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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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第四章『境界の勇者』エピローグ

呆然と……という言葉が一番近い。

三村たちは、麗華さんの後ろで立ち尽くし。

俺と小野は、その場で尻餅をついた。


「じゅ……16層の重力結界と誓約剣が創り出す力場を……」

「消し……飛ばした……?」

小野に続いて、俺も言葉を絞り出す。


俺たちはともかく、三村達が無事なのは、麗華さん凄いとしか言いようがない。

衝撃の余波でホールの天井が消し飛んで、副首都区の赤い空が見えている。


16層の重力結界とエクスカリバーはそれぞれ健在だが、もう俺達に戦闘を継続するような気力はなかった。


悠然と歩み寄ってくる麗華さんの右手には、銀色に輝く剣。

俺が初めて見る幻想剣だ。

エクスカリバーではないようだけど。

彼女自身が最強と呼んでいたエクスカリバーの力場を消し飛ばした剣。


「麗華さん……」

俺、ひょっとして、この娘のこと、何も分かってなかったんじゃ……。


がちゃん、と。まるでゴミでも捨てるように麗華さんは銀色の剣を手放した。

最強と思しき魔法剣は、名前を呼ばれることすらなく、虚空に消えていく。


「悠斗君」

「は……はい」

母親に叱られる幼子のように返事をする俺。


「悠斗君の価値は私が決める」

「え?」

「勝手に無価値にならないで」

「で……でも……」

「私に決めさせて。お願い」

「…………」

……この娘は……自分がとても残酷なことを言っているのを、分かっているんだろうか?

場合によっては、それが俺にとって、死ぬよりつらいかもしれないとは思わないんだろうか……?

それが怖かったから逃げ出してきたとは考えてくれないんだろうか?


「…………」

……でも。

麗華さんに『お願い』されたなら。


「……分かっ……た」

断れない。


すると。


唐突に、俺が握っていた誓約剣エクスカリバーが、金色の輝きを放つ。

それまでサボっていたとしか思えない、強烈な金色。


「な……な……」

「これって……」

事態が呑み込めない俺を尻目に、小野は自らエクスカリバー目がけて飛び込んでくる。


パキパキパキパキィと、水たまりに張った氷を連続で割るような音がして、小野の纏う重力結界がことごとく粉砕されていく。

そして……。


「お……!?」

「凄い」

あっという間に小野の身体を誓約剣が貫いた。


な!?


「何やってんだ! 小野!?」

「決着を付けたんじゃないか」

「け、決着って……!?」

「本当に馬鹿だよね、僕は。君の愛が何から生まれていたかも分からないなんて」

エクスカリバーから漏れ出す金色の光が、小野の身体に広がっていく。


「剣麗華が居てこその澄空悠斗。最期の最後で、ようやく、完全な君に会えたね」

「んなこと言ってる場合か!」

力一杯引き抜こうとするが、誓約剣はびくともしない。


「これね。今、『コア』を貫いてるんだよ」

「え?」

言われてみれば、貫いている部分が球体上の赤い光を放っている。


「これ。暴発することなく消滅するよ、コア」

「そう……なのか?」

それは良いこと……だと思うけど。


「BMP200到達、おめでとう」

「あ……」

境界……。

超えたんだな。


「モニタリング機器は正常に作動しているみたいだ。あとは人間たち次第だけど、うまくいけば、幻影獣の発生を抑える手段が見つかるんじゃないかな?」

「…………」

「『境界の勇者』の誕生だね」

「小野……」

「安心してよ悠斗君。世界法則の呪いは引きずらない。君が誓約した通り、僕は『救われた』よ」

「どこがだよ……」

「君を英雄にして、四聖獣の責務を果たせて……。最強の……最高の澄空悠斗を独り占めにできた。これが救われたと言わずして、なんであろうか?」

「……あほ……」

少しおどけて言う小野に、何とか言葉を返す俺。

小野倉太は、俺にとって、驚くくらい『友達』だった。


「でも……一つだけ……気が……かりが……」

『コア』は小野と一体化している。

小野の身体も壊れ始めている。


「何だ?」

「ミーシャをね……。よろしく……頼みたいんだよ」

「…………」

「……ああ見え……てね。寂しがりや……で、無害……なんだよ」

「ほんまかいな」

「ほんま……ほんま……」

掠れた声で笑いあう俺達。


「分かったよ。機会があれば、考えてみる」

「よろしく……ね」

『コア』が断末魔の叫びをあげているのが分かる。

小野の崩壊が近いのが分かる。


「ああ……楽しかったなぁ」

「そうか」

「またね、悠斗君」

小野はそれだけ言い残し。

『コア』とともに。

ぱぁんと。


弾けて消えた。


◇◆


しばらく意識を失っていたんだと思う。

気が付けば、麗華さんに膝枕をされて、俺は空を見上げていた。


「見て、悠斗君」

麗華さんに促されて目を凝らす。

「…………?」

空の赤色が薄くなっているような……。

いや!


「空が……!」

青く……!


「コアがなくなりましたからね。あとは時間の問題でしょう」

賢崎さんを背負った春香さんが言葉を発する。

いつかのような無表情だが、何となく喜んでいるような気配も感じる。

「……(こくこくこくりと!)」

隣では、雪風君が必死にうなずいている。


「やったな澄空!」

「教科書に載るな、こりゃ」

峰と三村も、それぞれ祝福をしている。


少し離れたところでは、ハカセ達三人も、空を見上げていた。


「悠斗さん、麗華さん! 良かっタでス! 本当ニ! 良カった!!」

俺を押しつぶすように麗華さんに抱き着いてくるエリカ。


美少女二人にサンドイッチされているのだが、俺は照れたりしなかった。

……身体の感覚がないのだ。

命を失うことはなかったが、やはり、もう、取り返しはつかないらしい。


「……悠斗君?」

「ん」

だが、麗華さんには笑顔で返す。

おそらくは、麗華さんの中で聞いている賢崎さんにも聞こえるように。



「副首都区、解放だ」



◇◆◇◆◇◆◇



副首都区開放からしばらく後。

我が国の国民は大いに盛り上がっていた。


レオの時よりも大きな危機。

副首都区の『コア』の暴走という国家消滅クラスの危機を乗り越えたのはもちろん、その際に俺がBMP200を超えたことにより、幻影獣発生のメカニズムに関する研究が大きく前進したらしい。


本格的な研究はこれからだが、幻影獣の発生を大きく抑えることができる可能性もあるようだ。

俺が知らなかっただけで、最近、幻影獣の質と量が急激に伸びてきていたらしく、『このままでは世界は終わる』と考えていた知識人や勢力は多かったらしい。

映画のように『一部の人類のみで宇宙の果ての新天地を目指す』などと本気で計画していた、などという話が笑い話として紹介されていたりもした。全然笑えないが。


何はともあれ、ひとまず終末は避けられそうだという雰囲気で、世の中は大いに盛り上がっていた。


……ただ。


その立役者である俺は、病院のベッドの上だった。


◇◆


「悠斗君」

「……ん」

麗華さんの声で目を覚ます。

少し眠っていたらしい。


「麗華……さん?」

「みんなも来ていたんだけど、さっき帰った」

「そっか」

確かにお土産のフルーツらしきものが残されている。


「フルーツ食べる?」

「いや……今はいいよ」

今……というより、最近ずっと食欲がない。


上条博士は「絶対安静」としか言わなかったが、たぶんもうそういう状態でないような気はしていた。


「悠斗君、私に何かして欲しいことがあるの?」

「!?」

心の中を読まれたのかと思って、心の中で飛び上がった。

しかし、麗華さんの顔を見る限り、そういう訳でもないらしい。


「今日、一緒に居てもらうことはできる……かな?」

「分かった」

意図が伝わったかどうかは不明だが、とりあえず麗華さんは『分かった』してくれた。


「ベッドを運び込んで、泊まる準備をする」

麗華さんが言う通り、俺の病室は個室。しかも馬鹿でかい。もう一人泊まれるどころか、このまま二人で生活できそうな広さである。

「あと、何かして欲しいことはある?」

さらに聞いてくる麗華さんに、俺はもう一つお願いをする。


◇◆


上条総合病院の屋上。


俺は車椅子に座って、麗華さんと二人で夕日を眺めていた。

別に足を骨折したわけではない。ただ、歩けないだけだ。


「ちょっと冷えるね」

「ああ」

麗華さんの問いかけに応える。

正直あまり寒さは感じていなかった。眠気はあったけど。


「まだ仮説の域を出ないんだけどね……」

麗華さんが話しかけてくる。


「幻影獣は、人間の精神エネルギーのようなものから生まれてくるらしいの」

「そういう学説自体は聞いたことがあったけど……」

「それが証明できるかもしれないって」

「それは凄い」

「悠斗君の功績だよ」

麗華さんの言葉とともに、少し間が空く。


「人間の精神エネルギーは、特定の経路を通って幻影獣になるらしいの」

「ひょっとして、その経路を塞げる?」

「可能性はあるらしい」

それは凄い。

「BMPハンターという職業が、この世からなくなるかもしれない」

「……そっか」

『BMP能力がない俺は無価値』と、麗華さんに散々迷惑をかけて大ごねしたが、BMP能力がなくならなくても、BMP能力が生かせない社会が近づいているのかもしれない。

皮肉にも、俺自身の手で。


もちろん後悔はない。いくら麗華さんのことが好きでも、世界中の人間を犠牲にするほど、自分勝手にはなれない。

……それはそうと、やはり眠い。


「……ねぇ、悠斗君」

「うん……?」

「悠斗君がBMP能力を使えなくなっても、BMP能力が必要ない世界になっても。私は悠斗君の傍にいたいと思っているよ」

「ありがとう」

その言葉は素直に嬉しい。

でも、いつまでも縛るつもりはないんだ。

あと……。


「もう少しで……い……い」

我慢ができなくなり。

俺は眠った。



☆☆☆☆☆☆☆



澄空悠斗の意識がなくなったのを確認して、剣麗華は一本の幻想剣イリュージョンソードを幻創する。


「生命剣ユグドラシル」

樹木をかたどった、命の剣。


澄空悠斗の寿命が尽きそうであることは把握していた。

ただ、彼女は焦ってはいなかった。


剣麗華は優れた学者でもある。そう遠くない時期に、澄空悠斗の体調を回復する術を見つけるつもりだった。世界には悪いが、幻影獣の発生メカニズムの研究より先だ。

さらに、剣麗華は優れたBMP能力者である。副首都区で構想を固めた『治癒の幻想剣』で、澄空悠斗を一時的に延命することは難しくないと知っていた。


「悠斗君の悩みを気づいてあげられなくてごめんね。すぐに信じてくれないのは分かっているけど、剣麗華は澄空悠斗のパートナーだから。ずっと一緒に居るよ」

生命剣ユグドラシルを澄空悠斗の身体に突き立てていく。

治癒の幻想剣から発する緑色の光が澄空悠斗の身体に染みわたっていく。


そして。


「今はまだ、恋も愛も分からないけど」


幻想剣はそのままに、身体を寄せ。


「恋人だってできるよ」


唇を重ねた。



第四章『境界の勇者』完。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 待ってました。 何年も消せずにいました。ブックマーク登録したままで良かったです。ありがとうございます。
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