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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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迷宮の説明書

麗華さんのマンションから出ると、目の前に赤いセダンが停まっていた。

かなり薄ぼんやりとだが、どこかでみたような気がする。


「あ」

そして、車から降りた人物の姿を見て、その理由が分かった。

……いや、『人物』ではないか。


「辞表は出して来たのか?」

「いきなりねぇ……。そもそも雇われてなんかないから問題ないわよ」

そう答えるのは、黒いドレスの上に白衣を纏った幻影獣。


「明日からは、人の良さそうで無害な、おばさん保健医さんがくるから、安心しなさい」

ということらしい。


ミーシャせ……ミーシャはおそらく迷宮ラビリンス

闘うのであれば、先手を取って一撃で仕留めるしかないが……。


「そこまで馬鹿じゃないとは思うけど、私を攻撃するつもりなら向きが違うわよ」

「!」

いつの間にか、俺の視線の先にはコンビニがあった。

さきほどミーシャを捕えていた視線の角度から、60度はずらされている。

このまま攻撃したら、コンビニが酷いことになっていた。


「これが迷宮ラビリンス……」

「どう? 複写できそう?」

確たる自信を感じさせるミーシャのセリフに、俺は黙って首を横に振った。

……このBMP能力は高度すぎる。無理だ。


「じゃ、乗って」

なにが、じゃ、なのかは分からないが。


俺は、幻影獣ミーシャ・ラインアウトが運転する車の助手席に乗り込んだ。


◇◆


実に不思議な時間と言えるかもしれない。


ミーシャはカーナビにセットした目的地目掛けて、車を運転している。

もちろん、ミーシャ本人が運転手をしなければならない理由は全くない。

刺客として現れるには、こやつの能力は強すぎる。

つまり……何なんだろう?


「この車、新車なのよ」

俺が悩んでいると、いきなりミーシャが話しかけてきた。


「どうりで新しいとは思ったけど」

「ローンも払い終わってないから汚さないでね。契約自体してないけど」

「…………」

それは一般的に窃盗という。


……というか、幻影獣相手に会話の切り口なんて探してもしょうがない。

いまさらあんまり意味がないかもしれないけど、ダメもとで能力のことでも聞いてみるか。


迷宮ラビリンスってどんな能力なんだ?」

「いまさら?」

うん。いまさら。


「……私も正確には把握できてないけど、『半径10km程度以内のあらゆる存在を精神支配するBMP能力』なんじゃないかな、たぶん」

「……な、なんか曖昧だな。というか、知っている人間なら半径10km以内であればどこにいても見つけられるってことか?」

「違うわよ。領域内の全ての存在を知覚できるの。精神さえもってればね」

「…………」

い、いやいやいやいや。


「は、半径10kmって、どれだけ人間がいると思ってるんだ? 全部識別するとか、スーパーコンピューターじゃあるまいし……」

「だからその辺は適当なのよ。当然、知っている存在に意識が向きやすいし……。ただ、単純な暗示なら領域内全域にかけられるわよ」

「単純な暗示って、例えば?」

「全員死ね……とか」

「…………もう、あんたが世界征服しろよ」

「だから、しないんだってば」

とても殺伐とした会話のはずなのだが、見た目が運転する美女なので、いまいち危機感を抱けない。

まぁ、こんな最終兵器を投入して来なかった時点で、四聖獣達が俺を殺したい訳じゃないことだけは分かった。


……ところで。


「副首都区に直接行くのか?」

「そうよ。検問なんか、私にはないも同然だからね」

「副首都区内の幻影獣は?」

「あそこの連中は完全にイっちゃってるけどね。迷宮ラビリンスなら問題ないわよ。ただ、ドラゴンだけはちょっと読めないから、いざという時は闘ってね」

「って、ドラゴンまでいるのか、あそこ!?」

思わず叫んでしまう。


ちなみに、ドラゴンというのは、ファンタジーに出てくるドラゴンに姿が似ている幻影獣のことである。

当然のようにBランク幻影獣なのだが……。


「最強のBランク幻影獣というだけはあるわ。あれとだけは関わり合いたくないわね」

「あんたAランクだろう?」

「人間とトラとどっちが強いか、みたいな話だとしたら分かる?」

「あー。凄い分かる」

存在として高等かもしれないが、単純な力比べだと分からない、みたいな感じか。

……というか。


「貴方、やっぱり、変よ」

「……唐突だな」

「戦意がないのは分かっていたとしても、普通、人間は幻影獣とは仲良く話なんかできないのよ?」

「仲良く話しているつもりはないんだが」

「そう?」

当たり前である。


「俺達のルーキーズマッチを散々かき回してくれた上に、みんなを危険な目にあわせて、俺自身もこんなことになってしまって……。どこに仲良くする義理がある?」

「少なくとも貴方自身に関しては、私達が居なくても時間の問題だったと思うわよ?」

「…………」

それはまあ否定しないが。


「明日香は……なんだったんだ?」

「見ての通り。質量が感じられる幻よ」

「幽霊とは違うのか?」

「幽霊の定義が分からないけど。死亡した人間の精神をそのまま流用しているのは確かね」

「…………」

想像もつかない。

本当にそれはBMP能力なのか?


「飴玉と言えば分かるかな?」

「は?」

「迷宮に捕えた魂は、時間をかけてゆっくりしゃぶるの。私の飴玉」

「しゃぶられるとどうなるんだ?」

「そのうち無念が消えて成仏する」

なに、その慈善事業。


「千年くらいかかるけどね」


「…………」

分からない。

小野もそうだが……。

幻影獣もAランクになると本当に分からない。


「あれは、はじまりの幻影獣殿の指示よ」

「?」

「そっちにも行ったでしょう? ザクヤ・アロンダイト」

「? なんであいつが?」

「利害が一致したからつるんでたのよ。別に仲間じゃないわ」

何の関心もない、といった調子で断言するミーシャ。


「私はてっきり、『副首都区の惨状や、あの子の身の上話を聞かせて、貴方にBMPハンターとしての覚悟を持たす』とか、その程度のことだと思ってたのよ」

「…………」


「まさか、千年かかる呪いを一か月で解いちゃうなんてね」


「……悪かったな」

「Aランク幻影獣とはいえ、しょせんは紛い物。本物にはかなわないかぁ……。ソータが惚れる訳だわ」

「……」

確かに俺は変かもしれない。

……なんで、幻影獣の表情の意味なんか分かってしまうんだ?


「……小野とはどういう関係なんだ?」

「別にどうという関係じゃないわよ。……ただ」

「ただ?」

「いくら同じ幻影獣とはいえ、Bランク以下の幻影獣とつるんでられると思う?」

「…………」

そりゃまぁ、無理だろうな。

同じ幻影獣とはいえ、Bランク以下の幻影獣はただの獣だ。


「…………」

簡単な話だ。

Aランク幻影獣がどれだけいるのかは知らないが、最近まで都市伝説と言われてたくらいだから決して多くはない。

あと、仲間づきあいが巧そうな連中にも見えない。

最悪、四聖獣……4人以外には仲間がいない訳だ。

いや、そのうちの2体はすでに……。


「あんたこそ……。俺を恨んでないのか?」

「こっちから突っかけてったからねぇ……。しかも、わざわざ自分に不利な条件で」

「世界を救うために?」

「……アホなゲームもあったものだわ……」

自嘲を込めて呟くミーシャ。


レオも小野も、そのゲームとやらに賭ける理由があったが(※ガルアは良く分からん)、こいつは、まったく乗り気じゃない。

当たり前だ。

4人しかいない仲間が消えていくゲームを、どうして楽しめる……。


「小野を……止めないのか?」

「もう手遅れよ」

「…………」

止めなかったのか、と聞くべきだっただろうか。

……などと、どうでもいいことを考えてしまった。


「ねぇ、悠斗君」

「……なんだよ?」

「私が言うのも、とっても非常に、どうかと思うけど……」

「…………」


「あのバカを……。ソータのことを、お願いね」

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