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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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副首都区攻略戦

「ナックルウエポン。私は、『精鋭部隊』だと聞いていた」


ナックルウエポン……賢崎藍華が指揮し、式雪風が運転する車に乗り込んだ剣麗華は、難しい顔で唸って見せた。


「私と貴方が居る時点で、ほぼ我が国最高戦力だと思いますが。あと、公にはできないですが、本気になった春香は私達にも劣りませんよ。……なるかどうかが確率ですが……」

と、賢崎藍華が言う。

ちなみに、彼女が一番、式春香のことを信用していない。

「別に春香さんのことは疑ってない」

「そうですか……」

「でも、三村がいる」

「ちょっと待てぇ!!」

麗華のストレートすぎる糾弾に、さすがに声を抑えられない三村。


「そ、そりゃ、剣に比べれば弱いけど、ここまで苦楽を共にしてきた仲間にそれはないだろ……?」

「別に私と比べるまでもない。並みの一流ハンターと比べても、まだまだ実力不足。雪風君はともかく、峰とエリカも同じ。個人的に親しい仲だとしても、今は、それより実力の方が大切」

冷徹に言い放つ麗華。


「す……すみまセンです、麗華さん。ちょっとデモ、お役ニ立てレバと思ったんデスけど……」

「心配するな、エリカ。賢崎さんが選んだんだ。きっと、俺達にも出来ることがあるはずだ」

申し訳なさそうなエリカに対して、揺るがない峰。


そして、皆の視線が藍華に集まる。


「そうですね……」

皆の(※特に三村の)縋るような視線に応えるように、藍華が話し始める。

「私とソードウエポンと春香と雪風で四人。そこに、峰さんとエリカさんと三村さんを加えると七人になります」

「そ……そうすると?」


「この車、七人乗りなんですよね……」


勢い込んで尋ねた三村は、理解した。

『それは、ただの数あわせじゃないですか!』と。


「悪い癖です。大きな闘いの時には、とりあえず効率度外視で、最大数を揃えたくなってしまう」

それはほんとに悪い癖である。

「私も、若干冷静さを失っていた可能性を認めざるをえません」

謙虚になってみるナックルウエポンだが、さすがに少し遅かったかもしれない。


「あ、あノ……。私達、降りた方ガ、いいデショウか……?」

「あ、その……。そこまで言うつもりはないんだけど……」

エリカには甘い(※三村には辛い)麗華が、口ごもる。


「いや、しかし、足を引っ張るのは本意じゃない。今からでも、賢崎本家から一流ハンターを呼ぶべきじゃないか?」

いち早く衝撃の事実から立ち直った峰が現実的な提案をする。


「それが……。今回の私の行動は、完全に独断で……。トップクラスのハンターは借りられないんです。かといって、中堅クラスの者だと実力以前の問題が……」

「実力以前……デスか?」

「実戦経験の不足……。より正確に言うと、Bランク以上の幻影獣と闘ったことのある者がほとんどいなくて……。副首都区に突入するなんて無茶なミッションでは、正直使い物にならない可能性が高いんです」

「俺達なら大丈夫なのか?」

峰が聞く。

「今まで闘ってきた幻影獣達を思い出してください。みなさんの中の戦闘に対する常識は麻痺している状態です。これは今回のような強敵を相手にする時は、大きなアドバンテージであると考えます」

「足手まといにはならないということ?」

「『個人的に親しい仲』というのも、決して馬鹿にしたものではないんですよ、ソードウエポン。澄空さんを助けるためにかつてのクラスメイトと闘いに行くのに、友達がいないのは寂しいでしょう?」

「…………」

納得したのかどうかは分からないが、とりあえず麗華は口を閉じた。


「……ところで。本当に澄空はBMP能力が使えなくなるのか?」

「うん。本当は、もう遅すぎるくらいだけど……」

峰の問いに、麗華が答える。


「え、ええと……。賢崎さんはいいのかな? ほら、澄空を賢崎の婿養子にするとか言う話は?」

さすがに麗華には聞けない三村は、とりあえず藍華に水を向ける。

「賢崎としては遺伝子さえあれば問題ありませんから。BMPハンターを引退したら、話が早いくらいです」

「な、なるほど」

ブレない藍華に唸る峰。


「……学校ハ、どうスルんでショウ?」

「本人次第ですが、難しいと思います。BMPハンターでなくなったら、みなさんと顔を合わせづらいのではないでしょうか……」

藍華の発言に、峰も三村も寂しげな顔で頷く。


それを見て、

(そうなのかな……)

と麗華は思った。


三村達が澄空悠斗のBMP能力以外に価値を見いだしていないわけでないことは、さすがの麗華にも分かっている。

にも関わらず、BMP能力がなければ関係を続けることは難しいと言う。

自分達がBMPハンターであり、幻影獣を倒すために集っているということを考えれば、そんなにおかしな話でもないとも思う。


その意味では、澄空悠斗の選択は間違いとは言えないのかもしれない。


(それでも、私が納得できないと感じると言うことは……)

少しずつ。

少しずつだが。


剣麗華は、自分が澄空悠斗に伝えたいことが、形になってきているような気がしていた。



☆☆☆☆☆☆☆



副首都区役所本庁舎。

ミーシャの運転で、副首都区の真っ赤に染まった空の下をドライブしてきたゴールである。


「なんで、ここで?」

「ここのホールでコアの起動式典が開かれたのよ。起動場所は離れたところにある実験施設なんだけど、万が一の場合にそこは危険ってことで。他人事……というか、人間ごとながら、中途半端よね?」

「よね、と言われても……」

「副首都区の解放をかけた最終決戦の場所としては、相応しいと思わない?」

「…………」

俺と小野の最終決戦の場としては、副首都区内に因縁のある場所はない。

そういう意味では、別にどこでも構わない。


「じゃ、行くか」

「あ、ちょっと……」

ミーシャの制止が間に合わずに、副首都区役所庁舎に向けて歩を進めた俺は、おかしな現象に出くわした。


「や」

と、俺の後ろにいたはずのミーシャが、俺の目の前にいる。

「??」

というか、俺の前にあったはずの庁舎が、俺の後ろにある。


「……これは一体?」

「邪魔が入っちゃいけないからね」

と、ミーシャに手を握られる。

そのまま二人で進むと、問題なく庁舎に入ることが出来た。


迷宮ラビリンスお手製の入場結界よ。侵入しようとする全ての者の精神に作用して、回れ右をさせるの」

「…………」

凄ぇ。


「全力で構築したからね。麗華さんやアイズオブクリムゾンでも、入場することは不可能だと思うわよ」

「俺も、麗華さんが来るまでには終わらせるつもりだよ」

政府の方針が固まって麗華さんが出撃できるようになるまで、体がもつはずもないし。

……正直、顔を合わせづらい。


それより。


「本当に手を出さないでいいのか?」

この化け物が小野と共闘したら、小野は消えずに済むような気もするんだが。

「そんなことするくらいなら、最初からこんなゲームに参加してないわよ」

……確かに。

余計なことを言った。


◇◆


庁舎の中は、ずいぶんと綺麗になっていた。


「ある日突然、人が住めない場所になった訳じゃないからね。ちゃんと引っ越ししたみたいよ」

「いや、これは、引っ越しとかいうレベルじゃないだろ?」

物が異様に少ない。

そして異常に広い。

あと、妙に天井が高い。

というか、5メートルおきくらいに整然と並んでいる柱に施してある、奇妙かつ込み入った彫刻は一体?


「どこの神殿だよ、ここは?」

外から見た時は、普通の庁舎だったのに……。


「侵入者迎撃用に、幻の迷宮が見えるようにしてるのよ。別に建て替えをした訳じゃないわ」

「入場結界は、人類には破れないと言ってたじゃないか?」

「……最終決戦なのに、やることなくて暇なのよ」

マジですか?


呆気にとられながらも、人外の異能を斜め上の方向に振るいまくる幻影獣とともに、ホールに向かって進んでいく。


「というか、ホールに向かっているんだろうな、これ?」

ところどころにある無数の分かれ道を見ると、とても不安になる。

というか単純に、庁舎の中にしては広すぎる。


「建物自体は元のままだと言ったでしょ。広く見えてるだけよ。ただ、私から離れると、一生かかっても探索しきれないくらい広大な迷宮が待っているから、気をつけて」

「……了解です」

だから、なんでそんなに凝ってるんだろうか。

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