追想~しゅうまつにむかうまえに~:現実~天竜の気持ち~
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月夜と食べる夕食時。
恒例となったアニメ『絶対無敵! BMPブレイバーズ』を見ながら、僕がチャーハンの素で適当に作ったチャーハンを二人で食べていた。付け合わせの野菜は、スーパーの出来合いだ。
「悠斗。最近、BMP能力の訓練をしているという話だけど」
「付き合っているだけだよ。僕にはBMP能力はないみたいだし」
「どんなことをしているの?」
「間は本当にBMP能力を覚醒したみたいで、十六夜師匠に、なんか色々教わってる。緑川は何が楽しいのかずっと応援に来てて……、僕と真行寺はインパクトスペルの練習をずっと」
なお、チャーハン、めっちゃ美味い。
やっぱり、チャーハンはガーリックやでー。
「インパクトスペル? あれは掛け声程度の意味しかないと聞いているけど?」
「師匠のBMP能力には、タイミングを取るか何かで必須なんだってさ。真行寺は、師匠と同系統のBMP能力を発現するらしいよ」
「悠斗は?」
「……ついでらしい」
自分でもなぜ今だに付き合っているのか超絶謎である。
ひょっとして、僕は自分で思っている以上にお人よしなのかもしれない。
「ちなみにどんなインパクトスペル?」
「師匠のインパクトスペルは技ごとに決まっていて、今やってるのは、殲滅結界って技らしい」
「……なんとなく強力そう」
「師匠の最終奥義らしい」
と僕が言うと、月夜が眼を見開いた。
「いきなり最終奥義?」
「奥義は基本の中にある。ならば逆もまた然り。らしい」
「良く分からないんだけど」
「僕も全然分からない」
いや、まじで。
「一度師匠が実演してくれたけど、地形が変わりそうな技だった」
「基本なんだよね?」
「基本らしい」
師匠はそう言ってた。
「あと、『この技は誰かを守るために使う』だったかな?」
「? 地形が変わるんだよね?」
「地形は変わる」
でも、師匠はそう言ってた。
……他にも何か言っていたような気がするけど。
「ずいぶんと変わった師匠さんみたい」
言いながら、月夜は少し笑っていたように見えた。
勘違いかもしれない。
月夜のことは師匠以上に良く分からないから。
『一生一度の本気モードを!』
「ん?」
『BMP能力全開! ブラックアウトランページ!』
唐突に、テレビから叫び声がした。
どうやら、いつの間にかクライマックスになり、ランページちゃんが必殺技を放ったらしい。
ちなみに、ブラックアウトランページとは、世界を黒く塗りつぶす技らしい。実際に画面が真っ黒になり、元に戻った時にはだいたい敵は滅んでいる。細かい説明は一切ないけど、なんか凄いのだけは分かる。
「あれもインパクトスペルの一種だよね」
「まぁ、そうかもしれない」
月夜のセリフに何となく返す。
「私も、あんな感じでやってみようかな……」
「? 何を?」
「最期に、世界を黒く塗りつぶす必殺技を使うとき」
「…………」
なんかとんでもないこと言い出した。
……そういえば。
「月夜のBMP能力って、どんなものなの?」
「……ふむ」
と、何を思ったのか、僕の目をじっと見てくる月夜。
「悠斗、今、何を飲んでる?」
「? 牛乳を飲み終わったところだけど……?」
……あれ?
僕の目の前には、8割ほどまで満たされた麦茶の入ったコップがある。
あれ?
牛乳は?
……いや、そもそも、僕、牛乳っていつ買ったっけ?
「……なにこれ?」
「これが私の【アイズオブブラック】。記憶を書き換えることができる」
「……怖いんだけど」
「発動条件は「目を合わせる」だけで、防御不可。書き換えることができる記憶の質にも量にも制限がないからね。アイズシリーズの頂点だと言える」
「……超絶怖いんですけど」
「なお、アイズシリーズの頂点だから、他のアイズシリーズの効力を全て無効化する。相手がアイズシリーズの能力者でも全く問題なく効果を発揮することができる」
「……無敵じゃないですか」
……というか。
「なんで、月夜、世界征服とかしていないの?」
「? そんなもの、何が楽しいの?」
「…………」
そう言われると、何が楽しいんだろう。
『絶対無敵! BMPブレイバーズ』の悪役組織・ホワイトウィドウズの面々は大喜びで世界征服してたけど。
「でも、少なくとも、僕の相手をしていていいような人には思えないんだけど……」
「そんなことはない」
いつになく強い口調で、月夜は言い切った。
「……私のBMP能力は、歴代の黒神当主の中でもかなり強い」
「え?」
「終末標準に近いことが起き始めているのかもしれない」
「……へ?」
何スタンダードって?
「……これから先、強力なBMP能力者と幻影獣が次々生まれてくるということ」
「そ、そうなの?」
「とりあえず、悠斗と同い年に最強のBMP能力者がいる」
マジで!
「あとは、一つか二つ上の……賢崎に、全属性使いがいる」
「お……オールマスター?」
『最強のBMP能力者』の話をさらっと流そうとしたので食い下がろうとしたが、『オールマスター』さんもメチャクチャ気になる。
「あとは、『天竜』かな」
「また流した……って、天竜!?」
もはや人じゃないじゃないか。
「そういう通称なだけで、ちゃんと人間」
「いや、そりゃ、そうなんだろうけど……」
そして、貴方の方がむしろ人間離れしている、という言葉はもちろん呑み込むぜ。
「悠斗より少しだけ年上だったはずだけど……。次の『天竜』は色々な意味で特別だから、なかなか自分の天竜にするのは難しいかもね」
「…………?」
なんのこっちゃ?
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新月学園風紀委員室。
新月学園五帝最強にして、新月学園風紀委員長の天竜院透子と、その忠臣たる五竜が、本日も授業後の執務に励んでいた。
「「…………」」
今日何度目か。
五竜の面々は、透子の表情を盗み見ながら、お互い顔を見合わせる。
ミスが多いとかではない。
だが、微妙に集中していない。
こんな透子を見ることは、五竜の面々でも滅多になかった。
「あの……透子様?」
ついに。遠慮がちに、リーダー格の火野了子が話しかける。
「? なんだ?」
「差し出がましいようですが、澄空君のお見舞いに行ってきてはいかがでしょうか?」
「?」
「……」
「……もしかして、集中できていなかったか?」
「いえ、そんなことはないのですが……」
言いにくそうな了子。
「気持ちは有り難いが、麗華様と鉢合わせする可能性があるからな。今、あの方に何と声をかけて良いのか分からない」
「そうですか……」
「今が一番つらい時期だというのに……。進歩しないな、私は……」
後悔を滲ませる透子。
「あの! 私も聞いてもいいですか?」
今度は、風間仁美が声をかける。
「なんだ?」
「もし澄空君が目覚めたら、透子様は澄空君の天竜になるんですか!?」
『聞いちまったぜコヤツ!』的な他の4人の目線も気にせず、まっすぐに透子を見つめる。
「魅力的な計画ではあるがな……。麗華様が傍にいる以上、難しいだろうな」
「澄空君だったら、二人同時攻略ぐらい……あいたっ!」
金田貴子にぽかっと叩かれる仁美。
「彼自身の望みは知らないが、目指すべき場所が遥かな高みであることは明白だ。今の私の翼では、おそらくお役に立てないだろうな」
そう言って、歴代最強とも言われる天竜は、静かに瞳を閉じた。