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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
262/336

追想~せかいのひみつ~

「月夜。この【玄武】、何を食べるの?」

大きめの水槽に入れられた亀っぽいナニカ(※なにせ尻尾が蛇っぽい)を示しながら、月夜に聞く。


「『食品』は、何も食べない」

「へ?」

「幻影獣だから?」

「え?」

幻影獣?

確かに、まともな生物では微妙にあり得ない造形をしてるけど……。

全然、危険性を感じないし、Dランク幻影獣というやつだろうか。


「Dランク幻影獣だとしても、管理局に届け出ないといけないんじゃ……?」

「大丈夫。Aランク幻影獣だから」

「…………」

何が大丈夫かさっぱり分からないが、とりあえず、追及するのはやめた。

あとから『何故、こんな重大な事実を黙っていた!』とか(警察に)怒られても困るから、聞かなかったことにしよう。日和る、というやつである。


しかし……。


「月夜って、本当に何者?」

見るからに(※月の女神様っぽいし)普通ではないけれど、剣大臣の息子さんの奥さんだったり、Aランク幻影獣らしき謎生物をどこからか連れてきたり(※しかも水槽で飼っている)……。


「おまけに、あの神一族の黒神当主にも引けを取らない『アイズオブブラック』の使い手だったり……」

「違う」

「へ?」

「『黒神当主に引けを取らない』ではなく、『歴代の中でも特に強い黒神当主』」

「…………?」

「つまり、結婚する前は、黒神月夜だったということ」

「…………?」

「前に、そう言わなかった?」

「…………」

言ったような気もする。

勝手に脳内変換していたのかもしれない。

いやしかし。


「な、なんで、黒神の当主が僕のところに……。というか、剣大臣の息子さんと結婚を……?」

「……ふむ」

と、なにやら月夜は思案顔をする。


「私の夫の母、つまり剣大臣の妻のことは知っているよね」

「うん」

前に、最強のBMP能力の話をする時に聞いたので。

「剣碧。聖魔剣士ツインソードの異名を持つ凄腕のBMPハンター。……だよね」

「その人と、私の遺伝子の相性が良かったから」

「……はい?」

「『BMP能力は遺伝子には宿らないが、遺伝する』。彼女とは同性だから、彼女の子どもと結婚したの。最強のBMP能力者を生み出すために」

「…………」

「つまり、私の娘が最強のBMP能力者ということ」

「…………」

「えーと? ……あまり出来が良くない一族だけど、こういう計算は得意だから、彼女の息子と私との間に生まれた子どもは最強のBMP能力者になるはずだったし、私の目から見ても、能力は最強だった」

いや、疑っている訳ではなく。

頭が追い付かない。


「分かっている。最強のBMP能力者がどうして、あんな失敗をして、悠斗を巻き込んだか……。許せないよね……」

い……いやいや。

「私も……そしてもちろん私を教育した一族のすべてが愚かだったの。優れたBMP能力者であることは『約束』のただの前提条件。だから『鑑定』が必要なのに、それに耐えうる『心』を磨くことを疎かにした。本当に……愚かという言葉に遠慮をしてしまうくらい馬鹿な一族……」

「いや、ちょっと待って!」

シリアスに持っていく前に!


「なんで、最強のBMP能力者が必要になるの!?」

わざわざ、優秀な遺伝子の掛け合わせ、みたいなことをして!


「ただの世界の秘密というやつだけど……聞きたいの?」

「え!? ……そん、そんなもの聞いていいの?」

「別に話してはいけないとは言われていない。聞いた人はいないと思うけど」

じゃ、駄目なヤツじゃないですか!?


「むかしむかし、具体的には100年前。世界は人間同士の戦争で滅びかけたの」

話し始めちゃった!!


「そして、それを憂える者が居たの」

「…………」

「その者……【はじまりの能力者】は、人間の思念を加工して、現実世界に影響を及ぼす存在に変える異能を持っていた」

「そ、それって……」

「そう、幻影獣」

「げ……幻影獣の誕生の秘密……?」

こ……こんなこと、小学生が聞いていいような話じゃ……。


「【はじまりの能力者】は、最初に自分と同じ異能を持つ幻影獣を生み出した。次に、この幻影獣が、自身と対になる『物語の始まりと成長を司る』神獣を生み出した。そして、敵対する存在として2体の魔獣を、障害となる存在として4体の次元獣を。最期に、とりあえず世界の崩壊を先送りにするための4体の聖獣を作り出した」

「…………」

あ、頭が付いていかない。


「せ……世界の崩壊を先送りにするって……?」

「レオが兵器を消滅させ、ガルア・テトラがそれを補助する。迷宮を司るミーシャ・ラインアウトが世界の意識を惑わせ、もう一体がそれを補強した。百年間、人間同士の大規模な戦争が起こっていないのは、天敵である幻影獣の存在はもちろん、この四体のAランク幻影獣が、世界を徹底的に作り直したことも大きい」

「…………い、いや、ちょっと待って。もう世界救われてない? いや幻影獣の問題はもちろん残ってるけど。少なくとも、聖獣以外は、百年前の世界危機で特に何もしていない気が……。いや、そもそも、なんで、その12体以外の幻影獣が必要なの?」

「……【はじまりの能力者】……というより、【はじまりの能力者】が生み出した最初の幻影獣の異能の特質だったと伝わってる。要するに、一度起動すると、止められない。どのような幻影獣にするかはある程度制御できても、止めることができない。だから、【はじまりの能力者】は最後まで、能力の発動に慎重だった。それこそ、核兵器が上空を飛び交うまで」

「……ま、マジで……」

「幻影獣の数が増えてくると、Aランク幻影獣で制御できなくなってくる。その代わりに、生まれつき幻影獣に近い性質を持った者……『BMP能力者』が生まれるようになった」

月夜は、一旦言葉を切って、続ける。


「……神一族……四方神の一族に伝わる内容を信じるのであれば、【はじまりの能力者】

が最初に生み出した幻影獣を倒すことができれば、新たな幻影獣は発生しなくなる」

「…………」

「もちろん、簡単には倒せない。障害となる4体の次元獣の結界を破らない限り、会うことすらできない。そして、優れたBMP能力者であることは絶対条件だけど、力だけでも倒せない」

「…………」

「最初の幻影獣を倒すこと……。これが為されることが、【約束】と呼ばれている」


「…………」

す……凄いことを聞いてしまった。

でも、それよりなにより。


「ぼ……僕は関係ないよね?」

「? 何が?」

「い、いや、その、【約束】を果たす人のために何かしないといけないとか……」

話の流れ的に、月夜の娘さんがその候補者である可能性が非常に高い。

その人に何かされたとはいえ、超凡人の僕が何かしないといけないなんてことは……。


「もちろん、何もしなくていい」

「ほっ」

「でも、候補者の一人になってる」

「なんで!!??」

思わず、大声が出た。


「今の悠斗のBMP能力値は、187」

「!?」

「後天的にだけど……。能力値だけで言うと、最強の人間なんだよ……」

「い、いや、ちょっと待って……! なんで、そんなことに……。僕のBMP値は確か103だって……!」

「さっき話した二体の神獣のうちの一体……。【はじまりの幻影獣】ザクヤ・アロンダイトの腕が悠斗の身体に埋め込まれてる」

「!?」

「そもそもBMP能力者が生まれてくるのは、その家系が幻影獣に長く接しているから。通常は生まれてから能力値が変化することなんてありえないけど、身体の中に直接埋め込まれると話は別。体内の異物に対する防御反応が、BMP能力を強化させる。異常なまでに……」

「で……でも、そんなことが可能なら、政府とか、みんなもっとやってるんじゃ……」

「通常の幻影獣の身体では、入れた瞬間に拒絶反応で死に至る。Aランク幻影獣……それも、『物語の始まりと成長を司る』神獣だからこそ、可能だったんだよ。……奇跡的に」


「…………」

ようやく分かった。月夜が僕のところに来た理由。

むしろ少しほっとしたかもしれない。

月の女神さまが来るくらいだから、とんでもない理由があることはうすうす分かってたんだ。

……誰かを傷つけるような秘密でなくて……少しだけほっとした。

ただ……。


「月夜の娘さんのせい……なの?」

「……そう」

「…………」

だよね……やっぱり。この話の流れだと。


どうしてそんなことを……。と聞く気にはなれなかった。

たとえ、万が一にでも、月夜を責めるような言葉を言うのは嫌だったから。

身勝手な理由だったら、聞きたくなかった。


「じ、じゃあ、僕はBMP能力者としての訓練を始めたほうがいいのかな……」

というか、なぜ、まだしてないんだろう?

「BMP能力者は、自分の能力に耐えうる身体をもって生まれてくるの」

「え?」

「つまり、後天的に急激に能力を増すBMP能力者は、成立しない」

「…………それって」

「BMP能力を使い続けると、早死にする」

「…………」

そう……か。


「月夜は……、僕が使わないで済むように、守るために来てくれた……?」

「そう」

……涙が出そうになった。


「でも」



「もし、使うことになった場合……」


…………。


「使うことによって、命が足りなくなった場合……」


…………。


「その時に、悠斗の身体と心が十分に成長し、その器がある場合」


…………。


「BMP能力と幻影獣の存在に通じ、その能力がある場合」


…………。


「その意思と心と強さ。そして魂の在り方を、彼女が認めた場合」


…………。


「一つだけ命を繋ぐ方法がある」


「そ……それは」


「幻影獣の……【はじまりの幻影獣】ザクヤ・アロンダイトの腕を、異物としてではなく、自分の体の一部として受け入れる……」

「そ……それって」

「完全に融合して……」

「…………」

ごくっと。

生唾を呑み込んだことを覚えている。


「ちょっとだけ、人間でなくなるの」

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