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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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副首都区攻略戦8

剣麗華とその仲間たちは、一団となって神殿と化した副首都区役所本庁舎を進んでいた。

麗華の手には、幻影対策に干渉剣フラガラックが握られている。


「剣。フラガラックで幻影防御ができているはずなのに、どうして俺たちは庁舎が神殿に見えているんだ?」

「防御できているのは最低限。支配力では、相手のほうがずっと上。そこまで手が回らない」

5メートル間隔で奇妙かつ込み入った彫刻が施された柱が並ぶ広大な空間を走り抜けながら、麗華は峰達哉に答える。


「つまり、俺たちって今、現実では、ほぼ足踏みしている状態なんだろ? なんか間抜けだよな」

三村が緊張感のないことを言う。

確かに、現実の庁舎は幻影として見えている神殿風の建築物よりずっと小さい。これだけのスピードで走り続けていれば、本来であればとっくに目的地まで着いているだろう。


「これだけ広域の幻影術を破るよりは、相手のルールに従って幻影の中を走り抜けた方が速い。でも、疲労は現実に走っているのと変わりがないから、飛ばし過ぎないようにして」

「そうイウことナラ……」

と、エリカ・峰・三村の視線が後方に向く。

そこには、融合進化ハイブーストで意識を失った賢崎藍華を背負って、麗華達の疾走に平然と付いてくる式春香の姿があった。

もちろん、その隣には小さな槍を背負った式雪風の姿もある。


「どうかしました?」

きょとんと聞いてくる式春香。

「いや、疲れないのかなーと」

素直に疑問を口にする三村。

三村たちの疑問に合点がいったのか、ふっふっふと、TPOをわきまえない笑い声をあげる春香。


「お嬢様の美乳が背中にあたってるんですよ。疲れなど感じるわけがありましょーか」

「いえ、それでも疲れると思います」

冗談が通じないのか、突っ込んでいるつもりなのか、真面目に返す峰。


「………………。丹田から活力(ストレングス)。いわゆる身体強化系能力ですね。臥渕さんのものには遠く及びませんが」

ボケが通じないと見たのか、普通に説明する春香。

「身体強化系? いやでも、全然BMP能力を展開している気配を感じないんですが」

峰が食い下がる。

「ふ。私は変態ですが、熟練者なのですよ」

「…………」

今更変態と言われても真新しさは全くないが、春香の底知れない実力には押し黙る峰。


「ところで、万が一、迷宮ラビリンスが現れて戦闘になったら、皆さん、私の元に集合してください。あの敵相手には、足手まといにならないのが最大の手助けだと思いますので。戦闘は麗華様に任せましょう」

「? ひょっとして春香さん、幻影防御もできるの?」

わずかに驚いた様子で麗華が問う。


「この人数であれば問題ないかと」

「……凄いデス」

「ふ。私は変態ですが、多彩で多才なのですよ」

「…………」

今更変態と言われても真新しさは全くないが、春香の引き出しの多さには感嘆せざるを得ないエリカ。


「っ! 止まって!」

麗華の緊迫した声で急停止する一同。


まるで天国に通じる門のような豪快で豪奢な扉の前に、黒いドレスの上に白衣を纏った妙齢の美女が佇んでいた。


「来るとは思ってたけど、やっぱり、来ちゃったかぁ……」

美女――の姿をした幻影獣、ミーシャ・ラインアウトが呟く。


三村たちが春香の近くに集まり、麗華がフラガラックの効果範囲を自身のみに絞る。


「……? 麗華さんの効果範囲を外れても幻影が効かない? 貴方、何者?」

「式春香と申しますわ。以後、お見知りおきを」

藍華を背負ったまま、場違いなほどに優雅に一礼する春香。


「式の人間……? まだ、貴方みたいなのを隠してたのね」

「特に隠れているつもりもないのですが。御覧のとおり今は全く手が出せそうにありませんので、お構いなく」

「そう願うわ。お姫様……じゃなかった。女神様の相手で手が一杯だから」

そう言い終わると同時に、白衣がはためき始める。


迷宮千変ラビリンスバリエーション魔光連弾ファントムビット

ミーシャが囁くと同時に、背後に浮かんだ十数個の光弾が麗華目がけて放たれる。


「これは幻影防御できない! 避けて!」

麗華が叫ぶ。


ミーシャが使ったのは、より精神への干渉力を強化した幻影術。

干渉剣フラガラックで防御することもできず、直撃を受ければ、精神がダメージと誤認し、身体を崩壊させてしまう。


麗華は、華麗なステップで全弾回避して見せるが。


「皆さん、そのまま。逃げる必要はありませんよ」

式春香の一言で、三村たちの足が止まる。

確かに、回避のために春香の傍を離れれば、今度は通常の幻影術の餌食になるのだが……。

「でも、当たったら……!」

三村が叫ぶと同時に、光弾の一つが春香達の近くで弾けて消える。

「エ……?」

エリカの疑問の声。

残りの光弾も、ひとつ残らず、春香達に届くことなく雲散霧消した。


「……幻影防御できるの……?」

麗華ですら驚いた声。


「ど、どうなってんすか?」

「ふ。私は変態ですが、テンションと場合によっては頼りになるのですよ」

今更変態と言われても真新しさは全くないが、春香が頼りになるという事実は認めざるを得ない三村。


「本当にとんでもないのを出してきたわね……」

「私もあの人のことは良く分からないけど、おかけで戦闘に集中できる!」

瞬間移動と見間違うただの接近行動から、干渉剣で薙ぐ麗華。

「っ!」

浅く裂かれながらも、ミーシャが転がりながら距離を取る。


迷宮千変ラビリンスバリエーション業火クルードフレイム!」

ミーシャの腕の振りにより巻き起こされる、幻影の炎。

だが、麗華は臆することなくフラガラックを盾のように構えて飛び込んでいく。

そして、何事もなく、炎の嵐を通過する。


「なるほど。幻影の干渉力が上がったのなら、幻影防御の方も出力を上げればいいのか……」

「て……天才過ぎでしょ……」

呆然と抗議の声をあげるミーシャを、麗華がフラガラックで右から袈裟斬りに薙ぐ。


「あぐっ!」

続けて、左から胴薙ぎ。

「ぎっ!」

さらに続く突きを躱して、ミーシャが距離を取る。


「き、消える……。このままだと、普通に消えちゃう……!」

「止まってどうするの?」

焦るミーシャに、麗華が容赦なく距離を詰める。


そして、フラガラックで薙ぐ。

……が。


「?」

フラガラックは、ミーシャの手に出現した一振りの剣によって防がれていた。

「!」

しかも、あろうことか、今度は、ミーシャの剣がフラガラックを透過して、麗華に迫ってくる。

「!?」

紙一重でかわし、距離を取る麗華。


一方のミーシャは悠然と剣を突き付ける。


幻影剣イリュージョンソード。私の切り札よ。質量があるように感じられる幻。貴方の精神が『在る』と感じる剣だから、私の剣は貴方の剣を防げるけど、私の剣は貴方の剣を透過する」

「…………そう」

と、特に感慨もなく、無造作に距離を詰める麗華。


「! 分かってんのかしら!」

幻影剣イリュージョンソードで斬りかかるミーシャ。


上からの斬り下ろし→麗華が一歩下がって躱す。

下からの斬り上げ→麗華が半身になって躱す。

左からの横薙ぎ→麗華がさらに一歩下がって躱し。


麗華のフラガラックが、ミーシャの左の首元から袈裟斬りに薙ぐ。


「が! あぁ……!」

「剣を持ったことも無さそう。剣術とすら言えないレベルだよ」


右からの袈裟斬り。

左からの横薙ぎ。

右からの横薙ぎ。

真中への突き。


滅多切りだった。


「あ……が……! が……が……!」

言葉にならない声を上げながら、ミーシャが仰向けに倒れる。

その胸元を足で踏みつけて動きを封じる麗華。


「消えなさい、幻影獣」

そして、無慈悲に告げる。

左右に半分に斬り分けるかのような軌道で、フラガラックが振り下ろされる。


「!?」

しかし、その瞬間、ミーシャの身体が、大量の青い蝶となって四散する。

そのまま青い蝶たちは、天国の門のような扉とは反対方向に逃げて行ってしまった。


青い蝶たちが完全に姿を消すと、神殿のようだった景色が元の副首都区役所庁舎に戻る。

戦闘が終わったことを悟った三村達が、麗華の元に集う。


「……逃げられたのか?」

「うん」

峰の声に、特に気落ちした様子もなく答える麗華。


「まぁ、追い払えただけでも十分だ! さすが剣! 見事だったぞ!」

素直に褒める峰。

「麗華さん! 凄すぎデス!」

ぴょんぴょん飛び跳ねながら、ここぞとばかりに麗華に抱き着くエリカ。

「ぶっちゃけ、どちらが幻影獣か分からない闘いぶりだったぜ……」

あえて言わなくてよさそうなものだが、思わず本音を言ってしまう三村。

「……(こくこくと)」

讃えているらしい雪風。


それから……。


「麗華様。ひょっとしてさっきの青い蝶になる幻影術。次は仕留められたりします?」

「……次というか……。さっきも捉えられないことはなさそうだったけど、みんなも居たから、あえて危険を冒さなかった」

「……天才って、居るんですねぇ」

無表情になって呟く春香。

何を考えているのかは全く読み取れない。


「どのみち、あの人に構っている暇はない」

そう言って麗華の見つめる先には、天国の門のような扉。

庁舎全体にかけられた幻影術は解けたのに、この扉だけはそのままだった。


「最後のあがきか……」

峰が呟く。


「時間がない。春香さん、力を貸してくれる」

「喜んで」

春香は無表情で答えた。

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