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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
237/336

ファイナルマッチ『澄空悠斗vs臥淵剛』7

腕が痺れていた。

鉄板を殴りつけたような物凄い衝撃がいつまで経っても、腕から抜けない。

それでも、人外の拳が目の前を掠めた恐怖には及ばない。


ハンマーウエポンへのクロスカウンターという、狂気のフィニッシュブローを放った俺は、軽い放心状態になっていた。


パワーやスピードだけでは、絶対に勝てなかった。

超付け焼刃とはいえ、ちゃんとした型を教えてくれた賢崎さんに心からの感謝を。


…………。


「……って」

心からの感謝を、じゃねぇ!!


「臥淵さん! 臥淵さん! 臥淵さん!!」

10メートルは吹っ飛ばされて仰向けに倒れこんでいる臥淵さんに、大慌てで駆け寄って、抱き起そうとして。思いとどまる。

頭を強く打っている(※というか俺が打った)。揺すらない方がいい(※殴った感触を考えると、もうそんな次元ではないような気がするが……)。


「ふ……!」

「慌てんな、悠斗」

弱々しくはあるが、意外としっかりとした声で臥淵さんは答えた。


「俺は大丈夫だ……」

「いやいやいやいや! 明らかに何かトンデモないものを砕いた感触が!!」

「…………それは、あれじゃないか?」


と。

空間……、戦闘フィールドと客席の境目あたりに、巨大な亀裂が現れる。

最初は一本。

クロスするようにもう一本。

そして、加速するように何本も。


「な……なな……」


同じような現象が、複数の箇所で起こり始める。

空間そのものが崩壊しているかのように感じられる怪現象。

あっけにとられたままの俺と観客の前で、それは臨界に達し。


数百枚のガラスが一度に砕けたような音と共に、弾けた。


「う……わぁ」

思わず感嘆の声が漏れる。

初めて幻影獣を倒した時の、エリカの豪華絢爛ロイヤルエッジの破片を思い出す。

あれを数十倍の規模にしたかのように、空から無数のカケラが降ってくる。

武闘場の光を反射して輝く、異能のガラス。


「貫通するはずの衝撃を、逆にダメージ無効化結界に肩代わりさせたんだろうな……。だいぶ見くびってたな。大した男だ、二宮……」

「まじですか……」

それはほんとに凄い。

美女ならともかく、男相手にそこまでしてくれるとは、二宮さん、ただのイケメンではなかったらしい。


って、そんなことより。


「え……と」

「負けたな」

意外とさばさばした声で臥淵さんは言った。

まぁ、この人にじめじめは全く似合わないが。


「……ったく、強えなぁ、おまえは。ほんとに人間かよ」

「…………」

貴方に言われたくはないですが。


「……」

「……」

「……悪かったな」

「へ?」

唐突な謝罪に、間抜けな声が漏れる。


「おまえがどこかおかしかったのは、分かってた」

「…………」

「しかし、まともに闘える機会はもう二度とないかもしれないからな。我儘を通させてもらった」

「……それはひどい」

「いいじゃねぇか。どんな状況でも勝っちまう、おまえの完璧な強さが、ますます証明されただろ?」

「…………」

確かに、今回ばかりは勝てると思わなかった。勝つ意味もないと思ってたし。


「その、まるで『勝つことに呪われたような』強さが、どうしようもなく魅力的なんだよなぁ……」

「…………」

呪い……。

臥淵さんは冗談で言ったんだろうけど。

……なかなかに言いえて妙だった。


それでも。


「まぁ、未練はたらたらだが、さすがにここまで完璧に負けたらな……」

「臥淵さん」

この人に勝てたことは、素直に誇りたい。


「ただ、覚悟しろよ。蓮は、俺の十倍はしつこいぞ」



◇◆ファイナルマッチ『澄空悠斗vs臥淵剛』結果報告

・勝者:澄空悠斗

・試合時間:10分45秒

・フィニッシュ:創造次元クリエイト永遠の淑女ベアトリーチェ・スタイル(結界破壊ver)

◇◆



☆☆☆☆☆☆☆



「ふ……ふぇ……ふぇぇぇ……」

大歓声の中で、目に涙を一杯に溜めながら喜びを表現する鏡明日香。


男性が見れば発狂しそうなほどに可愛いが、見つめる三人の顔は複雑だった。


いや、この三人でなくとも、良く見れば分かったのかもしれない。

鏡明日香は、どこか苦しそうだった。


「姉御……」

「ご……めん。も……限界かも……」

泣き笑いのような顔で、ハカセに答える明日香。


「く……苦しい訳じゃないんだけどね……。気を抜くと、消えちゃいそう……」

消え入りそうな声で言う明日香。


ハカセ達にも驚きはない。

『もし万が一、満足することができたなら、消える』

あの幻影獣は、確かにそう言っていたのだから。


澄空悠斗がベルゼブブを倒した時。

本当は、あの時に消えていてもおかしくなかったのだ。


今日、完全にトドメを刺されたというだけの話。


「どう……しますか?」

「また……あんた達の泣き顔なんか見ながらじゃ、今度こそ化けて出るしね……。どっか、静かなところで、いきたいな」

「……悠斗には……?」

「馬鹿言わないでよ。それこそ未練の大元凶になるじゃない」

と。

鏡明日香はハカセを抱き締める。

次に、ガッツを。

そして、エールを。


時間は結構あった。

謝罪は、もう、明日香自身がつらくなるほど何度も聞いた。

呪いは、もう、聖人君子になってしまうくらい完全に吐き出した。

思い出は、もう、暗唱できるくらいに何度も語り合った。


ただ、残念なことに。


未来だけは、明日香が消えるまで、誰にも口にできない。


だから。


「じゃね。みんな元気で」

とびっきりの小悪魔な笑顔を残し。


鏡明日香は、駆けて行った。



◇◆◇◆◇◆◇



試合終了後、誰よりも早く澄空悠斗の控室に駆けつけたのは、鈴木直(※と、その友二人)だった。

なんせ、澄空悠斗本人より早かった。


誰よりも早く駆け付け。

死角から、澄空悠斗が控室に入るのを確認し。

極めて自然に、勝利を祝いに入室しようと足を踏み出したところで。


「ど……どうしよう。ゆ……悠斗様が倒れた!?」

澄空悠斗が倒れたのを目撃した。


大慌てで駆け寄る三人。


「脈は……大丈夫ですね」と上杉時子。

「呼吸も……大丈夫かな」と武田紬。

「疲労で気絶しただけか……。良かった」と鈴木直。

と。


「でも……。本当は控室に着くなり気絶するほど消耗していたのに……。闘技場を立ち去る悠斗様の後ろ姿ときたら……!」

鈴木直の瞳がキラキラと輝きだす。


……それはそうと、遠くから走るような足音が聞こえてくる気がする。


「もう、これは、勝利をお祝いすると同時にプロポーズしてもいい流れかしら!?」

「「……そ、それは、どうかなぁ?」」

同時に首を振る時子と紬。

気絶した本人が目の前に居るという特殊状況のせいで、直のテンションというかキャラが、いつにも増しておかしくなっているのだ。


だが、直の性格を考えると、澄空悠斗が目を覚まし次第テンパって、異常なまでに悪態を吐きながら、超上から目線で勝利を祝うに違いない。

そして最後に言うのだ『という訳で、私と結婚しなさい!』と。

ほとんど、頭が可哀そうな人である。というか、本当に可哀そうである。


……それはそうと、足音がどんどん激しくなってきている気がする。


「あ……あのね、直ちゃん。やっぱり……」

「あ……悠斗様目を覚ますっ……。え……えとえと。よ! 良く頑張ったわね!! 私の出番を奪った絶望砕きの英雄様にしては、危なっかしい闘いぶりだったけど……! そ、それはそうと、と、と、という訳で、私と結っ! きゃぁあん!」

直の暴走に頭を抱えようとした紬達の前で、爆走して来た小学生くらいの三人組に、鈴木直は跳ね飛ばされていた。

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