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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
239/338

エクストラマッチ『剣麗華vs城守蓮』

全てのイベントが終わった後の国立武闘館は、異様な雰囲気に包まれていた。


その原因は、円形闘技場の中心部に立つ、美男と美女。


『さぁ! ルーキーズマッチ史上最高レベルの闘いの後には、最高レベルのサプライズを!!』

響き渡る志藤美琴の声。


『最強は果たしてどちらなのか!? 剣姫vs剣鬼! エクストラマッチ・剣麗華vs城守蓮! を行いたいと思います!!』

その宣言と共に、困惑気味だった観客席から一斉に歓声が上がる。


『BMP管理局長の自覚はどこへ行ったのか!? 悠斗君と臥淵さんの闘いを見て、羨ましくて我慢できなくなったとは、バトルジャンキー通り越してほぼ変態! 部下である私も、激しくひきまくっております!』

『み、美琴ちゃん……。も、もうちょっと。もうちょっとでいいから、表現抑えて……!』

志藤美琴もいつになく盛り上がっている。


いつもなら、頭を抱える城守蓮だが……。


「まったく。BMP管理局員とはいえ、事務職にはこの気持ちは分かりませんか……。あんな闘いを見せられて我慢できるわけがありませんよね?」

「……一緒にしないで欲しいけど……。臥淵さんといい、男の人って、どうしてそんなにバトルが好きなんだろ……?」

平然と悪びれない城守蓮と、無表情ながら困惑している剣麗華。


思惑が一致しているとは言い難いが、このエクストラマッチは城守蓮が持ちかけていたものである。


今回のルーキーズマッチは、新旧共にあまりにもタレントが揃い過ぎていた。

偶然を超えて、新しい時代の幕開け……、もしくは古い時代の終わりを暗示するほどに。

それは、澄空悠斗が現れた時から始まっていたのかもしれないが。


何にせよ、これほど象徴的なイベントに、剣麗華を参加させない訳にはいかない。

だが、過去にルーキーズマッチに出場したことのある彼女をルーキー側で参加させることはできない。

かといって、トップランカー側で出場させて澄空悠斗達と対決させるのも、イメージ的に良くない。

よって、このような枠外参戦となった訳である。

BMP管理局長である城守蓮が参戦することになったのは、他に相手をできる人間がいなかっただけの話である。


「しかし……」

城守蓮は首を捻った。

そろそろ試合開始だというのに、剣麗華が距離を取る気配を見せない。

どう考えても距離が開いた方が彼女にとって有利だろうに……。


(いくら万能型とはいえ、接近戦でも私より強いなんてことは……?)

頭を振って考え直す。

いくらソードウエポンとはいえ、花も恥じらう女子高生なのだ。

そこまで求めるのはやり過ぎだろう。


『では、エクストラマッチ、開始してください』


城守蓮が悩んでいるうちに、試合が始まってしまった。


それでも一歩も下がろうとしない剣麗華に、城守蓮もようやく認める。

(自分と接近戦をやるつもりなのだ)と。


「ふっ……」

城守蓮は息を吐き。

「はっ!」

瞬間移動と見紛う神速の斬撃を放つ!


「…………」

が、それを難なく首もとで受け止める剣麗華。


そのまま連続攻撃に移る城守蓮。

二撃目・三・四。

五撃目が拮抗したところで、両者の距離が離れる。


『あ……え、えと……』

「「……………………」」


実況の志藤美琴は言葉に詰まり、観客席は静まりかえる。


城守蓮の攻撃はどう見ても小手調べだった。

お手本のように基本に忠実な斬撃。


しかし、流麗で苛烈だった。


何の能力も使っていないただの剣術なのに、観客が今まで見て来た、どのBMP能力よりも必殺の攻撃に見えた。


それを適当に防いだ剣麗華も、恐ろしい実力者なのは間違いないのだが……。

「その剣は……?」

幻想剣イリュージョンソード・絶剣ダインスレイブ」

城守蓮の問いに、その斬撃を難なく防いだ見慣れない剣を掲げながら答える剣麗華。

見た目は飾り気のない片刃の剣。


「軽くて堅くて強い。あと鋭い」

剣麗華による新たな幻想剣の解説はそれだけだった。

確かに、剣術用の剣としては理想的なスペックと言えばそうなのだが……。


「そ……それだけですか……?」

蓮が思わず質問する。

幻想剣にしてはあまりに地味過ぎる。

持ち運びには便利だろうが、この、才能というか異能の塊のような少女が、わざわざ幻創する必要がある剣には思えなかった。


「……どうしたの? 来ないの?」

ちょいちょい、と、猫が招くような仕草で挑発する麗華。

随分と変わった挑発だが、やりなれてないから無理もないだろう(※たいていは挑発する前に勝負が付いている)。


「では……。行きます」

大地を蹴って、斬りかかる蓮。

上段斬り、中段斬り、下段斬り、突き。

徐々にエンジンを上げながら連続攻撃を繰り出すのだが……。


(これは……)

びっくりするほど当たり前に防がれる。

麗華は積極的に攻撃に出ている訳ではないが、防御に徹している訳でもない。

普通に互角なのである。


(正直……。ここまでとは……)

自分より強いかもしれない人間には心当たりがある。

澄空悠斗や賢崎藍華などがそうだ。

そして、それはとても望ましいことだと思っている。

この世界を変えてくれそうな力なのだから。


「…………」

しかし、彼女は……。

あるいは、それ以上に……。


……などと考えていたせいだろうか。

『その現象』に気づくのが遅れた。


「……これは……?」

と、距離を取る蓮。

「どうしたの、城守さん?」

もっともっと、と、手招きする麗華。


が。


「その剣技……、私のものですよね?」

蓮が言う。


そう。

途中から、麗華の剣技が蓮のものと全く同じに変わってきていたのだ。

驚異的なスピードで蓮の剣技に対応した、とかいうのではない。

蓮と全く同じ剣技を使っているのだ。


「……この剣技に著作権はないはず」

「いや別に著作権料を要求している訳ではないんですよ」

若干バツの悪そうな顔をする麗華を安心させる蓮。

別に真似られるのは構わないのだ。

だが……。


「絶剣ダインスレイブ。軽くて堅くて強くて鋭い。あと、対戦相手の剣技を複写する」

魔剣の効果を語る麗華。なのだが。

「……い、いや、しかし……」

蓮にはやっぱり分からない。

本当にその効果は必要なのか?

どう考えても、他人の剣技など真似しない方が、彼女の場合は強いと思うのだが……。

こんな特殊効果はむしろ……。


「あ」

唐突に気付く。


「うん。これは悠斗君にプレゼントしようと思ってる」

事も無げに言う麗華。

「遠距離なら火力で制圧できるけど、近距離なら万が一ということがあるから。あのおん……、打撃系の技を使う相手に酷い目に合わされたことがあったような気がするかもしれないし……」

「…………」

ぶつぶつ言う麗華に、開いた口が塞がらない蓮。


要するに彼女は、BMP管理局のプロパガンダなど、どうでも良かったのだ。

澄空悠斗に護身の術をプレゼントしたいから、わざわざリソースを割いて専用の幻想剣を創り出し、手抜きのできない舞台を利用して、手近で最強の剣技を複写しようとしたのだ。


その思考と手段の、壮大さと適当さに、眩暈を覚える蓮。


「城守さん、やっぱり怒ってる?」

「? どうして、そう思うんですか?」

「だって、こんなにレベルの高い戦闘をしてるのに、あんまり嬉しそうじゃないから」

「……はい?」

唐突なセリフに、疑問符を浮かべる蓮。

「さっきの臥淵さんは、あんなに楽しそうだったのに……」

「あ、ああ。なるほど」

麗華の言いたいことを理解する蓮。

とはいえ、どう言ったものか……。


「……男というのは意外と複雑なものでしてね」

「え?」

「別に強い相手なら誰でもいいという訳ではないんですよ」

言いながら、まるで愛の告白みたいだと、気恥ずかしくなる蓮。


しかし、嘘ではない。

不完全で不器用で不安定で、しかし無限の可能性を感じさせる強さだから、惹かれるのだ。

完全すぎるほど完全に完成し、なのに底知れない強さを感じさせる彼女には、むしろ……。


「なるほど……。私じゃ悠斗君を満足させられないのかな」

「い、いえいえ。それはあくまで個人の嗜好の問題ですから!」

というか、バトルで満足させる必要が、そもそもない。


「では」

と、城守蓮が構えを取る。

「麗華さん」

「ん?」

「本気で行ってもいいですか?」

質問する蓮。

別に手を抜いていた訳ではない。

もちろん、『試合』として許されるレベルで、真剣に闘っていた。

だから、ちょっとシャレで済まないかもしれないレベルで闘おうという話である。


「もちろん。最高の一撃が欲しい」

麗華の顔に笑みが浮かぶ。

闘いの喜びを感じている訳ではない。

彼氏へのプレゼントの質が上がることを喜んでいるのだ。

まるで人間の少年に恋する幼い女神のようだ。


一騎討ち(グレイトバトル)

BMP能力を展開する蓮。

このBMP能力は、一騎討ちを強制するだけのものであり、今回は全く意味がない。

戦闘時にこの能力を使うのは、ただの蓮の習慣だった。


全力で『戦う』時の、ただの習慣。


「ふーん……。こういう仕組みなんだ……」

麗華もポツリと感想を零す。


そして身構える。


それに応えるように城守蓮も、身体を引き絞り。


爆ぜた。


◇◆


「…………」

「…………」

蓮の剣先は、まっすぐに突き出されて、麗華の首元で。

麗華の剣は、上段から振り下ろされ、蓮の額で。

それぞれ止まっていた。


『…………』

「「…………」」

美琴のアナウンスも歓声もない。


あまりに常軌を逸した二人の怪物の迫力に、誰もが声を失っていた。

当人達以外を除いて。


「……どうして、私が剣を止めると分かったんですか?」

蓮が聞く。

確かに、ダメージ無効化結界があるとはいえ、まさか管理局長が剣麗華を攻撃するわけにはいかないのだが。


しかし。


「? 城守さんが剣を止めたから、止めただけだけど?」

剣麗華の答えは斜め上の、さらに上をいくものだった。


「……………………」

剣麗華との付き合いは、それなりに長いが、その全力を出す場面に出くわしたことはなかった。

だから、城守蓮は今日知った。


この世界を変えるために必要な『強さ』というものがあるとしても。


この少女は、あまりにも、強過ぎる。



◇◆『エクストラマッチ剣麗華vs城守蓮』結果報告

・勝者:なし

・試合時間:3分00秒

・結果:引き分け

◇◆

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