追想 ~二人の食卓(お母さまver)~:現実 ~命を繋ぐ術~
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「えーと……。月夜? 美味しくなかった?」
「いや、美味しい。先日まで食べていた剣家専属シェフの料理と対等……」
なんとなくテレビをかけたままで向かい合って食べる夕食時。
月の女神様改め、月夜様も改め、月夜は複雑な表情で、そう言った。
さすがに、適当に切ったじゃがいもと人参と玉ねぎと肉にカレールーを混ぜただけのカレーが、専属料理人の料理と対等の訳はないと思うけど、食べれなくはなかったらしい。
「じゃあ、なんでそんな難しい顔をしているの?」
「このカレーを作ったのが、悠斗だから」
「?」
「小学生男子にご飯を作ってもらう成人女性というのは、ちょっと厳しいと思う……」
言って、月夜は肩を落とした。
『首都区新都中央1-87』のマンションに着いたはいいけど、何も(※カップラーメン含めて、本当に何も)食材がなかったので、近所のスーパーで適当に買ってきた材料で僕がカレーを作ったのが、月夜的には落ち込むポイントらしい。
絶対料理とかしたこと無さそうだったので、僕的にはそれほど驚いてないんだけど……。
「というか、月夜、成人していたの?」
「私を何だと思ってたの?」
……ほぼ女子高生。場合によっては、女子中学生かと思ってた。
「確かに悠斗の言う通り、私は世間知らずの上に生活能力が著しく欠如していることは認める」
「…………」
そんなことは言ってない。
「ただ、自分でもここまでとは思ってなかった。確かに勢いで決めた部分もあるけど、このままだと悠斗との共同生活の先行きが不安になる。無計画で見通しの悪い私を笑ってくれてもいい」
「…………」
笑うほどの余裕はないかなぁ……。
月夜が養ってくれないと、僕、順当に飢え死にすると思うんだけど……。
「というか、なぜ、月夜は僕の面倒を見てくれるの? 普段からそういうことをやっている人には見えないけど? それに凄く若いし……」
「そんなに若くはない」
「……」
そりゃ、外見から考えたら大学生でも十分に意外だけど。
「これでも悠斗と同い年の娘がいる」
「マジで!!」
思わず大声が出た。
お、同い年の娘って、どう計算しても、20代後半? 下手したら30代!?
……そんな馬鹿な!?
と、その時。
『こども先生ー!』
と勢いよく叫ぶテレビCMが流れてきた。
なんのCMか良く分からなかったけど、やたらと可愛い子役が扮する【こども先生】が生徒の悩みを解決するみたいだった。続き物のストーリー仕立てのCMみたいだ。
ただ、『こどもが先生』なんじゃなくて、『こどもに見える成人女性が先生』という設定らしい。貴重なCM時間の中でわざわざ説明するくらいだから、よほど大事な設定なんだろう。
「つまり、月夜は、こども先生ということ?」
「先生じゃない」
そりゃそうだ。
駄目だ。色々衝撃的過ぎて、頭が混乱してきた。
「でも、あんな可愛い先生なら、毎日楽しいだろうなぁ」
何となく現実逃避してみる。
「でも、さっきのCM。可愛いけどS、って書いていた」
「だったねぇ……」
貴重なCM時間の中でわざわざ説明するくらいだから、よほど大事な設定なんだろう。
「…………【アルティメット】という技術がある」
「へ?」
「人為的に成長を止める技術。確か……、西の白虎が保有している技術のはず」
「そ……そうなの?」
そんなおとぎ話のような技術が!?
「それって、不老不死!?」
「いや、普通に死ぬ。むしろ寿命が短くなる」
「……なにそれ」
なんの意味が。
「BMP能力は、感情がより揺れ動く時期……思春期に、より成長しやすいという特徴がある。その思春期の期間を長くするための技術」
「こ……効果があるの?」
「人によるとしか」
「…………」
怖すぎる。
そんなあやふやな根拠で、人の成長を止めちゃうのか。
西の白虎さんが何者かは知らないけど、無茶するなぁ。
「……でも。ということは、月夜も【アルティメット】なの」
「いや。私のBMP能力はすでに不必要なくらい強いから」
「…………」
『玉ねぎはしっかり炒めると甘くて美味しい』くらいに軽く言う月夜に、少しだけ寒気を感じた。
見栄でも自慢でもなく、当然の事実の表明……。
けど。
「じゃあ、なんでそんなに見た目が若いの?」
正直、こっちのほうが気になる。
「……体質?」
そして、一蹴された。
……体質なら仕方がない。
「ちなみに、【アルティメット】を解く方法はあるの?」
「あるよ」
「…………」
あるんだ。
「今後、悠斗がもしそういう人に会って【アルティメット】を解くことを望むなら、私に相談するといい」
「あ……ありがとう。……そうそうそんな人と会うことはないと思うけど」
「ただ一つだけ」
「?」
「個人差もあるけど……。30歳くらいまでに解かないと、一生解けなくなるからね」
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「幻想剣・生命剣ユグドラシル」
上条総合病院の一室。
樹木を象った剣が、澄空悠斗の身体の中央に突き立てられる。
緑色の光が、澄空悠斗の身体に染みわたっていく。
「綺麗デス……」
「治癒のBMP能力はレアだから初めて見たけど、こんな感じなんだな……」
剣麗華とともにお見舞いに来ていた、本郷エリカと三村宗一が感想を述べる。
が。
「お二人の今後のために、ひとつ補足を」
一緒に来ていた賢崎藍華が補足する。
「これは一般的な治癒のBMP能力とは根本的に違います」
難しい顔で藍華は言う。
「何ガ違ウんデスか?」
「治癒能力というのは、通常、患者の自己回復力を高めるものです。特殊なものになると患者の生命力を使わずに傷や病を除去するBMP能力もありますが、こんな風に『生命力そのものをBMP能力で補う』なんてことは、根本的に不可能です」
難しい顔のままでエリカの質問に答える藍華。
「なんで、不可能なんだ?」
「生命力を作り出すんですよ? そんなの……神の領域じゃないですか」
藍華の言葉に、エリカと三村が押し黙る。
「3日に1回はこうしないといけないから、神様に頼るのはちょっと気が引ける」
剣麗華は、幻想剣を消しながら真顔で言う。
賢崎藍華の言葉はあながち的外れではない。
三村達の目には、澄空悠斗の頬をさすって生命力が戻ったことを確認している麗華が、人間の少年に恋してしまった幼い女神のように見えた。
「3日に1回……しないといけないんだな」
「医療機器ではどうしようもないから」
「今度、出張スルって、聞きマシタけど……」
「一泊二日だし、何かあればすぐに帰ってくるつもり。できれば行きたくはないんだけど、悠斗君の状態を回復するために役立つかもしれない研究だから」
三村とエリカに応える麗華。
剣麗華は、ユグドラシルで命を繋ぐと同時に、澄空悠斗を回復させる研究を急ピッチで進めていた。
すでに学会で最高位の賞を得るほどの学説が仕上がっているらしいが、悠斗が目覚めない以上、彼女にとって何の価値もなかった。
「無理はしないでくださいね、ソードウエポン。貴方がBMP能力者である以上、賢崎一族は……私は、貴方の守護者でもあるんですから。」
「分かっているナックルウエポン。困った時には、貴方の力も借りる」
素直に答えて、麗華は目を覚まさない悠斗の顔を見る。
「BMP能力があれば、壊したり滅ぼしたりするのは簡単だけど……。命を繋ぐのは難しいね」