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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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副首都区攻略戦4

天地がひっくり返ったような爆発音が轟いたが、雪風運転車は無事だった。


「そ……相殺した?」

「剣はともかく……、春香さんもとんでもない人だな……」

ドラゴンとまともに渡り合う女子高生コンビの戦闘力に、峰と三村が揃って青くなる。


「……ソウルキャストですか……。まぁ、働いてくれるのなら、文句はないですが……」

対照的に、賢崎藍華は、少し難しい顔をしていた。


「あノ……。デモ、このママでハ、まずイのデハないでショウか?」

「そうですね……。あれを使いますか」

エリカの声に応える形で、藍華が身を乗り出す。


藍華は中央の座席にエリカと並んで座っていたのだが、後部座席の三村と峰の間に体を割り込ませながら、後部トランクの中を漁りはじめる。

「け……けけけ、賢崎さん?」

「あ、三村さん。こんな状況ですけど、変なところを故意に触ると、ちゃんと強めに蹴飛ばしますので」

「さ……触らないけど、なんで、俺だけに言うかな!?」

「峰さんガ、顔色一つ、変えテないカラではないデしょうカ……?」

峰に変わり、エリカが補足説明を入れる。


少しして、藍華が銀色のケースをトランクから取り出す。

藍華が開けると、中にはダーツのようなものが12本収められていた。


「ディテクトアイテム『銀の弾丸』です」

「ぎ……銀の弾丸!?」

「あら、さすがは峰さん。知ってましたか」

三村とエリカは知らないようなので、藍華は峰を褒めた。


「霧島研究所で制作された『BMP能力者でなくても幻影獣に攻撃できる』アイテムです」

「ソ……そうナンですカ!?」

「はい。なにせ、投げてぶつけるだけでいいですから。弾頭にでも練りこめば、通常兵器で幻影獣の論理結界が破れるようになります」

「……それって、俺達、お払い箱じゃ……?」

「量産化できれば、そうなっていたかもしれませんが、霧島研究所がなくなってしまった今となっては無理ですね」

三村の希望とも不安とも見える問いかけに答えて、藍華は『銀の弾丸』を取り出した。


「賢崎さん……?」

「撃つのは、貴方です。峰さん」

手渡しながら、言い切る藍華。


「攻撃が効かないのは、ただ単に物理的に距離が離れているからではありません。私の見たところ、あの『ドラゴン』は、距離に応じてBMP能力の威力を減衰させるスキルを持っています」

「そ……ソレって……」

「はい。こちらも空を飛ばない限り、絶対に倒せませんね」

「……確かに、この武器なら威力は減衰しないだろうが……」

峰が不安げな……というより絶望的な表情で、上空の巨大な黒い物体を見上げる。

「威力は減衰しなくても、元々圧倒的に足りていないような……」

そして、三村が、峰の心の声を代弁する。


「眼を狙うんですよ」

しかし、その疑問に対する賢崎藍華の答えはシンプルだった。


「「…………」」

「無理を言うな!」

呆然とする三村とエリカに、叫ぶ峰。


「ドラゴンまで何メートルあると思ってる!? しかも、動きだって速い! 身体に当てるだけでも難しい。俺の能力は、狙撃じゃないんだぞ」

「自分を知ることは重要ですが、勝手に枠にはめるのは考え物ですよ」

「え?」

「貴方の目標とする人は、そんな簡単な人なんですか?」

「…………いや。むしろ対極だな」

静かに決意した目で、峰は銀の弾丸を構える。


「君が、サポートしてくれるんだろう?」

「もちろんです。EOFの本領をお見せしますよ」

「しかも、12本もある。なんとかやって見せる!」

「峰サン!!」

「ちくしょう……。やっぱり、こいつは残念でない方のイケメンかよ……」

峰の決意に、心からの賛辞(※たぶん)を送るエリカと三村。

が。



「一本、一億円しますからね。気合を入れてください」



賢崎藍華の一言が、ドラゴンの熱気すら吹き飛ばして、車内を凍りつかせた。


「は……?」

「イ……?」

「いちおくえん……?」

三村とエリカは応援体勢のまま、峰は狙撃体勢のまま、凍りつく。


「本当は、値段なんか付けられない品なんですけどね。あえて付けるなら……ということで」

「「「…………」」」」

重苦しい沈黙が三人を包む。


「あ、あの賢崎さん?」

「なんですか、峰さん?」

「その……使っても、大丈夫……なんだよな?」

「もちろんですよ」

「りょ……了解!」

と、狙撃を開始しようとした峰の右手を三村が掴む。


「早まるな、峰。賢崎さんは、『払わなくてもいい』とは言っていないっ!!」

「失礼ですね。私は根拠もなく、『大丈夫』などとは言いません」

眼鏡の位置を直しながら答える賢崎藍華。


「半分は私が持ちます」

「半分ハ私たちガ払うッテいうコトですカ!?」

思わずツッコむエリカ。

しかし、直後に恥ずかしげに口元を押さえるあたりが、愛らしいといえば愛らしい。

いや、それはともかく。


「い……一本、ごせんまんえん……?」

「俺に宝くじを当てるBMP能力があれば払うけど、ないから勘弁してくれ……」

ひらがなになるほど動揺している峰と、意味不明な理屈で説得にかかる三村。

もちろん、雪風君は前だけを見て真面目に運転している。


「金銭面での負担も分かち合うのが、仲間だと思いませんか?」

「資金力に差があるだろうが!」

しれっとした顔の藍華に、必死で食い下がる三村。


「……確かに私からすれば困るような金額ではありません。けど、もったいなくない訳ではないんですよ。これの価値は金額だけでは測れませんし」

「澄空のためだろ!」

「だって……。せっかく助けても、麗華さんのものになるのでは、私が丸損じゃないですか?」

今そんなこと言っても! と、頭を抱える三村とエリカ。


しかし、一本5千万の負債と知って、今の峰にまともな射撃は期待できそうになかった。


「5千万っテ。ふ……風俗とかシタら、稼げマスカ?」

「そんな真似させられるか! エリカは俺が守る!」

混乱しているエリカに対し、どさくさまぎれに点数を稼ぐ三村。


(考えろ! 考えるんだ! 三村宗一!! 賢崎さんは意味もなくこんなことをいう人じゃないたぶん。おそらく、峰の緊張をほぐすための冗談のはずだ。ただ、このままでは、もちろん逆効果。払ってくれるつもりはあるはずなんだ。……必要なのは、おそらく、面白い切り返し……。考えろ! 考えるんだ!! こういう無茶振りは、澄空が居ない時は、だいたい俺の役目だ!!)

斜め上の決意とともに、必死に頭を働かせる三村。


キーワードは四つ。

①賢崎藍華にとっては困るような額ではない。

②峰達哉の緊張をほぐさなければならない。

③三村が面白い切り返しをしなければならない。

④リア充、爆発しろ。


「そうか!」

そして、三村は閃いた。


「み……三村?」

「三村さん……?」

疑問と期待を込めた目で三村を見上げる、峰とエリカ。


「賢崎さん……」

「……なんですか?」

「その5千万……。いや、6億!」

「…………」


「澄空悠斗が全額払う!!」


「…………」

「…………」

そして。


「……貴方なら、きっと正しい答えにたどり着くと思っていました」

賢崎藍華と三村宗一は、固い握手を交わした。


ちなみに。

一応、補足しておくと、車上では、ドラゴンとの交戦中である。

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