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BMP187  作者: ST
第五章『迷宮の突破者』
256/338

追想~月夜の出会い~:現実~四方神会議~



★☆★☆★☆★



月の綺麗な夜だった。

なので、今は午後8時ちょうど。

小学生に待ち合わせをさせるにはちょっと遅すぎると、首都駅噴水前で、僕は思った。


「午前8時……じゃ、ないんだよね……」

BMP管理局で渡されたプリントには、何回見ても『午後8時、首都駅噴水前で待ち合わせ』と書いてある。


さっきから大人の男性と女性が、何組も待ち合わせをしている。

大人って、こんな時間からデートするんだな……なんてことを考えていると。


ざざざざざぁっと、みんなの視線が僕……じゃなくて、僕が見つめる駅の方向に集まった。


「…………」

月の女神さまが現れたのかと思った。ものすごく普通に改札を通っては来たけれど。

制服は着ていないけど、女子高生くらい?

月があの人だけを照らし始めた……ような気さえする。


女神さまは周りの視線に気が付いているのかいないのか、すたすたと歩く。

すたすたすたと歩いて。

……僕の前まで来た。


「貴方が澄空悠斗?」

女神さまが僕の名前を呼んだ。

「は……はい」

僕は呆気にとられていた。


BMP管理局は、僕に、「これから君の面倒を見てくれる人を紹介します」と言っていた。

なので、(特に根拠なく)そこそこの年齢の柔和で奇特な女性を想像していたんだけど……。


「私が今日から貴方の面倒を見る」

と言っているので、この月の女神様っぽい女子高生(くらいの人)が、僕の面倒を見てくれる人でいいらしい。

「え……えーと? よ、よろしくお願いします?」

「うん、よろしく」

と言い終わると、女神さまは立ったまま口をつぐんでしまった。


「…………」

「…………」

……ひょっとして、僕が何か言わないといけないのでは?

と思ったので、何か言うことにした。


「え、えと? めが……お姉さまは……?」

「月夜でいい」

「げ……月夜様は……?」

「月夜でいい。……なぜ『様』?」

「……なぜでしょう?」

おそらく、『月の女神様』の印象にちょっと引っ張られたからだと思われる。


「げ……月夜? これからどうするんですか?」

「私たちが住むマンションに向かう」

「は……はい。分かりました」

と返事をしたけど、めが……月夜はやっぱり動かない。

少し困った顔をしている。


「月夜?」

「悠斗。『首都区新都中央1-87』って、どこか分かる?」

「…………」

分かりません。


「……僕は知らないけど、スマートフォンの地図アプリで調べればわかるんじゃないでしょうか?」

「スマートフォンは持っていない」

「…………」

月の女神さまは、若干、ポンコツのようだった。


「どうしよう、悠斗。私は今回一人で来たから、ホテルに泊まることも難しいかもしれない」

「とりあえず、あそこの交番で住所聞きませんか?」

「? 交番には、そんな機能があるの?」

「あると思います」

という僕の言葉に納得したのか、月夜は僕と並んで歩きだした。


いつの間にか、周りの人たちの視線も忘れていた。凄く見続けられてはいるんだけど。

なんというか、面倒を見てくれるはずの人の方が危なっかしいというか……。こんな綺麗で世間知らずの人を、夜一人で歩かせて大丈夫なんだろうか、とか。


思った。



★☆★☆★☆★



ある建物の一室。

テーブルの四方に一つずつ、四つの椅子が用意されている。

椅子には誰も座っていないが、その背後に人物を移すモニターがある。


『で、境界の勇者様はどうなったって?』

【東】に位置するモニターに映る少年が言う。

少年の後ろには、美しいメイドが控えている。

『澄空悠斗の状態は思わしくないみたいよ。剣麗華が延命処置を講じているようだけど、BMPハンターとして復帰する可能性は低いと』

【南】のモニターに映る少女が言う。

『所詮、その程度の男だったということだ』

【西】のモニターに映る偉丈夫が言う。

『ちょいちょい、白っち。仮にも境界に至った功労者だぜ。その言い方はないんじゃない?』

『そうよ。我々神一族も感謝すべきだわ。最低でも20年は、世界の寿命が延びたんだから』

【東】と【南】が反論する。

『……別に評価していない訳ではない。境界の勇者でも約束に至るのは容易でないというだけの話だ』

さすがにまずいと思ったのか、【西】は言葉を改めた。

『ま、それを【鑑定】するために、俺らがいるんだけどな。……実際、これからどうすんだ? 黒っち』

【東】が【北】のモニターに映る男に声をかける。

『様子見だな。慌てることはない。澄空悠斗が目覚めるならば良し。そうでなければ、次の主人公を待つだけだ』

【北】のモニターに映る男性。北の玄武の当主代理、黒神大地が答える。

『だよなぁ……。待つばっかじゃん、俺ら』

『やむをえまい。主人公を作るプロジェクトもうまくいっていないようだしな』

嘆く【東】と、どこか皮肉気な【西】。

『少なくとも、うちには期待しないで』

『そういや、親父さん、まだ出てこないのか?』

『もう、私でも連絡を取れない状態よ』

【南】と【東】で会話をする。

『もういいな。切るぞ』

しびれをきらしたのか、【西】のモニターが沈黙する。

『相変わらず短気だなぁ、白っち。でも、ま、確かにもう話すことはないか。俺も切るわ』

【東】のモニターも沈黙する。

『そういえば、北の当主様は?』

後に残った【南】が【北】に問う。

『戻られる様子はない』

『…………』

『……どうした?』

【北】が【南】に問う。

『黒神。貴方、少し楽しそう?』

『? 何の話だ?』

『……ごめん。聞かなかったことにして。私も切る』

【南】のモニターも沈黙する。


最後に、【北】の……黒神大地のモニターだけが残った。


『鋭いな、赤神』

感心したように言う。


そう、彼は少し楽しかったのだ。

【東】と【南】と【西】。神一族があまりに愚かで。


『退屈なだけの会議だったが、ここまで楽しめるとはな』

愚かすぎて、愛しさすら湧いてくる。


澄空悠斗が再起不能?

本当にそんなことを思っているのか?

主人公が存在しない物語がどこにある?


仮にも当主である者が、これまでの澄空悠斗を見てきて、あの反応とは。


『100年間全く進歩のなかった愚かな一族が、どんな風に壊されていくのか……』

想像しただけで、楽しすぎる。


そう、慌てることはない。


『すぐに出番は来るさ。大根役者ども』

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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりの更新だったので1話から読み直しました! またこの物語を楽しませてもらいました! 五章に入ったということは、まだ続くってことでいいんですよね⁉︎ 楽しみにしています
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