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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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副首都区攻略戦7

「これは……きついな……」

今しがた自らが仕留めたサイに似たBランク幻影獣――ベヒーモスの上で、息を切らす天竜院透子。

この一体ではない。すでに本日3体目のベヒーモスだった。

会うことすら稀で、会った以上は総力をもって対峙しなければならないのが、Bランク幻影獣。

Bランク最弱とはいえ、1日3体のBランク討伐は、世界新記録だった。


「……さすがに、これは死ぬかな……」

ベヒーモスの背中に突き立てた刀に寄りかかりながら、呟く。

視線の先には、さらに3体のベヒーモス。

さすがに、もうどうにもなりそうになかった。


……しかし。


「逃げるわけには……いかないか」

副首都区役所本庁舎を見ながら呟く。

あそこでは、剣麗華が闘っている。

この3体のベヒーモスが乱入すれば、何が起きるかわからない。


「……一応、貴方のために死ねるということか……」

わずかに自嘲気味に囁いて。

天竜院透子は立ち上がった。


「さぁ! かかって来い、幻影獣ども! この天竜院透子の最期にふさわしい闘いを演じて見せろ!」

裂帛の気合とともに、刀を向ける天竜院透子。

だが、次の瞬間、妙なことに気づく。


「…………?」

幻影獣達が襲い掛かってこない……というより、巨体を縮こまらせて、まるで何かに怯えているかのようだ。



…………と。



「『最期』にされては困るな」

落ち着いた……しかし、重々しい声が響く。

ベヒーモスの間から姿を現したのは、艶やかな黒い長髪を持った長身の男。


「これは俺の勘だが……。君には、まだ利用価値があるようだぞ」

3体のベヒーモスに挟まれながらも余裕を崩さない……というより、ベヒーモスを怯えさせている男に、透子は見覚えがあった。


「黒神大地……。確か、神一族の……北の玄武の当主か?」

「当主代理だ。間違えないように」

それが重要なことなのか、黒神大地は少し強い口調で言った。


「そうだったな」

認める透子。

確かに、彼は必ず『当主代理』と名乗っていた。

ただ、北の玄武の『当主』が誰か全く公表されていないので、実質的に当主だろうと思っていたのだ。

……いや、そんなことより。


「貴方は幻影獣なのか?」

Bランク幻影獣を怯えさせる人間がいるはずがない。

「そうだ」

あっさりと認める大地。


(人の姿をとっているということは、Aランク幻影獣か……)

それほど意外には思わずに受け入れる透子。

神一族は謎の多い一族である。また、『神一族の当主は幻影獣を従えている』という噂も有名である。

ただ……。


「ベヒーモスを怯えさせるような剛の者が神一族に仕えているとは思わなかったな」

「そんなに大げさなものではない。こいつらは、私の眷属だからな」

「眷属だと?」

意外なセリフに驚く透子。

だが、大地は、それはあまり重要ではない、とばかりに話す様子がなかった。


「私に利用価値があると言ったな?」

「私ではなく、私の主にとって、だがな」

「主……?」

「大事なところだったのに、君が死にそうだったから、慌ててこっちに来たのだ」

「それは……悪かったな」

大地の言っていることは良く分からないが。助かったのは確かである。


「こいつらはあの建物に入らせないから、少し休むといい。ここではダメージを自覚しにくいのか? 無理すると死ぬぞ」

赤く染まった副首都区の空を見上げながら言う大地。

「それは……助かる」

本当に助かる。


「礼なら、私の主に言うといい」

「主と言われても……。誰のことか分からなければ、礼の言いようもないが?」

「それなら問題ない」

透子の当然の指摘に、なぜか確信をもって答える大地。


「君は私に似ているところがあるからな。いずれ、私の主に惹かれるだろう」



☆☆☆☆☆☆☆



小野の完全なる世界(パーフェクトワールド)が発する引力を、自分の完全なる世界(パーフェクトワールド)で無効化しながら、斬り結ぶ。

劣化複写なので、当然武器の威力では負けており、打ち合うごとに、こちらに一方的に疲労が溜まる。

決して接近戦が得意ではない小野だが、さすがにこの武器の扱いは慣れている。対して、俺のほうはこんな武器(ハルバード)など持つのも初めてである。


……控えめに言っても不利だった。


「くっそ……」

完全なる世界(パーフェクトワールド)の迫力が凄すぎて、別のBMP能力に切り替えるスキがない。

わずかでも隙を見せれば、その瞬間に身体を両断されそうだ。


《悠斗》

(翔?)

《おまえのBMP能力が加速度的に膨れ上がっている》

(最初に聞いた! 命がやばいって話だろ!)

《それはもちろんそうだが。どういう事情か、おまえの完全なる世界(パーフェクトワールド)に上昇分が反映されていない》

(?)

《ヤツの方はそんなことはない。このままだと普通にパワーで押し切られるぞ》

(…………)

やばすぎじゃないですか。


「く……この……」

とはいえ、一気に勝負を決めるような余裕は全くない。

むしろ、防戦一方である。


《この状況を逆に利用するしかねぇ。余剰分でアイズオブゴールドを使うぞ》

(その手があったか)

アイズオブゴールドで別のBMP能力を同時に使う。

……しかし。

《BMP能力は慎重に選べよ。一度出したら切り替えるような余裕はないぞ》

(だと思った……)

当たり前の話ではある。


「…………」

大出力系はだめだ。そんなコストは捻出できそうにないし、接近戦中にそんなものを放つ余裕もない。飛び道具系も同様。

移動系も意表を付ければ悪くないが、意表を付けなければ、こんな扱いにくい武器を抱えての高速戦闘は、逆に自分の首を絞めそうな気がする。

アイズオブゴールドは左目が金色になるので、発動したのがバレバレなのである。


《アイズオブゴールドのことをヤツが知らなければ良かったんだが》

(話したような気がする……)

口は災いの元。……という俺に対する評価は、今回の場合は、あまりに酷ではなかろうか。


「どうした、悠斗君! 武器ごと両断されそうな勢いだよ!」

小野の完全なる世界(パーフェクトワールド)の迫力が、目に見えて膨れ上がっていく。もう、あんまり余裕がない。


方針を決めよう。

1.近接系で。

2.できたら、小野が知らないBMP能力。


そんなもの……。

……ありました。


《EOG、いけるぞ、悠斗!》

「アイズオブゴールド、発動!!」

斬りあいながら、金色に輝く(※自分では見えんけど)俺の左目。

「っ!」

警戒して距離を取ろうとする小野に追いすがる。


「近接系かい! 発動させない!」

と、もう一つのBMP能力が発動する前に叩こうと、完全なる世界(パーフェクトワールド)を振るう小野。


その両手が。

飾り気のない片刃の剣に貫かれている。


「な……?」

幻想剣イリュージョンソード・絶剣ダインスレイブ」

対戦者の剣技を複写する近接戦闘用の幻想剣。

複写データの中にあった『城守さんの突き』で、完全なる世界(パーフェクトワールド)を握る小野の両手を縫い留めた。


「終わりだ! 小野!」

左手でダインスレイブを保持し、右手で完全なる世界(パーフェクトワールド)を振りかぶる。

狙うのは小野の胸。『コア』があると思われる場所。


最後の力を振り絞り、完全なる世界(パーフェクトワールド)を振り下ろす!


……が。


「あ、あれ……」

空振った。

……というか、完全なる世界(パーフェクトワールド)が消えた?


「な、なんで……」

立っていられずに座り込む。

急速に目がかすむ。


「…………こ」

「……時間切れだね」

霞む姿で小野が告げる。

「さ……」

さっきまで絶好調だったのに……!

「今の君は、『自分の体のダメージが正常に把握できない』って、最初に言ったよね」

「……」

『気が付いたら死んでた』?


「そ……ん……!」

「勝負は完全に君の勝ちだった。最高の満足とは言わないけど、僕もそれなりに満足できたよ」

「お……の」

「もちろん僕も付き合うよ。コアが暴発するまで、もう一時間もない。幻影獣が天国に行けるかどうかは知らないけどね」

コアが暴発すれば、ハカセ達も助からない。

「この国自体も終わるかもしれない。そのこと自体はどうでもいいけど、悠斗君を英雄にし損なったのは、残念かな」

「…………っ!」

こんな……。こんな結末のために、命をかけたんじゃない!

麗華さんに、あんな顔をさせたのに、こんな結果で言い訳がない!!


「…………」

心でいくら叫んでみても、もう、声一つ出ず。


俺の意識は闇に沈んでいった。

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