副首都区攻略戦5
「くそっ!」
峰が毒づく。
銀の弾丸一発目が、ドラゴンを大きく外れたからである。
10メートルほど。
「力み過ぎ……というか、手が震えてましたよ。もう少し、落ち着いてください」
「す……すまない」
さらっと謝る峰達哉だが、これで澄空悠斗に五千万円の借金が発生したことになる。
「み……三村さん……」
「見るな、エリカ! 俺達には払えないんだ……」
切なそうに諭す三村だが、それで彼の罪が消えるわけではない。
「高いものだと考えるからいけないんですよ。もう少し気楽に撃った方が良い結果が付いてきます」
「……で……デモ、イチオクエンなんデスけど……」
「こうか!」
エリカの小さな悲鳴すら耳に入らない峰が二発目を撃つ。
銀の弾丸は、ドラゴンの胸板辺りに着弾した。
「と……とりあえず、当たったぞ」
「眼を狙ってくださいと言ったじゃないですか」
「わ……分かってる」
賢崎藍華のナビゲーションに従い、続けざまに、3・4発目を撃つ峰達哉。
4発目は、ドラゴンの額あたりに着弾した。
「賢崎さん!」
「いいですよ、峰さん!」
喜び合う二人。
「……三村さん……。私、泣キソウです……」
「大丈夫だ、エリカ。澄空には剣が付いてる」
金銭的に。
ドラゴンの眼の近くをかすめるように、峰が5発目を外す。
「もう一歩ですね。試しに二発同時に撃ってみますか?」
「二発って、こうか?」
峰が、銀の弾丸を、人差し指と中指の間、中指と薬指の間、に挟む。
「うん……。意外といい感じだ」
「峰さんは『砲撃』ですから、こちらの方が性に合っているのかもしれませんね」
盛り上がる二人。
「ご……ごめんナサイ。悠斗さん……」
「エリカ……。君のせいじゃない」
もちろん、三村のせいである。
7発目が、ドラゴンの瞼の上に当たった。
「ど……ドラゴンが怯んだ!」
「チャンスです、峰さん! 思い切って3本で行きましょう!」
「こうか!!」
二本の持ち方に加えて、親指と人差し指の間で三本目を持つ峰達哉。
その峰の手首に手を添えて、ドラゴンに向かってナビゲーションを行う賢崎藍華。
「…………」
ついに気を失うエリカ。
「え、エリカ!?」
特にやることがないので、そのエリカを支える三村。
煩わしい攻撃に業を煮やしたドラゴンが、大火球のブレスを放つ。
それを、W炎の魔女が迎撃する。
爆撃の衝撃に揺れる車内で。
「峰さん!」
「行け!!」
3本の銀の弾丸が、赤く染まった空を切り裂いた。
☆☆☆☆☆☆☆
「引斥自在!」
「くっ……」
7メートル先から、小野がかざした右の手のひらに体全体が引き寄せられる。
引斥自在で相殺しようと一瞬考えて、止めた。
「劣化複写・右手から超爆裂!」
引き寄せられたことを利用して、至近距離から、右手から超爆裂を喰らわせる。
上下と前後が逆になったような体勢で撃つことになったが、関係ない。
が。
「……無茶するなぁ」
かなりの至近距離だったが、小野との間に見えない壁があるかのように、炎が届かない。
そして、小野が、次の攻撃の用意をしていることに気づく。
「引斥自在」
「劣化複写・引斥自在!」
慌てて相殺するが、消しきれない。
ホールの椅子に何度かぶつかりながら、10メートルほど吹っ飛ばされた。
「い……痛ぇ……」
いくらBMP能力がブーストされていても、物理的に痛いものは痛い。
だが、今のは……。
「運が良かったね」
小野が言う。
たぶん、今のは、引力で引きつけたまま斥力をぶつける技。
俺の反撃で驚いた小野が、引力を解除していなければ、俺の体はねじ切られていた……。
……怖ぇ。
「引力と斥力を同時に使って敵をねじ切る……。アックスウエポンの名の由来さ」
「いや、それ、アックス関係ない……」
いまさらだが、なんであいつ『アックス』なんだろう?
「引斥自在」
「ちっ……」
考えるまもなく、引斥自在が飛んでくる。
慌てて、劣化複写・引斥自在で相殺するが……。
「それじゃだめだよ、悠斗君」
「ぐ……」
小野の言うとおり、俺の能力は基本的に劣化複写。
少しずつ、小野に向かって引き寄せられている。
このままだと今度はさっきのねじ切り技をまともに喰らう。
とはいえ、普通に反撃しても、小野が張る見えない結界に防がれる。
あの結界は、斥力を応用した何かだとは思うのだが……。
「……やってみるか」
覚悟を決めて、劣化複写・引斥自在を解除する。
瞬間、もの凄い勢いで小野に引き寄せられる。
「何の真似だ! ……なんて、言わないよっ!!」
叫んで、小野が左手を付きだしてくる。
右手で引き寄せ、左手でねじ切る小野の斥力技。
その左手を掴んで、『斥力のみを』劣化複写・引斥自在で中和する。
この技の力配分が、引力50、斥力50なら、どちらかだけに集中すれば、俺の劣化複写した引斥自在でも、完全に中和できる。
「この……天才君めっ♪」
「なに可愛く言ってんだ!!」
密着するほど引き寄せられた状態で、罵り合う(?)俺と小野。
俺の右手を小野の胸に当てる。
「悠斗……君」
小野が張る正体(がイマイチ)不明の斥力結界を、劣化複写・引斥自在で強引に中和していく。
頼むぜ、アニキ!!
《いまさらだが、無理すんなよ!》
翔の言葉が頭に響くと同時に、左眼に熱い感触。
アイズオブゴールドを発動させる。
これで、同時にもう一つBMP能力が使える。
小野の斥力結界を中和したまま……。
引力と斥力を同時に!
《それじゃ、三つじゃねぇか!!》
「劣化複写・引斥自在!!」
アニキの言うとおり、なんだか数が合わない気はするが、小野が使っていたねじ切り技を俺が発動する。
これで、小野が宿すコアを粉砕……。
「!!」
した、と思った途端、小野の姿が消えた。
「上……?」
もの凄い勢いで、小野が天井まで飛び上がっている。
それどころか、天井に逆さに立っているような……。
「!?」
次の瞬間、小野がもの凄い勢いで、ホールの壁面に高速移動する。
そして、そのまま、壁面に垂直に立つ。
あっけにとられる俺の前に、何事もなかったかのように、高速で戻ってくる小野。
……重力制御を応用した空間移動か?
こんなの捕らえられるのか?
「埒があかないね」
息一つ乱さず小野が言う。
「ボス戦での君の異様な強さは、十二分に身にしみてるけど、僕を倒すのは難しそうだね?」
「…………」
まるでそれが残念なことのように。
「無理もないよ。僕のBMP能力はむしろ闘いを避ける方向に向いているからね」
「…………」
そうだろうか?
「好きなものだけを引き寄せ、嫌いなものを遠ざける。愛の幻影獣として、完璧なBMP能力じゃないかな?」
「…………」
どうだろう?
愛がそんなに都合のいいものだったら、みんながそんなに悩むかな?
「…………」
ふと。
本当に、ふと。
麗華さんの顔が頭に浮かんだ気がした。
「悠斗君」
と、小野の拳の周りが歪んだような気がした。
「もう少し不器用にやろう」
「……」
拳に異常な重量感と威圧感を感じる。
あの拳に小野の力を集中させているのだとしたら、文字通りのメガトンパンチ。
「小野……」
「時間切れは嫌なんだ」
早い決着は、俺にとって確かに好都合。
それでも、俺は、少しだけ悩んだ上で。
小野と同じように、拳に力を集中した。