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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
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迷宮の門番

ゴトンと、意識を失い受け身も取れないままに倒れる女生徒二人。

KTI四天王・前田朱音と河合渚だった。


「なんでよりによって先輩方が起きてるかな……」

新月学園1階の廊下。

ボヤキながら歩を進めるのは、同じくKTI四天王にして魔弾グレイズ・真行寺真理。


「あの幻影獣の嫌がらせ? それとも、存在崩壊ロストワンの仕様的なものなのかな?」

ぶつぶつ言いながらも全く隙の無い様は、とても同じ女子高生には見えない。

場数があまりにも違う。

KTI四天王にしてリーダー。そして五帝【盾帝】の二雲楓は、しみじみとそう思った。


「真行寺さん……。一応聞くけど、意識はあるの?」

「残念ながらあります……。すみません、裏切っちゃいました」

「あの幻影獣の言うことが本当なら、貴方も死ぬんじゃないの?」

「入口の結界は、私かゆうとっち……澄空悠斗ならフリーパスなんですよ。幻化消滅時刻の前に出ればいいんです。……たぶん後で捕まりますけどね」

「……死ぬ気?」

「ゆうとっちに会ってから決めます」

タタンというステップとともに、真理の周辺に数発の光の球が浮かぶ。


疾風連弾ゲイルブリット

高速の光弾が楓を襲う。

汎用装甲エンチャント!」

虹色の盾が楓の前に出現し、光弾を吸収する。


「……そのBMP能力。概念能力すれすれのチート能力でしたよね。複写したゆうとっちが故郷で無双してました」

言い終わると同時に、タタタタタンと舞う。

すると、今度は数十発の光弾が姿を現す。


「でも使い手が美人なだけのJK先輩じゃ勝負にならないですね。……弾幕攻撃スペルブリットです」

「エ……汎用装甲エンチャント!」

さきほどの十倍の数の光弾の猛攻に、正面に展開した虹色の盾でなんとか耐える。


「こ……この盾は、力押しじゃ破れないわよ!」

「でも、曲がるんですよ、それ」

真行寺が言うと同時に、光弾のうちの数発が盾を回り込むように迫る。

二雲楓は全く抵抗できずに光弾の直撃を受けた。

……が、一発当たった後は、残りの全ての光弾が楓の身体を外れる。


「少しでも早くお金を貯めようとして……お昼とか良く抜いてたから、見かねて奢ってくれたんですよね。なんか流れで四天王になっちゃいましたけど……。学食、美味しかったです」

気絶した二雲楓に語りかける真行寺真理。

前田朱音と河合渚もそうだが、気絶させただけだった。

これから幻化消滅で全員死ぬ以上、あまり意味はないかもしれないが……。


「あと、おしゃべりするのも楽しかったです。KTIの理念とか全く興味なかったですけど……」

言いながら近づいて、楓の顔に手を触れる。

「今ならちょっとだけ分かるかな……。剣さんとかは別格としても、せめて二雲先輩くらい美人だったら、忘れられたりしなかったのかな……」

そう呟き。

ばっと身体を翻す。


そこには、いつの間にか、峰達哉が立っていた。


「……そうか。やっぱり、私と関わりのある人は、術のかかりが浅いんだ……」

「真行寺……」

床に倒れている3人の女生徒と、真行寺真理の様子から、何となく察する峰。


「一応聞くが……意識はあるのか……?」

「二雲先輩と同じこと聞くんだね」

儚い笑みを浮かべる真理。


「あの幻影獣を……迷宮ラビリンスを守っているのか?」

「むしろ先輩方を守った感じかも……。あの幻影獣は護衛なんか要らないよ。……ゆうとっち以外が相手なら」

「…………」

「けど、見逃すわけにもいかないかな」

インパクトスペル(=タタタタタンという舞)なしで現れる数十発の光弾。


砲撃城砦ガンキャッスル!」

光弾が動き出す前に空圧弾を放つ峰。


実力差は分かり切っていた。

だから先手必勝で勝負を決めようとしていたのだ。

インパクトスペルなしで光弾を展開したのはさすがだが、疾風連弾ゲイルブリットではなく弾幕攻撃スペルブリットを使ったのは悪手。

そう思ったのだが……。


「な……!」

真理の周囲に漂う光弾のいくつかが、峰の空圧弾を防いで対消滅したのを見て驚愕する。


「そんなことが……できるのか……?」

「できないとでも思ってたの?」

表情を変えずに光弾に意思を込める真理。


次の瞬間、弾幕攻撃スペルブリットが峰を襲う。


「うぉおおお!」

駆け出す峰。

動き回って狙いをそらせながら、砲撃城塞ガンキャッスルで迎撃していく。


しかし、あまりにも物量が違いすぎる。


峰はついに壁に追い込まれ……。

轟音とともに壁に穴が開いた。


「し……しのいだか……?」

何発かは直撃を受けている。

しかし、たまたま威力の低い光弾だったのか、真行寺が手を抜いたのか、骨が折れたりはしていないようだった。


「最後……」

「え?」

「弾で『防御』したよね? 『迎撃』じゃなくて」

「…………」

真行寺の言う通り、峰は、自身の周囲に浮かせた空圧弾で光弾を『防御』した。

真行寺がやっているのを見たばかりの技だったが、とっさの判断だった。


「私は……というか普通の人はそうだと思うんだけど、練習でできてないことは本番では絶対にできないんだよね……」

「?」

「峰君も……才能あるよ。昔から師匠に学んでたら、今頃、私なんか足元にも及ばなかったと思う」

「そんなことは……」

「師匠もおバカさんだよ……。いくら残り物とはいえ、なんでこんなおバカ弟子育てちゃうかな……」

圧倒的な優勢にもかかわらず、真行寺の目からどんどん生気が消えていく。


それを良しとしないのは、むしろ、峰の方だった。


全力突撃アサルトチャージ……?」

周囲に力場を展開し防御力を高めて突撃する峰の派生技……砲撃城砦ガンキャッスル全力突撃アサルトチャージを見て、真行寺が呟く。


「屋内であることが幸いしたな」

「…………」

「君がやってきたことこそ、誰にでもできることだと思わない。全力で挑戦する!」

城砦を連想させる力場を纏った峰が突進してくる。

確かに、この距離では、光弾では防げない。


「…………」

真行寺は、正直、負けてあげてもいい気がしていた。

峰が迷宮ラビリンスに勝つことはほぼ不可能だろうが、自分の方には峰に勝ちたい気持ちなどない。


が。

「……っ!」

澄空悠斗の顔が浮かぶ。

(まだ……!)

せめて一言、言うまでは……!

「真行寺真理が舞うは、破壊! 壊滅爆弾マスターボム!」

本来、タタタンタン、となるインパクトスペルを省略し、複数の光弾を束ねた、峰の身体ほどもある超大型の光弾を放つ。


「!」

正面から大型光弾に衝突した峰は弾き飛ばされ、ガラス戸を派手に突き破って中庭に飛び出し、樹木に強く身体を打ち付けて、止まった。


「み……峰君!」

慌てて損壊したガラス戸を潜り抜けて峰に近づく真行寺。


「ど……どうしよう! こんなに強くするつもりじゃ……!」

焦る真行寺の胸元でスマートフォンの着信音がする。

反射的に通話を受ける。


「何よ! 今、大変なの!」

「こっちも大変よ。ゆうとっちさんが来たわよ」

「え?」

「すぐ近くの階段から3階に上がって。そこのポイントを通ると思う」

「で、でも、峰君が……。腹部から出血してる! 下手したら、折れた骨が内臓を傷つけているかも!」

「貴方……、何を言ってるの?」

「何を……って!?」


「今から幻化消滅させるのよ、その子も」


「っ!」

当たり前の前提条件。

しかし、その言葉を理解するのに数秒かかった。


「……そ、そうだったよ……ね」

「意識はないんでしょ? 寝かせておいてあげなさいな。起こしても恐怖を感じるだけよ」

「わ……分かった……」

通話を切り、震えながら立ち上がる真行寺。


分かってはいる。分かってはいたのだ。

今から起きることに自分が耐えられないことは。

それでも……。


「……ごめんね峰君。何の意味もないと思うけど……。私も一緒に消えてあげるから……」

ようやくそれだけの声を絞り出し。


震える足で歩きだした。

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