろう》

「…………」

《想像だが……。能力を展開する場所に長時間居続ける。……それもそこでの活動になるべく関わったほうがいい。そういった感じの条件なんじゃないか……?》

「……養護教諭として働いていたのが……?」

《四聖獣としての活動であると同時に、このBMP能力の発動条件でもあったのかもな……。最初から使う予定だったかどうかまでは知らないが》

「…………」

ありえる気がする。


《もともと時間はないが……。あまりあの幻影獣と長く闘うな。戦闘時間が、別の強力なBMP能力のトリガーになっている可能性がある》

「了解だ」

アニキの言う通り、そもそも、もうあまり時間がない。

あと1時間くらいか……。


「ん?」

廊下の途中で、川の字になって寝ている三人の女生徒を発見する。


「二雲先輩……?」

と、前田先輩と河合先輩だった。


《えらく行儀のいい寝方だが……》

「……ん?」

二雲先輩の髪をかき上げ、側頭部にうっすらと血がにじんでいるのを発見する。


「戦闘して、気絶させられた……? それも最小の攻撃で……?」

……なんだろう?

闘った相手の予想がつくような気が……。


《悠斗!》

翔の声に顔を上げて、俺も気づく。


二雲先輩たちが倒れていた傍のガラス戸が派手に破壊されている。

そして、その先には……。


「峰!」


◇◆


《なかなか酷いことになっていたな……》

「ああ」

小走りに走りながら、内なるアニキと会話する。


峰を連れて大急ぎで一旦外まで出て、外で待機していたBMP管理局員に峰を託し、また戻ってきたのだ。

敷地境界の精神結界は、俺が触れていれば別の人間を連れ出すことはできた。

……連れ込むことはできないようだが……。


「…………」

もうあと45分ほどしかないが、何人か連れ出すことはできる。

が、その分、ミーシャ・ラインアウトと闘う時間が短くなる。

……。

…………なんというか、全員を救うのが当たり前の思考になっている自分がいる。

いや、当たり前と言えば当たり前なんだけど。


《悠斗。峰をやったヤツのことなんだが》

「ん?」

《俺は良く知らないんだが、あそこまでやるようなヤツだったか》

「…………」

折れた肋骨が、腹の皮を突き破って見えていた。

出血もかなりのもので、内臓に刺さらなかったのはたまたま運が良かっただけだろう。


「いや、健一の後ろに隠れていた印象が強いな」

《そうか》

……おそらく事故的なものだったんだと思う。

だが、BMP能力の威力は本物だ。


魔弾グレイズか……」

正直な話、あまり才能があるとは思っていなかった。

健一のように、BMPハンターへの強いあこがれと、強烈な意思があった訳でもない。


……何があれば、あの真理があそこまで強くなるんだ?


…………と。思っていると。


《悠斗!》

「っ!」

ホントにいた!


3階の新校舎と旧校舎をつなぐ渡り廊下の中央部分。

半身の体勢で俺を睨みつける新月学園の女生徒。


魔弾グレイズの後継・真行寺真理……!


「っげ!」

タタン。という独特のステップを見て、思わず嫌な声が漏れる。

見覚えがあるんだ、とても。

劣化複写イレギュラーコピー・アイズオブエメラルド……」


「真行寺真理が舞うは、連撃! 疾風連弾ゲイルブリット!」

高速で射出される数発の光弾。

威力もヤバイことを残念ながら10年前から知っている。

……アイズオブエメラルドをギリギリまで使い、軌道を見極めて……。


劣化複写イレギュラーコピー俊足ライトステップ!」

廊下を滑るように移動するBMP能力・俊足ライトステップで一気に全弾回避する。


「……。真行寺真理が舞うは、蹂躙……」

タタタタタンと先ほどとは違うステップを舞う真行寺。

もちろん、どんな技か知っている。

弾幕攻撃スペルブリット!」

渡り廊下の狭い空間を埋め尽くすかのように展開させる数十の光弾。


劣化複写イレギュラーコピー引斥自在ストレンジャー!」

俺を中心に、外に向かって斥力を発生させる。

全ての光弾は、俺を素通りして、後方に突き抜けていく。


「……っ。真行寺真理が舞うは、破壊!」

タタタンタン。というステップ。

知ってるよ、もちろん!

壊滅爆弾マスターボム!」

数十の光弾を収束させた、人間の身体ほどもある極大光弾が放たれる。


劣化複写イレギュラーコピー! 捕食行動マンイーター!」

紫色の唇を持つ巨大な『口』を召喚する。

カパッと開いた亜空間へとつながる口の中に、極大光弾が吸い込まれる。


「……ゆうとっちめ……!」

さらなるステップ、タタタンタンタタン。


《あれも知ってるんだよな、悠斗!》

「知ってるけど……」

ヤバイ。


「真行寺真理が舞うは、抱擁」

この状況では、あれはかわせない……。


包囲攻撃スクリーン!」

全方向から包囲するように襲ってくる光弾の群れ。

弾くことも、喰らうこともできそうにない。


「くそ……」

真理まではまだ距離がある。

超加速システムアクセルでも、途中で、あの光弾のいくつかに迎撃される可能性が高い。

全開出力で……、仕留めるつもりで突っ込めばギリギリどうにかなるかもしれないが……。


劣化複写イレギュラーコピー超加速システムアクセル!」

「なっ……」

真理の驚愕の声を聞きながら。

真理ではなく、窓に向かって突進する。


窓を破って、空中へ。


「頼むぜ、アニキ!」

《直前に言うんじゃねぇ!》

怒られながらも、俺の左目が金色に染まる。

BMP能力の同時起動を可能にする緋色翔のBMP能力『アイズオブゴールド』だ。


豪華絢爛ロイヤルエッジ並びに超加速システムアクセル

なるべく切れ味を抑えた半透明の刃を、超加速システムアクセルの力場で吸い付けて足場にする。

少し先にもう一つ足場を作り、そこに着地。

そして。


劣化複写イレギュラーコピー超加速システムアクセル!」

今度は、外から中に窓を破って侵入する。

窓には精神結界が張られてなくて良かった!


「ゆうとっち……!」

「悪いな」

帰還した場所は、真理の後ろ側。

少々危険だが、このまま渡り廊下を破壊してしまえば、真理はもう追って来られない。

時間がないのはもちろんだが、正直、真理と闘うのは精神的にきつい。

……たぶん俺のせいであんなに強くなってしまった真理を見るのがつらい。


劣化複写イレギュラー……」

「馬鹿に……」

「え?」

唐突に走った悪寒に。


「馬鹿にするなぁー! 澄空悠斗!!」

空間を震わすような怒気に全身が震える。


そして。


タタンタタタンタタタンタン。

タタンタタタンタタタンタン。


生存レベルの恐怖に突き動かされるまま。

まるで鏡に映したように真理と同じステップを舞う。


もちろん即興などでは断じてない。


「真行寺真理が舞うは……」

「澄空悠斗が舞うは……」


これは……。


「「正義!!」」

俺がはじめて覚えたインパクトスペル!


劣化複写イレギュラーコピー……」

「ゆうとっち……!」

師匠の……十六夜朱鷺子の『ステップ』は、威力を増すルーチンであると同時に、発する光弾の軌道を構築する予備動作でもある。

お互いが練り上げた構成を……。


「「殲滅結界シャットダウン!」」

叫びとともに展開する!


「あ……あははは! 使っちゃったね、ゆうとっち……! この技は防御なんてできないよ! 誰かを守るなんてできないんだよ! 私がそうだったように! 何かを……! 誰かを……!  何もかもを!! 壊すためだけの技なんだから! 何の役にも立ったことのないBMP能力なんだから!!」

空間を埋め尽くす無数の光弾の中央で。

俺の幼馴染が、涙を流しながら絶叫している。



「死んじゃえ……! 死んじゃえ、ゆうとっち!! 私と一緒に、死んじゃえーーー!!!」

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