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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
242/336

みんなの勇者

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………えーと……」

どうしよう?


「……」

「……あの、麗華さん。どこから聞いてました……?」

「もしもし。小野です。のところから」

「それ最初です!!」

どの程度ごまかすべきかという悩みを吹っ飛ばす、恐るべきタイミングの悪さに、思わずツッコミを入れる俺。


「……どう話しかけるべきか迷っていたから……」

「え?」

「悠斗君が起きた時、思わず部屋の外に出てしまった結果」

「な……なんで、迷ってたの?」

加速度的に増す嫌な予感。


「病院のデータが改竄されてた」

「え?」

「悠斗君の本当のP値が分かった」

「あ……」

そうか。

どのみち、もうタイムアップだったか……。


「悠斗君。BMP管理局での籠城戦の時のことを覚えてる?」

「……ああ」

「どうして言ってくれなかったの?」

「…………」

「喧嘩しても大丈夫とまで言ってくれたのに……」

「…………ごめん」

俺から持ちかけた約束なのに、俺から破ってしまった。

けど、一つ言い訳をさせてもらえるなら。

……あの時は、喧嘩さえできなくなる状況は、想定できてなかった。


「とにかく、今は一刻も早く精密検査をしよう。P値18なんて前代未聞だから、何が起こるか分からない」

「…………」

「悠斗君」

「…………」

「悠斗君!」

「……聞いてたんだろ、今の会話」

いつになく切羽詰まっている麗華さんに、むしろ落ち着いた口調で返してしまう俺。


「ゆ……悠斗君……。確かに私は合理的に物事を考え過ぎるところがあるのかもしれないけど、今回だけは絶対に悠斗君の方が無茶だと思う」

「……まぁ」

「今の状態で、副首都区……しかも、暴走したコアの近くに行くなんて、自殺行為だよ……?」

「……分かってる」

死ぬかもしれないことは。


「小野の言ったことを、落ち着いて思い出してみて、悠斗君」

「え?」

「Bランク幻影獣が増えて、この国が危ないかもしれない。幻影獣の発生メカニズムを解析できないと、この世界が危ないかもしれない。コアの近くに居ると、ハカセ達が危ないかもしれない……」

「……」

「全部、可能性の話。悠斗君が命を賭けなければいけない理由はない。…………ううん。小野が、あえてそうしているようにすら感じる」

「それは……」

俺も同感だ。


「ね……。悠斗君。ひとまず待機しよう? 出撃命令が出るようなことになったら、連れて行ってあげるから」

「……麗華さん」

そうだ。今のままでは、剣首相の立場があって、麗華さんは副首都区に入れない。

けど、これだけの大事件。政府の方針が変わる可能性は十分にある。


何より、麗華さんが居てくれると安心感が段違いである。


……段違いである、けど。


『麗華さんと一緒に行けるようになるまで待ってたら、ハカセ達が死んじゃいました』

なんて、明日香に言えるか?


「麗華さん……。『小学生達三人組を誘拐』って、変だと思わないか?」

「え……あれ? そういえば……」


「明日香は消えたよ」


「? 消えた?」

きょとんとする麗華さんに、明日香について俺は語る。


…………。

…………。


「そんな……ことが……」

「小野たちがどこまで考えてたのかは分からないけどね……」

単なる勘だが。

明日香が『満足』することまでは予想外だったんじゃないかという気がする。

だからまぁ……運が悪かったと言えるのかもしれない。


「俺は、BMPハンターになって日が浅いし、そもそも流されるようにしてなったから知らなかったんだよ……」

「……何を?」

「ヒーローを待つって、幸せでもなんでもないよね」

「……助けが必要な状況自体が幸せとは言えない」

その通り。

麗華さんが喜んでくれて嬉しい、程度の気持ちじゃ、とても明日香の心と釣り合わない。


「それだけ大事で……必死な仕事なんだよね、俺達の仕事は……」

「…………」


「だからもう、麗華さんのためだけには闘えない」


「っ! わ、私だって、別に悠斗君のためだけに闘っている訳じゃない!! 私は……私は……」

「…………」

「私……は……」

知ってる。

麗華さんが口下手だってことくらい。


「!」

と。

唐突に、麗華さんが正面に見慣れない剣を突き出してきた。


「確かに私は、BMPハンターとしては中途半端なんだと思う。けど、戦闘力だけなら誰よりも強いよ……」

「知ってる」

「ナックルウエポンよりも……城守さんよりも……。悠斗君よりも強い! 私が本気で止めたら、悠斗君は副首都区なんかに行けない!!」

「……そうだね」

「けど…………。そうしたら、悠斗君は私のこと、嫌いになるの、かな……」

「いや」

決して。


「それはないよ」

「え?」


「好きだよ、麗華さん」


…………。

…………。


「……好きなんて言われても、それが何なのか、私には分からない」

そう言って、麗華さんは、突きつけていた剣を反対に向けた。


「これ、絶剣ダインスレイブ。対戦者の剣技を複写する近接戦闘用の幻想剣。城守さんの剣技を複写しておいたから、多少は役に立つと思う」

「……あ、ありがとう」

柄を握って受け取る俺。

麗華さんが手を離しても、幻想剣は消えなかった。


複写というより、譲渡みたいな形だが、まぁ使えるんだろう。


「……もうちょっと、後で会えたら良かったのにね……」

「え?」

れ……麗華さん……?


「普通の女の子みたいに泣いて縋ったら止められたかもしれないのに……。パートナーにも恋人にもなれない。なんて中途半端……」

「……あ……その……」

「ごめんね、悠斗君……」

「…………」

謝る必要なんてない。

俺には、ちゃんと麗華さんが泣いているように見える。


「…………」

今のうちに謝っておくか。

姉御、ごめん。

俺が生まれついてのBMP能力者で、麗華さんとこれからも同じ時間を過ごせるのなら、たぶん行かなかった気がする。

酷いヒーローもいたもんです……。


「っと、そうだ」

と、俺は自室に戻って、あるものを持ってくる。


「悠斗君……?」

「これ……預かってもらえないかな?」

差し出したのは、黒い蝶を模った髪飾り。


「い……いくら何でも、死ぬ前提で向かうのなら、止めるしかないよ……」

「あ……いや、違う違う」

本気で止められてしまっては、本当に行けなくなってしまう。


「今回の件とは関係なく、前から頼もうと思ってたんだ」

「頼み?」

「それ、持ち主に返そうと思ってるんだ」

「…………どうして?」

「いくら何でも高価すぎるし……。正直、誰かからそこまでのものをもらうような関係が、俺にできたとは思えないんだよ」

「そんなこと分からない」

「まぁ、そうなんだけどな……。どのみち、持ち主は探さないといけないし、麗華さんなら知り合いは多そうだから、頼もうと思ってたんだ。……俺だと最悪なくしかねないし……」

「さすがにそれは適当過ぎると思うの」

「まぁ、そうなんですが……。そこをなんとか……」

俺は拝む仕草をした。

理由は分からないけど、こんなときだというのに、あの黒い蝶の髪飾りは気になってしょうがないのだ。


麗華さんは、しばらく俺と黒い蝶の髪飾りを交互に眺めて悩んでいたが……。


「……依頼は了解した」

「あ……ありがと」

「でも」

「ん?」


「これは、必ず帰ってくる意味と受け取っていいんだよね?」

「もちろん、生きて帰って来るよ」

割とあっさり即答する俺。


死ぬかもしれないとは思っているが、実は死ぬつもりはなかったりする。

皮算用なのか楽天的なのか頭がおかしくなっているのかは知らないが、少なくとも今は生きて帰って来れそうな気がしていた。


「そうじゃなくて……」


「?」

ん?


「この部屋に…………。私のところに、帰って来てくれるのかな……って」


「………」

その言葉は。

凄く嬉しいけど。


「悠斗……君?」


もの凄くつらい。


「いや」

「え?」


BMPハンターでない俺は、君に相応しくないから。



「この部屋には、もう戻ってこない」

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